精神医学 22巻11号 (1980年11月)

追悼

内村先生の業績 笠松 章
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 先生は大正末期,ミュンヘンのドイツ精神医学研究所に留学され,スピールマイヤー教授の下で,脳の組織病理学を勉強された。基礎医学を専攻されたのは,当時の日本留学生がそうであったからである。しかし先生は臨床精神医学にも広い展望をもち,ミュンヘンへの途次,チューリッヒで,ブロイラーに会っているし,旅行カバンの中にクレッチュメルの「体格と性格」とヤスパースの「精神病理学総論」を加えていた。

 昭和3年,30歳の若さで北大教授となり,在職わずか8カ年の短期であったが,精神医学の「処女地」北海道で華々しく活躍した。先生生涯の最も幸福な時代であったであろう。昭和10年,新潟の日本神経学会で,当時の少壮教授と共に,学会の機構改革を行い,それが新潟革命と呼ばれているのは,今では知る人も少いが,一寸した語り草である。

特集 Butyrophenone系抗精神病薬の臨床精神薬理学

巻頭言

特集にあたって 大熊 輝雄
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 1952年にDelay, J., Deniker,によってchlorpromazineが精神科治療に導入され,これが契機となって各種向精神薬の開発が始められ,精神科薬物療法がしだいに確立されて,精神科医療に画期的な進展がもたらされたことは周知の事実である。すなわち,精神科薬物療法の発達は,精神障害を薬物によってかなり的確に治療できるようにしただけでなく,服薬継続による維持療法によって精神病の再発をかなり防止できるようにした。薬物療法は,第2次大戦後の人権思想のたかまりとあい俟って,作業療法,生活指導の発達,精神病棟の開放化,社会復帰活動,精神科医療体系の確立などを促進するための大きな力となったのである。

 各種の抗精神病薬のうち,とくに精神分裂病にたいする治療薬としては,初期のchlorpromazine,reserpineなどに次いで,まず各種のphenothiazine誘導体が開発された。一般に抗精神病薬の作用には,全般的鎮静効果と抗精神病作用(抗幻覚・妄想作用)とがあるとされているが,phenothiazine誘導体はこれら両方の作用を持っているものの,自律神経遮断による過鎮静,睡眠作用その他の副作用が少なくないという欠点があった。ところが1957年Janssen, P. によって開発されたbutyrophenone誘導体のhaloperidolは,強い抗幻覚・妄想作用を持つが,phenothiazine誘導体に比べると自律神経遮断による過鎮静,睡眠作用などの副作用が少ないため,phenothiazine誘導体と並ぶ代表的抗精神病薬として広く用いられるようになった。またhaloperidolを基点として多くのbutyrophenone系抗精神病薬が開発され,現在ではむしろbutyrophenone誘導体が抗精神病薬の主流を占めるにいたっている。

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I.はじめに

 中枢神経系における化学伝達物質候補としてacetylcholine,dopamine,noradrenaline,adrenaline,serotonin,GABA,glycine,glutamic acid,taurineおよびいくつかの活性ペプチドがあげられている。そのうち,catecholamine含有細胞の局在様式が明らかになったのは,ホルムアルデヒドガスを用いて組織内の微量のcatecholamine螢光を同定する方法がFalck and Hillarp(1962)により発見されて以来のことである。この従来の方法に加えて,Björklundたち(1972)により開発されたグリオキシル酸螢光法,合成酵素を指標とした免疫組織化学法,3H-プロリンを用いたオートラジオグラフ追跡法およびhorseradish peroxidaseによる逆行性追跡法などにより,中枢dopamine,noradrenalineおよびadrenaline系の構造はかなり詳細に判明してきた。ここでは,haloperidolなどneurolepticsの薬理作用を解明する上において基礎となる中枢dopamine系の構造と機能についての最近の成績をのべる。

