呼吸と循環 36巻5号 (1988年5月)

特集 酸素療法の適応基準

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はじめに

 生体は酸素を大気より肺を介して血中に取り込み,組織へと運ぶ。組織では酸素はその濃度勾配に従って細胞のミトコンドリアに達し,その部で進行する好気的代謝の最終水素受容体となり,水を生成する。ミトコンドリアでは酸化的燐酸化が進み,ATPが産生され,それが細胞の機能遂行に必要なエネルギー源となっている。

 酸素分圧は空気中で約158mmHg,正常人の動脈血で約100mmHg,毛細血管血で約50mmHg,混合静脈血で約40mmHgである。ミトコンドリアで酸化的燐酸化反応を進行させるに必要な最低の酸素分圧がどの程度であるか正確には知られていないが1mmHgで十分であろうと推定されている1)。組織の酸素化が十分であるかどうかは,その部位を灌流した静脈血の酸素分圧を知れば推定できるとされており,全身的な酸素化が問題となる場合には,混合静脈血の酸素分圧またはHbの酸素飽和度を測定すればよいと考えられている2)。臨床的には一般に動脈血酸素分圧(PaO2)が測定されており,60mmHg以下であれば低酸素血症(hypoxemia)と判定されている。しかしPaO2は酸素運搬に関する一つの指標に過ぎず,組織の酸素化が十分であるかどうかに関しては,さらにHbレベル,Hbの酸素解離曲線の位置(P50値),心拍出量,細胞の酸素摂取などが考慮されねばならない3)。hypoxemiaは組織hypoxiaの原因として重要なものであるが,hypoxemiaがなくても組織hypoxiaが存在しうるものであることも理解されておかねばならない。

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はじめに

 呼吸不全は,動脈血酸素分圧(PaO2)<60 Torrと,それに相当する呼吸障害とで規定され,慢性呼吸不全はこの呼吸不全状態が少なくとも1カ月持続することと定義されている1)。慢性呼吸不全の主病態は,基礎疾患が何であれ,低酸素血症hypoxemiaであり,酸素投与により低酸素血症を速やかに是正し,末梢組織の機能障害を改善する必要がある。本稿では,主に慢性呼吸不全の酸素療法,特に長期在宅酸素療法の適応を,呼吸機能の面から概説するとともに,睡眠時の呼吸異常や運動時の低酸素血症への酸素療法についても簡単に記載したい。

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はじめに

 肺は解剖学的には心の両側にあるが,循環動態からみると右心と左心の間にあり,肺循環系が両者の接点となっている。肺循環動態異常の主なものは心不全や肺高血圧に代表され,多くの場合酸素療法の適応となる。しかるに循環動態パラメーターの内で,直接酸素療法の内容を的確に決定できるものはない。

 かつて笹本や国枝らにより提唱された"心性肺"1),すなわち心疾患や循環動態異常により招来される肺機能障害も,年々明確化されつつあり,概念として確立されつつある2〜4)

 ここではまず循環動態異常(左心不全と肺高血圧症)の治療における酸素療法の意義を述べ,次に肺循環動態異常とそれによって惹起される呼吸機能障害を述べて,最後に循環病態と呼吸機能障害の複合体としての心肺機能の総合評価における酸素療法の内容について述べてみる。

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はじめに

 脳は単位当たりのエネルギーを最も消費する臓器であるにもかかわらず,脳自体は必要なエネルギーの蓄えをほとんど持っていない上に,その供給はもっぱら血流に依存するという特殊性を有している。そのため,一旦脳へのエネルギー源および酸素の供給が途絶えると,数秒のうちに意識障害をきたし,数分のうちに大脳や小脳をかわきりに非可逆性の壊死が始まる。したがって,酸素療法を必要とする種々の病態の中でも,その最終目的は,脳組織を非可逆性障害から保護することにあるといっても過言でない。

 脳細胞はブドウ糖と酸素から高エネルギーのアデノシン三リン酸(ATP)を合成し,そのATPのエネルギーを使用することにより活動している。ブドウ糖と酸素いずれの供給がたたれても,正常な代謝は営まれない。なぜ脳エネルギー代謝において酸素が必要であるのか以下の化学式から明白である。

