胃と腸 2巻6号 (1967年6月)

今月の主題 胃のびらん

綜説

Erosive Gastritis L. WALK
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Erosive gastritis is a disease entity with clinical findings resembling those in peptic ulcer, and with a season-bound tendency to recidivate. Massive bleeding is a frequent complication and may recur. Treatment is medical, except in cases of repeated bleeding, and in occasional pronounced cases with ulcer-like symptoms, where operation may be indicated. It is of practical interest that, except by gastroscopy, the diagnosis can even be made roentgenologically.

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 ビラン性胃炎は病理学者には以前から知られていたし,偶然に内視鏡学者によって観察されたことがある.1932年にレ線的にもHenning,Schatzkiによってみられた.ともあれレ線診断は困難であると考えられているが,1955年までには39例以上はレ線的には診断されていなかったが文献数は232もあるし,診断法には内視鏡がなお唯一の方法と考えられていた.レ線検査の技術の改良がルーチン検査でさえ診断可能にした.著明な症例は患者の約196ある.外科的材料では2.9%ある.11歳以上何歳でもあり,31~40歳で最高を示し,男女比は2:1である.

 切除胃ではふつう前庭部にあり,17%が胃底腺領域にある.粘膜欠損は1~8mmである.時々不規則になったり融合して数cmにまでなることがある.欠損部の底部は大抵灰色,黄色であり,赤色のこともある.欠損の周辺は壁を作って隆起していることもあるが著明でないことがあり,全くないこともある.ビランは前庭部にビマン性に拡がっていて潰瘍のように小彎に限局する傾向はない.

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Ⅰ.緒言

 本邦におけるビランの診断への興味はことに柔軟な胃カメラまたはファイバースコープが日常の臨床検査に応用され,早期癌を中心にした微細病変への診断に目が向けられてから著じるしい.

 しかし文献的にビランの頻度を検討する時,気付くのはその頻度に著るしい差があることである.すなわちJunghanns1)10%(切除潰瘍胃),Konjetzny45%以上2)(切除潰瘍胃),Walk 2.9%3)(X線),Frik4)0.5~2%(X線),広門ら5)5.4~10%(内視鏡)青山6)5.3%(X線による胃集検)などである.しかもこの頻度の差は単に被験材料,診断方法の差のみによるものではなく,胃のビランの診断規準のもつ曖昧さによることが大きい.

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Ⅰ.はじめに

 戦後,おくればせながら,胃のX線診断に関するドイツの新しい文献が相次いでわが国に入ってきた.Prévôt(1948),Schinz(1952),Teschendorf(1952),Assmann(1950)などのLehrbuch,それにBücker(1950),Eschbach(1949)などの著書がそれである.それらにのっているX線写真には,びらんは全くないといってよいのであるが,格調高いドイツのX線診断の水準を誇示していた.その中でも,Bückerの微細病変の写真は私の心をゆさぶった.文章を読むよりはむしろ写真を見つめて暮した.写真の背景には,その人のX線検査技術ばかりでなくて,その人のIdeeがある.その後,Fortschr,Rôntgenstr誌上で,Frik(1953)やAbel(1954)などの論文をみたときも同様であった.

 一方,その頃,白壁先生は腸結核のX線診断の仕事を完成していた.その一部は「腸結核」という本になっている.化学療法の発達した今日では,腸結核はほとんど忘れられているようだが,まさに空前絶後のすぐれたArbeitである.腸のX線診断が問題になるときには,必ず脚光を浴びるに違いない.そのArbeitの1つの大きな特徴として,いわゆる術後像の検討がある.手術前によいX線像(術前像)をとる.そのためには,病像をX線検査時に予め知っておくことも必要である.手術後は,切除した腸に造影剤や空気を注入したり,圧迫したりして,肉眼所見を忠実に現わした写真(術後像)をとる.そのうえで,術前像と術後像,それと肉眼所見とを比較検討することであった.従って,よいX線写真とは,肉眼所見を忠実に現わしたX線像ということになるわけである.このような試みは,それ以前にもないわけでもないが,白壁先生ほど徹底的に実行した人は全世界を通じてなかったようである.

