胃と腸 12巻8号 (1977年8月)

今月の主題 胃癌の浸潤範囲・深達度の判定(1)

主題

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 X線による胃癌浸潤範囲の診断は,さまざまの所見を組み合わせることによって行なわれる.

 充満像の辺縁,二重造影像の辺縁やバリウム斑,粘膜すう壁先端の変化などは,胃癌の性状診断の決め手になるとともに,病変の範囲とも密接な関係がある.胃癌が陥凹型であると隆起型であるとを問わず,健常部分との間に明瞭な高低差を示す場合は,上記の所見によって境界を診断することが可能である.しかし,進行癌にしても早期癌にしても,きわめて微妙な粘膜変化をもって健常部へ移行するものも,日常少なからず経験するところである.このような場合には,二重造影像で表現される胃小区模様によって,境界を推定しているのが現状である.

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 近年,胃癌の診断も質的診断だけでなく,量的診断すなわち浸潤範囲と深達度の診断まで要求されている.特に浸潤範囲の診断は,切除範囲の決定に際し,特に必要であり,Ⅱbおよび類似Ⅱbを含めて,そのX線診断,内視鏡診断に関する多くの研究報告がみられる.一方,深達度に関しては臨床的にその必要性に乏しく,研究はしばらく低迷していたが,最近臨床的な面でpm癌が注目され,この方面へのアプローチも活発になってきた.

 X線診断は粘膜表面の凹凸および壁の伸展性の診断である.したがって,癌の深達度をX線学的に診断するには,壁内深部への癌の進展状態を表面の凹凸,あるいは伸展性の異常(硬さ)として反映させ,これを介して診断することになる.これまで陥凹性癌の深達度診断は,陥凹周辺の所見との関係に重点がおかれてきた.すなわち,レリーフ,周堤,結節などの所見と深達度との関係にっいては,これまで多くの研究が報告され,その成績もすでに明らかにされてきている.著者らは今回は辺縁の所見に乏しいものを対象に陥凹部だけをとりあげ,深達度診断の手がかりとなる所見について考察してみた.

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 胃癌浸潤範囲診断は切離線決定に重要な課題である.断端再発を防止することは臨床家の責務である.そのためには術前に癌浸潤範囲ことに口側の癌境界を正確に把握することが必要である.しかし口側の癌境界同定で重要な小彎側は粘膜皺襞が存在していないため,この部位の癌浸潤範囲内視鏡診断は困難である.そこで本論文では点墨例を中心に胃癌の口側浸潤範囲内視鏡診断について検討する.

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 術前における胃癌浸潤範囲の診断は,胃切除線の決定,手術方法の選択などに際して不可欠であり,その診断の精度は臨床に直結する重要な問題である.癌・非癌といった質的診断は病巣内のもっとも著しい所見を基礎にしてなされるため,X線,内視鏡検査とも特殊な例を除いて比較的容易になされるようになった.しかし,癌巣辺縁部は辺縁隆起を伴うような型を除いて陥凹型癌では,原則として周辺に至るほど表面所見は軽微になる傾向にあり,その浸潤辺縁部の診断には,Ⅱb型早期胃癌の診断概念を導入しなければならない例が少なくなく1),現状では多くの困難を伴う.

 われわれは2),Ⅱb症例の検討からX線的,内視鏡的に本病変を診断するためのもっとも手近な方法の1つは胃小区像を描出することであり,その異常から本病変の存在と範囲を推定できるであろうと考え,X線および内視鏡検査において胃小区描出のために種々の努力を重ねてきた.内視鏡ではすでにいくどか報告3)~8)しているように,色素液を用いた「コントラスト法」(従来の色素撒布法に相当する,第19回内視鏡学会総会に併催された色素内視鏡研究会において改名された)により,また最近では胃X線検査に粘液溶解法を応用する9)~11)ことにより,両検査ともほぼ満足すべきところまで胃小区の描出が可能になった.色素内視鏡による癌の浸潤範囲と深達度診断に関してはすでに報告しているが12)~15),今回はとくに陥凹型胃癌の浸潤境界の診断を主として色素内視鏡(コントラスト法,染色法)の立場からとりあげ,通常内視鏡検査との対比の上からその有用性について述べてみたい.

