胃と腸 12巻9号 (1977年9月)

今月の主題 胃癌の浸潤範囲・深達度の判定(2)

序説

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 胃生検が進歩したので最近はあまり表立っていわれなくなった言葉に,「存在診断と確定診断」がある.私どもが胃の診断学に充盈像と胃液検査とシンドラーの半可僥性胃鏡で取り組んだ頃は,今から思えば存在診断がやっとで,確定診断という言葉すらなかった.いな存在診断すなわち確定診断だと思い上っていた.

 X線検査法に二重造影法が導入され,胃鏡の替りに胃カメラが用いられるようになったが,まだ生検は不可能で,せいぜい細胞診で満足しなければならなかった時代がしばらく続いた.胃に病変があることを疑うことが第1段階で,それを二重造影,胃カメラ,細胞診で何とか良性か悪性か決める,こうした手順を取りうる時期になって,上述の存在診断と確定診断の違いなり意義なりがようやくクローズアップされるようになった.

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 胃癌の診断学は,外科医や病理学者の協力によって,診断している対象の肉眼所見や,これを形作る病理組織構築を熟知して,X線,内視鏡所見からこれを類推し,また逆に切除材料からX線,内視鏡所見の解釈をし直すといったことの繰返しによってすすめられてきた.

 胃癌の深達度診断に関しては,多数の業績があるが1)~3),その多くは,単純に早期癌,進行癌とわけて,X線,内視鏡所見の出現頻度の差を推計学的に検定するといった方法である.

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 早期胃癌の内視鏡診断に際して癌か否かの診断は,直視下生検による組織診あるいは細胞診など顕微鏡レベルの所見によって直接的に確定診断可能であるが,癌深達度を直接診断する方法はない.X線にしろ内視鏡にしろ癌深達度の診断は病巣部の肉眼レベルの所見にもとついて経験的あるいは統計的に診断せざるを得ない宿命を負っている.

 8年前,われわれは切除胃の肉眼所見で判定すれば早期胃癌に類似した進行胃癌が予想以上に多いことを認め(Table 1),それらを“早期類似進行癌”(以下類進癌と略す)と呼び,早期胃癌との鑑別診断の重要陸を指摘した.そして両者の鑑別診断に役立つ指標を詳細に検討し報告した1)2)

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 肉眼的所見での深達度診断の指標6)11)13)14)17)18)25)27)はいくつか指摘されている.そういう所見は,二重造影像か圧迫像でX線写真にあらわせばよい.しかし,指標がない病変もある.粘膜ひだ集中(瘢痕)をもつⅡc型のうち,病変の一部でsmに浸潤している例がそのひとつである.粘膜面の凹凸では深達度診断ができないものは,胃壁硬化を手がかりにしなければならない病変ということになる.

 胃壁硬化のX線所見には,充盈像と二重造影像における辺縁の伸展不良,硬化,硬直と表現される所見がある.ところが,胃中央部病変については,二重造影像は粘膜面の凹凸の様相を忠実にあらわすことができるが,軽度の胃壁硬化を診断する能力は少ない.また,圧迫像では,硬化部を,硬化の程度と圧迫の強さの程度との組み合わせの上で,造影剤がぬけた所見としてあらわすことができる.しかし,技術を要し,またそのX線所見上硬化の程度の数量化が難しい.圧迫像は経験的な要素が多分にあるというわけである.

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 胃癌の浸潤度を診断するには,粘膜内,粘膜下層あるいは筋層以下に浸潤した癌病変に随伴してみられる隆起性変化や硬化,伸展不良などの形態的特徴を検討し,それらを胃X線あるいは胃内視鏡検査でどのようにとらえるかが基本となる.陥凹型胃癌の診断についてはすでに多くの報告があり,消化性潰瘍を合併する陥凹型胃癌の粘膜集中ひだ末端の蚕食,肥大あるいは環状融合などの形態的特徴または病巣面の硬さや伸展不良性と癌の深達度との関係については詳細な報告がなされている.

