胃と腸 23巻1号 (1988年1月)

今月の主題 X線・内視鏡所見と切除標本・病理所見との対比(胃)

序説

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 切除標本は,よい教師だ

 X線診断の立場から言うと,病変を描出する勉強には,切際標本は最良の教師である.術後像をきれいに撮ることすら,難しいことが,よくある.事実,食道早期癌epの病像を如実に術後像上に写し出すのは,これこそ,とても難しい.これを,術前の検査で写し出そうとするのだから,術前のX線的描写が大変なのは言うまでもない.したがって,epの診断の進歩が思うにまかせないところである.でも,胃であれ,大腸であれ,良い術後像を撮る習練は,診断と鑑別診断を行ううえで,理想像を頭にたたき込むには,最良の教師に会うようなものである.すぐに,目に見えての効果は得られないが,確かな診断力の目が決まる.本物を見分ける眼力がつく.

 以前の経験だが,胃と腸で無数の術後像を撮り,さて,その中で,診断は言うに及ばず,鑑別診断上からみても最良な像はどれか,と選んでみると,たったの二,三枚しかなかった.その二,三枚の像と同じ写真を,ドイツの教科書にみるのであった.ドイツの消化管X線診断学は,これこそがX線診断の王道を歩んでいるのだな,と感歎したものであった.当時,本邦の写真と言えば,ただ撮りまくったというだけのものだった.彼我の診断学の格段の差を痛感したものであった.それからは,ドイツの教科書の写真だけをみる努力をしたものである.国際的にみて,上記の傾向は,今でもある.一口に言って,X線診断と内視鏡診断の比較の話のときに,常に留意しておかないと,とぼけたお話になってしまう.

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要旨 X線診断学の向上の手掛かりは術前像と切除標本の細かい対比から得られることが多い.X線診断の場合,術前像と切除標本とは異なった表現形式を持つものであり,直接対比させるのは難しい.肉眼所見をX線学的模様像(固定標本レントゲノグラム)に替えて,これと術前像との対比が有用である.われわれは全割標本→再構築図→固定標本レントゲノグラムおよび肉眼所見→術後像→術前像,の手法でretrospectiveに検討を行っている.胃X線所見と切除標本所見の対比は固定標本レントゲノグラム,術後像を間を入れて行うことによって,より正確にしかも容易に行うことができる.

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要旨 5例の胃癌例(早期胃癌4例,進行癌1例)を対象として,X線写真と切除標本ならびに組織所見との対比の方法と実際を呈示し,問題点について述べた.病変によっては術前のX線像,切除胃標本のX線像,切除胃標本の肉眼像の現れ方が異なることがわかった.正確な術前のX線診断を行うためには,画像の質と情報量の多い写真を撮影することがまず大切である.そして,現れた像を注意深く観察し読み取り,それらを切除標本の肉眼所見と詳細な組織検索の所見と対比することによって,初めて正確なX線診断が可能になる.また,通常の検査で発見が困難な病変に対しては,術後の新鮮標本(未切開)あるいは固定標本のX線写真を撮影しておくことが,発見の手掛かりを得る方法として重要である.これらを遂行するためには,外科と病理の理解と協力が必要である.

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要旨 近年開発されたデジタルラジオグラフィーであるcomputed radiography(CR法)を使用して,切除標本,従来法とCR法のX線写真の三者が十分に検討可能であった17例の早期胃癌を対象に切除標本とX線所見との対比を行った.特に従来法とCR法両者のX線写真の比較検討を行った.従来法と比較してCR法ではコンピューターによる階調処理や周波数処理を行うため,癌巣の境界部,内部の顆粒像,隆起表面の性状や周囲非癌粘膜における胃小区像など,切除標本における肉眼所見の描出に優れていた.今後,コンピューターによる画像処理の改良によりⅡb病変の診断が期待される.

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要旨 TV-Endoscopeを用いて,早期胃癌の表面微細構造を観察し,それらを切除固定標本の実体顕微鏡所見および病理組織所見と対比した結果,TV-Endoscopeにて病変の全体像と共に表面微細構造パターンを観察することは,早期胃癌の鑑別診断,癌浸潤範囲の診断に有用であり,更にその組織型の推定がある程度可能であることがわかった.すなわち,分化型腺癌では表面が癌性びらんに陥って表面微細構造が消失していなければ,癌性腺窩上皮による密な配列を示すLeistenspitzの多彩な紋様が認められ,その特徴的な構造を認めれば,分化型癌と推定しうる.一方,未分化癌では非癌性再生上皮によるInselや既存の表面上皮が変形したと思われる幅の広い大小不同のあるLeistenspitzが無構造な癌性びらんの中に認められる.

