胃と腸 16巻8号 (1981年8月)

今月の主題 症例・研究特集

症例

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 胃前庭部前壁にⅡb様の早期癌と,それに接して多発密集するpolypoidの早期癌の症例を経験したので報告する.

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 胃癌の発育経過の経時的観察は疾患の性質上,特殊な場合を除いてretrospective studyによるか,多数例の組み合わせによる推測によるなど,不完全な資料によらざるを得ない.今回,早期の状態で発見された胃癌が患者の健康状態より手術を行わず,6年8カ月にわたりその経過を観察することができ,その間にこのような経過観察でなくては知ることのできない興味ある病像の変化が認められたので,その症例について報告する.

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 本症例は広範囲隆起性早期胃癌で,内視鏡および病理組織学的に多彩な様相を呈した症例として既に報告1)したのであるが,術後に断端部遺残が認められていた.その経過観察中に遺残癌による症状が出現し,7年目に残胃を全摘したところ,初回の摘出胃標本と同じような早期癌の状態であったという興味ある経過をたどったので,その詳細を報告する.

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 胃に発生するglomus腫瘍は極めてまれなものとされている.Kay(1951)1)が第1例を発表して以来,外国文献では40症例に満たない.本邦でも,庄司2)が1962年第1例を発表しているが,以後22例が報告されているにすぎない2)~6).われわれは最近,大量の吐下血を伴った胃のglomus腫瘍を経験し,電顕による検索も行ったので,本邦既報告例について文献的考察を加え,報告する.

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 胆管癌症例に対する診断法の進歩は著しいものがある.しかし,術前に病理組織学的診断,およびその腫瘍の浸潤範囲を知ることは困難であることが多い.われわれは,胆管癌の診断をより確実に行うために二村ら1)の報告したごとく,1975年以来,経皮経肝胆道生検(PTCB)を行い,更に1977年以来,経皮経肝胆道鏡検査(PTCS)を行ってきた.また1979年より,経皮経肝胆道鏡直視下生検に成功した2).このたび同検査により,左肝管にまで広範囲に浸潤した総胆管癌を術前に診断した1症例を経験したので報告する.

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 本邦における小腸脂肪腫の報告は近年増加しているが,腸重積,腸閉塞など急性腹症として開腹される例が多く,その術前診断は容易でない.最近,われわれは術前にX線・内視鏡検査を施行しえたが,その巨大で特異な形態のために術前診断が困難であった空腸脂肪腫の1例を経験したので報告する.

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 腸結核は,近年抗結核剤の発達に伴い,その頻度は減少してきているが,本邦では決してまれな疾患でなく,しばしば経験されている.なかでも,孤在性腸結核の占める比率は最近増大する傾向にある.特に本邦においては,散見されるクローン病との鑑別が,大きな問題となってきている.

 今回,われわれは明らかな潰瘍形成や潰瘍瘢痕を認めない,興味ある肉眼病理所見を呈した回盲部腸結核の1例を経験したので報告する.

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 家族性大腸ポリポージス(Familial polyposis coli,以下FPCと略す)に合併する胃病変について,本邦では1974年以来詳細に研究され,その特徴像についてかなり明らかになってきた.われわれはFPCに特徴的な胃病変を有する症例を発端として,同胞3症例にFPCを認めたので報告する.

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 偽膜性腸炎は,腸管上皮の急性壊死,および白血球,fibrin,壊死産物などから成る偽膜形成性の非特異的な炎症である.本症は19世紀末ごろ,最初に報告1)2)されて以来,消化管手術後にみられる術後合併症と考えられていた.その後1950年ごろより手術に関係なく,抗生剤投与後に発症することが知られ,にわかに注目を浴びるようになった.特に欧米を中心に,lincomycinおよびclindamycinが誘因と考えられる偽膜性大腸炎の発生は,既に多数報告されている3)~5).わが国でも抗生剤の多用により,その発生は比較的まれではなくなってきた.最近われわれは,amoxicillin(AM-PC)による偽膜性大腸炎の1例を経験したので,その概要について報告する.

