精神医学 61巻1号 (2019年1月)

特集 高齢者のメンタルヘルス

特集にあたって 粟田 主一
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 わが国は世界最高水準の長寿国である。厚生労働省の簡易生命表によれば,日本人の平均寿命は戦後ほぼ一貫して上昇し続け,2017年には男性が81.09歳,女性が87.26歳に達している。平均寿命の延伸はわが国の高齢化を進展させ,2025年には国民の30%が65歳以上,18%が75歳以上となる。高齢者人口の増加は加齢に関連する精神疾患も増加させる。厚生労働省患者調査によれば,2002年〜2014年の間に,うつ病の総患者数は1.6倍,睡眠障害は2.3倍,認知症は6.0倍増加している。今やわが国の精神保健,医療,心理臨床にかかわるすべての専門職が,高齢者のメンタルヘルスについて深い知識を持ち,それぞれの立場でそれにかかわることが求められる時代にきている。そのよう社会状況を鑑み,「高齢者のメンタルヘル」をテーマとする本特集を企画した。

 本特集では,はじめに,日本老年精神医学会理事長である池田学先生が,高齢者のこころの健康問題全般を展望し,今日の老年精神医学が直面している課題と求められる役割について解説している。続いて,埼玉県立看護大学の金野倫子先生が,高齢者の睡眠障害の疫学,加齢との関連,精神疾患との関連,高齢者の不眠治療の基本的考え方を解説している。東京慈恵会医科大学の忽滑谷和孝先生は,高齢者の不安障害の疫学,健康問題への影響,他の疾患との関連を解説し,その対応と予防について実践的な論考を加えている。熊本大学の藤瀬昇先生は,高齢者の気分障害の疫学・病態・臨床を解説した上で,特に自殺との関連について,自殺者の中で高齢者が占める割合は依然として高いこと,予防対策では社会的サポートの充実が重要であることを指摘している。聖マリアンナ医科大学の袖永光知穂先生と堀宏治先生は,高齢者の妄想性障害の概念を解説した上で,高齢者の心理を理解する上で遅発パレフレニー概念が有用であることを指摘している。東京都立松沢病院の新里和弘先生は,若い頃に発症し,長年にわたって希薄な人的交流の中で暮らしてきた高齢の統合失調症者にとって,現代社会は決して暮らしやすい社会ではないこと,若い時代からの統合失調者への支援のあり方が重要な意味を持つことを指摘している。社会福祉法人杏嶺会いまいせ診療センターの水野裕先生は,「認知症とともに生きる人々の苦悩を軽減し,日々の幸せを実感するような診療があるとすれば,どのようなものであろうか?」と問題提起し,「疎外感」,「自尊心」,「体調」,「気になること」,「やりたいという気持ち」という本人の体験に焦点をあてた日常診療について述べている。東京都健康長寿医療センター研究所の増井幸恵先生は,超高齢期に体験される可能性がある老年的超越が高齢者の心理的危機に対して補償的役割を果すことを研究データで示し,高齢者のメンタルヘルスにおける老年的超越の意義を論じている。慶成会老年学研究所の黒川由紀子先生は,「死すべき運命を持つ人間が,死を踏まえた上で,限りある生をいかに過ごすかという課題」を前にして,ふつうの高齢者が表す「小さな英知」や「ささやかな創造性」を“後押し”できることが,心理臨床の専門家の望ましいあり方であると述べている。

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はじめに

 わが国は世界一の長寿国であり,すでに高齢化率は27%を越えて,これまで人類が経験したことのない超高齢社会の只中にある。高齢者,とりわけ認知症を抱える高齢者にやさしい地域社会(dementia friendly community)作りは,わが国の認知症政策の根幹をなす認知症施策推進戦略(新オレンジプラン)(表)6)の副題にも掲げられているが,このように強調されなければならないほど,現代社会は高齢者,特に認知症を抱える高齢者にはやさしくない,生きづらい社会になっているということの裏返しと考えるべきであろう。

