胃と腸 12巻7号 (1977年7月)

今月の主題 残胃病変

主題

  • 文献概要を表示

 残胃のX線診断は古くから行なわれ,ここにその歴史をのべる余裕はない.また,残胃のX線診断は当然外科医が行なうべきであることにはその理由があるが,術後年数がたつにつれて,内科医,放射線科医が行なうことになることも多いと思われる.したがって,後者の場合,術者の手技の傾向,原疾患の種類,術後年数,現在の愁訴等を熟知したうえでX線診断をしなくてはならない.

 ここでは紙面の関係でそのポイント的なものを2,3のべることにする.

  • 文献概要を表示

 内視鏡は,今日では胃疾患診断にとって欠くべからざるものとなり,非切除胃においてはルーチンに用いられているにもかかわらず,残胃の検査法としては,まだ必ずしも充分に活用されているとはいえない状態である.1つには残胃においては,癌,潰瘍等の臨床的に重要な疾患の頻度が少ないため,残胃の検査自体が軽んぜられてきたことにもよるが,一方残胃はその形態が様々であり,それに従って内視鏡検査の難易度が異り,とくに残胃が小さい場合には検査が難しいためであったとも考えられる.しかしながら形態的な多様性,とくに手術に関係した変形と,病変による変形との鑑別は,X線検査のみでは困難な場合が多いのであるから,内視鏡検査を併せて行なうことは一層重要なはずである.さらに非切除胃と同様,胃炎や微小病変の診断には内視鏡検査および生検が不可欠であり,また逆流性食道炎,吻合部とその腸側の検査,さらにBillrothⅡ法におけるERCPなど胃切後に特有な状態に対する内視鏡の役割は大きい.

 消化管内視鏡検査の器械に要求される機能として,①盲点・観察難点のないこと,②解像力がよく,記録性にすぐれていること,③送気,送水(レンズ面の洗滌,吸引洗瀞(内腔の)ができること,④生検・細胞診ができること,⑤被検者に与える苦痛が少なく,安全であること,⑥操作が簡単で耐久力のあることなどがあげられよう.しかし一器種ではこれら条件を満足するものはまだ開発されていない.とくに後述するような解剖学的に複雑な切除残胃を中心とする観察を,1つの器械で充分な目的を達することは現状では不可能といえる.現実には種々の器種を用い,検査法に工夫をこらしながら実施されているわけであるが,われわれは,最近新しく開発された細径ファイバースコープGIF-P2(オリンパス製)が,残胃の観察にも好適であるという結果を得たので,それを中心に報告したい.

  • 文献概要を表示

 胃手術後の残胃病変で何といっても一番問題となるのは吻合部潰瘍であろう.吻合部潰瘍の名称,定義は種々1)~12)であるが,本稿では胃切除後の吻合口やその近傍に認められる術後再発潰瘍を総括した広い意味の潰瘍病変を指し,吻合部縫合線上の潰瘍も空腸潰瘍も一括して吻合部潰瘍と呼ぶこととする.

 吻合部潰瘍は1897年Bergによって観察記載され,1899年BraunにょってUlcus pepticum jejuniと命名されたといわれる1).この胃切除あるいは胃空腸吻合術後の後遺症は診断,治療に問題が多いのみならず自覚症状も強く治り難い性質がある.われわれの施設で経験した56症例について術式を中心に,内科的あるいは外科的治療の成績を検討する.

  • 文献概要を表示

 胃腸吻合部の良性病変としては吻合部潰瘍と吻合部ポリープがこの部に特異的である.吻合部潰瘍については発生機序をめぐる基礎的研究をはじめとし,臨床的な立場からX線および内視鏡的診断学ならびに治療法,さらに発生防止のための手術法の検討などについて多くの研究が見られる.今回は今まであまり重視されなかった病理組織学的立場からの観察から吻合部潰瘍につき検討を行なうものである.

 吻合部ポリープはLittler and Gleibermann(1972)がgastritis cystica polyposaとして記載した病変に相当し,本邦でも散発的に報告されているが1)7)21),われわれ(古賀ら,1976)の研究で,癌腫や他の良性ポリープと鑑別しうる特徴をもつ反応性の粘膜の増生であることがわかっている.この病変に関しては,肉眼ならびに,組織学的特徴を述べるとともに組織発生に関する新たな知見を加えて報告する.