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 胃癌の浸潤範囲をX線,内視鏡的にどこまで診断できるかを検討するためには,肉眼標本上の癌墳界部の所見を正確にX線,内視鏡所見と対比する必要がある.浸潤範囲の狭いもの,あるいは,境界鮮明なものでは部位の同定も困難ではないが,浸潤範囲が広いものや境界不鮮明なものでは部位の同定が困難となり,したがって臨床材料上の所見の読みも漠然としたものとなる.われわれは最近,陥凹あるいは平坦な胃癌について,術前にクリップによるマーキングを行ない,生検を同時に行なって浸潤範囲を決定している.このクリップによるマーキングを行なった症例について,その浸潤範囲についてのX線学的および内視鏡的検討を行なった結果を報告する.なおクリップ法についての現在までの経験と,切除範囲の決定に対する有効性についても若干述べる.

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 患者は65歳の女性,下腹部痛と便秘を主訴として入院,入院時,貧血黄疸はなく,右季肋下に抵抗を触知した.肝機能検査ではAL-P-aseおよびγ-GTPが高値を示し,経口胆囊造影では胆囊,胆管は造影されなかった.その後黄疸が出現し,上部消化管透視で十二指腸に軽度の通過障害を認めた.エコー検査では次のように「胆囊癌」を強く疑わしめる所見を得た.

 〔エコーグラムの所見〕Fig. 4ABはシェーマに示したように,2方向から記録した一組のエコーグラムである.

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 色素を応用することによって胃粘膜の腸上皮化生が内視鏡的に診断できるようになってすでに5年が経過した.この間にこの着色現象は腸上皮化生の持つ吸収機能によって惹起されることが実証されてきたし,着色される腸上皮化生の内視鏡的形態も細かく分析され,さらにはこの形態と機能との関連までも組織化学的な面と共に追求されつつある.

 このように腸上皮化生の病態が細かく判明してくるにつれて,次にわれわれの興味を引くものは,この病変の発生と経過であり,さらに胃癌との関係である.後者の問題は前者の発生と経過がある程度解明されてから考慮したほうが分析しやすい.しかしこの腸上皮化生の発生と経過を入胃で研究することはそれほど容易とは思われない.それはこの病変が内視鏡的に診断できるまでには相当の時間的経過が必要であるし,胃粘膜上にある面積をもって拡がるまでにはさらに長年月の経過が必要であるように現状では推測されるからである.

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 近年日本でも大腸の炎症性疾患が増加して内視鏡検査の機会が増えてきた.内視鏡の役割として診断とともに,病期(stage)や治療効果の判定があげられる.一方では内視鏡医も増えてきて,内視鏡の“読み”も必ずしも安定したものとはいい難い.潰瘍性大腸炎における内視鏡検査の問題点にっいて私見を述べる.

 古くはBaron(1964),Watts(1966)らが各観察者間の所見の差異ということを調べている.同一患者の同一部位を2~3人の医師が順々に内視鏡検査を行ない,そこで得られた所見を比較検討している.それによると出血の有無に関しては各検者において安定しているが,粘膜色調に関しては差異が大きいという結果が得られている.Wattsは比較的に客観性を有する所見として,①正常か異常か,②血管像の有無,③接触出血(contact bleeding),④浮腫,の4項目をあげている.

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 おおよそ胃癌の診断レベルは,その極致に達したかにみえるが,日常の臨床の場においては今日でもなおlinitis plastica状態になって外来受診する患者の数は少なくない.さらにまた,こういった患者がわずか数カ月前に胃X線検査を受け何らの異常所見を指摘されなかったという事実を聞くに及んで切歯拒腕することもわれわれは少なからず経験している.本研究はこのような状況のなかでlinitis plastica状態の胃癌の早期診断を目的としたものである.

