胃と腸 14巻11号 (1979年11月)

今月の主題 急性胃病変と慢性胃潰瘍の関連をめぐって

序説

急性胃病変と慢性胃潰瘍 望月 孝規
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 胃潰瘍の成因については,いままでに数えきれないほど多くの観察が行われてきた.1940年頃までの諸説については,宮地,木下良順篇「医学の進歩」第1輯(1942)に,「胃潰瘍の成因」と綜説している.胃および十二指腸潰瘍は,その一次的或いは二次的作用についてはなお議論のあるところであるが,胃液の自己消化性作用によって形成される.しかし,剖検症例にしばしば見出されるような急性潰瘍と,深い慢性胼胝性潰瘍とは,肉眼的にも,組織学的にも形態の上で異なっており,したがってそこにいたる成り立ち方も同じではない.このような急性期の潰瘍と慢性胃潰瘍という2つの極型の問にある,種々の状態の胃潰瘍とその治癒状態(瘢痕)を整理し,検討しようという試みが,二十数年前に村上と望月によって行われた.当時は,X線や内視鏡的検査が充分でなく,直ちに外科的治療を受けた症例が多く,現在の実態とは異なるが,それだけにより多くの種々の状態の胃潰瘍を観察することが出来た.この仕事の間に,Buchnerの指摘したごとき急性消化性壊死性糜爛が再確認され,また潰瘍底の層状構造の出来上り方の過程がより明らかにされたが,また,潰瘍の深さによる型分類と,発生部位や頻度についての考え方も提示された.Ul-Ⅰ,Ⅱ,Ⅲ,Ⅳ分類のはじまりであった.

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 急性胃病変の概念はまだ定義も統一されているわけではないが,Katzら1),Sunら2)の提唱とか,わが国では川井ら3)がおもに狙っている点を憶測すれば,やはり急性胃炎,急性胃びらん,急性胃潰瘍が中心になる.

 一方,古くから記載されている慢性胃潰瘍は概念的には明確であり,最近では消化性潰瘍として一括されることが多くなったが,その病態生理などに関する文献は枚挙にいとまがないほどでありながら,病因など曖昧模糊としていることは急性胃病変とまったく同様である.

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 急性胃病変は,ストレスによるもの,各種薬剤によるもの,胃の血管性変化に基づくものの3つに分類されている1).ストレスによるものとしては,熱傷によるCurling ulcer,頭部外傷や脳手術後にみられるCushing ulcer,骨折や外科手術後にみられる急性潰瘍などである.薬剤によるものとしては,解熱,鎮痛消炎剤や化学療法剤,経口糖尿病治療剤,副腎皮質ホルモン,抗癌剤などであるが,このほかにもアルコール摂取,腐蝕剤の嚥下によっても起こる.胃の血管性変化に基づくものとしては,老人などの動脈硬化性変化の強いものに胃の微小循環に悪影響を及ぼすニコチンなどの作用が加わると,急性潰瘍が容易に発生するというものである.

 しかし,その用語については,急性胃病変のほかに,急性出血性胃炎,ストレス潰瘍,急性潰瘍などがあり2),はっきりした形態学的な裏づけによるものではなく,あくまでも臨床的な総称と考えられている.少なくとも,先に述べた誘因がはっきりしていることや,病変が多発性,不整形をとり,比較的浅く,出血を伴いやすく,胃のどの部分にも発生することなどが共通している.

主題症例 急性胃病変から慢性胃潰瘍への観察例

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 急性びらん性胃炎の経過中に潰瘍の発生をみ,しかも潰瘍の再発がみられた症例を呈示する.

症例

 患 者:R.H. 45歳 ♂ 会社員

 主 訴:心窩部痛

 現病歴:2週間前より上腹部の不快感と空腹時心窩部痛および背部痛を訴える.特に夜間に強く疼痛を訴える.その他,嘔気,嘔吐,胸やけなどはみられない.特に誘因となるものもみられない.胃X線,胃内視鏡検査を受け胃潰瘍と診断され,治療の目的で入院する.

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 急性胃潰瘍と慢性胃潰瘍の関連については臨床面,形態学また病態生理学の面から種々議論されているが,まだはっきりしたことがわかっていないのが実状である.

 この問題については本年(1979年)春の第65回日本消化器病学会総会において「胃の急性病変と慢性潰瘍」のシンポジウム1)がもたれ,そこで著者らも述べているように,これから多くの症例を重ね,経験を積んだ上で初めて解決されるものと考えられる.

