呼吸と循環 40巻11号 (1992年11月)

特集 血管内皮細胞からみた循環器疾患の新しい展開

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はじめに

 血管内皮細胞は血液と血管平滑筋の間の単なる隔壁ではなく,現在では多様な機能をもつことが知られている.血液の流動性の調節(血液凝固および線溶活性,血小板機能の調節),物質透過性の制御,平滑筋収縮弛緩の調節,平滑筋増殖作用などである.また,内皮細胞は様々な物質の合成および代謝能力を持っており,とくに血管の緊張性の調節に関しては,種々の物理的あるいは化学的刺激に応じて収縮因子や弛緩因子を分泌する.これらの血管収縮・弛緩因子は単一のものではなく,刺激の種類に応じて異なる因子が産生・分泌されると考えられる.これらの収縮および弛緩因子のバランスの破綻が循環不全などの病態を引き起こすと考えられる.これらの因子としては,ニトロソ化合物,プロスタノイド,フリーラジカル,ペプチドなどが含まれている.

 1980年,Furchgottらは単離した血管に対してアセチルコリンを投与したときに生ずる弛緩反応を詳細に解析し,血管弛緩因子が血管内皮細胞から放出されていることを発見した1).この内皮細胞由来弛緩因子は1976年に発見されたプロスタサイクリン(PGI2)とは異なるものであり,EDRF(endothelium-derived relaxing factor)と名付けられ,1987年その本体は一酸化窒素(NO)であることが示されている2)

血管内皮細胞の抗血栓作用 松尾 理
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はじめに

 止血機構は血液の血小板系,凝固系,線溶系および血管壁の反応からなっており,生体の中での調節機構の中で最も巧妙に進化してきた1).血液は脈管系の中では凝固せず滑らかな流動性を保持し,一度血管外へ出ると速やかに凝固する性質を有する.生体に「出血」あるいはその逆の状態の「血栓」という非常事態に際して防御的に働き,生体の内部環境を正常な状態に維持させるように機能する(図1).その結果,生理的な条件下では出血も血栓も起こらず,homeostasisが維持される.

 血液の血小板系,凝固系および線溶系は何れも活性化系と阻害系とから成り,そのバランスによって機能亢進あるいは機能低下になり,出血あるいは血栓という病的状態がもたらされる(表1).すなわち,血液血小板系および凝固系では活性化系の機能亢進で血栓,機能低下で出血,逆に阻害系の機能亢進で出血,機能低下で血栓が生じる.血液線溶系の場合はこれとは逆で,活性化系の機能亢進で出血,機能低下で血栓,阻害系の機能亢進で血栓,機能低下で出血が生じる.生理的な場合には何れの亢も機能亢進と機能低下の間での正常範囲内にある.これを換言すると,抗血栓性と抗出血性の間に調節されているということになる.抗血栓性は血栓形成を阻害するという抗血栓性(antith-rombogenic)と血栓形成を惹起させる向血栓性(prothrombogenic)のバランスによっているともいえる.

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はじめに

 血管内皮細胞は,その名の通り血管内腔を内張りする一層の細胞層を形成している.この高度に分化した細胞群は,絶えず血流にさらされる環境にあって,各種の刺激に応じ,ダイナミックで多彩な機能を発揮しうることが近年明らかになってきた.動脈硬化巣にみられる特徴的な所見は,内膜における平滑筋細胞の増殖と泡沫細胞巣の形成であるが,これらの変化の過程にも内皮細胞が積極的に働きかけていることが示唆されている.

 本稿では最近の知見をふまえ,主に動脈硬化病変形成の観点から内皮細胞の役割について論じてみたい.