 粘膜集中ひだを伴わないか,あってもあまり著明でない陥凹型胃癌の場合も,癌の浸潤に随伴して出現する隆起性変化があれば癌浸潤度の診断の大きな手がかりとなる.そこで,陥凹型胃癌に随伴してみられる隆起性変化のうち,明らかな粘膜集中ひだ末端の変化以外の種々の隆起像について癌浸潤度との関係を検討してみた.

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 早期胃癌の診断は,もはや日常的なルチーン・ワークとなっており,また,胃癌深達度推定についての試みがなされてから十余年を経た今日では,ある程度の深達度診断もごく普通に行なわれている現状である.

 陥凹型胃癌の深達度診断の指標としては,多くの研究1)~10)により癌病巣の大きさ,境界鮮明度,陥凹の深さ,陥凹の輪郭の形,陥凹の内部および周辺の隆起,び漫性膨隆,集中・中断する粘膜ひだの蚕喰,腫大,融合などが挙げられており,それぞれその規模の大なるほど,また不整なものほど深達度は深いとされている.X線診断においても,これらの従来の所見を正面像および側面像として捕えることによって活用されている.

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 胃癌の深達度の診断は,浸潤範囲の診断と異なり,直接証明する方法がないため非常にむずかしい.ちょうど,海面に浮かんでいる氷山の大きさ,形をみて海中にどれ位の深さにまで氷山があるかを推定するようなものであるが,癌の発育の仕方に法則がないだけにもっと複雑である.それゆえ,粘膜面からの大きさ,形をみてその特徴をつかみ,深達度の指標とするしかない.これらのことを考察するのに次の2つの方法がある.

 ①切除標本から胃癌の立体構築図を作り,癌の深達している層に対する粘膜表面での形態を数多く分析すること.

 ②経過観察例から胃癌の深達過程を推察し,①の肉眼形態による深達度診断を裏づけること.

 胃癌の粘膜面でめ肉眼形態は,盛り上っているか,凹んでいるか(癌がくずれて凹みをつくったか,癌の上に潰瘍ができて凹みをつくったか),あるいはそれらの変化から二次的に粘膜ひだ集中のような特殊な形態をつくっているかのいずれかである.

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 患者は83歳の男性,腹痛と食思不振および黄疸を主訴として来院.入院時,皮膚および眼球結膜に黄染を認め心窩部に肝(?)を2横指触知した.T-Bilirubin,D-Bilirubin,GOT,GPT,AL-P-ase,γ-GTP,LAPは高値を示し,エコー検査,肝シンチ,ついでPTCにより胆管上部における腫瘍と診断した.後日,手術により上部胆管癌を確認した.

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 内視鏡的乳頭切開術(Endoscopic papillotomy,以下EPTと略す)は総胆管結石の非観血的治療法として開発され,1974年,Kawai et al.1),Classen et al. 2),相馬ら3)などによりその臨床成功例が報告された,その後本邦,西独,米国などを中心にEPTの検討および報告例が増加している.本法は現在,消化管ポリペクトミー,内視鏡下の止血,内視鏡による消化管内異物除去など,いわゆるoperative endoscopyの分野でのトピックスとなっている.EPTは特に西独において爆発的ともいえる勢いで施行されているが,筆者は1976年5月より1年間,西独,Reinhard-Nieter-Krankenhausで内視鏡検査,ERCPおよびEPT等に従事するかたわらErlangen group, Prof. Safrany(MUnster)等を訪問し,かれらのEPTの手技および症例を見学する機会を得た.今回,これらの体験をもとに西独におけるEPTの現況を紹介する.

EPTの施行例数

 Table 1に西独の各施設におけるEPTの施行例数および切開成功例数を示す.1,499例にEPTが試みられ,1,403例(93.6%)に切開が成功している.注目すべきことは,Prof. Safranyの症例数がとびぬけて多く,545例と西独の総施行例数の1/3以上を占めている.筆者がProf. Safranyのもとに滞在したおり,彼は精力的にEPTにとりくみ,連日,ERCP6~8例,EPT1~2例を施行していたが,その症例数の豊富さには感心した.筆者の勤務していた施設では98例にEPTを試み,90例(91.8%)の切開に成功している.