  • 文献概要を表示

 胃診断学のめざましい進歩により,近年早期胃癌が数多く発見されてきており,胃癌の治療成績も,早期癌のふくまれる率が高くなるにつれて,向上を示してきている.胃癌の治療成績の向上と共に,長期にわたるfollow upに際して,残胃の診断も重要な問題を含んできている.残胃の癌が再発と共に異時性に別個の癌の発生も考慮される必要があろう.従来は,残胃の悪性病変,すなわち残胃に新しく癌が発生してくる場合,初回手術が良性病変(胃潰瘍,ポリープ,胃炎)によるものであり,良性疾患に対する胃手術後の残胃悪性病変についての報告が山形ら1)の集計では,1961年までに欧米で196例であって,わが国では1963年までわずか14例であったが,近年増加している2)

 初回が胃癌である場合には,残胃の癌が再発によるものか,新しく別個の癌かの判定が困難な場合もあって,とくに残胃にみられる癌が進行癌であるものでは,両者の鑑別が困難な場合もあって,かかる問題に関しての報告は少ない.

  • 文献概要を表示

 司会(城所)本日はお忙しいところをお集まりいただきましてありがとうございました.本日は「残胃病変をめぐって」という題で,最近の問題点についていろいろとディスカッションしていただきたいと思います.

 本誌で10年前に一度この問題を取り上げたことがございます.その後の10年の問に,多くの症例が経験され数数の進歩があったことと思います.どうぞ本目の座談会を活発にお願いしたいと思います.

  • 文献概要を表示

 近年,胃X線検査の診断能は著しく向上してきたが,胃小区などを問題にすれば日常のX線フィルムに微細凹凸が忠実に表現されていない場合が少なくない.この原因として,まず胃粘膜表面を覆う胃粘液の存在をあげることができよう.そのため胃粘液の溶解,除去を目的として検査数日前あるいは検査直前に,各種消化酵素剤,酸中和剤,副交感神経遮断剤などを投与する方法が試みられているが一般化するには至っていない.われわれは色素内視鏡における前処置として蛋白分解酵素を用いた粘液除去法を考案し,ほぼ満足すべき状態まで被覆粘液を溶解・除去することに成功している.その結果,青色系色素の撒布によって通常内視鏡では観察不能な微細凹凸や胃小区像の観察が可能になった.この粘液除去法の原理を応用して胃小区像描出のためのX線検査法を諸種検討し,日常の臨床に応用可能な方法を案出したので,その方法と成績を紹介する.

 色素内視鏡における前処置と同様に,胃粘液溶解剤として,各種消化酵素剤や蛋白分解酵素の中から強力な作用を示すPronaseを使用した.Pronaseは100P. u. /ml以上の濃度で効率よく粘度を低下させる.至適pHは6~8であるが,鎮痙剤注射下に重曹1gを投与すれば,これのみで30分以上pH胃内をこの間に維持することができる.これらの事実に基き,粘液処理液が胃内全域に充分作用したのちに残液を回収する精密X線検査法(以下精検法)と残液を回収しない簡易法とを考案したが,今回は精検法について述べる.本法は下記のように施行する.

 ①ブスコパン1A静注(40歳以下は2A)

 ②温湯(30~40℃)300ml,Pronase4万単位,重曹1gを経口投与.

 ③20分後ゾンデにて胃液吸引し,適当量空気送入

 ④ブスコパン2A静注後撮影開始

  • 文献概要を表示

 患者は71歳の男性.黄疸と発熱を主訴として来院.入院時,眼球結膜および皮膚の黄染を認め,右季肋下に肝を2横指触知しさらに胆囊と思われる腫瘤を触知した.エコー検査で膵頭部癌の所見を得たのでPTCを施行,総胆管の拡張およびその下端部にV字型の閉塞を認め,ついでPTCDを設置した.後日,手術において約2cm径に拡張した総胆管と鶏卵大の膵頭部癌を確認した.