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はじめに

 異型狭心症発作が冠動脈スパスム(攣縮)に由来するという疾患概念は1970年代後半から1980年代における臨床研究によって確立した1〜4).心筋酸素消費量の増大によって虚血が生じる労作性狭心症と冠動脈スパスム性狭心症は発作の誘因だけでなく病態生理も著しく異なっている.すなわち,スパスムは心表面を走行する太い冠動脈に一過性に生じ,高度の内腔狭窄の結果,冠血流量が低下し,心筋虚血をもたらす病態である5)

 冠動脈スパスムの成因は未だに不明である.冠動脈スパスムの発症機転に関する現時点の問題点は以下の三点に要約できる.第一の点は,スパスムの発生部位の形態学的特徴である.冠動脈造影上壁不整などの比較的軽度の動脈硬化性病変が認められているが,スパスムに特異的な所見はない.MacAlpinは血管壁に肥厚があると生理的範囲の血管収縮でも血管内腔は理論上,完全閉塞,あるいは亜閉塞に陥るという仮説を提唱した6).異型狭心症患者や実験モデルにこの概念を適用し内腔狭窄反応の予測値を計算し実測値と対比した臨床研究7)や実験的研究8)では,血管壁の幾何学的影響のみで冠動脈スパスムの発生を説明できなかった.すなわち,疾患群ではスパスム部の血管壁そのものに問題があると考えられる.

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はじめに

 血管内腔を被う一層の内皮が,血管トーヌスを調節する活性因子の産生,放出の場として注目されるようになったのは最近になってからである.なかでも1980年,FurchgottとZawadzki1)による内皮由来血管弛緩因子(endothelium-derived relaxing factor:EDRF)の発見が契機となっている.EDRFに加えて内皮が内皮由来血管収縮因子(endothelium-derived constricting factor:EDCF)も産生,放出していることが明らかとなり,なかでも1988年,柳沢,真崎ら2)による内皮由来収縮性ペプチド,エンドセリン(ET)−1の発見は血管内皮・平滑筋連関の研究に大きなインパクトを与えた.表1に現在まで知られているEDRFとEDCFに属する血管作動物質をまとめた.血管内皮におけるEDRFやEDCFの産生,放出,あるいはその作用の異常は血管トーヌスや局所血流量の調節に異常ををもたらすことになり,高血圧,動脈硬化,血管攣縮といった病態の発症に重要な役割を果たしているものと推測される.

 本稿では,その本体が解明されて最も注目されているNOとETを取りあげて最近の知見を紹介し,高血圧との関連性を述べてみたい.

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 血管拡張剤の投与されていない急1生心不全22例に対して,Isosorbide dinitrate(ISDN)の静注時の投与量と方法を変え,治療効果を血行動態より検討した.

 Bolus群ではMPA,PCWP,MRAは投与5分後より下降し,60分後には投与前のレベルに戻った.MAoの変化は軽微であり,CIは軽度に上昇した.Infusion群では5.0mg/hr,7.5mg/hrともにMPA,PCWP,MPAは15分後より下降し,60分で最低となり,120分後まで持続する有意の変化がみられた.MAoの変化は軽く,CIは軽度に上昇し,特に7.5mg/hrが有効であった.Bolus+Infusion群では15分後からMPA,PCWP,MRAが速やかに下降したが,重症例が多く,他の群よりもその程度は軽かった.これらの血行動態の変化はISDNの血中濃度からも確かめられた.したがって,心不全の急性期の治療としてはISDNを7.5mg/hrのInfusionで開始する,あるいは5.0mgのBolus静注と同時にInfusionを開始するのが効果的な方法と考えられる.

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 総肺静脈還流異常54例を対象に術前・術後の心パフォーマンスを検討した,心内修復術は51例に施行し17例が死亡した.洞機能不全症候群を1例に認めた.術前心カテの結果では,左室駆出率は生存群が有意に大であったが,左室拡張末期容積は有意差を認めなかった.また,右室駆出率,右室拡張末期容積は有意差を認めなかった.肺動脈平均圧は生存群が有意に低値であった,術前後の心カテ結果の比較では,左室拡張末期容積,左室駆出率のいずれも術後有意に大となった.右室拡張末期容積,右室駆出率は術後有意に低下した.肺動脈平均圧は術後有意に低下した.術前の心カテから得られた指標によれば,生存群は,死亡群に比較し,両心室のパフォーマンスが保たれ,肺高血圧も軽度であった.また,術前後の比較から,術後両心室の心パフォーマンス,肺高血圧はほぼ正常化し,児の予後は良好に推移することが期待された.

