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はじめに
わが国では人口の高齢化に伴い2016年に厚生労働省から公表された新オレンジプラン9)によると,認知症に罹患する高齢者は,2025年には約700万人となり,高齢者の約5人に1人が認知症に罹患すると推計されている。
高齢者が増加することによって,認知症以外の,高齢発症の統合失調症,妄想性障害,うつ病,躁病,不眠症などの増加も見込まれるところである。厚生労働省の患者調査10)によると,2014年には精神疾患患者総数は約392万人,そのうち認知症疾患患者数は67.8万人(2011年の51.2万に比べて約3万人増)であった。妄想性障害は,統合失調症,統合失調症型障害とともに1つの疾患単位として集計されており,2011年71.3万人,2014年には77.3万人と,2002年調査以降は70万人台で推移し,患者数の大きな変化はなく,高齢者の妄想性障害に限っての患者数は明らかでない。
妄想性障害は,米国精神医学会による診断基準DSM-52)によると,表1に示すとおり,
A) 1つまたはそれ以上の妄想が1か月間またはそれ以上存在する。
B) 統合失調症の基準A(妄想,幻覚,まとまりのない発語,ひどくまとまりのない,または緊張病性の行動,陰性症状)を満たしたことがない。
C) 妄想またはそれから波及する影響を除けば,機能は著しく障害されてはおらず,行動は目立って奇異であったり奇妙ではない。
以上,A),B)妄想主体で,C)妄想以外の機能の障害がないことが,中核的な症状と示されている。
高齢者においては,脳の形態や機能の変化,糖尿病や高血圧などの身体疾患,視力,聴力,運動機能の低下などの加齢性の変化をほとんど常に伴う。そのため,高齢者の精神疾患を診るときには,これらの身体的な要因も含めながら診断していく必要がある。また,従来診断では,妄想性障害を含む統合失調症圏内の疾患,感情障害圏内の疾患などを広く老年期精神障害と診断し,認知症との鑑別を主眼においてきたところ,DSMやICDなどの記述的診断の汎用化に伴い,統合失調症圏の疾患が,統合失調症,統合失調型障害,妄想性障害に細分化されたことにより,高齢者初発の統合失調症があるのかという疑問や,妄想性障害と統合失調症との境界があいまいであると繰り返し指摘される7,8)ように,妄想性障害の診断はより複雑化してきている。
その一方で,高齢者の妄想性障害と認知症に伴う行動・心理症状(behavioral and psychological symptoms of dementia:BPSD)を鑑別する際,いずれは認知症への移行が見込まれるものであるがその時点では妄想性障害と診断するのか,初期症状として妄想が前景に認められる認知症と診断するのか,判断に迷うことの多さも指摘されてきた7,8)。
そういった中で,妄想性障害,認知症によらない高齢者の幻覚妄想について,従来診断として,遅発性パラフレニー,接触欠損パラノイドなどの類型化を用いて,高齢者の心理を理解することの大切さが繰り返し提唱8,18)されてきている。いずれも人生後期の発症であり,その特徴として,社会的孤立や女性優位の発症などが挙げられ共通点が多いため,本稿では代表的な類型として遅発性パラフレニーを紹介する。
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