  • 文献概要を表示

 1962年の第4回日本内視鏡学会において,早期胃癌の定義と肉眼分類が提唱されて以来既に15年が経過した.この間,胃に関する診断学の進歩1)~3),胃集団検診の普及などにより早期胃癌が数多く発見されるようになった.それに伴い,早期胃癌について,診断をはじめいろいろな面から非常に多くの研究報告がなされてきた.早期胃癌の術前診断をより正しく行なうためには,個々の手術症例を長期観察し,その予後を詳細に把握しておくことが極めて重要である.しかしながら従来発表されている早期胃癌の予後については,そのほとんどが5年生存率についてのみの検討しか行なわれておらず,それ以上長期の予後に関する研究は少ない.5年生存率についてその成績をみると,最近のもの4)~14)では,深達度mの早期胃癌では100%もしくはそれに近い値の報告が多く,また,深達度smの早期胃癌では90%前後との報告がほとんどである.ごく最近では,早期胃癌の長期観察例に関する報告も多くなりはじめ,その中には術後5年以上経過した症例の癌再発死亡例も報告されるようになった15).このような観点からわれわれは,早期胃癌の予後について,長期生存率から見た検討を行ない,昨年(1976年)秋の第18回日本消化器病学会秋季大会(第1報)および本年(1977年)5月の第19回日本消化器内視鏡学会(第2報)において報告した.ここでは昨秋の報告をもとに,さらに症例数を加え,予後追跡調査をより一層詳細に行ない,他病死と癌再発死(死亡の原因が原発癌に由来するものを本文では癌再発死と呼ぶことにした)とを厳密に区別し,早期胃癌の予後について詳しく検討した.特に,消息および死因の解明に当っては,徹底的な反復調査を多面的に行ない,精度の向上に努めた.この結果,消息判明率は98.50%,死因不明は1例(Table 2,No.4)にとどめることができた.

 早期胃癌の正しい予後を知ることにより,診断学上,着目すべき要点が明らかとなり,予後の推定を含めた診断学の向上が望めるであろうと考えた.

  • 文献概要を表示

 燕麦細胞癌は大多数が肺にみられ,カッシング症候群や種々の内分泌異常症状を伴う,いわゆるfunctioning tumorとして注目されている.今回,われわれは食道原発の燕麦細胞癌を経験したので,その臨床症状および組織学的所見について報告し,若干の文献的考察を加えた.

症例

 患 者:71歳 男性

 主 訴:嚥下困難

 既往歴:約10年陞前より1日5合は飲んだという大酒家であった.1969年12月脳卒中に罹患し,以来リハビリテーション等の治療をうけていた.熱いものは特に好まず,タバコも吸わない.

 家族歴:脳卒中の多い家系である以外は特記すべきことなし.

 現病歴:1975年5月頃より嚥下困難,体重減少が出現したために,精査のため当科受診し,食道バリウム検査にて下部食道に陰影欠損を認め直ちに入院となる.咳漱,喀疾は訴えていない.

 入院時現症:体格中等大,栄養不良,眼瞼結膜に貧血なく,眼球結膜黄疸なく,表在リンパ節触れず,胸部は心濁音界正常で肺野には理学的に異常所見なく,腹部には圧痛なく,肝脾は触知されない.言語障害および左上下肢に痙性麻痺が認められた.

  • 文献概要を表示

 胃疾患診断学の進歩により,胃の悪性リンパ腫の診断は従来より容易となったが,その早期診断については今なお困難な点が多い.われわれは初診時良性の多発性胃潰瘍と診断し,その後約5年間経過観察を行ない,結果的に悪性リンパ腫(細網肉腫)であった1症例を経験したので報告する.

症例

 患 者:77歳(手術時)女性,農業

 主 訴:心窩部痛,吐血,下血

 家族歴:特記すべきものなし

 既往歴:高血圧.40歳頃より食欲不振,胃部膨満感等の胃症状を訴えていた.

