胃と腸 2巻5号 (1967年5月)

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はじめに

 早期胃癌の診断についての諸論文,著書も,いちおう出つくした感がある.現在では,診断上特殊にみえたもの,切除標本の肉眼所見や組織所見からみてまれな種類のもの,それに,いまは微細なもの,などがちくいち取り上げられ,症例のつみ重ねが行なわれている現状である.鑑別診断というのは,診断を論ずるとき,欠かせない事項である.ところが,鑑別診断を論ずる場合,診断法,診断能からみて,それは妥当であるという諸学者の保証がいる.でないと独りよがりになってしまう.また,癌でなかったものを手術したのだから,何度も反省を重ねて,これは許されることであるか,どうかという問題もかかえていることになる.こんなことから,鑑別診断という独立した表題で取扱われるのが遅れたわけである.

 鑑別に困った症例を並べてみたところで,個人や小人数のグループの行なった範囲の仕事では,妥当性を欠き,また,有益な例がもれることにもなる.有益な症例は,今までに私のみせていただいた範囲のものでも,全国に沢山ある.そこで,われわれは,ここに鑑別診断の綜説をかくという気持ちではなくて,現時点での鑑別上問題になっている点をとり上げ,いろいろな意見を参考にし,自分らの症例をおみせして,これで足りないところを,今後,皆さんに,どしどし症例を追加していただこう,そして,より適確な診断の道を歩もうというわけである.

 内容の大筋を次のようにした.

 1.既発表のわれわれの論文のなかで,鑑別診断にかんするところをまとめ,それにその後の成績をつけ加える.鑑別診断にかんしては,胃隆起性病変で山田ほか,ポリープでは田中ほか,古沢ほか,粘膜下腫瘍では古沢ほかの立派な論文がある.敬意を表する次第である.

 2.われわれの意図を了解して下さり,情報を提供して下さった方々の成績をも合せて,合同鑑別診断成績図表を作ってみる.鑑別診断の話を,より普遍化できることになろう.合同成績の基礎データーは後に掲げる.

 3.われわれの症例について,X線診断と内視鏡診断との対比を,いちおう行なってみる.X線診断と内視鏡診断は,みんな併用してやっているから.

 4.X線診断で鑑別に困った症例のX線像を,あとに掲げる.これも,ATLAS OF X-RAY DIAGNOSIS OF EARLY GASTRIC CANCER1966に掲げたものを除き,他の症例に限る.

 微細病変についての鑑別診断は,今回は省略する.

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Ⅰ.はじめに

 早期胃癌は,ここ3〜4年来,急激に発見されているが,なお,それには,一定の限界があり,これを飛躍的にのりこえるには,種々の問題が立ちふさがっている.直視下生検および細胞診など診断器具の開発普及は,より微少な早期胃癌の発見を容易にはしたが,まだまだ反省すべきことが多く残されている.一方,内視鏡的観察の進歩が従来,良性疾患として見逃がして来た多くの早期胃癌を発見しだして来たわけであるが,反対に良性疾患で手術された例もすくなくない.そこで,良性疾患として,手術され,病理学的検索により早期胃癌と判明した症例や,早期胃癌と診断され手術の結果,癌ではなかった症例など,いわゆる誤診例を二つの面から反省検討することは,今後の診断学向上のための必須の課題であり,この特集の意義もここにあると思う.そこで著者らは,早期胃癌の内視鏡的鑑別診断を誤診例を中心に,過去4年間のがんセンター手術例を対象として考えてゆきたいと思う.なお,ここで特に次のことをおことわりしておく.

 1)内視鏡の診断は,すべて術前の最終レポートによった.なお前回4)の報告は修正診断に基づいているため今回の報告とは若干くい違っている.

 2)正診は確診および疑診を指している.

 3)深達度誤診,例えば,早期胃癌と思ったら,進行癌だったというような場合,あるいは,その逆の場合などは,今回は数値をあげるにとどめた.

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 近年,胃疾患診断学の進歩によって,元来病理組織学的に診断されるべき早期胃癌が,術前,臨床診断の段階で,かなり的確に診断されるようになった.その結果,早期胃癌の症例が,次々に発見される一方,術前に早期胃癌を疑われて胃切除が行われる良性病変も,当然増加してきている.

 早期胃癌の内視鏡的診断基準については,多くの論文があるので,ここでは,早期胃癌を疑わせる内視鏡所見を呈し,組織学的には良性病変であったわれわれの経験症例を中心に,その内視鏡上の鑑別診断について検討してみたい.

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Ⅰ.はじめに

 X線,内視鏡検査による胃癌診断技術の最近の進歩は,早期胃癌の診断を現実のものとし,その量と質において諸外国でも例をみないほどに発展してきた.

 しかしながら定型的な早期胃癌はX線および内視鏡による診断で充分であっても,非定型的な,あるいはより早期の,より微細な胃癌の診断には限界があることが次第に明らかとなってきた.ここに手技が比較的簡単で,より適確な診断法の出現が切望されるようになった.