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 大腸結核は,わが国において,クローン病をはじめとする炎症性腸疾患への関心が高まるにつれて,最近再び注目を集めるようになった,しかし,現在われわれの目に触れる大腸結核は,ほとんどが治癒傾向にあるものか瘢痕化したものであり,活動性の病変に遭遇することは少ない,白壁1)2)をはじめとする最近の腸結核の診断理論が,“瘢痕の診断を起点とする微細診断”であることが,それを象徴している.

 しかし,果たして本当に,われわれの周辺から活動期の腸結核が姿を消したのであろうか?

 ここに呈示する症例は,大腸に潰瘍を生じる疾患の鑑別診断が要求され,X線や内視鏡検査では,共に結核以外の病変であると診断された.病理学的には乾酪性肉芽腫を伴う活動性の腸結核であったが,幾つかの特異な所見が認められ,腸結核の成り立ちを推測するうえで示唆に富む症例と考えれる.

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 消化管内視鏡器機の進歩とその使用技術の向上,更には安全でコンパクトな高周波発生装置の開発などによって,消化管ポリープの内視鏡的摘除法は長足の進歩を遂げた.われわれも1975年から1979年末までに168例,合計244個の大腸ポリープを内視鏡的に摘除し,ポリープの完全生検診断と治療に努めてきた.

 最近,比較的まれな大腸脂肪腫を内視鏡的ポリペクトミーで,幸運にも偶発症を惹起することなく摘除し,治癒せしめた症例を経験した.大腸脂肪腫の内視鏡的ポリペクトミーを行うにあたっては,常に安全に行えるとは限らず,適応に問題があって,その報告例は極めて少なく,調べえた範囲では本症例も含めて6例7個であった.これらの症例をもとに,大腸脂肪腫の内視鏡的診断や内視鏡的ポリペクトミーの適応などについて考察を加え報告する.

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 SLEは多彩な症状を呈する自己免疫疾患であるが,なかでもSLEと消化器症状との関係について,1895年Oslerが初めて報告し1),その後,Duboisらは520例のSLE症例中の約半数に悪心・嘔吐・腹痛などの消化器症状があったとしている2)

 これら消化器症状の発生に,腸管膜血管の様々な程度の血管炎が密接に関与しており,膵炎,大量下血,消化管穿孔などの重篤な合併例の報告も散見される3)~6)

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 膠原病の際に種々の消化器病変をみることは周知のとおりであり,systemic lupus erythematosus(SLE)においても腹部症状の頻度は高い.しかし,これらは比較的軽症あるいは可逆的なものが多いこともあり,その病理学的変化に関する記載は少ない.著者らは,SLEの治療経過中に持続性の著明な腹部症状を呈して死亡し,剖検により消化管全域にわたる顕著な浮腫を主体とする病変を認めた症例を経験したので,その病理所見に病変発生機序についての若干の考察を加えて報告する.

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 腸間膜脂肪織に選択的に発生する腸間膜脂肪織炎 mesenteric panniculitis はまれな疾患で,病因,診断法,治療法ともいまだ確立されていない.最近著者らは,下行結腸に沿う後腹膜脂肪織とS状結腸間膜にみられた本症の1例を経験したので報告する.

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 直腸および肛門管の良性リンパ濾胞性ポリープは正常のリンパ濾胞に由来する限局性の増殖,すなわちlymphoid hyperplasiaであり,大腸・肛門の腫瘍および腫瘍様病変の病理組織学的分類では非上皮性の腫瘍性病変に属する疾患である.別名rectal tonsil,benign lymphoma,lymphoid polyp,lymphoadenoma,benign giant follicular lymphomaとも呼ばれ,1890年Shattockにより初めて記載された.まれな疾患で臨床診断はしばしば困難であり,また組織像はときにはリンパ肉腫,giant follicular lymphomaと誤ることがある.

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 従来,消化性潰瘍の穿孔は外科的救急疾患とされ,これまでの報告のほとんどが,本症の手術適応を中心に論じられてきた6)8)10)~12)15)16).近年,包括医療やprimary health careなどを基本とした救急医療体制が検討されるなかで,救急疾患に対する臨床各科の総合的な取り組みや緊密な連携が一層重視されている.このような視点に立ち,本稿では消化管穿孔のうち,最も高頻度を占める穿孔性十二指腸潰瘍について6)8)11),内科側からみた重要なポイントである本症の頻度や術前診断に関して若干の考察を述べる.