 具体的には,胃癌は粘膜から発生し経時的に縦と横への三次元的な発育を示すから,この胃壁浸潤の型式を組織型と胃癌の占める粘膜領域別に検討し,さらに粘膜下浸潤部のX線診断について検討した.

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 胃癌のX線・内視鏡診断技術の著しい進歩によって,これまでに数多くの早期胃癌が発見され,手術切除されてきている.それとともに,いろいろな型の早期胃癌例にも遭遇するようになった.その1つに,粘膜面における癌の拡がりが明瞭でないものがある.このような胃癌の手術にあたっては,その噴門側境界がよく問題9)28)になる.いうまでもなく,粘膜内での癌浸潤の境界がはっきりしない病変(以下Ⅱb様病変と表現)に対しては,その噴門側境界を術前に可能な限り明らかにしておくことが必要である.そのためには,X線診断に際して病変の噴門側境界部がどのような所見として描写されているか,また,どのような所見に注意して境界部の診断を行なえばよいか,という問題の解明が重要である.

 著者らは,先に陥凹性早期胃癌のX線所見と癌の組織型との関係を検討し,癌の組織型によってX線所見が異なり,両者の問には密接な関係が存在することを報告した50)51)(Fig.1,2を参照).癌の組織型の差によるX線所見の違いが,Ⅱb様病変部についても同じように認められるとすれば,X線診断による癌浸潤範囲の決定に有力な手がかりとなる.なぜならば,生検で癌組織型を知ることによって,X線フィルム読影の観点をかえることができるからである.

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 従来,胃の多発潰瘍・巨大潰瘍・線状潰瘍は,胃潰瘍のなかであたかも特殊な位置を占めるがごとく取り扱われてきたが1)2),これらは個数あるいは形態の相違こそあれ,胃に発生した潰瘍としては,単発円形潰瘍と等価であると考えられるから3),同一のレベルで論ずることがよりすぐれていると思われる.このような方法論をとると,各潰瘍の相互関係がより一層明らかになると期待される.本論文は,この見地に立って,切除胃における全胃潰瘍を病理組織学的に検討し,とくに多発潰瘍と線状潰瘍との関連から,線状潰瘍の成因について論じたものである.

一冊の本

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 本書は日本で消化器を専門とする者には馴み深くなったMorsonの編集によるもので,消化管の病理学的な方面でのトピックス9編が収められている.350頁に155の図表が含まれており,全体としてきわめてわかり易くまた読み易い英語で書かれている.文献の数も豊富で,しかも重要なもののみが選別されていて大変参考になる.

 内容は,1)早期胃癌(Johansen),2)Coeliac disease(Thompson),3)胃ポリープ(Elster),4)大腸ポリープ(Enterline),5)大腸の粘液組織化学(Filipe,Branfoot),6)潰瘍性大腸炎の前癌病変(Riddell),7)消化管の内分泌細胞およびそれから発生する腫瘍(Dawson),8)消化管の免疫病理学(Skinner,Whitehead),9)消化器の腫瘍抗原(Goldenberg)と多岐多方面にわたっている.全体としてのまとまりはないが,それぞれの論文はその方面に関心のある人にとっては大変有益であると思う.

学会印象記

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 第19回日本消化器内視鏡学会総会は5月9日より11日まで東京虎ノ門の国立教育会館で日本大学第3内科本田利男教授の会長のもとでおこなわれた.