 高齢化の進展により,一般の精神科医が遭遇する患者の平均年齢も必然的に高齢化し,高齢者のこころの健康問題に直面する機会が急増している。本特集でも,統合失調症や気分障害,不安障害を抱える高齢者の精神保健が論じられている。一方で,認知症やせん妄,高齢者の睡眠障害などは患者数がきわめて多く学際的にさまざまな診療科が関心を持ち始めていて,高齢者に対する薬物療法も含めて,必ずしも担当診療科が決まっておらず,重複しているならまだしも,場合によっては医学教育や研修の中でも抜け落ちている恐れもある。

 本稿では,本企画で依頼された趣旨に基づき,本年6月に拝命した日本老年精神医学会の理事長としての立場で,高齢者のこころの問題,老年精神医学が直面している課題と求められる役割について概観してみたい。

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はじめに

 睡眠の問題は加齢に伴って増加することはよく知られている。わが国における2000年代の調査では,基本的には健康だが睡眠の量や質に何らかの問題を抱える人の割合は,60歳以上では約30%(29.5%)で,他の年代,たとえば40〜50歳台の18.9%と比べても約1.5倍となっている22)。このような傾向は諸外国の報告においても認められる23)

 一方,睡眠の問題は年代を通じて本人の生活の質(quality of life:QOL)を大きく低下させることが示されてきたが,近年ではさまざまな身体疾患,精神疾患のリスクを高めることが相次いで報告されている。さらに最近では,身体疾患,精神疾患の病理と不眠の間には双方向性の関係がみられるという報告も増加している。

 本稿では,高齢者の不眠についてその特徴を整理し,他の疾患リスク,特に精神疾患のリスクとの関係について,これまでの報告を展望する。次に高齢者の不眠に対して治療的介入をする場合に留意しておきたい点について解説する。また,本稿では「睡眠の問題」,「不眠」を睡眠に関する自覚的訴え全般として,実際に診断される「不眠症」やその他の「睡眠障害」と区別して用いる。

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はじめに

 うつ病は過去を振り返る喪失の病であり,不安は将来に対する懸念を持ち,その背景に死への恐怖,生への執着がある。高齢者は,振り返るには十分すぎる歴史を持ち,死を考える機会が多く,うつと不安が多い。一方,高齢者は長い間培った経験を持ち,うつや不安を乗り越えるか,やり過ごす術を知っている。ただ,知っているのと実際できることは異なる。このように青年期,成人期と性格を異にする高齢者の不安障害についてあらためて考えてみる。

 不安障害に関する研究報告は1990年代から2000年代に多く,高齢者に限定すると近年では少ない。そのため心的外傷後ストレス障害,強迫性障害,身体表現性障害なども混在した報告が目立つ。

 International Classification of Diseases, Tenth Revision(ICD-10)によると不安障害は,神経症性障害,ストレス関連障害および身体表現性障害の中に含まれ,恐怖症性不安障害とその他の不安障害に大別される。前者は,主に広場恐怖,社交恐怖,特定の恐怖症を含み,後者は,恐慌性障害(パニック障害),全般性不安障害などがある。

 従来の神経症と言われていた強迫性障害,解離性障害,身体表現性障害などは,厳密には不安障害とは別の障害として分類されている。Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fifth edition(DSM-5)でも,不安症群/不安障害群には,限局性恐怖症,社交不安/社交不安障害,パニック障害,広場恐怖は含まれているが,強迫症(強迫障害)および関連障害,心的外傷およびストレス因関連障害群,解離性障害,身体症状症などはICD-10同様に不安障害とは分けて取り扱っている。

 本稿で概説する高齢者の不安障害も,それに準じて,強迫性障害,心的外傷後ストレス障害,解離性障害は除くが,身体表現性障害(身体症状症)は頻度も高いことより,触れることにする。

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はじめに

 一般的に高齢期は,健康の喪失,退職や子らの自立による役割の喪失・縮小,離別・死別による身近な人間関係の喪失など,さまざまな喪失を体験する時期である。一方,うつ病者の心理状態は「過去の肥大と未来の萎縮」とも言われており,ライフサイクル的にみて高齢者は抑うつに傾きやすい心性を有していると言える。

