胃と腸 10巻11号 (1975年11月)

今月の主題 胃の良・悪性境界領域病変

主題

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異型上皮に関する統計的事項

 国立がんセンター開院以来11年間(1962年5月~1973年11月)に筆者らによって検索された胃の異型上皮は表1のごとく,44例,49病変である.その内訳についてみると,44例中,17例が単独病変として手術されたものであり,他の症例は良性ポリープ,胃潰瘍,早期胃癌の切除材料でたまたま発見されたものである.現在,異型上皮は生検で癌でないことが判明すれば手術することなくfollow upされているので,生検のみの例を加えると更に例数は増加するが,今回の統計は手術材料にもとついたものである.

 多発の頻度については44例中39例が単発,5例が多発で,11.3%の頻度である(表1).

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 良性と悪性の境界領域にあると思われる病変は,胃においては粘膜が限局性,広基性の隆起を示すものについて約10年ほど前から論議がよびおこされるようになった,このような病変が最近になって発生するようになったとは考え難く,X線や内視鏡等の診断の進歩によってはじめて認識されるようになってきたとみてよいであろう.それはさておき,このような病変が重要視される理由はそれが前癌性の性格をもったものであるか否かの判定が難しい点にあるが,肉眼的に広基性の粘膜隆起を示す多くの切除胃例中から組織学的に,一方では上皮の増生(Hyperplasia)とみるべき変化を示すもの,他方では表面隆起型の早期癌と診断すべき所見を有するものが鑑別されて,そのいずれとも判断しかねるが,さりとて腺腫(Adenoma)のカテゴリーにも入れ難いもののあることからすなわち除外診断法によって境界領域病変という概念が生じた.

 このように“境界領域病変”とは概念的な呼び名であるが,隆起性の胃粘膜においてこのような変化を示すものに対しては,従来異型上皮病変(Atypical epithelium:ATP)とか異型上皮という表現が多く用いられ,“ATP”とはこのような組織像を示す粘膜隆起の略称ともなった感があるが,本来「異型」とは正常な母細胞や母組織からの像の距たり(deviation,Abweichung)を示す用語で種々の臓器組織細胞にみられる現象であるので,このような使い方はあくまで日常用語の略称にとどめるべきで正確な表現とは言い難い.さらに重要なことは,胃粘膜における異型上皮の出現は隆起型の病変のみに限られるものではなく,後述するように陥凹型のものにもみられることがあるので,日常用語の略称としても“隆起型ATP”とか“陥凹型ATP”という呼び方のほうがふさわしいように思う.ともかく異型上皮は凹凸いずれの粘膜病変においても出現しうることをまず指摘しておきたい.

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 異型性の腸型上皮から成る胃病巣は,1928年すでにKonjetznyが慢性胃炎の一つの所見として記載している.これは現在では上皮異型を示すが癌とは断定しがたく,“境界領域病変”としてわくづけられている.この病巣はポリープ状の隆起形態をとるものが多いが,胃固有の腺や腺窩上皮の過形成と広い間質とから成る過形成性ポリープとは病理組織学的にも異質のものとして,腺腫性ポリープ,腺腫,異型上皮巣(中村恭),Ⅱa-subtype(望月),Ⅲ型ポリープ(中村卓)など種々の名称で呼ばれている.

 この異型上皮病巣は隆起型ないしポリープ状形態をとるものが大部分であるが,他に平坦型,陥凹型,噴火口型を示し,必ずしもポリープ形態ばかりではない.諸家が異型上皮病巣とするこの病変は経過観察にても消失することがないといわれる1).われわれが長期観察を行いえた広基性隆起型の同病変2例のうち,7年間観察の1例では大きさに変動をみないが,9年観察の1例では最初12mm径のものが5~6年目で14mm径,7~9年目は17mm径に少しずつ増大した.そして全経過中3回の胃生検でいずれもGroup Ⅲで異型度に差は見られなかった.

