呼吸と循環 15巻2号 (1967年2月)

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 現在,医学において医学教育および研究の場からとり残されたいくつかの領域があげられる。内科をはじめとする臨床医学者および生理学者の立場から共通に考えて,その領域の第一に臨床生理学をあげるのもあながち不当とも思われない。ここ数年来日本生理学会のなかに生理学将来計画委員会ができ,その委員会で臨床生理学講座の設置を必要と認め,要望書を作成している。この書類の冒頭にも,「今日の臨床医学は生理学の基礎知識なくしてはこれを習得かつ実地応用することが困難な時代になっている」と説かれている。また,一部の大学では臨床中央検査室をもって臨床生理学講座の代用にあてようとの企てもあるが,しかし検査室は病院運営に必要な部門であり,教育の場とするにはふさわしくない。

 この講座の新設が議題に出たとき,一部生理学者の間で病態生理学と臨床生理学との差異が論議された。事実,それら両者の間にはとくに大きな差異があるともみとめ難いが,あえて私見を述べると,病態生理学は病人の生理機構の正常人との差異を生体として考え,病人と正常人の間の比較生理学的な立場にあり,調査的な学問分野であるように思える。この学問は,その研究手法が生物学的方法を用いる点で,臨床医家の最も得意とする分野で,現在内科診断学はその上に立っているといっても過言ではなさそうである。

綜説

努力性換気力学 冨田 友幸
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はじめに

 換気は普通肺から出入りするガス量で表わされ,またbody plethysmographyによって胸廓の変動量(肺気量の変動量)として把握することもできるが,両者は必ずしも等しくない。しかしどのような見方をするにしても,換気とは呼吸筋の活動や肺および胸廓の変動に伴ったいわば結果であり,肺だけでなく,胸廓やガスの性質など換気に関与するあらゆる因子の力学的関係に支配される。Rohrer (1916)は,換気量と同時に圧を測定することによって換気の力学的解析を試み,弛緩圧量曲線および最大努力性圧量曲線によって呼吸器の圧量関係を示した。

 その後とかく換気力学は肺にのみ関心が向けられる傾向があったが,近年再び換気を総合的に把握する必要が認識され,肺のみならず胸廓の力学的因子の解析,さらには呼吸筋の関与についても数々の検討がなされるようになった。このように換気機能を総合的に把握するために,安静換気のみでなく努力性換気を含めたあらゆるpatternの換気について力学的な検討を行なう必要が考えられるようになった。

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I.心筋硬塞とQ波

 心筋硬塞における心電図は,Bayleyら1)〜3)の実験的研究による明快な説明をえて,概念がほぼ確立され,ことに心筋壊死を反映するものと考えられたQ波の出現が,この疾患の特徴的な所見とされるにいたった。心筋壊死は一般に非可逆な組織学的変化を残すものであるから,上述の考え方からすると,いったん現われたQ波は永久に消失しないのが原則で,突然に出現したQ波が新しい硬塞の生成を示唆するほか,持続するQ波の存在は陳旧性硬塞の前歴を推測させるものとされてきた。ところが,心筋硬塞のいわば十分条件ともいうべきこのQ波が,剖検で必ずしも硬塞を証明できない例にも出現しうること,さらに明らかな硬塞曲線の心電図所見が単に一過性で,ST上昇のみならずQ波も数日〜数週のうちに消失し,恒久的な所見とはならない例のあることが,最近しばしば経験されている。われわれもこれに類する症例を集めてすでに報告し,その特殊性を重視した4)が,このような経験的事実はQ波出現に関する古典的な説明と矛盾するもので,従来の解釈は多少とも補足修正せねばならないことになる。

 以上のような観点から,硬塞曲線の出現機序にかんする新しい概念を紹介するとともに,一過性非硬塞性Q波を示した自験例にもとづいて硬塞曲線の推移についての臨床的重要性に考察を加えてみたい。

臨床

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はじめに

 sinobronchitis(副鼻腔気管支炎)と呼ばれる一つの徴候群は,上気道,下気道およびその周囲のリンパ節の非特異性慢性炎症が合併したものである。この徴候群については,すでに1900年ごろより,しばしば報告されており,臨床的研究1)〜14)のみならず,その成因などに関する実験的研究15)16)も少なからず行なわれている。

 本徴候群の主体となる,慢性副鼻腔炎ならびに慢性気管支炎や気管支拡張症は,各々それ自体,各専門領域において,いずれも重要な疾患として,臨床上あらゆる角度から観察され,治療せられ,また細菌学的,ウイルス学的,あるいは病理解剖学的など基礎的見地から究明されているが,これらの疾患が合併しているときには,関連性のある一つの徴候群として,気道全般にわたる緻密な検査や観察と相互に関連した周到な治療が必要なことはいうまでもない。

 以下,はなはだ雑駁であるが,従来経験した本徴候群患者についての臨床的知見を総括して述べてみたい。

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はじめに

 近年,成人の肺機能に関する研究は目覚しい発達を示したが,新生児では,ⅰ)被検者の協力がまったく得られないこと,ⅱ)成人に使用している機械器具がそのままで使用できないこと,ⅲ)新生児の所属が小児科と産科の谷間であること,などの理由でこの方面の研究はかなり立ちおくれた。しかし,1896年Dohrn1)が最初にマスクを使用して新生児の呼吸状態を記録して以来,欧米諸国では,新生児に適応した肺機能検査機械器具を作製し,分時呼吸数,肺活量(crying vital capacity),食道内圧,機能的死腔量,肺胞換気量,肺胞拡散,肺圧縮率,血液中pHおよび血液ガス分析,などの測定,算出が進められている。