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はじめに

 多臓器障害(multiple organ failure)なる概念は一般に肺,消化管,肝,心,中枢神経系,(血液)のうち2つ以上の臓器障害をいう。特に肺機能障害(呼吸不全)は必須であり,ベンチレーターを必要とする場合も多い。

 また,呼吸不全に他の臓器障害を合併することも多く,PaO2が60mmHg以下を示した剖検例でも高率に肝,腎,胃,心,脳に病理学的変化を認めている1)

 予後の面からは呼吸不全に合併する他の臓器障害が多い者ほど予後は悪く2),酸素吸入にあたって多臓器障害を念頭に入れ総合的治療が行われなければならない。

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 肺核医学検査により得られた時間的に連続した動態画像を考える。画像の各画素の計数値の変動パターンは画素の数だけ存在するが,実際には各画素は互いになんらかの相関をもって変動しており,その中にはなんらかの主要な変動が内蔵されていると考えることができる。133Xeを用いた核医学検査であれば,主要な変動とは,通常の洗い出しの動きであったり,あるいは病的な領域の示す異常な洗い出しの動きであったりする。このように時間的に並んだ画像の各画素の示す一見バラバラな変化の中から主要な変動を見つけ出し,動態画像の特徴を抽出する統計学的手法が動態因子分析法(Factor Ana—lysis)である。本法は,特徴的変動をする時間放射能曲線(TAC)のパターン(機能成分:physiological com—ponent)を抽出するだけでなく,各成分の強さの空間的な分布(形態成分:anatomical component)を分離抽出できる方法として注目を集めている1,2)。肺機能検査においては,81mKr換気検査3)133Xe洗い出し検査に応用され始めている4,5)。本稿では,動態因子分析法の処理について述べ,本法の有用性および問題点について検討する。また肺機能検査への具体的応用例を呈示する。

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 右室はその形態的特徴から左室に比べ容量および駆出率の測定が困難とされてきた。臨床例ではアイソトープ法,右室造影法,心エコー図法などがその測定に試みられている。その中で現在アイソトープ法は最も信頼性の高い方法として用いられているが,設備などの点を考えるとベッドサイドでのモニタリングに用いることは特定の施設に限られる。近年注目されているのは指示薬希釈法の一つで,指示薬として熱を用いた熱希釈法である。最近米国Edwards社により熱希釈曲線から右室駆出率,容積を自動的に計算補正するコンピューターを組み込んだ装置が試作された。即座に駆出率,容積などが算出され値を得ることができる。我々はこの装置を用いて臨床例で右室駆出率の測定を行う機会を得た。

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 虚血による心筋壊死を可能な限りくいとめ,心機能を確保する目的で,近年急性心筋梗塞(以下AMI)の発症早期に,冠動脈内血栓溶解療法(以下ICT),あるいは経皮的冠動脈形成術(以下PTCA)が広く行われるようになった。しかし,患者自身の意志決定時間や救急搬送体制,第一次診療機関における判断,さらに急性期におけるinterventionの可能な施設が限られること,またそのような施設においても緊急時における医師・看護婦・放射線技師等の人員の確保,CatheterizationLaboratoryの使用状況,患者来院時刻などの種々の点から必ずしもGolden Time内に行われているとは限らない。今回我々は,できるだけ早期に血栓溶解を計り,梗塞巣を最小限にとどめる目的で,AMI患者来院後直ちに,すなわちICTの準備中にウロキナーゼ(以下UK)の急速静注をICTに先立って行った症例と,従来のICT症例を比較検討し,若干の知見を得たのでここに報告する。

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 喫煙の肺機能に及ぼす影響については,その慢性的影響が主に臨床的立場から肺癌や他の呼吸器疾患との関連において検討されている。喫煙の肺機能への急性的影響を検討した研究もあるが,慢性的影響に関する研究に比べると極めて限られている。

