胃と腸 2巻7号 (1967年7月)

今月の主題 胃切除後の問題

綜説

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はじめに

 胃切除残胃の胃炎に関する研究は,1930年代に既にHenning,Schindler,中谷,佐藤,棟方らによって行なわれている.その後最近に至るまでの間に諸外国では,Palmer,Benedict,Leesら,Krenz及びDebrayらによる報告が散発的にみられるのみである.本邦においては,この数年来次第にこの問題が再検討される機運にあるが,特に近年は検査器械の進歩により,残胃検査を簡単に行なえるようになったので,一層活発に論議されるようになってきている.しかしながら未だ症例数が限られている為,諸家の報告は断片的で,結果は必ずしも一致せず,この問題の研究は,漸くその端緒についたばかりと云ってよい.以下は著者らの経験を中心に述べるが,諸家の御批判を仰ぐ次第である.

 尚残胃といっても種々であるが,今回は,一般に最も多く行なわれている幽門側部分切除後の残胃について述べる.尚吻合に際しては通常の方法に従がい,切除線の小彎側を縫縮して,大彎側で吻合を行なっている(Gastrojejunostomia oralis inferior).又外国文献でpostoperative stomachといわれる場合には,迷走神経切断術のみのもの,或は胃腸吻合のみのものも含まれているが,われわれの症例ではこの様な例は含まれていない.

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Ⅰ.はじめに

 我々の術後消化性潰瘍に関する経験は多くない.否むしろはっきりいえば,非常に乏しいといってよい.しかしこれは我々だけの問題ではないらしい.外国の消化器,X線診断関係の著作1)2)3)4)5)8)文献等では,相当に多くの章があてられており,その内容も豊富である.しかるに,我が国のそれでは,術後潰瘍に関する記載は非常に少ない.とくにX線診断書では,この項を含まないものが多い.一項としてあげてあってもX線像之示しているものはさらに稀である.

 我が国では,欧米に比べて術後潰瘍が少ないらしいということは想像されるが,その客観的なデータはみられない.後述するが術後潰瘍は十二指腸潰瘍と非常に関係が深く,胃液分泌,過酸と強く相関があるからこの点で欧米に比べて少ないということは十分考えられる.しかし,少ないために関心が少なく,したがって,経験が乏しくなり,存在していても発見されないので,さらに少なく印象づけられるという悪循環はないであろうか.乏しい経験にも拘らず,我々が筆をとった理由はこれである.

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Ⅰ.はじめに

 手術胃の検査には,従来からレ線検査が主として行なわれているが,造影剤の通過が速く,しかも手術による変形,その他吻合口附近に生ずる痙攣や浮腫のため,種々の撮影方法を駆使しても内腔の状態を把握するのが困難なことが多い.したがって術後の消化性潰瘍のレ線診断は非切除胃における潰瘍にくらべると著しく劣っている.

 一方内視鏡検査の応用については,SchindIerが1932年に軟式胃鏡を用いて詳細に研究をして以来,本邦でも昭和8年より近藤,常岡博士を初めとする在京内視鏡学者等の報告がある.しかし胃鏡は挿入が困難で,又患者に与える苦痛も大きいのでその後操作の容易な吾国独特の胃カメラが出現した.更にファイバースコープを基点とした各種内視鏡の改良や開発はめざましく,その病態に応じた多種類の内視鏡をうまく選択し,組合せて行なう時代へと進歩して来た.

 しかしながら,術後胃に対する胃カメラ検査は盲検であるため残存胃の送気量を加減する事がむずかしく,満足な写真撮影を行なえない場合が多い.したがっていままでは吻合口又は残胃内腔の大きさ等を考慮にいれて各型のカメラを駆使し,ある程度鮮明な像が得られてはいるが,直視下でないということが最大の欠点となり充分な撮影を行なうのは仲々困難で,特にBillroth Ⅱ法の場合にはその傾向が強い.それというのも吻合部の多くがカメラの撮影上難点とされている胃体部大彎近くに存在するためと,吻合部が残胃の僅かの動きに対しても近位の切除断端の後方にかくれてしまうため,カメラの視野内に捕えることが困難であるからである.以上より従来胃カメラによる吻合部の撮影は,Ⅴa型を除いて成績は芳しくないといわれている.

 ところが,最近ファイバーガストロスコープが開発されてからは,牧野,綿貫,前田,春日井等の報告にもある如く,町田製FGSやオリンパス製GTFおよびアングル付GFSは切除胃に対しては胃カメラに代ってRoutinetestであるといわれるようになってきた.すなわち直視下に観察しながらスコープの方向,体位の変換および空気量の調節などを行ないつつ撮影出来るので,先にのべた欠点が除去されたためである.

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Ⅰ.はじめに

 近年胃切除後の障害のうち,ダンピング症候群と呼ばれる疾患が注目されるようになってきた.この疾患は胃切除後あるいは胃腸吻合術後に起こる特異な症候群であると云われているが,われわれは胃のある患者にも同様の愁訴を訴える者があることを報告した.したがってわれわれは,本症候群は食餌を摂取することによって起る特種な生理学的な変化の現われであろうと解釈している.