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 ひと月ほど前,コペンハーゲンのヨハンセン博士(Dr. Aage Johansen)から私の手許に1冊の本が送られてきた,その包み紙を解き,表紙を見,内容を一瞥した時,私は今までにあまり経験したことのないやや複雑な感情-今時の若者がよく言う“ヤッター”という気持と,その裏返しである“出し抜かれたー”という感慨-を覚えた.A5判300ページほどの小じんまりした本ではあるが,その濃紺薄手の表紙には白字で「Early Gastric Cancer」とあり,その下には副題としてやや小さな字で「A contribution to the pathology and to gastric cancer histogenesis」と書かれている,昨今流行の分担執筆やシンポジウムの記録ではなく,彼自身の書き下したものだ.早速目次とともにヘージを繰ってみると,彼自身のデータを示す図表やシェーマが散見されるが,それ以外はタイプ打ちの記載で埋められており,巻末には数ページにわたる引用文献とともに,鮮明なマクロ,ミクロのモノクローム写真も載せられており,この本に対する彼の並々ならぬ情熱が一見してうかがわれる.

Coffee Break

デブの肝障害
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 かなりのデブの人についての話である.肥満のためにintestinal bypass手術を施すほどの人で(酒飲みではない)肝生検所見を比較したら,次のような表(S.M.Nasrallah)ができたという.

 このパターンは酒飲みのそれととてもよく似ている.これらの所見の中で体重との関係が深かったのはsteatosisとfibrosisであった.steatosisを呈したのは127±28kgの人たちで,fibrosisに至っていたのは151±48kgの人たちであった.血清アルブミン値と肝生検所見とは特に相関は見出せなかった.

Hirschsprung病の治療
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 Hirschsprung病の多くは幼児期に発見され,治療される.しかし,症状が軽度のために,10歳を過ぎてから医師を訪れる例も決して少なくない.

 この病気ではaganglionosisの部位は,多くはS状・直腸のあたりであるが,全結腸がそういう状態になっていることもある.Swensonによれば,Hirschsprung病の約1%は全結腸のaganglionosisであり,死亡率が高い状態であるという.普通,このaganglionosisの部分が便通過に対してうまく反応して開かないので,該部の口側大腸が拡張して巨大結腸を呈するに至るということになっている.

潰瘍性大腸炎とホスホライペースA
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 直腸粘膜を器官培養して実験しても,これがプロスタグランディンE2を合成していることがわかる.これに炎症がある場合には,炎症のない場合よりもずっとたくさんのプロスタグランディンE2を合成する.

 プレドニソロンを与えるとこの合成は阻害される.プロスタグランディンE 2は直腸で合成される主なプロスタグランディンである.サラゾピリンでこの合成は抑制される.

HBs抗原は内視鏡で伝染するか
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 1971年のLancetに,AkdamarらはB型肝炎患者の胆汁中にHBs抗原が見付かったと報告している.同年同誌に同じく,パンクレオザイミン刺激後の十二指腸液にHBs抗原を見付けたというSerpeauらの報告も出されていた.ただし,刺激なしでの基礎分泌液中には見付からないのだという.同様なことをAlpらもGutに報告した.

 RennerらはERCPで採取した膵液中にHBs抗原を見付けた.

膵にたまる発癌物質
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 消化管の癌は発癌化学物質の投与によって実験的に作ることができるようになったので,発癌因子として化学物質が重視されている.それでは膵の癌は何でできるのであろうか.

 膵癌死亡率は年々増加しており,早期診断も極めて困難である.ERCPもCTも超音波もCEAも,いずれも早期診断の手段としてはあまりにも頼りない有様である.勿論,治療法も進行した癌に対して極めて非力であることは周知のとおりである.

前拡による胃酸分泌
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 お手元の内科学か消化器病学の教科書をお開きください.幽門前庭部の拡張刺激はガストリン放出を促し,胃酸分泌を促進すると記述されているものはないでしょうか.

 実は,このことは遍く承認されていることではないらしい.

学会印象記

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 本年5月24日から30日の1週間,西ドイツの避暑地Titiseeにおいて,Falk Symposia 30-32,lntestinal Weekが開催された.本誌第8巻11号1519ページ(1973年)および第10巻3号391ページ(1975年)に掲載された私の論文を講演するよう招待を受けた.その学会の印象を紹介する.