 このようなムードの中で,三輪内科で胃のX線診断に取り組んだ.びらん,胃潰瘍(線状潰瘍や多発性潰瘍も含む),FeinreliefやポリープなどのX線診断がそれである.つまり,まず微細病変の診断から出発して,胃のX線診断を再検討することであった.胃潰瘍やポリープの診断についてはかなりよい成果を上げることができた.が,Feinreliefによる胃炎の診断は,基礎になる病理組織所見があまりにもあいまいすぎるので,不発に終った.Feinreliefは現わせても,病理組織学的裏付づけが貧弱だったからである.びらんの診断については,一応の目安はついたものの,骨が折れすぎて顎を出してしまった.びらんの診断は,学問的な価値はともかく,早期癌のような現実的な強い要望がなかったからでもある.そして,検査法については,昭和37年に,それまでの経験から割り出した結論をまとめてみた.胃上部や前壁病変の診断について2~3追加すれば,今日でもなお通用すると思っている.今になって考えてみると,びらんやFeinreliefなどの微細診断に取り組んだことが,とりも直さず,早期胃癌のX線診断につながっていたのである.

 ともかく,びらんについては,以上のような思い出がある.その間,外科および病理の諸先生には絶大な御支援をうけた.早期胃癌のX線診断が世界の水準をはるかに引きはなしてしまった今日,改めて感謝している.何しろ,ドイツでは,X線診断をする放射線科医と,手術をする外科医との間に協力体制が全くないというのであるから.

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Ⅰ.はじめに

 X線,内視鏡診断の目覚ましい進歩によって診断の焦点は必然的に胃内の微小な病変へ向けられて来ており,内視鏡に限っても優秀な機械の出現が盲点を殆んど克服したと云える段階になった今,微細病変をより確実に,容易に診断する事が今後の内視鏡分野にとり残された一つの課題と云える.

 かかる観点から眺める時,びらんは微細診断のための好材料であり,かつ早期癌診断の一つの指標となりうるものと考える.

 さて,びらんが臨床面と結びつくのはいかなる場合であろうか.1.微細早期胃癌診断の一つの拠り所が潜在している可能性がある,2.内視鏡的に特異な像を呈し激しい臨床症状を示すびらん性胃炎,3.びらんと潰瘍の関係の分析などをあげることができる.しかし,本文では異なった観点から広くびらんを眺めてみたい.すなわち内視鏡を最大限に駆使した時点における内視鏡診断の限界――びらんの内視鏡像(質的診断),量的診断すなわち存在診断の限界,びらんの鑑別診断――は如何であるかについて検討してみたいと思う.ここでびらんを診断する手掛りが必要となって来る.

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Ⅰ.hamorrhagische Erosionが捉らえられるまで

 hamorrhagische Erosion出血性びらんは長い間病理の世界だけで知られていた.そして臨床的につかまえようがないと思われていた.それが最近になって,ようやくファイバースコープや最新型の胃カメラによってつかまえられるようになった.捉えてみると,それはやはり臨床的に重要な意義をもっていることが分った.

 病理解剖から得られる胃は,一般に自家融解が強くて,余り組織検索の役に立たない.ことに自家融解は粘膜面に強いので,早期胃癌とか,胃炎とか,さらにはびらんとかといった病変の検査には不向きである.したがって胃の病理所見はこれまで余り重要視されていなかった.

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Ⅰ.緒言

 胃のびらんの研究は剖検胃の粘膜表層に発見された組織欠損の研究から始まった.研究当初は消化管出血の剖検胃が対象となったために,生前の臨床所見が重要視され,特有な病像をもつ独立疾患であると考えられ,Einhornsche Krankheit(Einhorn:1895),Exulceratio ventriculi simplex(Dieulafoy:1900)等と名づけられた7)11)19).しかし剖検胃の検索が進むと,胃びらんは10歳以下の小児から90歳以上の老人にまで発見され,胃疾患以外でも中毒(重金属),尿毒症,子癇,火傷,外傷,脳疾患(Rokitansky)1),結核,虫垂炎,肝硬変,ヘルニア嵌頓等(Mintz)7)の剖検胃に発見される事実がわかって来たので,ElnhornやDleulafoyが提唱した独立疾患は歴史的な症候群にすぎなくなった.組織学的に胃びらんは粘膜層に限局する組織欠損であると定義され11),びらん部に限局性の梗塞をみとめ,胃壁の局所的な循環障害に由来するものであると考えた研究者が多かった(Rokitansky,Kundrat,Hauser等)7)11)19).しかし当時においてもびらんの成因に対して一致した見解はなく(Berger)7),循環障害説の他に細菌ないし細菌毒素の感染説(Dieulafoy,Frankel,Wurty),非特異性炎症説(Pariser,Nauwerk),鬱血と外傷の併存説(Ewald)等の諸説があった7)11)19).びらんの研究が進歩するとともに,自家融解の進行過程にある剖検胃では,粘膜表層の微細な検索を行なうのに不適当である事が明らかになって来たので10)12)13)14)17)20),一方においては剖検胃の自家融解を防ぐ目的で死直後,胃内にホルマリン液を注入する等の努力がはらわれたりしたが,大勢は今世紀初頭から盛んになった切除胃の研究に焦点が向けられるようになった.切除胃を対象とする研究であったから,この研究には従来の病理学者3)~6)7)10)11)21)37)41)に加えて外科医12)13)14)17)20)26)~30)33)~36)38)39)43)も参加するようになったし,胃診断技術の向上にともない,近年ではレントゲン24)25)・内科,内視鏡学者46が参加するようになった.このように多方面からびらんの研究が行なわれる理由は,粘膜に限局する組織欠損が,胃潰瘍においては潰瘍の初期像としてとらえられ3)~6)33~35)37),慢性胃炎においては多彩な胃炎組織像の解明の手がかりとして3)12)13)26),胃癌においては早期胃癌との鑑別診断36)と関連してとりあげられたからである.