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I.はじめに

 神経遮断薬の基本的な作用機序は,主として,①ドーパミン受容体の遮断,②フィードバック・コントロールによるドーパミン代謝回転の促進,③ドーパミン受容体の過感受性形成の3つに要約されるであろう。しかしながら日常の精神科薬物療法で得られる抗精神病作用がこれらの主要機序によって充分に説明されるかどうか。確かに現在広く使われている神経遮断薬は全て強弱の差はあれドーパミン受容体の遮断作用を一様に持っている。しかし,実際には臨床的にみて薬物効果は神経遮断薬の投与開始後数日から数週間後に得られることがよく経験される。血液脳関門透過性や脳内浸透性は神経遮断薬ごとに幾分かの相違はみられるが,それが薬効発現の遅れ,すなわち投薬後から薬効の得られるまでの潜時の全てを説明しえないのではないか。したがって臨床的な薬効とはいくつかの生化学的な過程を経た結果として得られるものであると考えられないであろうか。さらに長期的な観点から考えると,神経遮断薬の長期連続投与はドーパミン受容体の感受性を増大させる。この過感受性形成は治療効果を減じるようであるし,さらに過感受性が代償されなくなると遅発性ジスキネジアを発症させるといわれ薬効上のみならず副作用としても重大な問題となっている。神経遮断薬によるDA受容体の感受性の変化はDAのagonistやantagonistで賦活した時の神経内分泌的な反応を調べることによってその程度を予測できるような研究が報告されるようになって来ており,薬効と受容体の過感受性という視点から神経遮断薬について考えてみたい。

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 Haloperidolの作用機序を研究する上で,現在一つの焦点となっているのは,脳におけるdopamine(DA)神経細胞群における生化学的反応である。DA神経終末だけでなく中脳の神経細胞局在部位についても検索し,黒質線条体,中脳辺縁系,中脳皮質系の3系のDAニューロンについてhaloperidolがどのように異った作用をもっているかを知ることは,haloperidolの作用機序を知るだけでなく,DAニューロンの機能を知るためにも極めて有用であろう。

 従来,脳内DAニューロンの機能を調べるために重要な指標となるはずのhomovanillic acid(HVA)は測定感度が極めて悪く,最近の研究4)でも線条体を対象とする場合に5匹分のラット脳を合わせねばならないという欠点があった。本研究は筆者らが最近開発した感度の高いHVAおよび3,4-dihydroxyphenylacetic acid(DOPAC)の同時定量法を用いて,haloperidolを急性と慢性に投与し,黒質線条体系および中脳辺縁系の反応の比較検討を行ったものである。

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Ⅰ.緒言

 1970年代後半からhaloperidolの血中濃度に関する臨床研究が極あて活発になっているが,我々も1977年から,haloperidolの種々の経口投与法に対応した血中濃度パターンの特徴を把握すること,および血中濃度と投薬量,臨床効果,副作用との関係を明らかにすることを目的として,最近開発されたラジオイムノアッセイ法9)により,一連の研究を行なってきた。その結果の一部は既に公表した5,11)が,今回はその後の知見6)を加えて,他の著者の最近の報告と比較してみる。

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I.はじめに

 精神分裂病に対する薬物療法は,現在広範に用いられ,重要な役割を果たしている。しかし,その投与量・投与方法などは,経験的判断に基づいて行なわれており,科学的根拠に乏しいものである。そこで,薬物の生体内動態を知り,それを応用することは,科学的薬物療法を樹立する上で有用と思われる。そこで著者らは,近年分裂病治療薬として最も頻繁に使用されているhaloperidol(HPL)に注目し,その血中濃度を測定し,これと臨床効果,副作用,更に諸背景との関係を検討した。更に体重当り,同一用量のHPLを正常者と分裂病者の2群に投与し,HPLの血中濃度を比較するとともに,抗精神病薬の脳内ドーパミン(DA)の受容体阻害効果の指標として注目されているprolactin(PRL)の濃度を経時的に測定し,HPLに対する反応の差を比較した。さらに分裂病の病態生理として注目されているアミン仮説のうち,特にDA仮説に着目し,未治療の分裂病患者に対するHPLの治療効果をみたのち,DAの合成酵素tyrosine hydroxylaseの拮抗阻害剤であるα-methyl-para-tyrosine(α-MPT)の分裂病に対する効果を検討する一方,HPL血中濃度,PRL,更に体内のHPLのアミンに対する効果をみるため尿中の各種アミンおよびその代謝物を測定し,分裂病のDA仮説について臨床生化学的検討を加えた。なお,研究対象者および家族にはあらかじめ研究目的と作用・副作用を説明し,同意を得たのち研究を行なった。