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 約10年以前のことであるが,著者がはじめて今日いうところの「異型上皮」の生検組織診断に接したさい,「悪性として処置されたい」旨のreportを記載して,臨床の先生方からお叱りを受けたことがある.その患者が循環器・呼吸器に合併症をもつ高齢者で,生検施行の前後はちょうど寛解期にあって,高いriskながら胃切除術の機会は今をおいて期待できないが,もしも悪性の証拠があれば敢て手術に踏み切るので,病理の判断に待つとのことで,下駄を預けられた形になった.そこで,胃病理の諸先輩をわずらわして御意見をいただき,参考にしたが,何をおいても手術をすべしとの御意見から,5年先には癌になる,10年先までは大丈夫,あるいは悪性化はしない,また正常化するだろうといった,いろいろな御意見を賜ったものである.今からみれば定型的な良性・悪性境界領域性病変で,胃生検組織分類のGroup Ⅲの組織であり,患者は手術されることなく経過観察され,7年後に原発性肺癌のために亡くなったが,胃病変に関してはその間,形,大きさ,性状に変化を認めなかった.

 このような病変は,その後,胃の手術材料中に単独に,あるいは癌病巣と併存して検討される機会も多く,良性・悪性境界領域病変1)~5),異型上皮6)7)8),あるいはⅡa subtype9)などと呼ばれ,形態学的・生物学的にその性格がよく理解されるようになった.しかし,その異型腺上皮増生巣が病理学的な疾患単位として如何なる位置におかれるべきかについては問題が残っているようである.著者はかねて病巣を構成する上皮細胞のうち,特にパネート細胞の分布する位置に問題を求め10),同じく,病巣内において核分剖像のみられる位置にも特徴のある所見を得たので,それを中心に私見を述べたい

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 胃の良・悪性境界領域病変には,最も頻度の高いものとして限局性上皮性の所謂“異型上皮巣”があり,それは臨床的ならびに病理組織学的に分化型癌との鑑別が問題となる.一方,頻度は高くはないが非上皮性に於ても境界領域病変が存在し同様の問題がある.たとえば,所謂“リンパ細網細胞増生”と悪性リンパ肉腫,平滑筋腫と平滑筋肉腫との間にである1)2).このような良・悪性境界領域病変には,たとえそれらが良性と見なされたとしても,時間の経過によって悪性化するか否かの問題があり,さらにはそれらの治療法はといった問題が残されている.

 ここでは,胃の上皮性良・悪性境界領域病変について,根源的なこと,分化型癌との鑑別,さらにはどのように対拠すべきかを筆者らの経験から眺めてみたい.

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 癌の組織学的診断の指標は,浸潤性増殖像と細胞,組織レベルでの異型性であり,特に前者が悪性であるとの確実な証拠として重視されている.しかし浸潤性増殖の所見を把握しえず,しかも癌と同じくらい,またはこれに近い異型性を示す細胞で構成された病変をみた場合,これが本来生物学的に悪性腫瘍であるか,またこれが将来明らかに癌としての充分な所見をそなえるものになりうるかを決定することは,病理学的にもなかなか難しい問題である.しかし,このような良・悪性境界領域病変をどのように考え,どのようにとりあつかうかは臨床的にも非常に重要な課題である.近年,胃内視鏡,胃生検が発達するにつれこのような病態を示す胃粘膜良性・悪性境界領域病変としていわゆる異型上皮巣が注目されているが1)~5),今回はこのうち隆起型の異型上皮巣を中心に筆者の考え方をのべる.