 喫煙の急性的影響としては運動能力と関連して,最大酸素摂取量(VO2max),最大心拍数(HRmax)および運動持続時間1)あるいは呼吸仕事量2)との関係などが検討されている。また気道のディメンジョンに関する研究としては,上気道の狭窄状態を反映する努力性肺活量(FVC),1秒量(FEV1),フローボリューム(MEFV),気道抵抗(Raw),気道コンダクタンス(Gaw)あるいはSpecifc Airway Conductance (sGaw)を指標として,喫煙前後の変化が検討され,喫煙は気道の一過性収縮を起こすことが明らかにされている。しかし,喫煙後に最大深吸気を行うと,喫煙によって増加したRawが一時的に著しく減少する3,4)ことがあるので,最大深吸気が先行するFVC,FEV1およびフローボリューム等の測定は,喫煙の気道への影響を検討する方法として必ずしも当を得たものではない。喫煙の気道への影響を検討するためにはボディプレチスモグラフを用いてRaw,GawあるいはsGawを測定することが望ましいと考えられる。

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目的

 左室容積を絶対値で算出することは,心血行動態を評価するうえで,極めて有用である1)。現在臨床上用いられている左室容積測定法のうちで最も精度が良いとされているのは,心血管造影法である2〜6)。この際にはその簡便さから左室造影右前斜位像で,single plane arealength法を用いる場合が多い5,6)。しかし心血管造影法は観血的診断法であり,生体に対する侵襲が大きくかつ反復して検査を行うことはできない。このため臨床上多用は困難である。一方非観血的左室容積測定法として,心臓超音波検査法が用いられているが7),その精度はなお満足の得られるものではなく8),その上老人などでは検査不可能な場合もある。またRadionuclideAngiography (RNアンギオグラフィ)も,非観血的左室機能測定法として用いられており,本法による左室駆出率,フーリエ変換で求められる位相および振幅は,各種心疾患の診断上,有用性が確立されつつある9)。またRNアンギオグラフィから左室容積を演算する方法(count-based法)10〜12)があるが,この方法は左室重心の体表面からの距離やサンプル血液の計数値等から減衰係数を算出して補正しなければならず,繁雑であり後述するように症例によっては誤差が大きくなる可能性があり,臨床応用には慎重でなければならない。しかし本法から簡便なsingle plane area length法を用いて左室容積の演算が容易にできれば,得られる情報量がさらに豊富なものとなろう。そこで本研究では,30度スラントホールコリメータ13,14)を用いてRNアンギオグラフィを撮像し,single plane area length法で左室容積を求め,その妥当性を検討した。

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 1976年,Guilleminaultら1)により,睡眠時の無呼吸に起因して,夜間の不眠や昼間の過眠,傾眠など一連の臨床症状を呈する疾患として定義された睡眠時無呼吸症候群は,近年,乳幼児の突然死や成人の高血圧,不整脈の一因として注目されている。本症の一次的な異常は中枢神経系に存在すると考えられているが,無呼吸に伴う肺胞の低換気は気道閉塞下での吸気運動の増加を引き起こし(Müller効果),迷走神経を刺激して,著明な洞徐脈や洞不整脈などの徐脈性不整脈や洞停止による突然死の誘因になる2)。一方,無呼吸発作時の低酸素血症に伴うアシドーシスは交感神経の緊張を亢進し,心室性期外収縮などの不整脈の発生やカテコールアミンの分泌を促して血圧上昇の原因になると推測されている3)。また,このような自律神経系の周期的な変動は無呼吸発作時に心拍数の周期的変動をもたらすと報告されている4)

 一方,健常者にみられる無呼吸発作については,Guilleminaultら5),Blockら6)の報告があるが,いずれも無呼吸の発生頻度,持続時間,無呼吸と睡眠のステージの関係などを明らかにしたもので,その成因について自律神経機能などとの関連性を検討した報告はない。

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 今日,多くの慢性成人病の治療においては治癒を期待することが困難であり,ケアの究極の目標は疾病の進行を阻止し,症状を改善し,再発を予防することにある。特に,慢性循環器疾患では,診断技術や治療法の格段の進歩によって再発率や死亡率は低下の傾向を示しており,このことは,治癒を期待しえない患者が社会生活をする際に,QOLをいかに高く保つかがケア上重要な要因となることを意味している1)。そのような観点から,軽症高血圧,急性心筋梗塞後のリハビリテーション,A-Cバイパス術後,拡張型心筋症のケアにおいては,治療によるQOLの変化を定量的に捉えることが必要とされ2),これまでにも種々の試みが報告されている3,4)。今回は,ライフプランニングセンター(LPC)で継続的に管理されている軽症高血圧の男性患者について,アンケート調査によるQOL評価の試みを行ったので報告する。