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要旨 胃癌の内視鏡所見と切除標本の対比は,切り出し写真上の線上に,対応する病理組織所見,すなわち癌の浸潤範囲と浸潤様式を記入し,その所見をもとにホルマリン固定後の切除胃肉眼標本写真上に,“面”としての胃癌の浸潤範囲を記人することから始まる.この立体再構築された所見と内視鏡所見との対比は,種々の問題点があるにせよ内視鏡診断の向上のためには必要不可欠である.上記の方法について解説し,陥凹型早期癌自験例36病変の切除標本と内視鏡所見を対比した.そして以前に発表した成績も合わせて以下の結論を得た.1.未分化型癌について:①粘膜内の癌巣が厚い場所では,肉眼標本上陥凹を呈し,内視鏡所見上褪色を示すものがほとんどである.②病巣が薄い場所では肉眼標本上も内視鏡所見上も非癌部と差はなく診断不能である.③病巣中の発赤は再生上皮や取り残しに起因し,その周辺に褪色を伴うことが多い.④色素散布法は陥凹や小区像の差を明瞭にし診断に有用である.2.分化型癌について:①粘膜内癌巣の厚さとは関係なく,内視鏡写真上の色調は発赤を示すものや周辺と不変であるものが多い.②肉眼所見上病変範囲の診断が難しいのに,内視鏡写真上は血管透視像など微細模様の消失によって癌の浸潤範囲を診断できるものがある.

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要旨 消化管のEUS像の病理組織学的な成り立ちを正確に検討するには,EUS像と病理組織像が1対1の対応を成していることが不可欠である.その方法として,クリップを病変の両端に装着しておき,この2つのクリップが描出される部位で超音波像を描出し,病理組織切片はこの2つのクリップを通る面で作製する方法(クリッピング法)と切除標本に対し水浸下でEUSを実施し,術前と同一画像と思われる面で標本を切り出し対比する方法が挙げられる.超音波像と組織像の対応は,切除標本の病変から針を刺入してEUS像を描出し,EUS像における針のエコーの位置と組織像における針穴の位置の関係から行った.問題点として,クリッピング法は粘膜面の変化とその部の粘膜下の状態を正確に知る方法としては有用である.切除標本の水浸下EUS像から切り出し面を設定する方法であるが,切除標本において最深部と判定した像が術前のEUS像と一致しない場合が起こりうる.EUSの特徴は内視鏡観察による病変の粘膜面の拡がり,すなわち水平方向の診断のみならず超音波断層法による垂直方向の診断能も併せ持つことにある.EUS像と切除標本,病理組織像を厳密に対比させていくためには,この2つの異なった機能を有効に結び付けていく工夫が必要である.

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要旨 胃疾患において7.5MHzリニア電子走査型超音波内視鏡を用い,バルーン法によって描写した病変の超音波断層像と,切除標本の病理組織学的所見の対比を行った.今回使用した超音波内視鏡による胃病変の超音波断層像は,病理標本の肉眼レベルで確認可能な変化を描出でき,その評価を可能にする.評価は超音波断層像に示される胃壁層構造の形態の乱れとエコーレベルの変化を指標として行われる.一方,病理組織学的検索により初めて明らかとなる病変は,超音波断層像の変化として描出できないことが多い.この内視鏡的超音波断層像の限界は,びまん性・散在性に発育する胃癌の浸潤範囲判定や筋原性粘膜下腫瘍の良・悪性の識別を困難にする.

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 はじめに

 臨床的に発見された胃病変の状態把握や微小病変の発見のために,切除胃全例を全割して組織学的検索を行うことは労力的ばかりでなく経済的にも不可能である.また,7~10mm幅で胃を全割して組織検索しても微小癌を見落とす可能性があろう.したがって,切除胃の肉眼観察で病変ないし異常部を拾い上げることが大切となる.

 しかし,肉眼的異常部がすべて組織学的に病変であるとは限らず,ときには術前・術中・術後の人工的傷害部であることもあろう.病変によっては肉眼的に境界不鮮明な病変ないし限局性の多発病変であっても,組織学的に同質の病変(前者では種々の胃炎,後者では多発びらん)のことがあり,これらでは多数の組織標本を作る必要もあるまい.すなわち,肉眼所見と組織所見との対比で得られた成果から,各種病変を肉眼的に判定できるようになり,組織標本の必要な病変と不要な病変とを区別することもできるようになろう.