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 腫瘍の良・悪性の組織学的判定は細胞異型,構造異型などの有無によってなされる.細胞異型とは胞体や核の大きさ,形,染色性の不規則性,原形質の胎生期的単純化(小胞体,ミトコンドリヤ等の小器管の発育不良),核クロマチン量の増加,核原形質比の増大,分裂像増加,細胞配列の乱れ(極性の喪失)などの総合的所見である.これらの所見は低分化cataplasia,退分化anaplasiaともいえるが,正常の胎生期の未分化細胞とは様相が異る.しかし,多少の差こそあれ,慢性炎症などの病的環境下における再生上皮にも異型化が現われ,ときにその異型化した再生上皮が過形成の傾向を示し,形態学的に悪性腫瘍との鑑別が困難となることがまれではない.筆者は異型上皮を,1)腸型異型上皮,2)胃型異型上皮,3)中間型異型上皮,4)幹細胞型異型上皮に分け,腸型異型上皮はさらに吸収上皮型,杯細胞型,パネート細胞型に,胃型異型上皮はさらに表面上皮型,偽幽門腺上皮型,その他(主細胞型,壁細胞型)に分けている1).実際に問題になるのは吸収上皮型,胃表面上皮型,中間型および幹細胞型である.このうち最も重要なものは吸収上皮型異型上皮で,本論文ではこの型の異型上皮に重点を置いて述べることにする.

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 X線診断や内視鏡診断技術の著しい進歩に伴って,早期胃癌をはじめ胃内の微細病変が多数発見されるようになってきた.今回のテーマ“良・悪性の境界領境病変”も,診断技術の進歩と共にクローズアップされてきたと言ってよかろう.この病変は,異型上皮1)~4),Ⅱa-subtype5)6)など種々な名称で呼ばれているが,一般には異型上皮と呼ぶ場合が多いようである.異型上皮は,組織学的に“良性病変”でもなく,また“癌”でもない“境界領域”に属する病変であると佐野は述べている7)

 異型上皮は一般に隆起を示すものが大部分で,陥凹あるいは平坦のものは数がすくない3)4)7).そして多くの揚合には隆起型早期胃癌,ことにⅡa型早期胃癌と肉眼所見が非常によく似ている1)2).にもかかわらず異型上皮は,良性病変とは言えないし,“癌”とは決めにくく,しかも“癌化”の傾向は低いとされており3)7),異型上皮とわかれば経過観察してよいというのが大方の考えである.したがって,異型上皮がわれわれ臨床家とくにX線診断家の間で問題となるのは,Ⅱa型あるいはⅠ型早期胃癌との鑑別がたいへん難かしい1)2)ということである.

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 早期胃癌診断が発達してきた過程の間に,病理組織学的に良性と悪性のいずれとも診断しがたい境界領域の病変が注目されるようになってきた.これらの大部分は,扁平広基性の隆起性病変であるが,極めて少数例ではあるが,陥凹型の病変も見出されている.この隆起性の病変については,既に1960年,松本(道)が浴風園の高齢者の剖検症例の胃を検索し,平盤状隆起として報告しており,同じ頃,中村(卓)は養育院の高齢者の剖検症例の胃に見出された同様な病変を,彼のポリープ分類のうちⅢ型ポリープしている.1965年,長与は胃粘膜上皮の異型増殖について,また菅野,中村(恭),高木らは異型上皮巣について,いずれも切除胃の病理組織学的検索成績を報告している.1967年,われわれは,この種の病変が良性の過形成性胃ポリープやⅡa型早期胃癌とは異る特有な内視鏡所見と組織像を有すると共に,高齢者で腸上皮化生を伴う高度の萎縮性胃粘膜内に見出され,高度の低酸ないし無酸を伴うなど,特徴的な臨床像を示すことを明かにし,Ⅱa-subtypeと仮称した.さらに,この病変の本態を明かにするためには,慎重な経過観察が必要であることをのべた.1968年,佐野は同様の病変を扁平ポリープとして分類した.その後,1970年,胃癌診断のための生検診断規準が提案され,この種類の病変は生検組織学的にGroup Ⅲに属する病変として取り扱われるようになった.