 2013年に約20年ぶりに改訂された米国精神医学会のDiagnostic Statistical Manual of Mental Disorders, Fifth edition(DSM-5)では,気分障害というカテゴリーがなくなり,抑うつ障害群と双極性障害および関連障害群とに分けられた。これは,さまざまな方面からの研究データの蓄積により,大うつ病性障害と双極性障害とでは生物学的基盤がかなり異なっており,双極性障害はむしろ遺伝学的にも統合失調症に近いと考えられるようになったものであるが,本稿では便宜上,従来通り気分障害というカテゴリーを用いて,うつ病を中心に高齢者のメンタルヘルスについて述べることとする。

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はじめに

 わが国では人口の高齢化に伴い2016年に厚生労働省から公表された新オレンジプラン9)によると,認知症に罹患する高齢者は,2025年には約700万人となり,高齢者の約5人に1人が認知症に罹患すると推計されている。

 高齢者が増加することによって,認知症以外の,高齢発症の統合失調症,妄想性障害,うつ病,躁病,不眠症などの増加も見込まれるところである。厚生労働省の患者調査10)によると,2014年には精神疾患患者総数は約392万人,そのうち認知症疾患患者数は67.8万人(2011年の51.2万に比べて約3万人増)であった。妄想性障害は,統合失調症,統合失調症型障害とともに1つの疾患単位として集計されており,2011年71.3万人,2014年には77.3万人と,2002年調査以降は70万人台で推移し,患者数の大きな変化はなく,高齢者の妄想性障害に限っての患者数は明らかでない。

 妄想性障害は,米国精神医学会による診断基準DSM-52)によると,表1に示すとおり,

 A) 1つまたはそれ以上の妄想が1か月間またはそれ以上存在する。

 B) 統合失調症の基準A(妄想,幻覚,まとまりのない発語,ひどくまとまりのない,または緊張病性の行動,陰性症状)を満たしたことがない。

 C) 妄想またはそれから波及する影響を除けば,機能は著しく障害されてはおらず,行動は目立って奇異であったり奇妙ではない。

 以上,A),B)妄想主体で,C)妄想以外の機能の障害がないことが,中核的な症状と示されている。

 高齢者においては,脳の形態や機能の変化,糖尿病や高血圧などの身体疾患,視力,聴力,運動機能の低下などの加齢性の変化をほとんど常に伴う。そのため,高齢者の精神疾患を診るときには,これらの身体的な要因も含めながら診断していく必要がある。また,従来診断では,妄想性障害を含む統合失調症圏内の疾患,感情障害圏内の疾患などを広く老年期精神障害と診断し,認知症との鑑別を主眼においてきたところ,DSMやICDなどの記述的診断の汎用化に伴い,統合失調症圏の疾患が,統合失調症,統合失調型障害,妄想性障害に細分化されたことにより,高齢者初発の統合失調症があるのかという疑問や,妄想性障害と統合失調症との境界があいまいであると繰り返し指摘される7,8)ように,妄想性障害の診断はより複雑化してきている。

 その一方で,高齢者の妄想性障害と認知症に伴う行動・心理症状(behavioral and psychological symptoms of dementia:BPSD)を鑑別する際,いずれは認知症への移行が見込まれるものであるがその時点では妄想性障害と診断するのか,初期症状として妄想が前景に認められる認知症と診断するのか,判断に迷うことの多さも指摘されてきた7,8)

 そういった中で,妄想性障害,認知症によらない高齢者の幻覚妄想について,従来診断として,遅発性パラフレニー,接触欠損パラノイドなどの類型化を用いて,高齢者の心理を理解することの大切さが繰り返し提唱8,18)されてきている。いずれも人生後期の発症であり,その特徴として,社会的孤立や女性優位の発症などが挙げられ共通点が多いため,本稿では代表的な類型として遅発性パラフレニーを紹介する。