 一般にいうダンピング症候群とは,胃切除や吻合術を行なった患者の食餌摂取後に起こる全身の不快感で,呼吸困難,胸部狭窄感,失神,眩量,動悸,顔面潮紅,熱感,発汗,口渇,悪心,嘔吐,腹鳴,下痢,疝痛,脱力感,倦怠感などの症状を云っているが,最初に報告したのはDenechau1)で1907年である.1908年にはJonas2)の報告があり,1913年にはHerz3)の報告がみられる.Mix4)が1922年にDumping Stomachと命名して,始めてDumpingなる言葉が用いられるようになった.これは吻合口から食餌が急速に腸内に移行するという事実からの命名であった.

 Adlersbergら5)はダンピング症候群には,食後早期に起こって来る早期食後症状と,食後数時間してから起こってくる後期食後症状とがあり,前者は食物の急速排出が原因であり,後者は食後急速に上昇した血糖が反動的に下降するために起こる低血糖が原因であると述べている.

 この分類は今日に到るまで使用されているが,一般に単にダンピング症候群というと,早期食後症状を意味する場合が多い.

 本症の発生因子については,後期食後症状は低血糖で起こると云う説に対してはあまり異論はないが,早期食後症状の原因を食餌の急速排出のみに求めることはかなりの異論があり,多くの研究が行なわれているが現在に到るまで定説は確立されていない.

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Ⅰ.はじめに

 B・Ⅰ法胃切除後の吻合部狭窄の原因は色々あげられている.機能的なものとしては,術後Atonle,胃・十二指腸共同運動障碍,吻合部痙攣等々1~3),枚挙にいとまの無い程である.一方器質的な原因も数多くあげられているが,その代表的なものとしては,吻合部の浮腫である4)~6).これは術後間もなく発生するので,くわしい検査は困難である.そのため多くの学説も臆測の域に止るものが多い.我々は6)8)第28回臨床外科学会に於て,その原因の一つとして,残胃のべッツ縫い込みの部分に出来る腫瘤が,残胃頸部の細くなった部分に立ちふさがるか,圧迫することにより狭窄を起す原因となり,一方吻合口は,今迄考えられていたほど,浮腫による強い狭窄を起さぬことを提唱した.今回は主として,この腫瘤について述べる.

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Ⅰ.まえがき

 最近の外科療法の発達から,胃切除術が安全かつ容易に行なわれるようになったが,一方では胃切除後にくる種々な障害について広く注目するにいたり,そのうちでも機能障害としてのダンピング症候群,器質障害としての術後空腸潰瘍,胃断端癌などが代表的なものといえよう.ここでは,従来臨床家の間であまり問題にされなかったが,胃切除術の普及にともない,おそらくは今後増加するであろうと考えられる胃断端癌について少しくまとめてみたいと思う,術語としては胃腸吻合部癌,残胃癌などあるがすべて胃断端癌(Magenstumpfkarzinom)と同一概念と考えてよい.

 胃断端癌についての本邦報告例は極めて少ないが,実際にそうであるのかどうかの疑問もあるので,この機会に先輩諸兄の経験例があればお教え願いたい.

展望

肝臓病 上野 幸久
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まえおき

 近年肝臓病の各領域における進歩は,Martini1)らによって詳細に,また高橋ら2),楠井3),小田ら5)Richman5)によって簡潔に要領よく述べられているように,まことに目覚ましいものがある.限られた紙数でその全ぼうを網羅することは到底不可能であり,そのようなことは著者の能力外でもある.本稿では数多い肝臓に関する論文のなかから,臨床的に重要であり,また著者もまた興味をもっている問題点を幾つかとりあげて,概観することによって責めを果したい.

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症例

 患者:戸○豊○,55才,男子,会社員

 初診:昭和41年5月18日

 手術:同5月25日

 主訴:上腹部重圧感

 現病歴:昭和40年4月頃より上腹部不快感あり,慢性胃炎の診断で某医で治療を受けていたが好転せず,昭和41年5月上腹部重圧感増悪し,黒色便あり,著者の一人繁田のもとで胃X線検査を受け胃角部し開および壁硬化,陥凹性病変,数コのポリープ様透亮像等の異常所見を指摘され,手術を奨められて当外科に来院.

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症例

 患者:小○木○女○,46才,女

 主訴:心窩部痛

 既往症:約10年前から,空腹時又は食後に心窩部痛を覚えるようになり,この自覚症状は,軽快,増悪を反復しながら,来院時までつづいた.特に季節の変わりめの頃に悪かったと言う.この間,ある時は吐血(4年前)を伴い,某大学病院に40日間入院したこともあり,またその後も,他の3カ所の病院で,慢性胃炎,慢性大腸炎等の診断にて,それぞれ1~2ヵ月間の通院加療を受けその都度自覚症状は軽快したが,無症状の期間が1年以上つづいたことはなかったとのことである.

 臨床諸検査成績:後述の胃X線所見及び胃内視鏡所見の他,特記すべき所見はなかった.