 以上のような歴史的経過からも明かなように,報告者ごとに,同一の病変に対する呼称がことなっている上に,それぞれの概念規定に差があるため,報告者によっては,異った病変を含めて問題を提起しており多少の混乱が生じている.たとえば単に異型上皮と称する場合には,潰瘍辺縁やびらんの後の再生時の未分化な上皮や,再生時の化生性腸上皮まで含めて論じられおそれがある.しかし,このような変化は生検組織学的には,Group Ⅱに分類されるべきものである.また,Atypical epitheliumの略語としては全くつじつまのあわない表現であるにもかかわらず,現在ひろく用いられているATPという診断名は,陥凹型の病変に対してもしばしば適用されているが,再生性の上皮,特に化生性腸上皮との鑑別はむずかしい.また生検組織学的にGroup Ⅲと診断された上皮は直ちにⅡa-subtypeと全くsynonymではない.後述するごとく,Ⅱa-subtypeとは,単にGroup Ⅲと判定しうる組織学的所見のみならず,特徴的な内視鏡的所見や臨床像をともなっている変化であり,一つの総合的な概念である.また,生検組織診断に際しては,Group Ⅲと診断された病変が,経過をおうにしたがい,よく分化した腺癌と,判定せざるをえないことも生じてくる.胃癌診断のためのこの生検診断規準分類という物差しは,各時点における生検組織片に対する病理組織学的判断を明記することを要求しているに過ぎない.良性悪性の境界領域病変を定義する場合には,よく分化した腺癌と,再生時にみとめられる諸種の異型上皮をできるだけ除外して,両者いずれにも分類しえない病変がとり上げられなければならないだろう.われわれの経験によればこのような病変は大部分は隆起型であり,われわれがかりに提起しているⅡa-subtypeに属すると考えられる.

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 村上(司会) 今日はお暑いところを皆さんお集りいただき,ありがとうございます.

 長与先生が新幹線の故障で遅れられるということで,ちょっと残念です.というのは,境界領域という言葉が示すように,これを癌とするか,良性とするか,あるいはその間の中間的な存在とするかは,全くといってもいいほど病理学的な問題であり,そのために,今日は病理のご専門の方5人──早期胃癌研究会に御関係の病理学者の全部に当たるわけですが──にご出席いただいて,この問題を煮詰めていただこうと思ったわけです.ことに長与先生は,境界領域の診断を決める細胞学的な特徴だとか,あるいは構造異型の問題など,一番初めに整理した論文を発表されたように思っておりますので,ぜひ長与先生にきていただきたかったのですが,もし間に合わなければ誌上ででも参加していただくことにいたしましょう.

胃と腸ノート

重複胃癌(4) 三宅 政房 , 安井 昭
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 重複癌の遠隔成績については,症例が少なく十分な検討はできないが,5年経過例10例でその5生率を検討すると,早・早重複で100%,早・進および進・進重複で50%であり,他の胃癌のそれよりもやや良い傾向にある.今後さらに症例を増し.検討を進めなければならないが,梶谷1)も述べているように,第2の癌も十分な根治手術の対象になりうる.しかし,副病巣が主病巣の口側(oral)にある場合の診断率が悪く,また三重複以上になると0.52cm以下の病巣が多いことを考えあわせると,術前診断および肉眼視が的確ならば重複癌においても十分根治術の対象となりうるであろう.

 一方,組織学的な検索として重複早期癌の伸展形式があげられる.今回は外科的に切除された標本についての考察であり,重複早期癌においてさえその個々の病巣が同時性に発生したものか否かをきめることは今のところ不可能である.すなわち,癌の占める面積が他のそれよりも,より面積がひろいからといって,またより深達度が深いからといって,その癌が他の癌よりもより早い時期に発生したという証拠にはならないし,また組織学的見地からみても,主,副病巣の組織型の差異については同型のもの,異型のものがそれぞれ約半数ずつであった.村上2)は,同一胃内において腸上皮,再生上皮の両者が同時に癌巣を発生せしめ得るし,また,多発した癌巣の組織像も必ずしも一様でない.大きな癌巣の周囲の非癌性上皮が恐らく遙か後になって癌巣を新しく発生せしめたと思われる像が証明されており,多発性という語にはこのような種々の意味が含まれている.時間がたてば一定面積内に多発性に発生した癌巣は互いに融合して一見一つの大きな癌巣のように見えるわけであり,これが一般に切除される胃癌の姿であろうと述べている.また,はじめは同一組織像を示していたような揚合でも,私どものcriteriaからすれば主病巣は副病巣より進展しており,肉眼的にも癌が進行すれば,始めは限局型であっても次第に浸潤型の様相を呈し,組織学的にも浸潤傾向を増し,始めの時期より異なった組織像を呈するであろうことは想像に難くない.