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はじめに

 現在の社会が高齢統合失調症者にとって暮らしやすい社会かどうか,病態により一概には言えないであろうが,ある程度病状が残る統合失調症者にとってはかなり厳しい社会なのではないだろうか。たとえば高齢者の生活と切っても切り離せないものに介護保険制度があるが,介護保険の基本は,サービス供給者と需要者の「契約」である。人との付き合いを最小限にして生きてきた高齢統合失調症者は多く,そのような者の多くは介護サービス導入にまでたどり着けていない。「地域包括ケアシステム」が超高齢化社会に向けてのキーワードとされており,この仕組みの最終的な目標が「地域づくり」であることは知られているが,地域包括ケアの恩恵にあずかるためには,その街に暮らしていることが前提である。高齢統合失調症者は,地域に「番地」は持っていても暮らしてはいない。もちろんすべての者ではないが,特に「高齢」「単身」の患者は,地域での人的交流が希薄である。認知症カフェが流行りであるが,そのような場に出入りしている高齢統合失調症者はおそらくきわめて少ないのではなかろうか。

 高齢統合失調症者の社会からの籠居率を小さくするための,また現時点で籠居している者の生活の質を上げるための方策は何か,ということが本論に求められた論題と考えるが,結論を先に述べるならば,発病から数年〜10数年の統合失調症の治療技術を向上させ支援体制を充実させるということが,最終的には最も必要とされることであろう。統合失調症は若い人の病気である。年をとってからでは遅すぎることが多すぎる。とは言え,未治療で経過し高齢化してから症状が顕在化する例もあり,来るべき超高齢化社会に向け,高齢統合失調症者の生活上の問題を整理しておくことも重要と考える。若干の考察を交えて以下に記載した。

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はじめに

 ひと昔前,痴呆と呼ばれていた時代は,認知症に関する話題は,誰がどこで介護をし,いかに問題が起きないように管理をするかが至上命題だった。しかし,今,時代は変わり,いかに認知症とともに,よりよく生きるか(living well with dementia)6)に焦点が当てられるようになった。この流れは,早期の診断が可能となり,勇気を持って認知症に罹患していることを社会に向けて発信をしている当事者の存在や,医学モデルだけでは解決しない,社会モデルとして病気を考えるという社会全体の動きに影響を受けたものだろう。

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はじめに

 これまで,高齢者のメンタルヘルスの維持・向上には,中年期までの健康状態や社会的な活動を維持すること,すなわち活動理論的な方略をとることが重要であるとされてきた。しかし,高齢期の伸長は虚弱な高齢者を数多く生んでいる。2016年度の85歳以上高齢者における要介護1以上の割合は46.7%にも及ぶ5)。高齢期の諸機能やそれに伴う社会的ネットワークの低下はメンタルヘルスの低下やうつ病の発症を増加させると言われている4)。さらに,メンタルヘルスの悪化は,意欲や日常行動の頻度の低下も引き起こし,諸機能のさらなる低下をもたらすことが危惧される。このような背景から,身体的問題により活動理論的な方略を取って再適応を図ることが困難な高齢者の精神的健康の維持につながる新たな方略を示すことが重要となっている。その際の心理的な方略のひとつとして注目されるのが,高齢期に発達し,メンタルヘルスの維持と深く関連するとされる老年的超越(gerotranscendence)7,8,13,14)である。

 本稿では,近年,高齢期における心理的な発達の一つとして注目される老年的超越について解説し,それが高齢期のメンタルヘルスの維持・向上と深く関連していることを論じていく。なお,本稿が論拠とするのは,地域在住高齢者を対象とした比較的大規模な調査研究からのデータからの検討がほとんどである。そのため,「精神的健康」や「メンタルヘルス」については,臨床的に診断されたうつ病やその他の精神疾患の罹患率や発生ではなく,質問紙の形式で収集される精神的健康や幸福感などを用いて論じていくことをお許しいただきたい。「精神的健康」や「メンタルヘルス」の測定尺度としては,日本版World Heath Organization Mental Health Well Being Index-five items(WHO5-J)を用いている研究が多い1)。この指標は5項目で,メンタルヘルスのポジティブな状況を評価する文言で構成されている。そのため,一般住民を対象として実施する際にも抵抗が少なく利用できる。この尺度では,総得点を指標とした場合にはメンタルヘルスを量的に評価するものであるが,13点未満ではうつ病の罹患率が高いことが報告されており4),13点未満の者をうつ病の罹患リスクが高まるものとして,カットオフ値的に利用されることも多い。