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 Langendorff法を用いて,flecainideのモルモット心房筋に及ぼす電気生理学的効果を検討した.モルモットから摘出した心臓をacetylcholine(3×10−7M)を含むTyrode溶液で灌流し,心房有効不応期(ERP),心房間伝導時間(ACT),心房細動閾値(AFT)を測定した.その後,10−7Mから10−5Mまでの濃度のflecainideを添加し同様の測定を繰り返した.薬剤添加前後で比較検討を行った結果,flecainideは3×10−6Mの濃度においてERPを有意に延長させ,10−7Mの低濃度より濃度依存性にACTを延長させた.また10−6M以上の濃度においてAFTを有意に上昇させ,この濃度のflecainideに,acetylcholine存在下に電気刺激により誘発される心房細動に対し予防効果が示された.AFTとERPおよびACTの間には正相関が認められることより,flecainideの抗心房細動作用にはERPの延長と心房内伝導抑制作用が関与していると考えられた.

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 気管支鏡および気管支造影検査後にみられる発熱に対する抗生物質(塩酸バカンピシリン)予防投与の必要性を検討する目的で,抗生物質投与群,非投与群間で多施設無作為比較試験を実施した.気管支造影症例で検査翌日の体温上昇は抗生物質投与群0.82±0.13℃(Mean±SE),非投与群1.39±O25℃であり,抗生物質投与群は非投与群に比し,体温の上昇が有意に(p<0.05)小さかった.検査翌日の体温上昇に感染症関与の可能性が示唆されたが,1日目(投与当日),3日目,4日目では有意差はなく,肺炎,敗血症など治療を要した症例はなかった.一方,気管支鏡症例では1日目,2日目,3日目,4日目のいずれも両群間で有意差を認めなかった.今回の検討では抗生物質の予防投与の必要は認められなかった.

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 慢性心不全における塩酸ブナゾシンの効果を,AT(anaerobic threshold)を指標として検討した.NYHA心機能分類Ⅱ-Ⅲ度の慢性心不全14例を対象とした.運動負荷は自転車エルゴメータの10ワット/分のramp負荷を用い,呼気ガス分析はmixing chamber法にて30秒毎に測定し,ATはWassermanらの方法にて判定した.急性効果はブナゾシン1-2 mg経口摂取1時間後に,慢性効果は3 mg/日 2週間連日投与後に急性効果と同様にATを測定し,プラセボのコントロールと比較した.ブナゾシンは急性期・慢性期においてATを指標とした運動耐容能を増加させ,同時に下肢仕事量と心仕事量を増加させた.更に慢性効果ではコントロールでAT到達時と同程度の仕事を,より少ない心仕事量にて達成しており,血管拡張薬として好ましい効果を示した.ブナゾシンは慢性心不全の運動耐容能の改善に有用であることが示唆された.

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 梗塞後狭心症(PIA)の発作時心電図ST変化の意義を検討した.発症後48時間以内に収容した急性心筋梗塞478例のうち,PIAを認めた73例(15.3%)を,発作時心電図ST変化より同部位ST上昇群(同上昇群),同部位ST下降群(同下降群),他部位ST下降群(他下降群)の3群に分け,病態を検討した.

 結果は,同上昇群は33例(45.2%),同下降群は19例(26.0%),他下降群は21例(28.8%)で,梗塞部位では同上昇群は前中と下壁が,同下降群は非貫壁性梗塞が,他下降群は下壁が多かった.PIAの出現時期では,同上昇群で梗塞発症後4日以内,他下降群では5〜7日が多く,同下降群では一定の傾向はなかった.罹患枝数は,同上昇群では1枝病変例が,同下降群と他下降群で3枝病変例が多い傾向であった.梗塞責任血管の狭窄率は,急性期には同上昇群が高く,予後は同下降群が最も不良であった.以上の結果から,PIAの発作時心電図ST変化は病態の診断上有用であった.