大腸血管造影のmerit(4) 木戸 長一郎
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 感受性の高い種々の検査やX線診断の技術開発にもかかわらず,消化管の出血源が不明な症例は相当数あり,Katzによれば19~22%に及ぶ.大量出血の場合,出血源の局在診断が患者の生と死を決定する理である.

 選択的血管撮影が出血源探索に有用であることはBaumらにより,1963年以来報告されて来た.実験では毎分0.5~0.6mlの出血量があれば血管撮影において証明されると言われている.Nusbaumらは60例の消化管出血症例に対し75%の高率で出血源を発見した.

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 排泄性胆道造影法で,胆道疾患の診断をするには,少なくとも2つのことが要求される.その1つは,よい胆道像をうることであり,他の1つは,えられたレ線写真をいかに読むかである.

 よい胆道像をうるためには,造影剤を効率よく肝から排泄させることであるが,このためには,胆道造影に先立って,肝機能の状態を把握しておく必要がある.普通は,初診で胆道疾患が疑われても,すぐに胆道造影を施行しなければならないようなことは少なく,まず,肝機能検査を行なって,その結果によって胆道造影を行なっても,決して遅くはない.

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 内視鏡的膵・胆管造影の英文略称についてはまだまだ問題がある.

 「胃と腸」の10巻4号にも,小越和栄博士と春日井達造博士が「話題」として,EPCGかERCPかを論じておられる.

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 最近家族性大腸ポリポージス(familial adenomatosis of the colon)(以下FACと略す)に対する詳細な臨床研究が行なわれるようになり,従来大腸病変のみが診断・治療の対象とされてきた本症において,大腸以外の臓器,組織にも高頻度に腫瘍性病変を合併することが報告され,遺伝学上でもまた臨床面でも多大の関心を呼んでいる.著者らはさきにFACに上部消化管病変の合併が多いことを報告し,その中で多発胃癌を合併した症例の姉に脳腫瘍の合併が見られたことに触れたが1),今回その詳細を報告するとともに,文献に見られるFAC・脳腫瘍合併例,すなわちTurcot症候群(T症)を集計し,その病態につき若干の知見を得ることができたので報告する.

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 Cronkhite-Canada症候群は非遺伝性に主として中年以後に発症し,消化管polyposisに皮膚色素沈着,爪の萎縮および脱毛を伴うきわめて稀な疾患とされている.

 最近,われわれは短期間に胃polyposisの著明な増大を認めた本症候群の1例を経験し,剖検する機会を得たので報告する.

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 Kussmaul,Maierが1886年はじめて,結節性動脈周囲炎を報告して以来,本症は臨床的に,腹痛,食思不振,体重減少,嘔吐,腹部膨満,さらには下血などさまざまな腹部症状を伴うことが知られている1).また剖検では,胃腸管壁に多発性潰瘍がしばしば見いだされることが知られている.しかし臨床上,これらの腹部症状が重篤で外科手術の対象となる例は欧米では多数の報告1)~11)があるが,わが国ではきわめて少ない12)13)

 今回われわれはイレウス症状で発症し,2回の腸切除術後死亡,剖検しえた1例において,腸間膜,腸管にきわめて限局した本動脈炎の存在と,それのもたらす,腸壁壊死,潰瘍および穿孔,粘膜下の出血および線維化など多彩な腸管病変を観察したので,報告する.