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 城所 胃切除に関する問題は昔は非常に大事なことであったわけですが,検査方法自身にもこまかいことを論ずるにはテクニック上非常にむずかしい問題があったというわけです.それから手術後のいろいろな症状に関しても複雑な要素がたくさん入ってきますし,こういった問題の本質そのものも非常にいろいろ問題があるかと思います.この両者を結びつけるというふうなことは非常に大へんなことであったわけですが,最近検査方法もかなりいろいろ進んで参りました.特に内視鏡においてはいろいろ機械の改良進歩というようなことがありましてbiopsieなども適宜実施できるようになり,いろいろ検査方法が適確になってきました.そういった関係上切除残胃の諸問題とはある程度これを解明していく基礎ができかけてきている,と考えられます.

 そういったことを反映しまして,内視鏡学会あるいは消化器病学会でも,切除残胃の諸問題が演題として多く出題されるようになってきております.一方外科方面においても,胃切除研究会といったようなものが活発に最近行なわれておりまして,胃切除後の機能的な諸問題を中心としてあるいはそれに器質的な問題を加味していろいろと討論されておるというわけで,胃切除後の問題は最近非常にクローズアップされてきたという感じがするわけです.

技術解説

病理標本の作り方(2) 佐野 量造
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1.切除胃の切り出しにおける注意

 切除胃を病理学的に検査するに当って,その病変が単に癌であるか,否かということだけを知る目的ならば特別の考慮を払う必要なく,適当に切り出すだけでことが足りよう.しかし,現在の精細な臨床診断によって知り得た早期癌の部位や,癌の拡り,潰瘍の位置およびそれ等と癌の関係を臨床家は要求し,病理医はこれに答えなければならないのが現状である.またそのようなうらづけがなければより新しい診断学の進歩はあり得ない.

 切り出しに当って最も大事なことは先ず病理医が胃疾患の肉眼像に習熟しなければならないことはいうまでもない.しかし,この”切り出し以前のこと”が残念ながらよく理解されていない.そのためにもっとも重要な病変部を見逃したり,また潰瘍癌の場合,粘膜ひだの集中部を切らずに周囲の粘膜のみを調べ,後に臨床家に潰瘍の所在の有無を闇われて返答に窮するような結果になることがある.早期胃癌の検索には,多数の切片の作製を要求され,時間的に到底その要求に応じきれないという病理医の苦情をよくきくが肉眼像に習熟すれば,病変の重要なポイントを把握して,その部分を切り出せばある程度臨床の要求を充足することができる.特殊な病理学研究を目的とする場合を除いて,切り出しの一定のルールを会得さえすれば早期胃癌の病理的検査は決して無理な仕事ではない.

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 信田 先生きょうはお忙しいところを御邪魔させていただきます.“胃と腸”の編集部からの御要望で,福田先生が大学を卒業されてから現在までタッチされたお仕事が,言わば日本の外科学の進歩にそのままつながっているというようなことから,外科学会の大先輩としての福田先生から,そのころのいろいろの思い出話を現在の医学のレベルと結びつけてお伺いさせていただきたい,というわけでございますので,よろしくお願いいたします.

 初めに福田先生が大学を御卒業なさって,最初に病理の教室にお入りになったというお話でございましたが,そのころのお話から一つお始め下さい.

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 感覚生理学の中でも痛みに関する研究が,一番おくれているようである.本書の著者清原博士もいっておられるように,痛みの研究は感覚の中でも特殊なもので,その研究法も完成されたとはいい難い,光や音に関する知覚は昔からよく研究され,その内容も著しく豊富である.痛みの研究は上記の感覚と異なって,客観的な取扱いが困難である.いきおい動物実験が必ずしも容易でない.痛みの受容器,その伝導路,中枢神経などいずれの研究面をとりあげてみても,はなはだ漠然としている.

 一方,医学における痛みの比重はきわめて大きいといわなくてはならない.医師の門をたたく患者の大部分は,多かれ少なかれ身体のいずれかの部分における痛みを訴えているわけである.

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〈質問〉

 切除残胃の内視鏡検査,特に胃カメラ検査上の注意事項を東大丹羽先生におうかがいします.

編集後記 城所 仂
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 ついこの間日本医学会総会が終わったと思ったらもう夏を迎える.おまけに今年はずいぶん早くから猛暑が訪ずれ水不足の声も聞かれるようである.

 本号では胃切除後の種々の問題がとりあげられている.近年早期胃癌などの手術症例が増して,全く自覚症状のない患者に広汎な胃切除を行なう機会が増加している.また胃,十二指腸潰瘍の手術も極めて安全な手術となり,むしろ特に大きな手術とは老えられないような時勢になっている.こういう時に胃切除後の種々の問題を改めて認識することは有意義なことと思う.今年の春の総会でも胃切除後の問題がとりあげられており,この問題は今後その重要性が増してくるものと思う.胃切除後のダンピング,血清肝炎,術後消化性潰瘍,癌の再発,術後胃炎等多くの問題が含まれているが,これらは大いに検討されその対策も研究されなければならない.

基本情報

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胃と腸
2巻7号 (1967年7月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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