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症例

患者:森○茂,58歳,高校教諭

初診:昭和41年7月18日

手術:同7月29目

主訴:心窩部の鈍痛及び膨満感

家族歴:父親が胃癌で死亡,その他特記すべきことはない.同胞7人の長男にて弟妹は総て健康.

病歴:昭和40年8月,心窩部痛および前胸部痛を訴え某病院にて約40日聞投薬をうけ軽快した.しかし41年4月より再び心窩部の鈍痛および膨満感を訴えるようになり,某国立病院にて諸検査をうけたが異状なしといわれた.6月21日某院受診,7月1日胃部レ線検査をうけ胃体部大彎側の潰瘍の疑いを指摘され,精査の目的で市立半田病院に7月18日入院した.

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Ⅰ.まえがき

 近年珍らしい型の早期胃癌の発見が相次いで報告されるようになってきたが,ことに凸の病変で,癌か否かが問題となる症例の報告がぼつぼつみられる.このような異型増殖あるいは異型上皮とよばれる一つの病変のentityはいまだ確立されておらず,癌の発生あるいは癌への移行の上での一つの時点として今後の検討がまたれるものであろう.

 私達も,一年間にわたり,X線,内視鏡で経過をおい,どうしても癌であるという疑いをすてきれず,切除した症例で癌か否かの決定にまよい,詳しい組織学的検索を行なった症例を経験したので報告する.

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Ⅰ.はじめに

 胃X線診断に際し多発性潰瘍の症例はしばしば経験する所である.個々の潰瘍を全てX線学的に証明することは容易ではないが,充満像の変形,粘膜徽襲の走行異常及びニッシェの形から悪性病変との鑑別は必ずしも困難ではない.われわれはX線学的にニッシェの輪廓が外に向って凹となり癌性潰瘍に似た所見を示し,内視鏡的にも悪性病変との鑑別に迷った多発性潰瘍の症例を体験したので報告する.

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村上(司会) きょうは,綜説のほうにびらんに関する論文をいただいた方々にお集りいただきましたので論文には書ききれないような面,あるいはその裏話,あるいは責任がなければこんなこともいってみたい.そんなお話しがしていただきたいと思います.幸いにそういう面がでますと,論文のほうをお読みになる方々に,どんな背景でこの論文が出てきたかということがよく分りまして,読まれるときの興味が,一層増してくるんじゃないかと思います,しかし,こういう試みは,逆にこの座談会で論文のほんとうのところまで解説してしまいますと,論文の意味がなくなってしまいますので,大へんむずかしい.中には,これは論文のほうに書くから,ちょっとこれ以上話しはやめるというようなところも出てくるかもしれません.それは,どうぞご自由になさっていただきたいと思います.

 それから,青山先生,竹本先生には,遊軍ということで加わっていただきましたので,適当に活発にご発言いただいて,この座談会を一そう興味あるものにしていただきたい.

技術解説

病理標本の作り方(1) 佐野 量造
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Ⅰ.はじめに

 ここ数年間,胃癌の早期診断技術の進歩はめざましいものがあり,そのおかげでわれわれ,病理医は先人が経験し得なかった貴重な材料を検索する恩恵にあずかっている.