 剥離した細胞の形態より癌を診断する細胞診はprehistologicalな方法とは言うものの,他領域でのすぐれた成績から胃癌診断に対しても有力な手段として期待されていた.しかし,古くはPollard1)が指摘したごとく,癌としての諸特徴を明瞭に示す新鮮な細胞を採取するのに,胃はもっとも不適当な条件を備えているところから,幾多の改良,進歩にもかかわらず,臨床的に充分満足しうる段階にまで達し得なかった.

 胃内を洗滌して癌細胞を採取する胃洗滌法を始め,癌細胞を擦過採取するAbrasiveBalloon法,内視鏡を用いての直視下擦過法などが臨床的に広く使用されてきたが,胃癌診断が進行胃癌から早期胃癌とその焦点が移り,X線,内視鏡もこれに対応して進歩発展したのに比し,細胞診はこの方面でやや出遅れの感があった.しかるに,1964年,私どもはHirschowitzのファイバースコープに鼻管カテーテルを装着して胃内を観察しながら目的の病巣部を選択的に強力に洗滌するファイバースコープによる直視下洗滌細胞診のアイデアと装置を初めて報告した2)3).その後に各種の細胞診用のファイバースコープが開発され,これらを用いさらに優秀な成績が報告された4〜8).今日,本法によって初めて細胞診がX線,内視鏡,生検と比肩して早期胃癌診断の四大武器の一つとなったと言っても過言ではなく,さらに本法開発により一般の細胞診への関心が急激に高まってきたことも否定できない.

 直視下洗滌細胞診は細胞剥離力が極めて強力で命中すれば当然細胞は脱落することを前提として考案開発された.したがって胃細胞採取法としては極めて優れているが,その後の鏡検を含めての操作は従来の細胞診となんら異なるところがない.私どもも最近症例の増加に伴って偽陰性例,偽陽性例も2,3経験した.今これらの誤診例を検討して,その原因を追求することこそ本細胞診法をさらに発展させる上にもっとも肝要であると思う.したがって本稿においては偽陽性例の検討が主眼ではあるが,比較関連において偽陰性例も含め一括し,誤診例として検討する.なお私どもは疑陽性を癌の場合は陰性,非癌の場合は陽性成直視洗滌細胞診の診断例は第1表のごとくであるがそのうち偽陰性および偽陰性各1例について詳述する.

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Ⅰ.緒言

 直視下胃生検を主目的とした生検専用のファイバーガストロスコープ(Fibergastroscope,以下FGS)が欧米にさきがけてわが国でつくられてからまだ3年にしかならない.

 初期の生検用FGSはかなり難点をもっていたにもかかわらず,内視鏡のエキスパート.病理学者等の暖かい目で育てられ,直視下胃生検法はたいへん順調な発育をとげてきた.

展望

慢性膵炎 山形 敞一 , 建部 高明
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Ⅰ.はじめに

 現在,各種臓器疾患において,慢性炎症という概念はいろいろな面で再検討すべき諸問題を含んでいるように思われる.慢性膵炎においても,いかなる病理組織学的な変化を本症とするかという定義の問題,またはこれに関連する病因や病型分類,さらには形態学的変化と臨床像との結びつきなどについては,なお不明な点が多い.とくに,わが国においては,これまで形態学的な裏づけの少ない臨床像や膵以外の臓器疾患に対する除外診断などによって選択した症例に基づいて,本症の概念を形づくっていた傾向は否定できない.このような現状において,まず本症を病理組織学的に観察し,次いでその形態学的な所見と臨床像との関連性を追及することによって,わが国における慢性膵炎を再検討することは,有意義であると考えられる.

 慢性膵炎を考える場合,われわれの診断基準をのべると,次のようである.すなわち,

 (1)組織学的に明らかな膵線維化(pancreatic fibrosis)を認めたもの.

 (2)X線検査で膵の石灰化像および腫瘤形成を認めたもの.

 (3)主として膵液検査法(secretin test)で明らかな膵外分泌機能障害を認めたもの.

 (4)このような膵の形態学的変化および機能異常が他の上腹部疾患に随伴するものでなく,膵に原発したものと考えられるものである.

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常岡 きょうは皆さんお忙しいところをお寒い中おいで下さいまして,ありがとうございます.

 特にきょうおいで願った方は,長年内視鏡検査をやっておられて,きょうの問題にも,いろいろ有益なご意見,あるいはお考えをいただける方々ばかりだと思います.よろしくお願いしたいと思います.

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 胃のX線診断においては,後壁病変に比較して前壁病変の場合,診断しにくいことは周知の事実である.それ故,如何にして前壁の診断をするか種々工夫を重ね,努力を続けて,現在までに幾多の発表がなされている.

 われわれも,前壁に病変がある症例を数多く持っているが,ここに報告する症例は比較的きれいにX線で描写され,後壁病変と同じ程度に鮮明な像を得ることができた.以下,X線像を検討し,切除標本と比較してみる.