 現病歴:1970年3月,下血,顔面浮腫,貧血,脱水等にて来院検査の結果多発性潰瘍として3カ月入院し,保存的療法にて軽快退院した.その後1972年9月と1973年8月にも下血をきたし,入院治療を繰り返している.初回入院時は多発性胃潰瘍と診断し治療を行なったが,その後の経過で,胃X線,内視鏡所見が多彩な変化を示したことより,臨床的に悪性リンパ腫を疑った.しかし生検の結果では組織学的に悪性細胞が認められず,RLHとして経過を観察した.1975年3月大量の吐血,下血にて緊急入院した.

  • 文献概要を表示

 内視鏡的膵・胆管造影法は1969年,大井1),高木ら2)の報告以来,器具の改良,手技の向上に伴い広く発展普及した.さらに術後胃症例3)などの特殊例にも本法の施行は可能となり,現時点では膵臓,胆道疾患の重要な検査法となった.本法は非観血的な検査法であるため,その検査対象は若年者から高齢者まで安全に施行可能であるが,いまだ幼小児に施行された報告は数少ない.今回,著者らは本法を小児例に施行し,興味ある知見を得たので報告する.

〔症例1〕

 患 者:6歳 男性

 主 訴:上腹部痛

 家族歴:特記すべきことなし

 現病歴:物心ついた頃より,時々食後に腹痛を訴えるすぐに軽快するため放置していた.1973年5月(4歳時),嘔気,嘔吐を生じ脱水状態となり某院に入院した.発熱,黄疸は認めていなかった.入院後,加療にて症状消失し5日間で退院した.その後も時々,軽度の腹痛があったが保育園を休まず登園していた.1975年11月24日,強い右上腹部痛と嘔吐をきたし某院に入院した.加療により症状は消失したが,1975年12月10日精査のため来院した.

  • 文献概要を表示

 Follicular lymphomaは1925年Brill1)により初めて記載された.その後1944年Symmers2)は1つの独立疾患とみなし,Brill-Symmer's diseaseとも呼ばれていた,本疾患はリンパ細網細胞系由来の悪性腫瘍の1つであり,Rappaportら16)により悪性リンパ腫のnodular typeと分類されたものである.本腫瘍の胃原発例の報告は極めて少なく,散発的に認めるのみである4)6)~8)10)16)17)23)~25)35)36)38)

 今回われわれは胃に原発した本腫瘍を経験したので報告し,若干の文献的考察を試みる.

  • 文献概要を表示

 日本消化器病学会はやがて会員数1万名をこえるというマンモス学会である.こういう大学会の総会ともなれば運営には数々の困難があり,また大学会に対応したもろもろの体制が整備強化されなければならないわけである.

 運営上の諸問題をいかに現実に処理してゆくかというのが歴代会長の腕のみせどころということになるが,第63回日本消化器病学会総会は東京厚生年金会館を主会場として,4月1日から4日まで盛大に開催された.会場を3つにし,特別講演等2,シンポジウムを5たくみに消化して,会長の有賀槐三教授のさえた手腕は如何なく発揮されたわけである.東京をはなれた筆者としては,満開の桜花にも多少の感慨があったが,4日間の会期中晴天にめぐまれ,新宿をぶらつく学会の袋をもった会員の表情も,なんとなくなごやかに思えた.

--------------------

欧文目次

編集後記 長与 健夫
  • 文献概要を表示

 時代の移り変りとともに少しずつ変ってゆくのは,われわれの年齢や家庭環境,社会生活ばかりでなく,病気の内容もそうである.胃という臓器に限ってみても,診断の著しい進歩という要素を含めてみても,このことが当てはまるように思われる.腸型癌が減りはじめびまん型癌が比較的にふえてきていることなどは,この辺りの事情を如実に物語っているのではあるまいか.

 この号にとりあげられた残胃の病変は,上に述べたこととはやや違った要素をもってはいるが,長い目でみると世の中の移り変りの1つの反映ともいえるだろう.昔から残胃癌や吻合部潰瘍はこの領域の1つの問題点であったことは間違いないが,今ほど身近な問題ではなかったように思う.胃の切除術が普及してからかなりの年月が過ぎ去ったことが1つのそして主な理由であることは,この号を通読されればお判りいただける筈である.

基本情報

05362180.12.7.jpg
胃と腸
12巻7号 (1977年7月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

文献閲覧数ランキング(
11月5日~11月11日
)