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 最近,急性胃アニサキス症(Anisakiasis)が北海道を中心として日本全国で多数報告され,一般の関心も高まっている.本症の名称に対し1973年,長野らはヘテロケイルス症(Heterocheilidiasis)と称することを提案し,以後臨床医家の間でこの名称に関する混乱がみられるようである1)~4).われわれは従来どうりアニサキス症の名称が妥当であると考えており5)~7),以下その根拠についてのべる.

 アニサキス属はYork and Maplestoneの分類によれば,Nemathelminthes(線形動物門),Nematoda(線虫綱),Eunematoda(真線虫目),Ascaridea(回虫上科)に属し8),ヒト回虫とはFamily(科)で分けられ,アニサキス属はHeterocheilidae(ヘテロケイルス科),ヒト回虫はAscaridae(回虫科)に含まれる.このHeterocheilidaeは,Heterocheilinae(ヘテロケイルス亜科)やAnisakinae(アニサキス亜科)等に分けられ,このAnisakinaeの中に,Anisakis,Terranova,Contracaecum等が含まれる.このアニサキス幼虫によって起こされた疾病に対し,Anisakiasis(アニサキス症)の名称が一般に用いられた.その後,テラノーバ幼虫による同様疾患が報告され,Terranoviasis(テラノーバ症)または,テラノーバ幼虫による広義のアニサキス症,さらには長野らはヘテロケイルス症と総称することを再提唱した.この新しい名称のきっかけは,Schaum und Mù

llerが1967年Dtsch. Med. Wochr.9) に発表した論文である.それによると26歳の患者が虫垂炎で開腹され,バウヒン弁より30cmの部位に2コのソラマメ大の肉芽腫が認められ,細織学的には変性虫体と好酸球の著明な浸潤を認めたというものである.しかもその虫体の断面よりContracaecum osculatumと同定したがこれらHeterocheilidaeに属する幼虫による疾患をヘテロケイルス症と総称することを提唱した.彼等は,当時俗称的に用いられていたHeringwurmkrankheit10),すなわち「ニシンの寄生虫に起因する病気」というような名称は適切でないからHeterocheilidiasisと命名すべきと提唱したものである.

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 一般的に,胃体上部の癌は小さいながらも進行癌であり,また,粘膜内における癌病巣の拡がりは粘膜下層における拡がりに比べてきわめて小さい場合が多い1)~4).一方,幽門前庭部における癌の粘膜内の拡がりと粘膜下組織以下の層における拡がりはほぼ同じである場合が多い1)~4).これらのことから胃体部の胃癌は粘膜下層へ浸潤しやすい傾向があるのではないかと考えられる.

 この研究の目的は胃癌の組織型および占拠部位別にみた癌の胃壁深達についての検討である.

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 1882年Cripps1)の発表以来,家族性大腸腺腫症は大腸にびまん性に無数の腺腫が発生し,しかもそれらが高率に癌化する遺伝性疾患であることが判明した.その後,大腸外随伴病変として骨腫・軟部腫瘍(Gardner症候群)2),脳腫瘍(Turcot症候群)3),粛牙病変4),甲状腺癌5)6)なども随伴することが報告されてきた.

 最近,本症に胃病変7)~10)や十二指腸病変11)が高率に合併することが,わが国において指摘された.しかし,空・回腸病変の合併については,同部位が診断困難なためか偶然発見されたという報告が散見されるに過ぎない.

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 従来,ことにわが国では感染症などを除くと疾病に対する疫学面でのアプローチが比較的等閑視されてきた.しかし,疾病を予防するには疾病の原因を明らかにすることが第一歩であり,そのためにはcase studyの集積を中心にした経験に立脚する臨床医学だけでなく,populationを巨視的に捉えていく疫学的手法の導入も重要なことである.このような立場から,私たちはこれまでに消化性潰1),胃癌2)などの胃疾患3),あるいは小腸疾患4)に対する疫学的アプローチを試みてきた.

