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書評「大腸の癌・ポリープのX線診断と病理」
宇都宮 譲二
1
1東京医科歯科大学第2外科
pp.1442
発行日 1975年11月25日
Published Date 1975/11/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1403112167
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大腸は,胃と比較すれば,機能的には単純であるが,形態的には複雑である.近時,大腸ファイバースコープの発達により,その内腔を直視下に観察することが可能になったが,胃の場合のようにルーチンに行うわけにはいかない.したがって,X線検査の占める役割はより大きい.上部消化管の診断において世界を席巻したわが国の医学が,漸く下部消化管の領域にその歩を進めつつある時,その嚆矢として本書が刊行されたことは必然性のあることのように思われる.
この書は,単なる古典的教科書ではなく,また症例集でもない.著者自らが述べているように,“物に憑かれた心境”において始めてなしうる,若々しい情熱がほとばしる一つの芸術的作品と言ってもよい.本書の何よりも大きな意味は,すべて自らの経験に基づいて述べられ,しかも,それが昭和10年代生まれの若い学徒によりなされたことである,今日まで,わが国の教科書と言えば,他人のものも自分のものも区別なく,中には不消化なままくどくどと述べたものが多かった.本書はそのような安易なやり方に対する痛烈な一矢であり,この書に接する読者に,単に知識のみならず,人の心を勇気づける力を与えてくれるものと思う.
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