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Ⅰ.はじめに
戦後,おくればせながら,胃のX線診断に関するドイツの新しい文献が相次いでわが国に入ってきた.Prévôt(1948),Schinz(1952),Teschendorf(1952),Assmann(1950)などのLehrbuch,それにBücker(1950),Eschbach(1949)などの著書がそれである.それらにのっているX線写真には,びらんは全くないといってよいのであるが,格調高いドイツのX線診断の水準を誇示していた.その中でも,Bückerの微細病変の写真は私の心をゆさぶった.文章を読むよりはむしろ写真を見つめて暮した.写真の背景には,その人のX線検査技術ばかりでなくて,その人のIdeeがある.その後,Fortschr,Rôntgenstr誌上で,Frik(1953)やAbel(1954)などの論文をみたときも同様であった.
一方,その頃,白壁先生は腸結核のX線診断の仕事を完成していた.その一部は「腸結核」という本になっている.化学療法の発達した今日では,腸結核はほとんど忘れられているようだが,まさに空前絶後のすぐれたArbeitである.腸のX線診断が問題になるときには,必ず脚光を浴びるに違いない.そのArbeitの1つの大きな特徴として,いわゆる術後像の検討がある.手術前によいX線像(術前像)をとる.そのためには,病像をX線検査時に予め知っておくことも必要である.手術後は,切除した腸に造影剤や空気を注入したり,圧迫したりして,肉眼所見を忠実に現わした写真(術後像)をとる.そのうえで,術前像と術後像,それと肉眼所見とを比較検討することであった.従って,よいX線写真とは,肉眼所見を忠実に現わしたX線像ということになるわけである.このような試みは,それ以前にもないわけでもないが,白壁先生ほど徹底的に実行した人は全世界を通じてなかったようである.
このようなムードの中で,三輪内科で胃のX線診断に取り組んだ.びらん,胃潰瘍(線状潰瘍や多発性潰瘍も含む),FeinreliefやポリープなどのX線診断がそれである.つまり,まず微細病変の診断から出発して,胃のX線診断を再検討することであった.胃潰瘍やポリープの診断についてはかなりよい成果を上げることができた.が,Feinreliefによる胃炎の診断は,基礎になる病理組織所見があまりにもあいまいすぎるので,不発に終った.Feinreliefは現わせても,病理組織学的裏付づけが貧弱だったからである.びらんの診断については,一応の目安はついたものの,骨が折れすぎて顎を出してしまった.びらんの診断は,学問的な価値はともかく,早期癌のような現実的な強い要望がなかったからでもある.そして,検査法については,昭和37年に,それまでの経験から割り出した結論をまとめてみた.胃上部や前壁病変の診断について2~3追加すれば,今日でもなお通用すると思っている.今になって考えてみると,びらんやFeinreliefなどの微細診断に取り組んだことが,とりも直さず,早期胃癌のX線診断につながっていたのである.
ともかく,びらんについては,以上のような思い出がある.その間,外科および病理の諸先生には絶大な御支援をうけた.早期胃癌のX線診断が世界の水準をはるかに引きはなしてしまった今日,改めて感謝している.何しろ,ドイツでは,X線診断をする放射線科医と,手術をする外科医との間に協力体制が全くないというのであるから.
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