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I.はじめに

 抗精神病薬の代表的なものとして,chlorpromazine(CPZ)をはじめとするphenothiazine(PZ)系薬剤とhaloperidol(HPL)を含むbutyrophenone(BTP)系薬剤とがある。抗精神病薬が精神科臨床に導入されて以来,これら薬物の臨床薬理学としては専ら臨床治験に重きがおかれていた。また,次々に開発されるおびただしい数の抗精神病薬の臨床応用に多くの時間が割かれた。

 それに対し,近年,臨床薬理学の普及とともに,抗精神病薬の臨床的作用をこれら薬物の体内動態の面から考慮・検討する行き方がとられるようになった。これは測定方法の改善により,微量な血中薬物濃度の定量が可能になり,抗精神病薬の吸収,代謝,体内分布,排泄について,推測できるようになったからである。

 PZ系の抗精神病薬血中濃度測定の臨床的意義や問題点については,すでに色々論じられているが,BTP系薬剤に関する研究はその緒についたばかりで,報告は未だ少ない1,2)。我々の研究施設では,高速液体クロマトグラフィーを用いて,血液などの生体試料中に含まれるPZ系抗精神病薬,すなわちCPZとその主代謝産物,levomepromazine(LPZ)とその主代謝産物,thioridazineなどの濃度を測定する方法を開発してきた3,4)

 この報告においては,CPZおよびLPZ濃度を測定することによって得た我々の成績の中から,血中薬物動態,薬物の脳内移行,薬物に対する脳内反応としての血中prolactin(PRL)濃度の変動について略述し,HPLなどBTP系薬剤の臨床薬理学的研究の参考に供したい。

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I.はじめに

 抗精神病薬の導入により,精神疾患の治療方法が大きく変ったことは改めて言うまでもない。北海道大学医学部附属病院精神科神経科に入院した精神分裂病患者の治療の推移をみても,1954年にreserpine,chlorpromazineの治療を開始して以来,急速に薬物治療の割合が増し,それに伴ってインシュリン・ショック療法は姿を消し,電気ショック療法も約5〜10%前後の患者に少数回行なわれる程度となっている。この傾向は精神分裂病だけでなく,躁うつ病や神経症などの精神疾患でもほぼ同様である11,13〜15)

 そこで,抗精神病薬の導入から現在までの20数年間における薬物療法の実態を明らかにし,抗精神病薬がどのような使われ方をしてきたか,なかでも特にhaloperidolの使用の状況と問題点について検討を行なった。

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I.はじめに

 ブチロフェノン系抗精神病薬がフェノチアジン系抗精神病薬と並んで,今日の精神分裂病治療薬の主流をなしていることに異論はないと考えられるが,両系の薬剤の臨床薬理学的差異や,臨床効果上の特性などが良く理解されて使い分けられているかは疑問である。精神障害者に対する薬物療法に反省が加えられている時期でもあり,薬物使用の実態を把握しておくことは,薬物療法の問題点を浮きぼりにしたり,かくれた効用を拾いあげうることなどから極めて重要なことと思われる。

 今回,大日本製薬の企画で,ブチロフェノン系抗精神病薬として代表的なhaloperidol(Serenace)の使用状況について,全国的な実態調査が実施されたが,その立案,解析に参画することができたので,とりまとめて報告したい。

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I.はじめに

 Haloperidolは,わが国を含めた世界の多くの国で今日最も繁用される抗精神病薬のひとつであり,精神分裂病を中心とする精神科臨床において,その有用性は疑いのない事実である。しかし,他の薬物との比較における臨床特徴や具体的な適用上の問題となるとさまざまな見解があり,普遍性のある解答が必ずしも十分に得られているわけではない。そこで,これまでに発表された内外の比較試験の成績を分析し,この薬物に対する臨床評価がどの程度まで明らかにされ,どのような問題点が残されているかを考察することにした。

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I.はじめに

 小児精神科領域においては,種々の原因による行動異常・精神症状に対し,多種の薬物が用いられており,しかも多くの場合antipsychoticsがbehavior depressantとして使われている。ただ,これらの薬物は成人における経験にもとづいて使用され,成人での使用量を減少させるだけで,小児精神科領域に応用している現状である1)。この状況が好ましくないことは明らかであろう。ただ小児におけるヒト試験は,種々の倫理的な問題を伴うことが多く,このために客観的な薬物の効果判定が行ないにくいのである2)。殊にわが国の場合には,この傾向が目立っていた。われわれはこの問題の改善のため,小児行動評価研究会を組織し,小児の行動異常に対する薬物の効果判定の研究を行なって来た3,4)

