胃と腸 16巻9号 (1981年9月)

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 原発性小腸腫瘍は,比較的まれな疾患とされ,散発的な報告や,癌,あるいは平滑筋肉腫などについての集計はみられるが,小腸腫瘍全体についての本邦集計はほとんどみられない.

 そこで本邦における原発性小腸腫瘍の現況を把握する一端として学会,論文にて報告された症例の集計を行ったが,今回はまず原発性小腸悪性腫瘍についてのみ集計し欧米報告例との簡単な比較を試みた.

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 小腸腫瘍は発生頻度が低く,全消化管腫瘍の3~6%を占める.しかも,その60~70%は良性腫瘍で占めている.このような理由に加え,腸管は長く,複雑に走行し,管腔は狭いなどの理由で,臨床検査法が胃におけるほど十分に進歩していなかったと言えよう.

 近年,腸の炎症性疾患がわが国で注目されるようになってきた.このうち,腸結核やクローン病などは小腸に好発する病変である.これらの疾患を発見しようとする努力が一般的に払われるようになり,臨床検査の方法や技術および検査所見の読み方も一段と飛躍してきた.

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 小腸腫瘍は,胃や大腸の腫瘍に比べて極めてまれな疾患であり,しかも特有の症状が乏しいため,消化管の診断技術が進歩した現在でも,その見つけ出しの方法は,いまだに確立されたものがない.特に小腸悪性腫瘍の大部分は,進行した状態で発見され,そのため予後も悪い.

 われわれが経験した24例の小腸腫瘍も,大部分が進行したものであったが,その病歴や臨床症状を詳しく検討してみると,既に様々の愁訴を持って医師を訪れており,何らかの対症療法的な治療を受けていたものが多い.これらは,われわれの施設でも診断に手間どり,なかには,急性腹症として手術を受けたのち,初めて診断が確定したものもある.

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 十二指腸を除く空・回腸腫瘍(以下小腸腫瘍)は,発生頻度が胃や大腸の腫瘍に比べ極端に低い1)~9)うえに,早期には臨床症状や理学的所見に乏しく,またその解剖学的特殊性のために診断方法にも決定的な手段を欠くなど,その臨床診断は病期が進行するまで困難なことが多い4)~7).そのうえ症状が出現した時点では腸管の閉塞や大量出血などのため満足なバリウム造影によるX線検査が施行できないこともしばしばである1)3)4)8)

 以上の理由により小腸腫瘍の臨床診断は,バリウム造影によるX線検査が最も有力1)4)とされながらも,その性状診断に関しては極めて悲観的な報告が多い1)2)4)5)8)~12)

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 小腸の腫瘍は,良悪性を問わず発生頻度は高くない.しかもその臨床症状は腹痛,腹部膨満感,悪心,嘔吐,貧血,腫瘤触知などと多彩ではあるものの,早期診断の糸口となる特徴的な症状は乏しく,大量の消化管出血やイレウスなどの重篤な症状に陥って,緊急手術や試験開腹術が行われることもまれではない.過去の文献を渉猟しても,小腸腫瘍に対する内視鏡診断に関する報告例は少ない.

 本誌でも過去に3回にわたって,小腸疾患に関する特集が企画された.特に小腸の内視鏡検査法も一応軌道に乗った1976年の企画(第11巻2号:“小腸疾患の現況”)より5年の歳月がたったが,果たして最近の5年間で小腸疾患,殊に腫瘍に対する内視鏡検査法はどの程度の進歩を遂げたものか,興味は尽きない.本稿では小腸腫瘍に対する小腸内視鏡検査法の歴史的背景についても触れながら,併せて今後の問題点についても述べてみたい.なお,本稿における“内視鏡診断の現況”は上記著者らが症例を持ち寄り,討論を加えたものであり,殊に鑑別診断学的な立場からの解析を試みたものである.

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 小腸良性腫瘍には,ポリープ,ポリポージス,筋腫,脂肪腫,血管腫などがあるが,臨床的にはPeutz-Jeghers症候群にみられる大小種々のポリポージスや大きい筋腫などが問題になる.今回は小腸腫瘍の諸検査法の意義がテーマであるので,癌,平滑筋肉腫,リンパ系肉腫などの悪性腫瘍に的を絞って検討してみた.

 小腸原発性悪性腫瘍は,他の消化管腫瘍に比し発生頻度の低いことや症状が比較的多彩でかつ非特異的であること,および小腸の解剖学的特異性により検索が困難であることなどの理由で,術前診断が困難とされて開腹時あるいは剖検にて初めて確認されることも少なくなかった.従来は消化管X線検査が唯一の診断法とされてきたが,最近は内視鏡および血管造影が有力な検査法として導入され,それにより術前に確定診断された報告例も増加してきた.しかし,早期の確定診断は依然として非常に困難で予後不良な疾患の1つに数えられている.今回われわれは過去5年間に経験した小腸悪性腫瘍10例を臨床的に検討した成績を中心に,各種診断法の有用性につき検討し,文献的にも考察を加えてみた.

