呼吸と循環 34巻6号 (1986年6月)

巻頭言

症候群とCOPD 梅田 博道
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 症候群syndromeの語源は,「同時に生ずる」という意味のようである。Dorlandの医学辞典によれば,"aset of symptoms which occur togcther"とある。

 いくつかの症候をまとめ,それによって病像を一括して表現しようとするものと考えられる。かつて,病因的相関のはっきりしているものをsyndromeとし,病因的相関ははっきりしないが特有な症候を同じようにもつ一群の疾患をsymptom complexと区分したむきもあったようだが,現在はこのような使いわけはされていない。しかし,私はこれとは多少違うが,このような考え方を現在ももつべきだと考えている。

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はじめに

 中枢神経内にモルヒネと特異的に結合するオピエト受容体が存在しているという発見1)に続いて,生体内にもモルヒネ受容体に特異的に結合し,モルヒネ様の効果を有するペプチドが存在することが確認され,エンドルフィンendorphinと総称された2)。その後オピエト受容体にはμ,κ,δの3つの受容体が存在することが明らかになり3),これらと特異的に結合する内因性opioidpeptidesは5つのグループに分類されている4,5)。すなわち1) methionine—,leucine-enkephalinとしてよく知られているenkephalin類。2) enkephalinの前駆物質から由来すると信じられているdynorphins。3)α-,β-,γ-,δ-endorphin。4)β-casomorphinのように体液中にみらtるpronase抵抗性ペプチド。5)上記以外の間接的に作用するペプチドである。これらの中で呼吸調節との関係で最も研究されているのは,μおよびδ受容体に作用するenkephalinsとβ-endorphinである6)。これらのendorphinは,頸動脈体7,8),延髄9),迷走神経系10)に豊富に認められることや,オピエト受容体が中枢性呼吸調節機構の存在する延髄に特に多く認められること11)から,これらendorphinが,神経伝達物質および神経性あるいはホルモン性の調節物質として呼吸調節と密接な関係を有すると考えられている。近年さらにオピエト受容体の特異的antagonistであるnaloxoneを用いたendorphinsの生理学的作用の研究も一段と進み,呼吸調節におけるendorphinsの役割についての知見が,次第に増加している12)。ここではこれらの最近の基礎的および臨床的知見について述べる。

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はじめに

 本邦では心疾患の死亡率は増加傾向を示し,虚血性心疾患の罹病数も増加しており,また,発症の若年化も認められる。狭心症や心筋梗塞に罹患後社会活動に復帰し,通常の勤務を行っている人も沢山おり,また,家庭生活も円満に過ごしている。教室の報告でも1),入院中リハビリテーションを終了した比較的若年の心筋梗塞患者の累積生存率はnormal survivalと比較してほぼ変わりない成績である。単に患者が長生きするだけでなく,身体的に,精神的に可能なかぎり,健康な人と同様に過ごすことができることが,リハビリテーション医学の目的である。このように社会的活動を行っている患者では,性生活も日常生活の一つとして重要な問題となってくる。しかし,本邦ではこの問題は医師と患者の双方にとって取り扱いにくい問題で,あまり論じられなかった。心臓病患者の性を扱った著書として,「心臓と性」(Scheingold,Wagner著,広沢弘七郎監訳)2)などが出版され,徐々に認識が広まりつつある。

 本稿では,心臓病患者,特に虚血性心疾患の性生活について,文献的に考察し著者の経験についても述べる。

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はじめに

 QT間隔の成立ちについては,その基礎となる心室筋細胞の活動電位持続時間が心室の部位によって異なるために必ずしも明らかではない点もある。また,QT間隔の計測については,T波の形態の相違,T波とU波との区別,などの点からT波終点の決定に関連した問題点も少なくない。しかしながら,臨床的には個々の症例におけるQT間隔の変化は診断や病態の把握,治療方針の決定,および予後の判定などの点からきわめて重要である。

