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ジョンズ・ホプキンズ大学医学部のタマルティ名誉教授が30年を越える長い内科学の教授としての教鞭時代とボルチモアにおける名声赫々たる内科医としての活躍の経験をまとめて,臨床家として身をたてて行こうとする後輩に診療作法を教えようとして「The Effective Clinician」を著わし,W.B.ソーンダーズ社から刊行されたのは1973年であった.それから5年後に日野原重明・塚本玲三両氏の翻訳により日本語版「新しい診断学の方法論と患者へのアプローチ」としてわが国でも入手できることになり,私もそれを読んで,臨床家として自分の至らないところを深く反省させられたものである.最近10年間の医学の進歩の結果,この書物にとって不必要になったと思われる部分を削除し,「よき臨床医をめざして―全人的アプローチ」と題して出版された日本語版が,ここに取り上げた新しい書物である.
訳者がいみじくも言っておられるごとく,わが国の臨床医学教育の大きい欠陥の1つは学生に対する診断学の重点が鑑別診断に集中され,患者への応対,主訴および病歴の聴取,および理学的所見の取り方の実際をゆるがせにしていることである.ましてや,大学病院の患者がタマルティ名誉教授が指摘されているように“頭のきれる人でも患者になると鈍感な人間になり,医師から言われたことをすぐ忘れてしまい,あまり一度に沢山のことを言われるとたちまち混乱し,対話の中でも自分の考えに合っているか,自分に快適な部分しか記憶にとどめない”ところの,不安と緊張におののいている劣等学生に比すべき人物になり,専門家を無条件に尊敬したがっている事実などをわが国の医学生は診断学で教えられていないだろう.
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