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 〔症例〕 47歳,女性.主訴は粘血便,便秘.既往歴は18歳時,腸結核による狭窄のため手術.その後も2回,腸管癒着のため手術を受けた.また,43歳時に十二指腸潰瘍の既往がある.職業歴に特記事項なし.現病歴として初診の約1年前から便秘がちとなり,3か月前より,粘血便が継続するため,1986年4月,当院を受診した.

早期胃癌研究会

1987年11月の例会から 長廻 紘
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 1987年11月の例会は長廻(東京女子医大消化器内科)の司会で11月18日工一ザイ本社で開かれた.翌日から始まる日本消化器内視鏡学会総会を前にして,ふだん以上の盛会であった.

学会印象記

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 第29回日本消化器病学会大会は,1987年11月5日,6日,7日の3日間,菅原克彦会長のもと,山梨県甲府市で開催された.学会場は,県民文化ホール,県民会館,農協会館および紫玉苑の11会場に分かれ,4題の特別講演をはじめ,シンポジウム,パネルディスカッション,ワークショップおよびラウンドテーブルディスカッションがそれぞれ4題,これに一般演題767題という大規模のものであった.学会会場が11会場に及び遠くに離れていたため,移動するのに時間がかかりいささか不便を感じた.

 第1日目の午前中はパネルディスカッション,“胃癌肉眼分類の問題点”を聞いた.各演者らは新しい胃癌肉眼分類を提案したが,肉眼分類を純形態学からみるか予後因子としてみるかによって分類形式が異なるように思われた.また,5型に分類されるいわゆる早期癌類似進行癌の取り扱いをめぐって問題点が浮き彫りにされたが,これに関しては高見先生の提案した“基本型と修飾型の組み合わせによる胃癌の新肉眼分類試案”をたたき台として演者間の活発な討論が行われた.結局,どの分類が良いという結論はなかったが,このセッションで取り上げられた背景をもう一度振り返り,意義のある肉眼分類が作成されることを望む次第である.

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 昨年11月19日より3日間,日本消化器内視鏡学総会が,東京慈恵会医科大学渡辺豊教授会長のもとに,京王プラザホテルを会場に盛大に行われた.次回総会を運営することになった私どもとしては,これまでの“気楽”な学会出席と異なり,それなりに緊張して,運営なども注意して見てきたつもりである.その私に印象記を書かせるのは,編集者の多少の意図も感じてしまうが,来年は今回に負けないつもりで運営したいと思っていますので,諸先生方には,宜しく御協力賜わりたく存じます.

 さて総会第1日目は,パネルの“大腸扁平隆起性病変の内視鏡像ならびに病理学的特徴”を拝聴した.1,000名入る会場であったが,坐りきれず,入口まであふれるくらいの関心を集めていた.扁平隆起性病変はX線も内視鏡も診断困難な場合が多く,次々と出てくるきれいな症例に,自分の治療が本当に大丈夫かと,チラリと不安に思われてしまった.また,その症例数も多く,まさに現在,早期大腸癌の真の姿が描き出されつつある感じを強く受けた.胃の早期癌解明のプロセスと類似しており,大腸も日本の研究がトップにあることが実感できた.発表の中で内視鏡所見と病理所見のギャップについての指摘と検討があり,大腸内視鏡診断のある意味で有利な点と思われたが,このギャップをどう埋めて臨床へ還元されるかが,今後の問題点であろう.

Coffee Break

Oxfordで教育を考える 伊藤 漸
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 去る9月初旬,国際消化管運動シンポジウムが英国で開催された.従来,この種の学会は安上がりを旨としてきたので,英国の場合もOxford大学のchrist churchで開催された.参加者はchrist churchの300年前に建てられた学生寮に宿泊した.4泊3食付き,一夕はフルコースのbanquetで4万円弱の参加費は安かった.

 しかし,元来,学生寮であるのでガランとした石造りの部屋に勉強机に椅子,1人がやっと横になれる挟いベッド,それに簡単な洋服ダンスがあるだけで,バス,トイレは部屋の外の共同であった.

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 昨年9月14日~19日の6日間,韓国ソウル市のLotteホテルで上記の学会が国立ソウル大学外科金鎭福教授の主催により開催されたので,それに出席した印象を述べたい.