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Ⅰ.はじめに

 近年食道外科の進歩につれ,手術死亡率の低下とともに,食道癌でも早期発見の努力がなされてきている.われわれは,昨年春の内視鏡学会総会で,いわゆる早期食道癌の一治験例を報告したがその後,全国で3〜4例の報告をみ,このたびさらに1例経験したので,ここに紹介,若干の検討を加えてみた.現在まだ,胃における早期癌のようにはっきりした定義や分類のきまっていない食道癌のこととて,ここでわれわれの考えた胃早期癌と癌浸潤が粘膜下層までで,淋巴節転移のないものという定義がはたして適用されるかどうか分らないが,ともかくこれにあてはまった症例として報告する.なお,本例は41年11月の早期胃癌研究会で報告した.

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Ⅰ.症例

患者:51歳,男子,公務員

家族歴:両親が脳出血で死亡している.

既往歴:昭和33年胃潰瘍の診断を受けているほか特別のものはない.

現病歴:上記した胃潰瘍といわれた頃から,空腹時胃心窩部痛があり,内服薬の投与を受けていた.昭和40年12月に胃集団検診を受け,間接胃X線上,前庭部大彎側の彎入,胃角部の辺縁の不整と同部に向う粘膜集中像と思われる所見(第1図)から胃潰瘍の疑いとして引続き胃カメラ検査を受け,胃角部,後壁の潰瘍を認め,悪性化を否定できないとして,さらに胃ファイバースコープによりⅡc+Ⅲ型の早期癌と診断され,同時に行なった細胞診でも,癌細胞陽性と判定されて入院をすすめられた.当時,胸やけ,曖気,悪心,嘔吐,下痢などはなく,食欲も良好で便通も正常であった.

 入院時現症:栄養良,脈拍整,緊張良で撓骨動脈壁硬化,眼瞼結膜には貧血および黄疸はない.頸部リンパ腺およびウイルヒョウ腺を触知しない.胸部および腹部は理学的に異常がみとめられない.下肢に浮腫なく,膝蓋腱反射は正常で,運動および知覚障害もみとめられない.

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はじめに

 胃癌の診断,ことに早期胃癌の診断にはレ線検査,内視鏡検査に加えて直視下胃生検および細胞診は欠くことのできない診断方法となっている1)2)3)4).この中レ線検査,内視鏡検査はいつれも厳密には推定診断であって,最終的にはやはり病理組織診断によらねばならない.この意味で直視下胃生検ならびに細胞診は高く評価されねばならないが,その診断能には種々の制約を免れ得ない.即ち生検および細胞診によってより良い診断成績をあげるためには,まず第一に病巣から確実に生検材料あるいは細胞を採取しなければならない1)2)7).第二に採取された組織ないし細胞について,正確な診断を下すことである.

 第一の問題については,最近内視鏡検査法の発達により漸次解決されつつあるが,第二の良性,悪性の鑑別にはなお多くの問題が残されている.

 切除標本での癌の診断は(太田5))①破壊浸潤,転移,②組織異型,③細胞異型の組織学的基準よりみて大方可能であるが,早期胃癌,ことに①の破壊浸潤,転移の所見に乏しい生検材料についての良性,悪性の鑑別は困難な場合が少なくない6).また細胞形態学的異型度を以ってする細胞診においても限界があり,PapanicolaouⅢ度に良性,悪性の鑑別上の問題がある.

 一方,酵素組織化学的方法の開発とともに癌の代謝面からの解明がなされ,未だ癌細胞に特異的な現象を捉えるには至っていないが,その組織化学的性状が逐次明らかにされつつある.従ってこのような観点から癌の診断についても,病理形態学的検索と同時に組織化学的面からの追求も試みられるべき方法であろう.

 私どもは胃生検材料,ことに胃癌のそれについて酵素化学的検査を行ない,鑑別診断上の意義について検討しているが,その中でphosphorylase反応は癌細胞診断にある場合には著明に役立つと言う(武内)ことから,それを中心にこの問題にふれてみたい.

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編集後記 芦沢 真六
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 今でこそ多くの人がレ線或は内視鏡で早期癌はどのように表現されるかを知っており,定型的のものは術前に敢てその診断を下し,ほとんど誤ることがない.最近の外国からの便りによると,日本では切除して病理標本も見ないうちに早期癌だという診断を下すことが不思議でならないらしい.きっとひそかに生検をやりそれをかくしているに違いないということである.ものまねでないほんものが日本で静かに深く進んでいたことを御存知なかったからという他はない.しかし安心は禁物である.われわれはときどき過去を振り返り,失敗は失敗として率直に認め,その失敗は二度と繰り返すまいという覚悟を持って,もっとはるか先に目標を置かねばならない.この意味で本号では特に各方面の大家に早期胃癌と誤り易い病変を中心として,現時点での振り返っての鑑別の要点を述べて頂くことにした.その内容を充分自分のものとされるばかりでなく,著者等の診断向上の為の今迄の苦労も分って頂きたい.

 また,座談会のテーマも同じような意味を持っており,検査に際しては1例1例を大切に取り扱うことが必要のことが教えられると思う.

基本情報

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胃と腸
2巻5号 (1967年5月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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