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はじめに

 高齢者の英知や創造性に目を向けることは,年齢を重ねた人間存在の多様な側面に光をあて,社会における可能性や限界を再考することにつながる。従来,高齢期は「衰退・喪失」の時期とされ,古い精神医学の教科書には,『高齢者は「頑固」,「けち」,「つまらない物を集める」』など,高齢者のネガティブな要因が列挙されていた。現在,高齢期をネガティブに捉え,「衰退・喪失」の時期とみなすことに対し,さまざまな立場から異論が出されている。医療・保健・福祉の発展,栄養状態の改善,健康教育の浸透などにより,人の寿命が延び,老化に対する予防が提唱される昨今,高齢者の心身の機能が以前より改善し,「5年から10年若返った」と指摘されることもある。世界に先駆けて超高齢社会を迎えた日本では,本稿のテーマである高齢者の英知や創造性に関する研究が徐々に進行し,高齢者の特性,役割,定義を見直す動きもある。

 高齢者の英知と創造性はどのように位置付けられ,英知と創造性にはどのような要因が関連するのか,どのような高齢者を指して英知があり創造的とみなすことができるのか,高齢者の英知と創造性をめぐる課題にはどのような事があるのだろうか。

 本稿では,高齢者の英知と創造性に関する言説を概観した上で,高齢者心理臨床における英知と創造性について検討を加えることとする。

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抄録 ケースマネジメントは地域精神科医療の中核的な支援技法である。本研究は外来患者におけるケースマネジメントの対象患者と非対象患者の特徴を探索的に検証した。単変量解析では,基本属性や機能,ケースマネジメント導入基準アセスメントの各項目を含む多くの変数で両群に有意な差が観察された。Stepwise法を用いたロジスティック回帰分析では,行政介入(OR=20.96, p<0.05),統合失調症の診断(OR=2.43, p<0.05),過去の入院経験(OR=4.18, p<0.05),家族同居以外の住居形態(OR=3.01, p<0.05),家族への暴力(OR=3.92, p<0.05),精神障害者保健福祉手帳(OR=4.38, p<0.05),地域福祉サービス(OR=3.27, p<0.05)がケースマネジメントの有無に関連する変数として抽出された。今後,より厳密なデザインで変数間の関連を検証する必要がある。

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抄録 アルツハイマー病(AD)173症例およびレビー小体型認知症(DLB)42症例を対象として,もの忘れ外来初診時に半構造化インタビューを行い,患者本人の主訴の内容を分類してADとDLBを比較するとともに,主訴に影響を与える要因を検討した。「もの忘れ主訴群」「具体的身体愁訴群」「訴えなし群」「その他群」の4群の患者比はADとDLBで有意に異なっており,DLBでもの忘れ主訴群が少なかった。「疾患関連主訴群」「具体的身体愁訴群」「訴えなし群」の3群の患者比もADとDLBで有意に異なっており,DLBで疾患関連主訴群が少なかった。この3群間の比較検討では,ADとDLBともに,具体的身体愁訴群と訴えなし群で,認知機能障害の全般重症度が疾患関連主訴群よりも有意に重度であった。もの忘れ主訴群がDLBで少なかったことの背景には,DLBの症状の多様性があると考えられた。疾患関連主訴群がDLBで少なかったことの背景には,DLBでADよりも病識の低下が進行している可能性と,DLB患者が訴えるはずの幻視などの症状が,特に初診の場面では患者にとって言語化しにくいという可能性が考えられた。