 悪性腫瘍の発生論に関してはいまだ明らかでなく,大腸癌もその例外ではないが,動物実験や糞便の生化学的,細菌学的分析などから一部では腸内細菌叢や胆汁酸の意義などが論じられている5)6)

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 食道にはポリープ状形態を示す腫瘍として,悪性黒色腫,癌肉腫,偽肉腫などが発生する.なかでも癌肉腫と偽肉腫は形態的にも特異な組織像を示し,臨床病理学的にもその鑑別は必ずしも容易でなく興味ある腫瘍である.ここにいわゆる癌肉腫と考えられた食道腫瘤を経験したので考察を加え報告する.

症例

 患 者:69歳 男性 無職

 既往歴:梅毒(44歳),肺結核(51歳),胃潰瘍(55歳)

 現病歴 1970年8月,耳痛,喉頭痛を訴えて治療を受けたことがある.その翌年,背部に痛みを感じるようになり,さらに嚥下障害が加わり,6月には全く食事の摂取が不可能となる.その上,吐血が加わり,本院外来を訪れ,内視鏡検査で食道にポリープ状腫瘤が発見され(Fig.1),組織診の結果では扁平上皮癌と診断され日本医大常岡内科に入院した,入院時諸検査では,X線検査で食道中央部に乳頭状の巨大な腫瘤を認め(Fig.2),その他の検査結果ではTable 1に示すように血液一般検査で,中等度から高度の貧血,糞便の潜血反応陽性,Wa-R陽性(ガラス板法,TPHA法)の他著変なく,入院後,腫瘤摘出不能ということで胃瘻造設術を受けたが3ヵ月後に肺炎を併発して死亡した.

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欧文目次

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 Acute Colitis Resembling Ulcerative Colitis in the Hemolytic-Ur-emic Syndrome: G. E. Cramer, G. E. Burdick(Amer. J. Digest. Dis. 21: 74~76, 1976)

 潰瘍性大腸炎は,種々類似しているものがあり,その確診には急性大腸疾患の他の原因を除外しなければならない.

 最近10歳の少年で,潰瘍性大腸炎に似た直腸鏡およびX線所見を呈し,精査したところ溶血性尿毒症症候群だった例を経験した.子供では大腸の急性潰瘍性病変の鑑別診断に,溶血性尿毒症症候群を含めるべきである.

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 この本はその初版より初心者を対象とし,詳細は専門書にゆずるというたてまえで書かれている.その点で著者の意図は美事に生かされており,本邦ではもっともすぐれた本であると私は思う.この著書は30年間にわたって現在は改訂7版を重ねている.こんなに普及した放射線医学の本は,日本では未だ曾つてない.それだけ歓迎されているのである.この本はX線診断,放射線の生物学的作用,放射線療法の3編に分けてあるがそのもっとも大きな特徴は各編とも簡単明瞭で,しかもいうべきことはおちなく述べているということである.例えば消化管のX線診断をやる人は消化管X線診断学を読んでもらうことにしてこの本ではそこに往々にして欠落しているX線診断とは何か,X線の生物学的作用をどう評価するかについては充分述べている.日本の現状からいっても,ICRPの精神から考えてこの叙述の仕方は極めて適切である.

 他の本に書いてない著者創案も多くある.例えば線コントラストと写真コントラストというようにコントラストを分けていっているが,それについては,私はこの本の初版の当時から感心していて,これを私の本にもとり入れたくらいである.

編集後記 中村 恭一
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 胃癌診断学は,癌であるか否かの質的な面,および癌である場合にはそれがどのような拡がり(浸潤範囲horizonatal spreadと深達度vertical spread)をもっているかの量的な面の決定を含んでいる.本号は前号に続いて癌の拡がりのうち,深達度の判定が主題である.

 癌の深達度の判定は,既存の胃癌診断の方法からは,どうしても粘膜側からみた癌の性状から深部の状態を推定するということが主となってしまう.西沢博士も述べているように,氷山の一角をみて海中にかくれた氷の大きさを推定するのに似ている.氷の例と深達度判定は表面の性状から見えない部分を推定するという点では似ているが,深達度判定は物理系とは異なり完全一様な系ではない生物系であるからなお始末が悪い.

基本情報

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胃と腸
12巻9号 (1977年9月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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