 本稿ではQT間隔の成立ち,計測上の問題点,QT延長を生じる病態や疾患,および薬剤などに関する諸家の成績の一部を紹介する。

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はじめに

 MRI(Magnetic resonance imaging;核磁気共鳴画像診断)は,"X線CTのように高分解能を有し,超音波のように放射線被曝がなく,核医学のように,機能,代謝イメージングができる"といわれ,画像診断の領域において,近年,その発展は著しい。その原理は,磁場内におかれた生体に電磁波をパルス状に加えて特定の元素の原子核にエネルギーを吸収させ,それが放出される過程の信号を画像化したものである。国立循環器病センターでは,本邦で初めて超電導型(1.5テスラ)MRI装置(Magnetom;シーメンス社製)を導入し,動物実験,臨床応用の両面から心大血管の画像診断における役割を検討している。本稿では,著者らの現在までの成績を紹介するとともに本法の将来展望についても述べる。

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はじめに

 呼吸,歩行,飛翔といった周期性運動の発現には感覚性フィードバックは必要なく,中枢自体に周期的な運動パターンを形成する神経機構が備わっていると考えられている。周期性運動のリズムを形成する機構を一般に神経オシレーターと呼んでいる。無脊椎動物では同定可能なニューロンからなるネットワークを電気生理学的な方法で解析することによって,神経オシレーターのニューロン機構がすでにいくつかの材料で明らかにされている1)。しかし脊椎動物ではオシレーターが膨大な数のニューロンから構成されており,無脊椎動物で用いられた方法は利用できない。

 位相反応曲線(phase response curve,PRC)は,Pittendrigh2)がショウジョウバエの羽化リズムの解析にはじめて導入し,概日リズムの研究に広く使われている。その数学的性質はPavlidis3),Winfree4),Kawato5)によって調べられ,生理学ではHodgkin-Huxley方程式の性質の解明や6),心筋の拍動リズムの解析7,8)などに応用されている。位相反応曲線はオシレーターの実体が不明なときにその系の性質を記述したり,その系の内部構造を推定したりするのに用いることができる。ここでは位相反応曲線の考え方を簡単に説明した後,哺乳類の呼吸運動リズムの解析に応用した結果を示す。

分離換気とselective PEEP 高崎 真弓
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はじめに

 急性の呼吸不全で重篤な低酸素血症に陥ったとき,positive end-expiratory pressure(PEEP)を用いた人工呼吸管理は,きわめて有効であり,広く臨床に応用されている。ところが,肺病変が片側に限局しているときや,両側に存在するが左右差のあるときにPEEPを用いると,低酸素血症が改善するどころか,かえって悪化することがあると報告されている1〜6)

 このような片側性の肺疾患で,人工呼吸管理を必要とするような患者には,ダブルルーメン気管支内チューブを用いて,左右の肺を分離し,患側肺にだけPEEPを用いれば,安全かつ有効であることは明らかである。左右の肺は完全に分離されるので,患側肺を健側肺から隔離することにもなる。また,患側肺の吸引や理学療法に十分な時間を費やすこともできる。1976年から多数の臨床報告がある3,4,7〜18)。本邦においても,1981年に著者ら19)がこの方法を紹介して以来,数編の報告がある20〜24)。ここで,片側肺疾患による急性呼吸不全のときの人工呼吸管理の1つの方法として,differential lung ventilationとselective PEEPについて解説してみたい。なお最近,Kvetanら25)が発表した片側肺疾患による急性呼吸不全の治療手順は参考になる。

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はじめに

 肺野の聴診は理学的診断法の基本であるが,聴診を最大限に生かすには,病歴,視診,および触診所見から,その患者で聴取する可能性がある,いくつかの肺音所見を予測し,その有無を確かめようとする態度が必要である。ベッドサイドで同じように診察をしても,患者から得る情報量が医師により大きく異なる理由は,1)経験や知識の差,および,2)観察力や注意力など,先天的な能力差以外に,3)特定の疾患なり,所見なりをあらかじめ予測し,意識的にその有無を確かめようとすることができるかどうか,にある場合が多い。心雑音の聴診でも同様であるが,なんとはなしに聴診器を当てて聞くのと,この症例ではこのような異常肺音があるかもしれないと思って聞くのとでは,同じ聴診でも内容的に天と地の差がある。本稿の主題はベッドサイドでの肺野聴診の実際と,正常呼吸音と異常肺音の分類であるが,最初に肺聴診の歴史についても,簡単に触れておく。

