Japanese
English
特集 酸素療法の適応基準
エネルギー代謝からみた基準—低酸素状態での代謝調節
Oxygen therapy:Metabolic adaptation to hypoxia
吉武 潤一
1
Junichi Yoshitake
1
1九州大学医学部麻酔科
1Department of Anesthesia, Kyushu University, School of Medicine
pp.471-477
発行日 1988年5月15日
Published Date 1988/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1404205247
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はじめに
生体は酸素を大気より肺を介して血中に取り込み,組織へと運ぶ。組織では酸素はその濃度勾配に従って細胞のミトコンドリアに達し,その部で進行する好気的代謝の最終水素受容体となり,水を生成する。ミトコンドリアでは酸化的燐酸化が進み,ATPが産生され,それが細胞の機能遂行に必要なエネルギー源となっている。
酸素分圧は空気中で約158mmHg,正常人の動脈血で約100mmHg,毛細血管血で約50mmHg,混合静脈血で約40mmHgである。ミトコンドリアで酸化的燐酸化反応を進行させるに必要な最低の酸素分圧がどの程度であるか正確には知られていないが1mmHgで十分であろうと推定されている1)。組織の酸素化が十分であるかどうかは,その部位を灌流した静脈血の酸素分圧を知れば推定できるとされており,全身的な酸素化が問題となる場合には,混合静脈血の酸素分圧またはHbの酸素飽和度を測定すればよいと考えられている2)。臨床的には一般に動脈血酸素分圧(PaO2)が測定されており,60mmHg以下であれば低酸素血症(hypoxemia)と判定されている。しかしPaO2は酸素運搬に関する一つの指標に過ぎず,組織の酸素化が十分であるかどうかに関しては,さらにHbレベル,Hbの酸素解離曲線の位置(P50値),心拍出量,細胞の酸素摂取などが考慮されねばならない3)。hypoxemiaは組織hypoxiaの原因として重要なものであるが,hypoxemiaがなくても組織hypoxiaが存在しうるものであることも理解されておかねばならない。
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