 今回はハロペリドール(以下Hと略)と,diphenylbutylpiperidine誘導体pimozide(以下Pと略)を,各種の小児精神障害児に使用し,二重盲検法による客観的な効果判定を行なった経験4)について述べると共に,この研究に伴って,われわれが特に留意した点と,その対応について説明したい。

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 1958年Haloperidol(以下HPD)が合成されて以来,基礎的,臨床的文献は2000を越えているが5),精神分裂病を中心とする精神疾患のみならずいくつかの神経疾患においてもその使用が試みられ効果をあげている。本論文ではGilles de la Tourette症候群(以下Tourette症候群)をとおしてHPDの効果とその評価方法について検討した。

 1884〜5年Gilles de la Tourette4)は非協調性,突発性の不随意な筋肉運動とそれに伴う「不明瞭な叫び」,加えて汚言症,反響症状の見られる自験6例を含む9症例を発表して,当時の舞踏病の概念から独立した一疾患を分離しようと試みた。Jumping,Latah,Myriachitなどのいわゆるculture bound syndromeとの混同はあったが詳細な症例の記述は今日のTourette症候群の概念とほぼ一致している。ただ反響症状を中心に位置づけている点はShapiroら8)の現在の定義とやや異なっている。また本症候群と小児の一過性のチック等との異同の問題もあるが,今回は定義の問題には深く立ち入らない。Tourette症候群は本邦において比較的稀とおもわれていたが,最近Nomuraら6)の74症例の報告もあり,我々もまた10例以上を経験しておりかなりの潜在的な患者が存在していると考えられる。

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I.はじめに

 Haloperidolが日本で市販されるようになって15年になる。近年,日本の処々の場所で行なわれた精神科薬物療法に関する現状調査1〜5)によると,haloperidolは,chlorpromazineやlevomepromazineに次いで,あるいはそれ以上に使用頻度の高い抗精神病薬となっている。

 Phenothiazine系薬物のprototypeであるchlorpromazineと,butyrophenone系薬物のprototypeともいえるhaloperidolとが,ともに最も多く使用されている抗精神病薬であるという現象は興味あることである。

 一方のchlorprornazineは,levomepromazineとともに,鎮静催眠効果に優れた抗精神病薬の代表薬である反面,自律神経系や心循環系などに対する副作用は著明である。これに対してhaloperidolは,抗精神病力価はchlorpromazineの約50倍に相当するという,現在日本で市販されている抗精神病薬中fluphenazine enanthateに次ぐ強力な薬物で,自律神経系,心循環系に対する副作用は軽微である反面,錐体外路症状惹起作用は強い。このように,数多く市販されている抗精神病薬のうち,薬理学的主作用,副作用の点で両極にあるともいえる特徴を持った薬物が,ともによく使用されているわけである。

 一方,実際の薬物治療のなかで,抗精神病薬は,2種類以上の薬物が種々な組合せで,患者の半数以上に多剤併用されている現状にある1,3〜5)。このうちhaloperidolがchlorpromazineやlevomeprornazineと併用で用いられている場合が最も多いことが指摘されている1)

 多剤併用の無意味さや弊害を説く声は多いが,多剤併用を積極的に推し進めるような議論は見当らない。しかし現状は多剤併用のほうが多いのであり,ますます併用の頻度は増加する傾向にある5)

 Haloperidolとchlorpromazineあるいはlevomepromazineの併用は,専ら精神病の陽性症状が顕著な急性期の状態に用いられていると推測されるが,haloperidolが持つ強力な抗精神病効果とともに,chlorpromazineやlevomepromazineのもつ鎮静催眠作用の相乗的効果を期待しての処方がされていると理解してよいであろう。

 他方,近年,rapid digitalization6),あるいはrapid neuroleptization7)といわれて,haloperidolのような抗精神病力価の特に高い薬物による超大量投与が,急性精神病状態に有効性が高いことがいわれているし,慢性的な長期入院患者に対しても,従来の治療法以上に超大量投与が効果があり,副作用も少ないことが指摘されている8)。このような趨勢からいって,向後mg potencyの高い抗精神病薬の使用頻度と投与量がますます増加するであろうことは避けられない状況にあると思われるが,その代表的薬物であるhaloperidolの副作用を熟知しておくことは,精神科臨床に携わる者にとって欠くことができないものといえるだろう。