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 空腸平滑筋腫の診断は現在の進歩した手段をもってしてもなお困難で,過去に報告された症例の大半は,下血,閉塞などにより緊急開腹時に見いだされたもの,腫瘤を腹壁より触知して摘出により判明したものなどで,術前診断された例はごく稀である.われわれは頻回に下血をくり返し,レ線や内視鏡検査で原因の判らぬまま,対症療法に終始していた患者に選択的腹部血管撮影を行ない,空腸起始部に腫瘍陰影を発見,平滑筋腫の疑いを持ち,術後組織的に確認しえた1例を経験した.

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欧文目次

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 大腸は,胃と比較すれば,機能的には単純であるが,形態的には複雑である.近時,大腸ファイバースコープの発達により,その内腔を直視下に観察することが可能になったが,胃の場合のようにルーチンに行うわけにはいかない.したがって,X線検査の占める役割はより大きい.上部消化管の診断において世界を席巻したわが国の医学が,漸く下部消化管の領域にその歩を進めつつある時,その嚆矢として本書が刊行されたことは必然性のあることのように思われる.

 この書は,単なる古典的教科書ではなく,また症例集でもない.著者自らが述べているように,“物に憑かれた心境”において始めてなしうる,若々しい情熱がほとばしる一つの芸術的作品と言ってもよい.本書の何よりも大きな意味は,すべて自らの経験に基づいて述べられ,しかも,それが昭和10年代生まれの若い学徒によりなされたことである,今日まで,わが国の教科書と言えば,他人のものも自分のものも区別なく,中には不消化なままくどくどと述べたものが多かった.本書はそのような安易なやり方に対する痛烈な一矢であり,この書に接する読者に,単に知識のみならず,人の心を勇気づける力を与えてくれるものと思う.

書評「胃内視鏡診断学」 城所 仂
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 日本における胃疾患の研究の進歩は,胃内視鏡の発展進歩の歴史と切っても切れない密接な関係にあると言えよう.日本における胃カメラ誕生の歴史を宇治博士と同じ医局で東大分院において経験してきた筆者は,宇治博士が昭和24年頃と思うが医局の先輩の故坂本博士の胃潰瘍を臨床第一号として撮影し,その所見をもとに故福田保先生が手術された頃のことが今更のように思い出される.宇治博士が大宮に開業され,その後を引き続いて今井博士が基礎実験を重ね,昭和28年外科学会総会において天然色撮影の臨床報告をしたのが日本における胃カメラ開発の初期であったと思う.

 その後,田坂教授門下の崎田博士(現筑波大学教授),芦沢博士(現東京医大教授)らが積極的に推進されることになった.

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 川井教授は,本書で特異なことは時代錯誤と思われようが私たちの研究を担当していた仲間に分担執筆してもらったこと,と述べているが,ねらった内容の特徴と共にそうした共著する上の特異さがこの書物の生命ではなかろうか,そんなことをまず考える,そのために骨組がしっかりとして,直截的な表現に統一されてどれだけ読者の理解を容易にし,また内容の密度を高めえたことか.この書物はなによりもそうした個性を感じさせる.

 目次を一見してわかることであるが,基本的な要点を尽くす一方では,最近の知見を余すところなくとりあげているから,ひとり専門域の研究者に示唆を与え関心をよぶばかりでなく,実地医家,研修医,学生にとっても座右にあって極めて利便が与えられる.

編集後記 村上 忠重
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 「胃と腸」の編集会議が,毎回テーマを決めるために議論沸騰し,時として深夜に及ぶことは前にも書いた.

 本号の「胃の良・悪性の境界領域病変」は以前から何度も予定テーマとして候補に上がりながら,その取り上げ方がむずかしく,久しく実現に至らなかったテーマである.

基本情報

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胃と腸
10巻11号 (1975年11月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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