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 虚血性心疾患の外科的治療は,1967年にCleveland ClinicにおいてFavaloroが患者自身のsaphenous vein(以下SV)を用いて冠状動脈血行再建手術を始めて以来,驚くべき発展をみた。はじめFavaloroはSVを用いて,冠状動脈の狭窄部を置換したのであるが,その後SVにて大動脈基部から冠状動脈狭窄末梢へとbypass路をつくる手術(Aorto-Coronary Bypass,以下AC Bypass)へと発展した。この手術によって,心筋虚血部は,手術直後より十分な血流を受け,狭心症の改善をみるために,広く内科医,心臓外科医に,そして社会的にも高い評価をもって受け入れられ現在に至っている。

 しかし,この手術の対象となる虚血性心疾患は,冠状動脈硬化症という病理学的変化により発症しているものであり,AC Bypassがこの病態の進行にいかなる影響を及ぼすのかは不明である。したがってAC Bypassを受けた患者の長期予後は,心臓外科医にとっても内科医にとっても興味ある問題である。AC Bypassが行われるようになって20年を経過する現在では,この手術の長期予後を統計的に正確に検討すべく研究を続けてきたグループからの10年を越す予後調査の報告がされるようになった。虚血性心疾患の自然歴とわれわれのAC Bypass手術成績を比較し,また,内科治療と外科治療のran—domized trialの結果をも参考にしてAC Bypassの長期予後を心臓外科医の側から述べてみたい。

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目的

 種々の薬剤の心臓への薬理作用,心筋代謝,外科領域における心筋保護および,心移植における心保存の研究では動物の摘出心による灌流実験が多用されている。摘出心の灌流実験においてはLangendorffの考案した逆行性冠灌流によるempty beating heart method1),Neelyらのworking heart method2)が用いられているが,左心系全体についての機能・代謝を検索するにはworking heart methodがよりすぐれている。現在working heart modelとしては多くはrat heartを用い,心摘出時一時的に心拍を停止させてLangendorff灌流(以下LP)にて心拍を再開させた後Langendorff回路とは別の回路にてWorking灌流(以下WP)へ移行させている3,4)。しかしこの方法では心摘出時に冠循環の停止をきたし,心筋全体に虚血を生じさせ,nonworking状態からworking状態への急激な灌流法の移行は心負荷を与えることになる。また,多くの場合は,冠灌流液(以下CF)を右房から排出させ再使用しているが,このことはCF中のgas分析を行えずまた,灌流液への代謝産物の混入を招きその検索に影響を及ぼすものと思われる。以上の欠点を補うために家兎を用いて心摘出時に心拍を停止きせない摘出法とLPからWPへの移行時の心負荷を経減できる灌流装置を工夫した。さらに肺動脈にカニューレーションすることによってCFのgas分析を可能にし,CFは廃棄して再使用しない方法を用いた。

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 うっ血性心不全に対する治療薬として,従来よりdigitalis剤,catecholamine剤などの陽性変力剤が用いられてきたが,近年新たにいくつかの陽性変力剤が開発され,その有用性が報告されている1〜3)

 bipyridine誘導体であるamrinone(Win 40680:5-amino-3,4’-bipyridin-6(1H)-one:図1)は,1978年FarahとAlousi4)によってはじめて紹介された新しい陽性変力剤であり,上記薬剤のいずれとも異なった機序によって心筋収縮力を増大させるという。すなわち,digitalisのごとくNa,K-ATPaseを抑制することはなく,またcatecholamineのように交感神経β受容体を介することもないとされ,平はPDE(phosphodiesterase)阻害によって細胞内cyclic AMP濃度を増加せしめ,強心作用を発現する可能性が高いと述べている5,6)

