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はじめに
これまで,高齢者のメンタルヘルスの維持・向上には,中年期までの健康状態や社会的な活動を維持すること,すなわち活動理論的な方略をとることが重要であるとされてきた。しかし,高齢期の伸長は虚弱な高齢者を数多く生んでいる。2016年度の85歳以上高齢者における要介護1以上の割合は46.7%にも及ぶ5)。高齢期の諸機能やそれに伴う社会的ネットワークの低下はメンタルヘルスの低下やうつ病の発症を増加させると言われている4)。さらに,メンタルヘルスの悪化は,意欲や日常行動の頻度の低下も引き起こし,諸機能のさらなる低下をもたらすことが危惧される。このような背景から,身体的問題により活動理論的な方略を取って再適応を図ることが困難な高齢者の精神的健康の維持につながる新たな方略を示すことが重要となっている。その際の心理的な方略のひとつとして注目されるのが,高齢期に発達し,メンタルヘルスの維持と深く関連するとされる老年的超越(gerotranscendence)7,8,13,14)である。
本稿では,近年,高齢期における心理的な発達の一つとして注目される老年的超越について解説し,それが高齢期のメンタルヘルスの維持・向上と深く関連していることを論じていく。なお,本稿が論拠とするのは,地域在住高齢者を対象とした比較的大規模な調査研究からのデータからの検討がほとんどである。そのため,「精神的健康」や「メンタルヘルス」については,臨床的に診断されたうつ病やその他の精神疾患の罹患率や発生ではなく,質問紙の形式で収集される精神的健康や幸福感などを用いて論じていくことをお許しいただきたい。「精神的健康」や「メンタルヘルス」の測定尺度としては,日本版World Heath Organization Mental Health Well Being Index-five items(WHO5-J)を用いている研究が多い1)。この指標は5項目で,メンタルヘルスのポジティブな状況を評価する文言で構成されている。そのため,一般住民を対象として実施する際にも抵抗が少なく利用できる。この尺度では,総得点を指標とした場合にはメンタルヘルスを量的に評価するものであるが,13点未満ではうつ病の罹患率が高いことが報告されており4),13点未満の者をうつ病の罹患リスクが高まるものとして,カットオフ値的に利用されることも多い。
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