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症例

 患 者:64歳 男 印刷業

 主 訴:前胸部圧迫感

 既往歴:特記すべきものなし

 家族歴:兄,脳卒中

 現病歴:1977年3月初旬頃より,入浴する午後9時頃,約10分間持続する前胸部圧迫感をきたしていた.1977年3月28日就寝中の午前1時と6時頃,冷汗とともに前胸部圧迫感をきたし,同日午後2時30分本院CCUへ入院した.

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 近年,急性潰瘍に関する臨床的および病理学的検討がなされると同時に,特異的な内視鏡像から多くの急性潰瘍が報告されている.著者らは内視鏡的に比較的広い陥凹した瘢痕面と,周辺粘膜の結節を残して治癒し,その後2年間再発をみなかった急性胃病変の1例を経験したので,その内視鏡像の推移を中心に報告する.

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症例

 患 者:29歳 男性 運転手

 主 訴:心窩部痛

 家族歴・既往歴:特記事項なし

 現症歴:睡眠も充分にとらず,極限的な過労の中で業務に従事していたところ,1976年8月18日午後より,心窩部の重圧感が嘔気を伴って発生し,次第に激しい疼痛となり数回の嘔吐もみられた,近医の注射を受けたが軽快せず,夜に至り激痛に耐えかねて来院した.

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 以前,この欄(「胃と腸」13:542,1978)で「lmmunology of the gut」(Elsevier,1977)を紹介した.この本は最先端の知識を十分に教えてくれるが,一般臨床医家にとっては難しく,その内容が不消化気味であったのではないかと思っている.

 ここに紹介する「Immunology of the Gastrointestinal Tract」は1カ月前,書店から届けられたばかりである.このように,毎年,消化管と免疫に関する部厚い書物が出版されることは,消化管疾患に対する免疫学的アプローチが注目された証拠であるし,この方面に関心深いものには大きな楽しみでもある.

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 胃潰瘍の病因論には種々あって,実験潰瘍学という名前があるほど,動物を用いて各種の研究が盛んに行われているし,また臨床的にはCushingulcer,Curling ulcer,Stress ulcer,Steroid ulcerなどと特別に呼ばれる潰瘍があって,それぞれが潰瘍の病因を示唆すると考えられている.しかしそれらを一元的に解釈するほどの定説はまだでき上っていない.これに反して,潰瘍の組織発生論のほうは大体定説化され,消化液(酸・ペプシン)によるいわゆる組織の凝固壊死Coagulation necrosisがその発生像で,それが数日で脱落したあとに,潰瘍あるいはびらんが形成されるものと信じられるようになった.またこれらの潰瘍やびらんは比較的短時間(週の単位)に修復されるが,同時にまた再発ないしは再燃に陥りやすいと考えられている.

 しかしこの病理組織学的な発生論はあくまで多くの病理組織像を繋ぎ合わせて組み立てた推論であって,さらに真実であるとするためには,その経過が臨床的に忠実に追跡される必要がある.従来はこの種の臨床的追及はほとんど不可能であったが,最近は幸いに,胃粘膜を直視できる内視鏡が発達したので,不可能ではなくなった.しかし依然として困難であることには変わりはない.その理由にはいくつかあるが,癌のように病態が完成するまでに長時間を要する疾患にくらべると,凝固壊死の発生に要する時間はきわめて短く,その瞬間を証明するのに非常に不利であるということがもっとも決定的な理由である.

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 胃潰瘍の発生論がやさしそうに見えて,実際は一筋縄ではいかぬしたたかさを持っていることは,前稿の「その1.Kissing ulcerについて」で述べた通りである.またこうした難しさを乗り越える便法として特殊な形を有する潰瘍を例にとるのも一法であると述べた.その意味で本稿の線状潰瘍を目標とした発生論も意味があるわけであるが,定型的な円形潰瘍とは形が違いすぎて,あるいは参考にはならないかもしれない.すなわち円形潰瘍とは全く異なった発生機序を持っているかもしれないという危惧の念はにわかには払拭しがたい.

 さて線状潰瘍の発生機序については,すでに2,3の説がある.最も有力な説が,ある程度線上に並んで発生した複数の潰瘍(多発潰瘍といってもよいかもしれない)の間が繋がるとする説,あるいは何らかの理由で発生した短いながらも線状の傾向をもった潰瘍がその尖端で再発を繰り返すことによって線の延長をもたらすとする説などである.これらの説にはいずれも内視鏡的あるいは病理的な観察による裏づけがあると言われている.しかし線状潰瘍が一挙に形成されるという説はほとんど主張されていない.私どもは偶然の機会からこの新しい第3の説を支持する症例を得た.以下それについて述べる.