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 頸動脈洞症候群はめまい,失神発作等を主徴とする疾患で1)高齢者の失神発作の原因として鑑別上重要なものの1つであるが,今回我々は失神発作を頻回におこし,ペースメーカー治療を必要とした本症候群の1例を経験した。本例ではVVIモードの永久ペースメーカーを植え込むことにより症状の軽快を見たが,最近の治療の動向を含め文献的考察を行い報告する。

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 近年,平均寿命の延長や食生活の変化にともない,わが国でも大動脈瘤の手術例は増加の傾向にあり1),手術成績も向上してきたが,破裂瘤ではその成績はいまだ不良である。大動脈瘤の自然予後をみると,Estesは腹部大動脈瘤102例での臨床診断確定後の5年生存率は19%2),Joyceらは胸部大動脈瘤107例での5年生存率は50%3)であると述べている。死因の大部分は瘤破裂であり,特に胸部大動脈瘤では胸腔内へのopen ruptureによって急死することが多い。胸部大動脈瘤破裂であっても破裂が縦隔内へ起こった場合には急死を免れることもあるが,長期生存例の報告はきわめてまれである。われわれは胸部下行大動脈瘤破裂例で急死を免れ,手術適応としたものの手術を拒否されたため,自然経過をみるなかで多彩な臨床症状を呈した1例を経験したので,その臨床経過を若干の文献的考察を加えて報告する。

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 心膜炎の原因は多岐にわたり,その基礎疾患を明らかにすることが臨床上必要である。とくに結核性心膜炎の診断は困難であるが,致命率が高く,早期診断が望まれる。

 著者らは心タンボナーデを呈した結核性心膜炎と思われる症例を経験し,本症の心膜液中のADA活性値が増加していることを認めたので,若干の検討を加えて報告する。

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 慢性呼吸性アシドーシスの患者では代償的に血中HCO3-が高値を示しており,人工呼吸などにより急にPaCO2を下げるとPost-hypercapnic Alkalosisを生ずる1,2)。その際脳脊髄液(CSF)のPCO2も同時に減少するが,HCO3-はblood-CSF barrierを通過しにくいためCSFのpH上昇は動脈血よりも著しく,意識障害,痙攣などの重篤な合併症を招来するといわれている3)

 今回慢性呼吸性アシドーシスの患者の手術中および術後の呼吸管理において,post-hypercapnic alkalosisを呈したが,同時に測定したCSF pHは動脈血に比べ比較的狭い範囲内に維持され,異常な上昇を招くことなく良好な経過をとった症例を経験したので報告する。

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 川崎病は乳幼児に好発する急性の血管炎症候群の一つであるが,冠動脈が高率に侵され1〜3),冠動脈病変の残存はその予後を左右すると言われている。1967年,本症が初めて報告4)されて以来,すでに20年が経過しているが,今後,本症の既往を有する成人例が増加し,内科領域でも川崎病後遺症による冠動脈病変を有する患者を扱う機会が増えることが予想される。今同,我々は,川崎病後遺症によると思われる狭心症の1成人例を経験したので報告する。

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 誘因なく右房が拡張する特発性右房拡張症は極めてまれな疾患である。原因として一般的には先天性と考えられているがいまだ不明の点が多い1,2)。今回我々は病因を考えるうえできわめて興味深い,兄弟に発生した特発性右房拡張症を経験したので報告する。

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 大動脈炎症候群では大動脈・主幹動脈・肺動脈の非特異的炎症と瘢痕線維化により,二次的に大動脈弁閉鎖不全症・狭窄性変化などの臨床症状を呈することがある。

 一方,後天性Valsalva洞動脈瘤の原因疾患としては,細菌感染・梅毒・結核等が知られているが,大動脈炎症候群に伴うものは稀である。また,Valsalva洞動脈瘤により伝導障害を呈したという報告もきわめて少ない9〜11)

基本情報

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呼吸と循環
36巻5号 (1988年5月)
電子版ISSN:1882-1200 印刷版ISSN:0452-3458 医学書院

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