主題症例

隆起性空腸癌の1例 石川 晃 , 麻生 宰
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 小腸,殊に空・回腸の癌は比較的まれな疾患であり,診断は困難な場合が多い.最近われわれは原因不明の貧血で6カ月間保存的療法を行った患者で小腸X線検査で空腸に隆起性の癌を認めた1例を経験したので報告する.

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 小腸は全消化管の90%以上の面積を占めるとされている割に,ここから発生する悪性腫瘍は極めて少ない.その理由として,内容停滞時間の短い点,細菌の少ない点,アルカリ性である点,粘膜の細胞増殖の速やかな点,ミクロゾームエンザイムによる発癌剤解毒作用の点,局所の免疫学的な点などが挙げられている.今回われわれは空腸癌の1例を経験したので報告する.

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 消化管悪性腫瘍のうち悪性リンパ腫は癌に次いで多いものであるが,その発生頻度は極めて低い.今回われわれは回盲部に発生した限局性の悪性リンパ腫を経験したので報告する.

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われわれは小腸疾患に興味を持っているが,最近集団検診で胃の異常をチェックされた消化器症状の全くない例に,比較的早期と思われる空腸平滑筋肉腫の1例を経験したので報告する.

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 7年前に貧血および黒色便の既往があったが,その後消化器症状は比較的無症状に経過して,腹部腫瘤を主訴として来院し,手術された空腸malignant schwannomaの1例を報告する.

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 好銀性細胞(argyrophil cells)と銀還元性細胞(銀親和性細胞 argentaffin cells)とは,通常胃の固有腺底部や小腸・大腸の陰窩底部に分布し,内分泌機能を有する.これら銀反応陽性細胞はカルチノイド腫瘍の発生母細胞と考えられ31)40)44),該細胞の存在確認はカルチノイド腫瘍の診断上重要な基準の1つとされていた.しかるに銀反応陽性細胞はカルチノイド以外の腫瘍,例えば胃癌1)13)20)29)32)33)37)43)48)51),胃腺腫19)50),大腸癌10)11)13)23)29),大腸腺腫10)23),鼻腔内腫瘍25)42)などにも出現することが知られるようになり,加えて銀反応陰性カルチノイドの存在,またごく一部に粘液産生や腺管構造を伴うカルチノイド5)6)7)21),通常の粘液産生性腺癌とカルチノイドから成る混成型カルチノイド(composite carcinoid)2)16)17)47)49),虫垂の杯細胞カルチノイド(goblet cell carcinoid)9)24)28)45)などの存在がわかってきた.これらの事実は従来のカルチノイド腫瘍の概念,発生母細胞および消化管内分泌細胞の発生学的由来に関して新たな問題を提起している.

 ところで,カルチノイド以外の腫瘍に出現する銀反応陽性細胞については,現在までのところ胃癌,胃腺腫,大腸癌などでの詳細な報告をみるが,小腸腫瘍では,その発生も少ないこともあって,わずかに空腸乳頭腫での症例報告4)をみるのみである.

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 良性疾患に対する胃切除術がなされたのち,残胃に癌が発生することがあり,これらは残胃癌または残胃初発癌などと呼称されている.このような胃癌は胃切除後の遅発病変として注意すべきであり,また,胃癌の発生を解明するうえにも非常に興味のあるところである.

 著者はラットの胃切除後に発癌剤を投与して実験的に残胃癌を発生させ,その頻度や発生部位から,残胃癌発生に関与する因子について1つの知見を得たので,現在までの成績を紹介する.

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 急性胃粘膜病変の発生の機構として,近年,胃粘膜防御機構の破綻が注目されるようになった.特に粘膜血流の障害,粘膜エネルギー代謝の破綻および粘液産生の減少などである.著者らは以前よリストレス状態下での粘膜血流障害についてXe-133および水素ガスクリアランスで測定し,報告してきた.粘膜虚血に伴う変化として粘膜エネルギー代謝の障害を考慮しなければならない.そこで実験的ならびに臨床的に粘膜エネルギー代謝,すなわちATP,ADP,AMPよりenergy chargeを求め更にsecond messengerと言われているcyclic-AMPについても併せ検討した.