 好天にめぐまれた第1日は,3会場同時に胃,十二指腸,大腸のセクションが開始された.胃癌のセクションでは,臨床診断能の向上という日常的な問題点から始まり,色素内視鏡検査,胃癌の進展形式と続き,その後は内視鏡学の分野からも胃癌との関係で最近内視鏡医にも非常な興味がもたれはじめている腸上皮化生がとりあげられた.PNNG犬胃癌実験中に発生した腸上皮化生と思われる粘膜変化,耐熱性アルカリフォスファターゼの問題など,従来いわれている両者のむすびつきがより明確になった.同時に第2会場では,十二指腸潰瘍の内視鏡診断に諸問題が集中し,翌日のシンポジウムに期待をもたせたよい前哨戦であった.第2会場同様,あまりにも狭くて超々満員の盛況であった第3会場では,大腸に関する発表がなされた.とくに目新しいものはなかったが,大腸内視鏡検査も上部消化管同様に,色素や拡大内視鏡が導入され,それらの基礎的な研究とくに機能的検査等の新しいアプローチにたいへん興味をもった.また炎症性疾患に対する発表が多かったのも今総会の特徴であったといえよう.

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欧文目次

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 London大学Sherlock教授のDisease of the Liver and Biliary Systemが1968年に第4版としてでてから7年経って,ここに新しく第5版が発刊された.この本は肝・胆疾患に関する外国の書物の中で最も理解しやすく,かつ最も多くの人によって読まれているので,とくに書評することもないので,この第5版で新らしく取上げている事項について紹介する.

 周知のようにこの7年間で肝研究において最も進展をみたのは肝炎ウイルス,とくにB型肝炎ウイルスに関するものである.すなわちB型肝炎ウイルスの指標となるHBs抗原一抗体系,HBc抗原一抗体系,さらにはe抗原一抗体系の検出が可能になり,しかもB型肝炎の発症には細胞性免疫の関与が重要であることが明らかになった.そしてB型肝炎ウイルスの感染による肝炎の転帰として慢性肝炎,肝硬変,肝癌が成立することも確実になった.この第5版では従来Hepatic cirrhosisの章に含めていたChronic hepatitisを新らしく章として,Chronic persistent hepatitis,Active chronic ‘Lupoid'(HB Ag negative)hepatitisおよびChronic liver disease with positive HB Agに分けて彼女ら一派の仮説を混ぜて論じている.そのほか新らしい章としてAcute(fulminant)Hepatic Failureを設け,その病態生理にっいてのべるとともにTemporary hepatic supportとして新らしくExtra-corporeal liver perfusionを加えているが,最近話題になっているCharcoal Haemoperfusionについて触れていないのが淋しい.しかし最終章では肝移植の現況と問題点について可成り詳細にのべ,この研究はもっと続けられねばならぬことを強調している.また肝・胆・膵疾患の診断におけるEPCGを含めたX線診断法の進歩の結果を各章で随所におり込んでいる,さらに胆汁の物理化学的性質と胆石形成における,bile salt,lecithin,およびcholestero1の3要素の関係を解説し,胆石溶解で話題になっているChenodeoxycholic acidの役割にっいても評価している.

編集後記 西沢 護
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 胃癌の浸潤範囲の決定は,古くて新らしい問題である.本号でこのテーマが再びとりあげられたのは,今までにそれだけ明確な解答がえられていないからである.

 日常,切除線をきめるのに,外科側から噴門より病変口側までの距離を要求されるが,健常部分が確実に3cmあるかないかで,胃を少しでも切り残せるかどうかにかかっていると言われれば,ことは重大である.つい最近まで,外科側は相当にサバを読んで切除線をきめたり,術中に胃切開を行なって,肉眼でわかる所から5cmとか3cmとかはなれた所を切除線にきめていたのは,それだけ術前の診断に十分信頼がおけなかったからであろう.少しでも胃全摘を減らしたい,少しでも胃を余分に残したいという立場に立てば,せめて1cm以内の誤差で噴門から病変までの距離を明示したいのが,診断する側の本音であろう.

基本情報

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胃と腸
12巻8号 (1977年8月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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