 しかし,臨床が苦労を重ねて診断し,手術した材料も病理のうらづけがなければその価値は半減する.手術材料の扱い方や,病理標本の作製は勿論,病理医の責任においてなすべきものであるが,病理医の員数が限定されている現在,切除材料のすべてを一人の病理医にまかせてしまうことは無理であろう.

 この点,臨床,とくに病院の胃癌グループの協力によって,それぞれの分担をきめ,一つの材料を処理していくことが望ましい.例えば,内科グループが写真をとり,外科グループが固定,切出しに協力する等である.

 これから2回にわたって病理標本の作製という技術解説をする予定であるが,この項は臨床が協力していただきたいことである.

 われわれの病院では実際,この項の迅速標本の作製を除き,切除胃の写真撮影から貼付け,固定までが外科側の”ノルマ”として仕事をしている.

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井上 先生は,明治41年に九大の前身である京都大学福岡医科大学を卒業され,大正5年33歳の若さで九大教授になられてから,昭和18年まで27年間在職され,現在も飯塚病院長として,第一線でお働きになっておられます.この間主として,消化器病学の研究にあたられ数々の立派な御仕事をされました.私考えますのに,先生は日本の消化器病学の歴史と共に歩まれ,またこれを育ててこられた方と思います.

卒業当時の診断法

 今日は,まず最初に,先生が大学を出られたころの日本の消化器病学がどんな状態にあったかということからお話ををうかがいたいと思います.

印象記

国際胃癌会議(名古屋) 長与 健夫
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 内外人参加者併せて数千人という第九回国際癌会議が10月29日東京ホテルニューオータニでの閉会式を以て無事終了した後場所を移して11月2,3の両日名古屋の愛知県産業貿易会館において国際胃癌会議が開かれた.

 この会議は国際会議に出席した内外人学者の中胃癌の研究,診療を志す専門家たちの集りであってその数は約100名と東京会議には比ぶべくもない小人数であったが,専門家の意見交流の場として又相互理解の場として主催者である愛知県がんセンターと米国シティーオブホープメディカルセンター両者の所期の目的はほぼ達せられたとみてよいであろう.ただやや惜しまれるのは東京会議に出席しながら時間の都合その他で出席できなかった外人学者が数人いたこと,国際癌会議の性質上外人側に臨床面のエキスパートが比較的少なく,この点参加した日本側臨床家にはいささか物足らなさが感ぜられたのではなかったかという点であるが,9月下旬に国際消化器病学会が開かれたのでこの点は致し方のない事であったともいえよう.

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質疑応答 松永 藤雄 , 有賀 槐三
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<質問>

 山形大学における潰瘍性大腸炎の頻度はどの位でしょうか.また,臨床検査(X線を含む)の具体的方法を松永教授にご教示願います.(長野Y.M.)

答え

(弘前大内科)松永藤雄

 ご質問を機会に私の教室の症例を集計してみました.いつも2~3人の入院患者があるのですが入院期間が永いために絶対数は余り多くなく,入院患者の1.6%で,外来患者数に対して0.15%という程度でした.しかし各症例の診断は確実のものばかりで,かって私が内科学会で宿題報告をした当時C群・D群としたものは全くふくまれていません.ちなみに,昭和38年から今日までの集計を表1にかかげておきます.

編集後記 村上 忠重
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 本号では珍しい企画が成功した.スエーデンのDr. L. WalkのErosive Gastritisを掲載することができたことである.これは一に青山大三氏の骨折りによるもので,こういった生の外国の原稿が載せられるということは誇ってもよいと思う.幸い英語も大変やさしいので,食後の一時に御覧になることもできよう.こんなことを始終しようというのではない.時々はしてみたいということである.本誌の第1~3号の巻頭をかざった白壁氏の論文はまとまって胃のX線学の聖典となり,独,葡,西語などに翻訳される予定とのことでこれも御同慶のいたりである.しかし今もって毎号の論文のいくつかを英語に翻訳して出したいという計画は確立されない.結局採算がとれないのである.そのもう一つ先には胃の病気が外国にはそれほど多くないという心配がある.

 最近このいわゆるErosive GastritisのErosionのことはタコイボと言いならわされるようになった.病理の目から見るとErosionのないGastritisはないので,タコイボにErosive Gastritisを占有されては困るというのが本音である.その問の事情は座談会の記事を読んでいただければよく分るはずである.

基本情報

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胃と腸
2巻6号 (1967年6月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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