 実験方法としてはラットに30%の熱傷を負荷し,対照群と経時的に比較検討した.すなわち熱傷負荷群として2,5,24および72時間群の計5群であった.熱傷後に発生する潰瘍の頻度および重症度に関しては実体顕微鏡(Olympus XTR)および内視鏡(Olympus Type ENFP)を用い検討した.ATP,ADP,AMPおよびcyclicAMP測定に際しては,胃よりの出血をできるだけ少なくするために大彎を電気メスで切開した.粘膜面を露出し,ドライアイス・アセトンにて,速凍結し,測定に供した.ATP,ADPおよびAMPの測定には紫外部吸光度測定によるend-point法を使用した.なお,吸光度波長として340nmを用いた.粘膜内cyclic-AMPも同様の操作により採取し,radioimmunoassay法により測定した.更にATPを酸化的燐酸化により産生するというミトコンドリアの形態について電子顕微鏡写真にて検討した.以上の実験成績をもとに臨床的に潰瘍患者の生検組織よりATP及び粘膜エネルギー代謝を求めた.

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 最近,潰瘍性大腸炎などの非特異性疾患が増加するに伴い,大腸全摘術を施行する機会も増えつつある.外科的手技の発達や病態生理の解明に伴う適切な術後管理によって,その成績も向上しているが,大量臓器欠損による機能障害,特に頑固な下痢症状には,なお悩まされることが多い.しかし,水分吸収能の増加などの小腸の大腸代償機能の充進によって,術後数ヵ月には下痢も軽快し,ここに小腸の大腸化が完成する.

 現在,小腸切除を行うと,残存小腸で粘膜増殖が起こるという事実は,多数の報告で確認されており,更に大腸全摘後に,小腸粘膜が増殖するという報告もある.

Coffee Break

Is Crohn Disease Caused by Microorganisms?
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 クローン病はその病変の組織像が結核と酷似している.そのために,これは感染症ではないかという疑いがいつもかけられている.1970年,Mitchellらの報告によると,クローン病の肉芽をネズミに移すことができたと言う.そして,その病原体は220nmのフィルターを通過する熱に弱いものであるという.

 追試の結果はマチマチで肯定的なものも,否定的なものもある.

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 ネズミでは,腸の膜酵素活性は生後3週ぐらいの乳離れ期にドラマチックに変化する.シュクレース,マルテース,アルカリホスファテース,などは生後20日ごろに急激に増加してオトナのレベルにまで達する.しかし,ラクテースは第2週ぐらいから段々と活性低下していって第4週にはオトナのレベルまで落ちてしまう.

 腸粘膜の二糖分解酵素やアルカリホスファテースの正常な発展パターンは副腎ホルモンによって影響を受けることがわかっている.哺乳期のネズミのシュクレース,マルテースやアルカリホスファテースはグルココルチコイドによって速やかに誘導され,副腎摘出にそれらの酵素活性はてきめんに低下する.

一冊の本

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 近年,胃粘膜防御機構の解明を目的とした胃粘膜血流量の測定あるいは虚血性大腸炎をはじめとした大腸疾患の病態生理を明らかにするために,大腸粘膜の血量測定が注目されつつある.殊に,胃粘膜血流に関しては,水素ガスクリアランス法,スペクトラム法などを用いて,各種薬剤負荷時の血流変動,急性胃病変の血流動態,水浸拘束ラットの経時的な胃粘膜血流変動は,既に各施設から報告されており,多くの検討がなされている.

 本書は,1979年にロンドンで行われたGastrointestinal Mucosal Blood Flowのシンポジウムでの発表をまとめたものであるが,このシンポジウムには,内科医,生理学者,薬理学者,解剖学者,数学者など幅広い分野から第一人者が集い,粘膜血流についてその測定方法から病態生理学的な分野に至るまで活発な討論が加えられている.

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欧文目次

編集後記 武藤 徹一郎
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 小腸腫瘍の特集号をお届けする.小腸腫瘍はその頻度の低さ,診断の困難さなどのために,従来から本気で取り組まれることがほとんどなかった.しかし,胃と大腸の間に存在する消化管中最長の臓器に,いつまでも目を閉じているわけにはいかないので,この辺で一度まとめてみようというのが本号の趣旨の1つである.最近10年間の統計からも明らかなように,かなりの症例が報告されていることがわかる.臨床症状,X線診断をはじめとする主題諸論文は,今後小腸腫瘍の早期診断を目指す際に大いに役立つことと思う.珍らしい症例も興味深く,次号が楽しみである.

 それにつけても,相変わらず九州に小腸腫瘍がよく集められているのには感心させられる.頻度が高いというよりは,症例の集積に対する熱意の現れであろう.

基本情報

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胃と腸
16巻9号 (1981年9月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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