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 近年,胃原発の悪性リンパ腫の報告は数多くみられるようになった.しかし,1965年,市川,佐野1)により提起された早期胃癌の定義に準拠した,いわゆる早期の胃悪性リンパ腫の報告はまだ少ない.

 一方,リンパ球表面マーカーの知見が増えるにつれて,全身性の悪性リンパ腫および白血病の分類も再検討されており,組織学的分類に加えて免疫学的な知見を加味した分類がなされるようになってきている2)~7)

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 胃癌は粘膜固有層に原発し胃表面より胃壁深部へ浸潤増殖するものとされている.

 一方,粘膜下組織中に異所性に上皮性成分の存在が認められることもあり,組織学的に膵組織の証明される迷入膵などその代表的なものである.このような異所性の上皮を母地とする癌については過去いくつかの報告がある.最近われわれは,胃粘膜下腫瘍の形態を示し,迷入腺組織より発生したことが明らかな早期胃癌症例を経験したので報告する.

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 Ⅱa型早期胃癌のなかには比較的稀なものとして肉眼的に小隆起が多数密集し,癌としての領域を占め,集簇性にみられることがある1).このⅡa集簇型は早期胃癌の性状を示すことが多いが,われわれは術前本症と診断し,術後の検索により,組織像が異型上皮のように分化した分化型腺癌から未分化癌が混在し移行する多彩性の進行癌であった稀な例を経験したので報告する.

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 石灰化を伴った食道平滑筋腫と早期胃癌の合併症例を経験したので報告する.本例のような合併例はわれわれの調べえた範囲内では文献上報告例は見あたらなかった.

症例

 患 者:70歳 女性

 主 訴:軽度の嚥下障害

 家族歴:特記すべきことなし

 既往歴:38歳,子宮筋腫にて摘除術を受ける.67歳より糖尿病と診断され,食事療法を続けていた.

 現病歴:1978年4月中旬より固形物を摂取するときに嚥下困難を感じ近医を受診した.食道・胃X線検査の結果,食道癌の疑いにて当科を紹介され,1978年5月25日当科初診,6月9日精査のため入院した.入院時には自覚症状は消失していた.

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 最近われわれは2年4ヵ月の経過検査後手術した,微小Ⅱa型早期大腸癌を経験したので報告する.

症例

 患 者:K.O. 62歳 男性

 主 訴:上腹部膨満感

 家族歴:祖父,胃癌にて65歳で死亡,父;脳卒中にて45歳で死亡.

 既往歴:特記すべきことなし

 現病歴:1974年末より上腹部膨満感あり,近医にて胃X線検査の結果,腸癒着があるといわれ治療を受け,一時軽快した.1975年8月再び上腹部膨満感を訴え,同医にて治療を受けたが症状改善せず,精査の目的で1975年12月当センターを紹介された.この間便通は3日に1度であった.

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 腸結核は,現在でも稀な病変ではない.偶然に発見される腸結核もめずらしくない.最近ではクローン病との鑑別において注目されている.今回,胆石をもち,右半結腸に病変を認め腸結核と思われる1例を経験したので報告する.

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 大腸ポリープのうち,花壇様隆起を示すものは比較的まれである.今回,40×38×3mmの花壇様隆起を示す腺管腺腫を経験したので報告する.

症例

 患 者:53歳女性 主婦

 主 訴:右下腹部痛

 家族歴:父は胃癌,母は子宮癌で死亡している.3人の子供のうち,長男が24歳の時,結腸癌で死亡している.

 既往歴:特記すべきものはない

 現病歴:生来健康であったが,1975年に長男が結腸癌で死亡した頃より,時々軽度の右下腹部痛を覚えるようになり,大腸X線検査などを受けたが,その時は異常を指摘されなかった.しかしその後も右下腹部痛が持続するため,1976年1月27日本院内科を受診,外来で大腸X線検査を受けたところ,下行結腸に異常所見を指摘され,精査のため入院した.血便,便通異常などは自覚していない.