 そこで今回は新生児の肺機能検査の発達過程を支献的に展望するとともに,日本大学医学部小児科学教室において行なっている肺機能検査の成績について述べたいと思う。

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はじめに

 ひとくちに新生児の循環といっても,今日までに研究の対象とされたものは,心肺循環が主であって,それに付随して静脈管と肝循環が多少手がつけられた程度であって,他の多くの分野,とくに脳循環や腎の循環機能などは,臨床的にも早急に研究の成果がまたれているにもかかわらず,ほとんど未開拓といってよい。このような意味からまことに不十分ではあるが,今日までに明らかにされてきた新生児の心肺循環について,主として機能的な面に関する研究の成果を説明し,今後の問題点を指摘してみたいと思う。

 結局,新生児の循環機能の特色というか,成人や幼児のそれと比較して著しく異なる点を考えてみると,その非定常性にあるといえる。すなわち,いかなる児の,いかなる時期であっても決まった状態というものが存在しない。したがってそれに対応するいろいろな検査所見,たとえば心電図,心音図,血圧,脈波,レ線所見などのどの一つをとってみても,定形どいうものがない。新生児循環の研究につきまとう困難のすべては,この非定常性にあり,刻々と変化する状況のなかで,生理的なものと病的なものとを鑑別していかなければならないところに特色がある。

装置と方法

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はじめに

 血液,体液,呼気中の炭酸ガス分圧の測定法としてはVan-Slyke, Haldane, ScholanderおよびSererin—ghaus法などが一般臨床に広く用いられ,かつ定常法とされている。これらの方法はいずれも資料を採取しそれを分析するという方法である。このほか赤外線分光,吸収法やガスクロマトグラフにおいてもほぼ同様であるといえよう。

 現在の医学においてとくに要求されることとして,血行動態の動的計測ということが大きなテーマとしてとりあげられつつある。これは,各測定装置で生体の諸変化を動的な状態において連続的に測定しようとすることであり,心電計などの生体の電気現象の計測装置ではトランジスタ化され軽量小型で,数種の生体現象をテレメーターにより電送する方法が開発され,用いられている。生体が化学変化を主休としていとなまれている以上,その化学的諸現象を動的に連続して計測することはきわめて意義のあることであるが,現在における技術的水準では適当な方法がなく,臨床面からも早急な開発がのぞまれている分野の一つである。この傾向はこの分野全般においていえることで,大きな努力が払われている。現時点における状況は他のME諸装置に比較し,定性,定量の精度において同一水準にあるとはいえず,とくに動的な値においては差が大きい。

ジュニアコース

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はじめに

 肺の基本的機能はいうまでもなくガス交換であり,そのガス交換は拡散という物理的現象によって行なわれる。このガス交換作用は人体においても測定できるようになり,肺機能の普及につれて,最近各所で拡散能力が測定できるようになった。しかしこの拡散能力は,いろいろの仮定に基づいた理論にしたがって求められているため,拡散能力を測定しても,その値がはたしてなにを示しているのか分らないという意見が最近みられるようになり,diffusing capacityという語を用いないで,「transfer factor」という方がよいのではないかと,Cotesを委員長とする委員会1)は述べている。また,肺内ガス不均等分布や換気血流分布の障害が存する場合にも拡散能力は低下するので,diffusing capacityの測定は単なる肺機能良否のscreening testにすぎないと極言する人2)もあるが,現にわれわれが臨床的に拡散能力を測定するにさいして,その測定法の長所短所をよく理解したうえで正確に測定を行なってその値を読むならば,single breath method, rebreathing methodなどは立派な検査法であると信じている。

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 心電図の判読は一般にむずかしいものとされているが,期外収縮や心房細動などふだんみかける不整脈を見分けるのは,そうむずかしくない。ところが,不整脈にはいろいろな種類があり,うっかりすると読みまちがえる場合もある。以下そういう場合をとりあげ,症例を供覧しながら,解説を行なうことにする。

解説

微小循環力学と統計理論 小野 周
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まえがき

 indicator dyeを用いて,臓器中の血液の流れや,functionalな血液の容積を求めるこころみは,1954年頃から行なわれているが1),比較的最近になって,Gómezなどが,巧妙な解析方法を考案し2),これを腎臓の場合に適用して非常に興味ある結果を得ている3)。この小論の目的は,このGómezの方法に関する簡単な解説を述べ,2,3の意見を加えることである。小循環に関するGómezの理論の生理学的な面ま,長島長節氏4)の解説にも述べられているし,また筆者の専門とも著しくはずれることであるから,ここではふれないことにする。

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緒言

 1963年Lopez, Katzら13)14)は,paired pulse stimulationを用いることにより,心拍数を半減させうることを発表した。この方法は,2つの電気刺激パルスを適当な間隔でpairにして心筋に与える方法である。まず第1のパルスで心筋は電気的興奮(脱分極)と同時に収縮をおこすが,第2のパルスは相対不応期に与えられるので,脱分極は再びおこるのに,この時期は心収縮のほぼ極期にあたるために,実際の心収縮はほとんどおこりえない。したがって心収縮1回に対して,脱分極は2回おこることとなり,電気的不応期は約2倍に延長する。これによって心筋の自発興奮は抑えられ,もしpairの頻度を適当に選べば,心拍は完全に制御されて,心拍数の減少をきたす。

 さらにこの方法は,postextrasystolic potentiationの持続した心拍をもたらすことと関連して,心筋収縮力の増強がみとめられ,Chardack3), Hoffman5)Bra—unwald1)など,多くの基礎的研究と同時に,臨床応用も試みられる階段にいたっている。

 著者ら21)の成績もその概要を諸外国の研究状況とあわせて述べてみたい。

基本情報

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呼吸と循環
15巻2号 (1967年2月)
電子版ISSN:1882-1200 印刷版ISSN:0452-3458 医学書院

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