 実は小生東南アジア諸国,特にシンガポール,マレーシア,フィリピン,香港,台湾などには,1965年より二十数年間に,内視鏡指導,国際学会発表,医師会会合での特別講演ならびに掲協医大熱帯医学研究会諸大学訪問などで,それぞれ行き帰りを含めて各地には7回以上行っている.しかし最も近い隣国である韓国へは,1977年秋の韓国消化器病学会特別講演(新潟大学内科市田教授のお伴をした),1983年3月および同年12月のWHO主催細胞診講習会での講義実習に続いて今回が4回目で,東南アジア諸国に比べれば訪問の回数は少ない.

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要旨 患者は61歳,男性.高度貧血によるめまいを主訴に来院.心窩部に巨大腫瘤を触れ,精査の結果,胃inflammatory fibroid polypと診断した.腫瘤の大きさは7×5.8×4cmで,全体としては粘膜下腫瘍の形をとりながら,腫瘤の上半分が粘膜欠損を起こしドーム様となっていた.また陥凹面は平滑で,底部は透けて見える特異な形状を示した.長径5cm以上の巨大な本病変は文献上15例にみられ,粘膜下腫瘍,有茎性ポリープ,無茎性上皮性腫瘍などの形をとり,上皮性と非上皮性両者の形態を示していた.自験例にみられる陰茎亀頭様外観は,既に7例の報告があり,他の疾患にはみられない特異な形状であるところから,X線および内視鏡診断が可能と思われた.

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要旨 貧血を主症状として発症し,特異な病理所見を呈した36歳,女性の胃平滑筋腫を報告した.本例の幽門部前壁にみられた4.0×3.8×2.0cmの隆起性病変はX線像,内視鏡像からは非典型的ながら粘膜下腫瘍と診断しうる所見であったが,病理組織学的には腫瘍は炎症性細胞浸潤と毛細血管の増生の強い肉芽性変化より成り,平滑筋組織は潰瘍辺縁部にわずかに認められるのみであった.本例は平滑筋腫の中心より急激な平滑筋組織の崩壊が生じたのち,その部に肉芽性変化が強く出現し,特異な組織所見を呈したものと考えられる.

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要旨 6年間の経過の後に特異な肉眼像を呈した大腸Crohn病の1例を報告した.患者は35歳の女性で,発症は1978年7月と推定され,6年後の1984年5月,下痢を主訴として当院へ人院した.病変は下行結腸に限局し,非密集性の炎症性ポリポーシスを伴った約16cmにわたる狭窄性の病変であった.狭窄が改善しなかったため,同年7月これを切除し,病理組織学的にCrohn病と確診した.治療によって,cobblestone像が炎症性ポリポーシスへと変化し,潰瘍が瘢痕化したために,非定型的肉眼像を呈したものと推測された.

初心者講座 食道検査法・1

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 今回,初心者講座として食道検査法が取り上げられることになったが,どうしても食道癌の診断が主体となると思われるので,この機会を借りて,少し早期食道癌の過去と現況とについて触れさせていただきたいと思う.

 早期食道癌が本邦で初めて報告されたのは1966年で,当時東北大学と東京女子医科大学消化器病センターとから報告された.そのときは,まだ今日ある食道癌取扱い規約もできておらず,早期胃癌と同じカテゴリーで規定したものであった.筆者はその1例の内視鏡検査を施行したのであったが,ちょうど腫瘤様隆起型のsm癌で,硬性直達鏡で施行した生検操作で腫瘍を移動でき,進行癌ばかりしか見慣れていなかったこともあって,本当にびっくりしたことを憶えている.その後,食道癌取扱い規約(第2版,1974)で表在癌,早期癌に対する現在の定義が規定され,その後の発見数は全国的に年々増加してきたわけである.

病理学講座 消化器疾患の切除標本―取り扱い方から組織診断まで(13)

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 (1)大腸・小腸の腫瘍(様)病変

 前号で述べた粘膜の肉眼基本所見の組み合わせによって,大腸・小腸腫瘍性病変の中で最も高頻度にみられる隆起性腫瘍(様)病変を肉眼的に質的診断することが可能となる(Table 4,Fig.1~3).

 大腸・小腸,特に大腸では上皮性隆起性病変が多発することが多い.これら隆起性病変が異種の病変から成ることがあるので,各々の病変に対する注意深い肉眼観察と組織学的検査が必要となる.例えば,早期癌,腺腫,過形成性ポリープまたは過形成性結節の合併,Peutz-Jeghersポリープと腺腫や過形成性ポリープの合併,Cronkhite-Canada症候群のポリープと腺腫の合併などである.