入門講座 胃癌診断の考え方・進め方・11

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 市川 さてX線,内視鏡の器械の選び方が終わりましたので,次に撮影法の実際に移りましょう.最初にスクリーニングとしてのX線撮影法です.立位正面充盈像,立位第1・第2斜位,圧迫,二重造影法,その他の各撮影法の順に進めましょう.

●立位充盈像の撮り方

 <質問13>立位正面充盈像を撮るとき,胃の長軸のねじれのあるときには,単純な正面像と胃角がきれいに描出できる位置と2方向の写真を撮るべきでしょうか.

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欧文目次

書評「治療総論」 細田 四郎
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 NIM(New Ietegrated Medical) Lecturesシリーズは私の愛用する医学書である.従来の医学書にしばしばみられたような,飜訳医学でなく,またどの本を見ても同じような内容であるというようなものではなく,編者の企画のもと,各著者が実際に臨床の場で考え,おこなっていることを書物とされたオリジナルなものである.私自身の講義においては「臨床診断学,診察編」,「消化器病学」および「血液病学」を学生に推奨している.このNIMシリーズに,このたび「治療総論」が加わった.

 まず第1に,本書の「まえがき」にもあるように,従来の卒前教育は診断学に重点がおかれ,病態生理や鑑別診断までであって,治療についてはいずれ卒後研修中に学べばよいというがごとくに扱われていた.治療学といえば,man to man式徒弟教育の中で,技術・秘伝が承け継がれてきた.本来,「自然治癒力を助長し,円滑に進行させる」治療学の原理に基づいて,「治療学の体系化」を行うことは必要なことであった.ところが,現実には「治療総論」はこれまではほとんどとり上げられなかったので,本書は「これまでは全くみられない,はじめての試み」となったのである.

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 セシル内科学の日本語完訳書が刊行された.これは大変な仕事であったと思う.監訳者の小坂樹徳教授をはじめ翻訳に携わった多くの方々に心から敬意を表する次第である.訳書を手にしてみると,ずっしりと重く,充実感があふれている.そして中を繙くと活字がぎっしりとつまり圧迫感すら感じられる.その内容は既に世界的に定評のあるところで,ここに紹介する必要はあるまい.

 本邦で愛読されている英米の内科書は,セシル,ハリソンおよびバーベイといってよかろう.それぞれに特色があるのはいうまでもない.セシルにはセシルのよさがある.今さらいうまでもなく内科各論の書としてはまず完壁といってよい.さらにまた,目次をみると章の配列に異色の点がある.第1章の医学の本質がトップにあるのは他の書でもみられるが,第2章が遺伝,第3章が疾患の環境因子となっている.そして次に,免疫疾患,膠原病,関節疾患,原因不明の肉芽腫性疾患となっている.それから先はわが国の多くの内科書の順序とほぼ同じといってよい.

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 Combined Treatment Methods For Carcinoma of the Esophagus: R.W.Fraser, W.M.Wara, A.N.Thomas, P.M.Mauch, N, H.Fishman, M.Galante, T.L.Phillips, F.Buschke(Radiology 128: 461~465, 1978)

 食道の扁平上皮癌は,外科的および放射線治療技術上の進歩に拘らず,予後は依然として不良である.著者らは,放射線のみで治療された129人中5年生存者がただの1人だったのを報告したことがある.さてここでは,その間に経験した26人の放射線治療と手術をうけた患者について分析する.うち18人は術前に,8人は術後に2,950~6,000radsの照射をうけた.大半の患者は,5,000~6,000radsを6~8週で受けた.

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 シミュレーションそして“simulated patient”「模擬患者」.このことはわれわれにとって余りに挑戦的であり刺激的であり,実に衝撃的でさえあった.それはライフプランニングセンター(理事長:日野原重明氏)主催の国際セミナーで招請されたDr.Barrows(カナダのマックマスター大学内科教授)により教えられ学習したときのことである.

 驚くばかりの本物そのものの「模擬患者」,これ程,臨場感にあふるる患者との出会い,それからのマネージメントに臨床医学教育への応用とよりよき診療能力の向上,患者対応への態度などを学ぶ格好の教材資源はないと感じられた.その時に見聞したPMP(patient management problem)やwritten simulation,SMP(sequential management problem)など,すべて問題指向型学習法(problem based learning)であり,自己体験学習をめざす新しい医学教育改革の方法でもあった.

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 知りたいことのすべてが網羅され,必要なことの一切が要領よくまとめられている本というものは,そうめったにあるものではない.ところが今回出版された林貴雄氏の執筆になる「消化管内視鏡ハンドブック」は,まさにこの条件を見事に満たしたユニークな良書といえる.

