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重複癌の遠隔成績については,症例が少なく十分な検討はできないが,5年経過例10例でその5生率を検討すると,早・早重複で100%,早・進および進・進重複で50%であり,他の胃癌のそれよりもやや良い傾向にある.今後さらに症例を増し.検討を進めなければならないが,梶谷1)も述べているように,第2の癌も十分な根治手術の対象になりうる.しかし,副病巣が主病巣の口側(oral)にある場合の診断率が悪く,また三重複以上になると0.52cm以下の病巣が多いことを考えあわせると,術前診断および肉眼視が的確ならば重複癌においても十分根治術の対象となりうるであろう.
一方,組織学的な検索として重複早期癌の伸展形式があげられる.今回は外科的に切除された標本についての考察であり,重複早期癌においてさえその個々の病巣が同時性に発生したものか否かをきめることは今のところ不可能である.すなわち,癌の占める面積が他のそれよりも,より面積がひろいからといって,またより深達度が深いからといって,その癌が他の癌よりもより早い時期に発生したという証拠にはならないし,また組織学的見地からみても,主,副病巣の組織型の差異については同型のもの,異型のものがそれぞれ約半数ずつであった.村上2)は,同一胃内において腸上皮,再生上皮の両者が同時に癌巣を発生せしめ得るし,また,多発した癌巣の組織像も必ずしも一様でない.大きな癌巣の周囲の非癌性上皮が恐らく遙か後になって癌巣を新しく発生せしめたと思われる像が証明されており,多発性という語にはこのような種々の意味が含まれている.時間がたてば一定面積内に多発性に発生した癌巣は互いに融合して一見一つの大きな癌巣のように見えるわけであり,これが一般に切除される胃癌の姿であろうと述べている.また,はじめは同一組織像を示していたような揚合でも,私どものcriteriaからすれば主病巣は副病巣より進展しており,肉眼的にも癌が進行すれば,始めは限局型であっても次第に浸潤型の様相を呈し,組織学的にも浸潤傾向を増し,始めの時期より異なった組織像を呈するであろうことは想像に難くない.
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