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欧文目次

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 ジョンズ・ホプキンズ大学医学部のタマルティ名誉教授が30年を越える長い内科学の教授としての教鞭時代とボルチモアにおける名声赫々たる内科医としての活躍の経験をまとめて,臨床家として身をたてて行こうとする後輩に診療作法を教えようとして「The Effective Clinician」を著わし,W.B.ソーンダーズ社から刊行されたのは1973年であった.それから5年後に日野原重明・塚本玲三両氏の翻訳により日本語版「新しい診断学の方法論と患者へのアプローチ」としてわが国でも入手できることになり,私もそれを読んで,臨床家として自分の至らないところを深く反省させられたものである.最近10年間の医学の進歩の結果,この書物にとって不必要になったと思われる部分を削除し,「よき臨床医をめざして―全人的アプローチ」と題して出版された日本語版が,ここに取り上げた新しい書物である.

 訳者がいみじくも言っておられるごとく,わが国の臨床医学教育の大きい欠陥の1つは学生に対する診断学の重点が鑑別診断に集中され,患者への応対,主訴および病歴の聴取,および理学的所見の取り方の実際をゆるがせにしていることである.ましてや,大学病院の患者がタマルティ名誉教授が指摘されているように“頭のきれる人でも患者になると鈍感な人間になり,医師から言われたことをすぐ忘れてしまい,あまり一度に沢山のことを言われるとたちまち混乱し,対話の中でも自分の考えに合っているか,自分に快適な部分しか記憶にとどめない”ところの,不安と緊張におののいている劣等学生に比すべき人物になり,専門家を無条件に尊敬したがっている事実などをわが国の医学生は診断学で教えられていないだろう.

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 Endoscopic needle aspiration cytology: a new method for the diagnosis of upper gastrointestinal cancer: Ingoldby CJH, Mason MK, Hall RI(Gut 28: 1142-1144, 1987)

 上部消化管の悪性病変のほとんどは,内視鏡観察のみで診断可能である.疑診例の大部分は,内視鏡生検とブラシ細胞診で容易に診断される.これら2つのテクニックの単独あるいは併用により悪性病変の約95%が正診可能である.しかしながら,これらの方法では,表層の細胞あるいは組織のみが採取されるゆえに,確診できない病変が若干残る.linitis plasticaや再発腫瘍のごとき浸潤性病変や,リンパ腫,肉腫のごとき比較的まれな組織型の腫瘍を生検やブラシ細胞診で確診するのは難しい.そこで細い針を用いた吸引細胞診は,いろいろな悪性腫瘍を診断する効果的な手法である.例えば,乳房のごとき臓器で触診可能な病変から経皮的に,あるいは膵臓のごとき深部臓器から超音波ガイドで施行される.食道静脈瘤硬化療法に用いる可撓性の針の登場で,吸引細胞診が内視鏡で見える消化管病変に応用可能になった.このテクニックは,通常法では診断困難な壊死組織や正常粘膜の下深く存在する病変からのサンプル採取を可能にする.

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 Does smoking interfere with the effect of histamine H2-receptor antagonists on intragastric acidity in man?: Bauerfeind P, et al(Gut 28: 549-556, 1987)

 喫煙は消化性潰瘍の治癒に対して不利な影響を及ぼす.十二指腸潰瘍では治癒を遅らせ再燃の原因となりヒスタミンH2受容体拮抗剤の効果を減弱させることが報告されているし,おそらく胃潰瘍でも同様な影響を与えるだろうと言われる.しかしその作用機序はわかっていない.

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 Effect of perioperative blood transfusion on recurrence of colorectal cancer: Parrott NR, et al(Br J Surg 73: 970-973, 1986)

 輸血の免疫抑制的な効果が,腎移植患者にとって好都合であることはよく知られている.このことが癌の治癒手術を受けた患者に,どのように不利益になるかはわかっていない.

編集後記 高木 国夫
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 胃X線・内視鏡所見と切除標本・病理所見との対比は,1950年代の早期胃癌診断の黎明期から検討されてきている,古くて新しい課題であるが,近年,新しい検査法が種々開発されてきて,この課題を,新しい検査法も加えて検討することが必須となり,今回特集を組むに至ったわけである.

 胃X線診断には,コンピューターの進歩の上に開発されたcomputed radiographyによる検討が加わり,内視鏡検査では,従来の胃カメラ,ファイバースコープによる方法に新しく電子スコープが加わり,更に従来のX線・内視鏡検査で不十分であった胃壁病変の範囲の診断と胃壁の側面視が可能になった超音波内視鏡が導入され,病理所見との対比が検討されてきている.

基本情報

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胃と腸
23巻1号 (1988年1月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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