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I.はじめに
Haloperidolが日本で市販されるようになって15年になる。近年,日本の処々の場所で行なわれた精神科薬物療法に関する現状調査1〜5)によると,haloperidolは,chlorpromazineやlevomepromazineに次いで,あるいはそれ以上に使用頻度の高い抗精神病薬となっている。
Phenothiazine系薬物のprototypeであるchlorpromazineと,butyrophenone系薬物のprototypeともいえるhaloperidolとが,ともに最も多く使用されている抗精神病薬であるという現象は興味あることである。
一方のchlorprornazineは,levomepromazineとともに,鎮静催眠効果に優れた抗精神病薬の代表薬である反面,自律神経系や心循環系などに対する副作用は著明である。これに対してhaloperidolは,抗精神病力価はchlorpromazineの約50倍に相当するという,現在日本で市販されている抗精神病薬中fluphenazine enanthateに次ぐ強力な薬物で,自律神経系,心循環系に対する副作用は軽微である反面,錐体外路症状惹起作用は強い。このように,数多く市販されている抗精神病薬のうち,薬理学的主作用,副作用の点で両極にあるともいえる特徴を持った薬物が,ともによく使用されているわけである。
一方,実際の薬物治療のなかで,抗精神病薬は,2種類以上の薬物が種々な組合せで,患者の半数以上に多剤併用されている現状にある1,3〜5)。このうちhaloperidolがchlorpromazineやlevomeprornazineと併用で用いられている場合が最も多いことが指摘されている1)。
多剤併用の無意味さや弊害を説く声は多いが,多剤併用を積極的に推し進めるような議論は見当らない。しかし現状は多剤併用のほうが多いのであり,ますます併用の頻度は増加する傾向にある5)。
Haloperidolとchlorpromazineあるいはlevomepromazineの併用は,専ら精神病の陽性症状が顕著な急性期の状態に用いられていると推測されるが,haloperidolが持つ強力な抗精神病効果とともに,chlorpromazineやlevomepromazineのもつ鎮静催眠作用の相乗的効果を期待しての処方がされていると理解してよいであろう。
他方,近年,rapid digitalization6),あるいはrapid neuroleptization7)といわれて,haloperidolのような抗精神病力価の特に高い薬物による超大量投与が,急性精神病状態に有効性が高いことがいわれているし,慢性的な長期入院患者に対しても,従来の治療法以上に超大量投与が効果があり,副作用も少ないことが指摘されている8)。このような趨勢からいって,向後mg potencyの高い抗精神病薬の使用頻度と投与量がますます増加するであろうことは避けられない状況にあると思われるが,その代表的薬物であるhaloperidolの副作用を熟知しておくことは,精神科臨床に携わる者にとって欠くことができないものといえるだろう。
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