 Symposiaは3つのテーマに分けて行われ,世界32力国から約350名のenterologistが参加して,1週間にわたり朝8時から夕方7時まで続けられた.Oral presentation約60題,poster session約30題と演題数は制限され,1つ1つの演題に十分な時間が割かれた.

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欧文目次

第6回「胃と腸」賞贈呈式開催さる
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 第6回「胃と腸賞の贈犠式が6月17日(水),早期胃癌研究会例会会場(エーザで本社5階ホール)で開かれました.

 今回は,筑波大学撫礎医学系病理中村恭・氏ほか8氏の次の論娼こ贈られました.

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 Ischemic Colitis in Young Adult Patients: P.A.Barcewicz, J.P.Welch (Dis.Colon&Rectum 23: 109~114, 1980)

 一般に阻血性大腸炎は高年者の病気と考えられてきた.文献によれば,若年者にも起こると言われている.過去9年間に26例の阻血性大腸炎を経験したが,うち10例(38%)は50歳以下で,9人は女性であった.このうち高血圧,動脈硬化などの疾病を認めた例は1例もなかった.4人(女性患者9人中の44%)は発症時に,女性ホルモン製剤を内服していた.2人は入院前3年間および7年間エストロゲンを含む経口避妊薬を内服していた.他に2人卵巣摘出後2年間および10年間Premarinを内服していた.

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Natural history of “early” gastric cancer: results of a 10-year region alsurvey: J.W.L.Fielding, D.J.Ellis, B.G.Jones et al(British Medical Journal 281: 965~1967, 1980)

 1960年から1969年までの10年間に,バーミンガムの癌登録にのった胃癌13,228例中の90例(0.7%)に早期胃癌が認められた.その肉眼型は,日本の早期胃癌分類のI型18例,Ⅱ型16例,Ⅲ型42例で,分類不能が14例あった.m癌が34例,sm癌は56例であった.

 “早期”という語句は,carcinomain-situをほのめかすので適当ではない.この中には,実際にinvasiveの癌があり,リンパ節転移も,m癌で8.8%,sm癌で17.4%と報告され,これは予後に影響してくる.したがって,このシリーズでは,リンパ節転移例は除外した.頻度の0.7%は,目本での1945~50年ごろの1%に相当する.早期胃癌の性比・年齢は一般の胃癌と同じだが,予後はずっとよい.全胃癌の5生率は3.7%,根治例でも14.6%であるのに対し,早期癌では57.8%であった.症状は,上腹部痛が最も多く,次いで体重減少であった.

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 Preoperative Irradiation in Carcinoma of the Pancreas: M.V.Pilepich, H.H.Miller(Cancer 46: 1945~1949,1980)

 最近の文献で,膵癌の5生率は0.4%と報告されている.治療法としては,やはり外科的切除に頼らざるえお得ないが,それだけでは予後は向上しそうにない.そこで術前照射が切除率を改善するかどうか.あるいは術後の再発を減少させるかどうかが本論文の目的である.17例の膵の腺癌が術前照射の対象となった.いずれも内科的検討では手術可能とされ,開腹術を施行したところ,11例は全く手術不能とされ,他も切除が難しいとの理由で,15例に吻合術が施行されたにすぎなかった.その後コバルト60またはベータトロンで,1日200ラッズで4,000~5,000ラッズが照射され,5~8週後に再び切除を試みた.再検査の結果11例が第2回目の開腹術を受け,6例で切除可能であった.うち5例では根治切除ができた.いずれも頭部癌だった.腫瘍は著しく退縮し,1例では顕微鏡下でわずかの癌遺存があったにすぎなかった.予後は,切除できなかった例では,13ヵ月以上の生存者はなく,切除例中2例は5生例である.

編集後記 青山 大三
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 本号は症例集であるので,臓器,疾患ともに統一がなく,後記としては1つの方向性がないので一言では述べにくい.

 全部に共通して言えることは,著者らの汗の結晶,経験の深さ,まとめに至る深慮などがありありとみえ,深い敬意を表したい.胃については複雑なものが取り上げられており,診断では目暮れて道遠しの感を平素から胸中に抱いている者からすれば当然のことかもしれない.

基本情報

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胃と腸
16巻8号 (1981年8月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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