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 1986年から気管支喘息にて近医に通院していた16歳女性が,1988年11月に高熱,呼吸困難,皮疹,関節痛などの多彩な全身症状を呈した,胸部X線像にて肺うっ血を伴う急性心不全と,末梢血にて著明な末梢血好酸球増多を認めたため,hypereosinophilic syndrome(HES)を疑い,直ちに副腎皮質ステロイドを投与し,上記の症状と所見は消失した.ステロイド治療開始2週後と3カ月後の左室造影では左室駆出率(EF)がそれぞれ38%,41%と低下し,びまん性の左室壁運動低下を示したが,26カ月後にはEFが56%と改善した.両室の心内膜心筋生検組織像では,心内膜肥厚と心筋炎後の治癒組織像と思われる所見を認めた.本症例では組織学的に心筋組織への好酸球浸潤を検出し得なかったが,気管支喘息に伴うHESにより心筋障害を来し,急性期に認めた左室機能不全が,その後の副腎皮質ステロイド投与により慢性期に改善したものと考えられた.

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 症例1:68歳女性.労作時呼吸困難にて1991年3月本院入院.心胸比77%,心エコーにて心嚢液貯留および著明な左室壁肥厚(IVSTh 15mm)を認めた.FT30.20pg/ml,FT40.01ng/dl,TSH 51.8μU/mlを認め,甲状腺機能低下症による心嚢液貯留および心筋肥厚と診断.T4製剤の投与にて心筋肥厚の改善を認めた.

 症例2:69歳女性.1989年8月,労作時呼吸困難にて本院入院.心胸比62%,心エコーにて左室拡張末期径65mm,左室拡張末期径55mm,%FS 16%と左室腔拡大および左室駆出率の低下を認めた.FT30.34pg/ml,FT40.18ng/dl,TSH34.2μU/mlを呈し,甲状腺機能低下症による心不全および心拡大と診断.2症例とも甲状腺機能の改善とともに心エコー所見および臨床症状の改善を認め,甲状腺機能低下が本症例の異常所見に関与していると思われた.

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 症例は55歳女性,左半身の脱力を主訴に来院.頭部CT,脳血管撮影から脳塞栓と診断.断層心エコー法で僧帽弁閉鎖不全と僧帽弁前尖に10×7mmの疣贅を認めた.血液培養は陰性,転移性肝・肺癌を認めたが,原発巣は不明のまま播種性血管内凝固症候群も合併し死亡した.病理所見では,胆嚢癌と僧帽弁に非細菌性血栓性心内膜炎(nonbacterial thrombotic endocarditis以下NBTE)を認め,それから脳塞栓を来したと考えられた.NBTEの生前診断には心エコー法が有用であるとされているが,実際の報告は少ない.それはNBTEの疣贅は細菌性に比し3mm以下と小さいものが多く,心エコー法では3mm以下の疣贅を証明するのは困難であるためと考えられる.NBTEの生前診断のためには,脳塞栓が疑われた場合は悪性腫瘍,DICの合併に留意し,かかる症例ではNBTEを疑い,繰り返し心エコー法を行い,かつ原疾患の治療および抗凝固療法を試みる必要があると考える.

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 症例は19歳,女性.生後5カ月で心雑音を指摘された.5歳時心臓カテーテル検査を施行され,大動脈縮窄症(Edwards分類IV型C)と診断された.外来で経過観察中に高血圧が出現し,精査加療目的で当科入院となった.入院時現症では身長168cm,体重59 kg,下肢の発育は良好で,上肢の高血圧(180/100,左右差なし)を認めた.胸部では大動脈弁領域でLevine 3°/VIの収縮期雑音を聴取し,大腿動脈の拍動は左右とも触知不能.心臓超音波検査,心臓カテーテル検査より,大動脈二尖弁と下行大動脈での大動脈の中断および側副血行路を介して横隔膜下に低形成の腹部大動脈を認めた.5歳時の診断と病型および病変部位に変化はなかったが,大動脈縮窄部は完全閉塞へと進行していた.経過観察中に大動脈縮窄部位が完全閉塞を来した特異な症例を経験したので,若干の考察を加えて報告した.

基本情報

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呼吸と循環
40巻11号 (1992年11月)
電子版ISSN:1882-1200 印刷版ISSN:0452-3458 医学書院

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