 消化管内視鏡に関する一切のことが,もれなく,微に入り細にわたり,懇切丁寧に,わかりやすく,要点をついて書かれている.読んでいて深い感銘を受けた.内視鏡を学ぶものにとって,どのようなことが知りたいのか,また知っていなければならないかということ,これほどまでによく見抜き,よく考えて書かれた本は,これまで見当らない.自から内視鏡の道をきり開き,苦労し,厳しい修練を積み重ねて今日に至った執筆者にして,はじめて成せる業である.

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 今回,本邦での肝,胆道,膵の外科において現役の第一人者と目される葛西洋一,佐藤寿雄,土屋涼一の3先生とその教室の方々により“肝・胆・膵の外科臨床”が出版されることになった.外科医がこれらの臓器の疾患の診断をまずどのように進めるべきか,手術の適応や術式のあり方を含めての検査を実際どのように行うべきか懇切丁寧に書かれており,そして治療はどのように行うべきかを著者の豊富なかつ卓越した経験をもとに述べられている.その序文の中でし“……あるいは一方に偏した記載があったかもしれないことを恐れている.……”と謙虚に述べられているが,にじみでるような深い臨床経験をもとに思いきってこうあるべきと思われることを書かれているからこそ大変実のある著書となったのであろうと思っている.手術術式の中のさらに細かい点になれば読まれた方と意見の異なるところもあろうが,全体を通じ自らの考えだけにとらわれず,他の多くの報告者の名前とその意見をあげ,文献として見易いよう列記されてある.手術標本,手術時の写真,組織標本も必要かつ十分な程度にとどめられているほか,イラストは外科医自身が書かれているため大変理解し易い.この種の疾患のある患者を受け持ち診察をすすめるに当たって,あるいはその後の検査から治療までを一貫性をもって記載されており,外科研修医は勿論のことであるが,それよりも第一線で活躍されておられる外科医の方々にとっての指導書となるものであろうと感じた次第である.読むほどに本書の内容にひきこまれて行くように感じたのが本書の特徴でもある.若い外科医の方々にも経験豊富な外科医の方々にも是非お奨めしたい絶好の指導書である.

書評「THE ESOPHAGUS」 遠藤 光夫
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 著者の一人Prof. Savaryは,E.N.T.(耳鼻咽喉科)の専門家であり,Dr.Millerは消化器内視鏡医である.本書は,著者らの永年の経験の集大成ともいうべきもので,260葉以上にも及ぶ美事な内視鏡カラー写真が収められていて,食道疾患のすべての部門が網羅されている.食道鏡検査には,従来より硬性鏡とflexible fiberscopeとが用いられていて,本書には,両検査法の手技,適応などが紹介されている.ただ,両者の適応について,fiberscopeは食道・胃・十二指腸球部を一度に内視できるPanendoscopeとして意義があり,食道の専用器種としてはやはり硬性鏡とレンズ系テレスコープの記録写真をあげているのは,欧米の研究者とくにE.N.T.doctorsの考え方で,本方面の第一人者である著者らも,このように考えていることは興味深い.

 各論に収められているカラー写真は,大変きれいで,各疾患の特徴をきれいに出していて,一目で,その疾患の性状がわかるものばかりを提示している.気管食道科関係の医師や,内視鏡専門医は勿論のこと,消化器病関係のものにも飽かせることなく一気に読ませてしまうが,また何か食道の疾患名がでてきたときに,どのような疾患であったかなというような折にふれ頁を開くというような利用法もあり,座右の書として誠にふさわしい書物である.

編集後記 中沢 三郎
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 本号は急性潰瘍と慢性潰瘍をめぐっての話題が中心にまとめられております.これまでは両者の関係がもうひとつすっきりしないままに用いられてきました.本号では執筆者らの多年にわたる豊富な経験と貴重な症例がよく吟味された上で発表され,おのおのが明快に描写されており読者の皆様も充分ご理解をいただけるものと思います.しかし,これですべてが解明されたのではなく問題点が明らかになったというべきかもしれません.すなわち,外部に出た現象が異なるといってもそれが本質的に異なるものかどうかは判別できない面があるからで,「外面如菩薩内面如夜叉」という言葉のように面構えだけでその人の本質を見抜くことの困難さは誰でも経験するところであります.

基本情報

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胃と腸
14巻11号 (1979年11月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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