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はじめに

 近年,冠動脈造影法の普及により,急性心筋梗塞および狭心症の成因に冠スパズムが関与している症例が少なからず存在することは疑う余地のない事実である1〜3)。冠スパズムの検出に種々の負荷法が検討されているが,マレイン酸エルゴメトリン(ERG)負荷試験が最も特異性が高く,かつ鋭敏であるといわれている4〜6)。しかし,ERGの投与方法およびERG投与後の冠動脈造影上の冠スパズムの陽性基準についてはいまだに一定した見解がない。麦角アルカロイドであるERGは肝臓で代謝されるが,その半減期は不明で,ERG投与後の比較的短時間の血中濃度変化が個々の症例で同一かどうかについて明確にする必要がある。すなわち,従来より多施設で行われているERG静脈内投与法がERG負荷総量が等しくとも,冠血管床を灌流する濃度が個々の症例で同一となっているかどうか,検討すべきである。そこで,今回の研究は,ERGの血中濃度と冠スパズムの程度および血行動態諸量との関連について個々の症例で検討する目的で行った。研究の手順として,(1) Edlundの方法7)に準じて,高速液体クロマトグラフ(HLC)を用い,ERG血中濃度測定法の安定性および精度を検討し,その測定法を確立し,(2)冠スパズム陰性例でのERG静脈内投与後の血中濃度変化およびERGの血中濃度と血行動態諸量との関連について明らかにし,(3)冠スパズム陽性例での発作時の血中濃度を検討し,ERG静脈内投与法の問題点を明らかにしたので報告する。

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 肥大型心筋症(HCM)の特微的な血行動態異常は左室流入障害であり,安静時の左心収縮能は一般にむしろ亢進状態にあるとされている1)。しかし本症患者では労作時に呼吸困難,胸痛,ST下降をきたすことが少なくなく2),また突然死も労作に伴いしばしば発生する3,4)。したがって,HCMでも運動中には左心機能障害をきたすことが推測され,戸嶋ら5)やLosseら6)は本症患者の中には運動中に肺動脈平均血圧または楔入圧が著明に上昇するにもかかわらず1回拍出量や1回仕事量が増加しえず左心予備能が低下した例が認められることを報告している。しかしこれらの研究では左室容量の変化は検討されておらず,運動中の左心機能低下が拡張期流入障害によるものか,左室の収縮不全によるものかは解明されていない。

 一方multigate心プールシンチ法は非観血的に左室駆出分画や左室容量を把握しえ,特にくり返してこれらの指標を把握する必要がある運動時の左心動態の評価に広く応用されている7,8)。そこで本研究では心プールシンチ法を用いてHCM患者の運動中の左心動態を検討し,本症における運動中の左心機能低下の機序の解明を試み,さらにその臨床的意義について考察を加えた。

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 細気管支病変あるいはsmall airway diseaseといわれる閉塞性肺疾患が注目されているが,これを早期に検出するための検査法としてFlow-volume曲線の測定が行われる1〜6)。Flow-volume曲線はスパイログラムにおける一秒率では検出しにくい変化を知るうえできわめて有用であり,操作も簡単で患者に対する負担も軽いなど,今やルーチン検査に欠くことのできない検査法の1つとなっている。

 Flow-volume曲線の評価は装置のめざましい進歩や日本人の体格,生活様式の著しい変化と相まってup-to-dateな標準値あるいは予測式の確立が急がれている。評価に用いる指標としてはPEFR,V50,V25,V50/25などがあり,これらの標準値および予測式についての報告はいまだ少なく,また確立されたものはない。

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 先天性肺動脈弁閉鎖不全症は,Abbott1)によると,先天性心疾患1,000例中8例に認められ,そのうちの6例が特発性肺動脈拡張症と共存するまれな疾患である。本疾患の診断には,同じくErb領域に聴取される大動脈弁閉鎖不全症の高調な拡張期逆流性雑音と鑑別する必要があり,その方法としてAmyl Nitrite,Methoxamine負荷心音図法の他,Aminophylline負荷心音図法の有用性が報告されている2)。今回われわれは,特発性肺動脈拡張症に伴う先天性肺動脈弁閉鎖不全症の1例を経験したので,若干の文献的考察とともに,Aminophylline負荷心音図法およびAminophylline負荷超音波Pulsed Doppler法の有用性について報告する。

基本情報

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呼吸と循環
34巻6号 (1986年6月)
電子版ISSN:1882-1200 印刷版ISSN:0452-3458 医学書院

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