Haloperidolと錐体外路性副作用 風祭 元
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I.はじめに

 Haloperidol(以下Hp)によって代表されるbutyrophenone系化合物によっておこる副作用のうちで,発現頻度がもっとも高く,臨床的にも重要なものはparkinsonism,dystonia,akathisiaなどの錐体外路症状(以下EPS)であろう。

 抗精神病薬によっておこるEPSは,患者にとってはかなり辛い副作用で,時には拒薬の大きい原因となることもあるので,その予防と治療は臨床的に重要であり,また,その発現に関与する機序を解明することによって抗精神病効果の本態を理解する上でさまざまな示唆を得ることができるものと考えられる。

 Butyrophenone系薬剤によるEPSの発現率については,これまで無数の報告がある。たとえばわが国で行なわれた48編のbutyrophenone系薬物の臨床治験報告(open study)を要約した酒井と木下1)によれば,表1に示すようにbutyrophenoneの投与により18.2%にakathisia,24.8%にakinesia,8.9〜49.0%にparkinsonism,13.3%にdystoniaがそれぞれ認められている。

 ここでは薬原性EPSに関する最近のいくつかのトピックをとりあげてみることにする。

Syndrome Malin 荻田 和宏
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Ⅰ.序

 向精神薬の稀ではあるが重篤な副作用の一つに悪性症候群syndrome malin(以下SM)があり,1960年来仏語圏中心に症例報告がなされている1〜11)。SMは向精神薬投与と関連した持続性高熱,錐体外路系を中心とした神経症状,自律神経系のdysfunctionに起因すると考えられる重篤な心・循環系症状を呈し,ときに致死性である。本邦では1974年の筆者らの症例報告12)に続いて相当数の報告13〜35)があり,最近では,米国においてもSMに対する関心が高まって来ている26〜32)

 butyrophenone系薬剤ではhaloperidol(以下HPD)が特にSMを惹起しやすいと言われている。本稿では,本邦報告例を中心として,HPDの本症発症への関与度,HPDのみに特有の症状,経過,転帰などが認められるか否かなどの点に留意しながら,本症候群全般を概説した。

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 抗精神病薬によるakinesiaが自殺企図に結びついた自験例を報告し,haloperidolや他のincisiveな抗精神病薬では,使用初期に薬物に対する反応的不安,焦燥,akathisiaや錐体外路症状がみられ,これらが自殺と結びつき易いことを述べた。またakinesiaはよくdepressionと混同されこの場合は抗パ剤の投与が有効なことも合わせて報告した。一方長期投与例では,haloperidol投与量が多いほど,自発性減退,精神運動抑制,不活発,エネルギーの喪失といった行為意欲の抑制を主とする症状が強いことをSDSを使用して確かめ,さらに自殺者71名について,抗精神病薬の使用状況を調べ対照と比較すると,haloperidolの投与量や単独投与例が多いことを確かめた。しかしこれらの病像は,気分の水準が真に低下し悲哀・抑うつ感情を主とする内因性うつ病像とは多少異なっていると思われる。しかし前述のAydl)のように全く異ならぬと考えている学者もみられる。このように研究者により概念の混乱がみられるのは,"depression"ということばの有する多義も一原因となっている。意欲,行為の抑制のみでdrug-induced depressionの存在を認めるものと,真の気分の低下がない場合にはこれらの存在を否定するものも多い。Cohenら5)は,このような混乱を避けるためpseudo-depressionという名称を用いている。Floruら8)は,より厳密なdrug-induced depressionのクライテリアとして次の項目をあげているが,今後の研究の参考となろう。①以前にdepressionのエピソードがないこと,②明白な反応因の欠如,③単に5〜7週間の治療でなく,長期治療後に生じること,④錐体外路症状,薬物による眠気・集中力の欠如が同時に存在すること,⑤症状はvitalityの喪失として特徴づけられること,⑥薬物療法とdepressionの開始に活性アミンが相関すること。

ディスカッションの部「まとめと展望」
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 大熊 本日は,まとめと展望ということで,昨日いろいろ論議されたことについて,残されている問題点,あるいは追加すべき点などをご討議いただき,あわせてhaloperidolに関する今後の展望についてもお話しいただきたいと存じます。

基本情報

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精神医学
22巻11号 (1980年11月)
電子版ISSN:1882-126X 印刷版ISSN:0488-1281 医学書院

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