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抄録 抗精神病薬は脳波異常やけいれん発作を引き起こす副作用があるが,特にクロザピン(CLZ)は頻度が高いことが報告されている。症例は20歳台,男性。薬剤不耐性および抵抗性で当科に入退院を繰り返していたが,CLZ導入と電気けいれん療法の併用療法により精神症状は安定した。今回,身体的問題から2日間CLZを中止後に,プロトコールを十分確認せずに同用量から再開したところ,全身性の強直間代発作が出現した。脳波でも徐波化を認めたが,バルプロ酸ナトリウムを併用することで脳波所見は改善し,以後けいれんを生じることなくCLZを継続することができた。CLZは少量から注意深く漸増することが必要であり,常に脳波検査によるモニターを行いけいれんのリスクを評価することが必要と考えられた。また,プロトコールにあるように2日以上の休薬後の再開は初期投与量から始めることが重要と考えられた。

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抄録 進行性核上性麻痺(PSP)は多彩な精神症状を呈することが知られている。今回,信号無視や無理な車線変更などの危険運転を繰り返し,職場での日頃の礼節を欠いた攻撃的言動から双極性障害を疑われたPSP患者を経験した。危険運転はPSPに特徴の垂直性眼球運動障害によるものと考えられた。本人の内省は乏しく,脱抑制や多幸感などの精神症状により,職場にて感情障害を疑われた事例であった。

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抄録 近年,認知症治療病棟の入院長期化が指摘され,厚生労働省も円滑な退院と在宅復帰を推奨している。このため当院独自の包括的在宅復帰プログラム「おかえりプロジェクト」(OP)を提案し導入を試みてきた。今回,認知症患者(以下A氏)へ作業療法士が主体となりOPを実施した。入院時の自宅訪問により,退院に向けた具体的目標を多職種で共有し,連携が促進された。その結果,ADLが改善し,サービスを利用しながら妻との在宅生活を取り戻した。認知症患者に対する自宅退院の支援は,入院早期から個別性の高い包括的な介入が必須であることが再確認された。

「精神医学」への手紙

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はじめに

 すでに臨床診断が明確になされた注意欠如・多動性障害患者の外来受診時に,投薬による症状の改善がみられるかどうか,一見して分かる方法を考案した。

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 医学書院から,この度愛知医大精神科教授の兼本浩祐先生による『てんかん学ハンドブック第4版』が,前版から6年の期間を経て出版されました。本書は1996年に初版が出版され,その後2006年に第2版,そして第3版が2012年に出版されました。

 実は,私は6年前の本書第3版の書評を記す大変光栄な機会を賜り,今回もその機会を賜り大変光栄な限りでまた大変嬉しく思います。そのおかげで,今回「兼本てんかん学」のハンドブックがいかに新しく改訂されたか,いかに兼本教授が細部にまで心血を注がれているかを一部でも垣間見ることができたように思いました。

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目次

今月の書籍

次号予告

編集後記
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 明けましておめでとうございます。今年の5月には平成から新しい元号に変わることが決まっており,日本社会は新しい時代を迎えることになります。本誌は昨年に創刊60周年を迎えましたが,それを機に,編集委員会では,これまでの本誌の歩みを振り返り,さまざまな企画について議論しました。昨年に引き続き,61年目の新たな歩みを始めた今年も,本誌の伝統を継承しつつ新しい精神医学の発展に寄与することを目標に,いくつかの新しい企画を準備中です。

 平成30年の日本における高齢化率(65歳以上の人口割合)は28.1%と発表されています。超高齢社会(高齢化率が21%以上)となったわが国で,私たちは日常生活のさまざまな場面において,また社会の多様な局面において,高齢化の進行に伴う変化を感じながら生活しています。その中で,高齢者におけるメンタルヘルスの重要性の増大も,まさに実感されるところです。精神医学・精神医療に携わる者には,老年精神医学を専門としていなくても,加齢に伴う生物・心理・社会的な変化とその中で生じる疾患を理解し,高齢者のメンタルヘルスの問題に適切に対処することが求められています。本号はその「高齢者のメンタルヘルス」を特集しており,認知症に限らないさまざまな高齢者のこころの健康問題に関して,問題・課題やその対策だけでなく,高齢者のこころのポジティブな面も含めて論じる包括的な内容となっています。

基本情報

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精神医学
61巻1号 (2019年1月)
電子版ISSN:1882-126X 印刷版ISSN:0488-1281 医学書院

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