臨床婦人科産科 74巻8号 (2020年8月)

今月の臨床 産婦人科医に最低限必要な正期産新生児管理の最新知識(Ⅰ)―どんなときに小児科の応援を呼ぶ?

総論

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●仮死なく出生し,適応が順調であること,経過で疾患がないことが確認されて,初めて健常であると判断される.すべての新生児に対して,適応過程の評価と援助,病的問題の評価と対応を行う.

●新生児期は母子関係の確立に非常に重要な時期である.母親が主体的に養育できるようにエンパワメントすることを基本姿勢として,母乳育児支援や保健指導を行う.

●最新の新生児蘇生法,早期母子接触および母子同室実施の留意点,新生児管理に対する提言(産科医療補償制度)などを遵守して,新生児ケアを行う.

分娩直後

出生直後のチェック項目 側島 久典
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●分娩立ち合いに臨む際には,チームの中に必ず新生児蘇生法講習会修了者が少なくとも1名以上あり,十分な立ち合い前の準備点検,役割を確認する.

●出生直後の児の状態では,①早産児か,②弱い呼吸・啼泣があるか,③筋緊張の低下の有無の「3ポイント」を確認する.

●蘇生の初期処置を円滑に進めるとともに評価を行い次のステップに移行する.

気道確保と人工換気,NCPR 細野 茂春
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●生まれてくる新生児のリスクに応じて立ち会う職種・人数を決め,出生前ブリーフィングを行い,蘇生器具の確認と担当を割り振る.

●応援を依頼する医師の連絡先と応援要請から現着までにかかる時間を把握しておく.

●分娩に立ち会う医療者は新生児蘇生法講習会を受講し,最新のアルゴリズムを理解して人工呼吸の手技の修得をしておく.

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●新生児の心拍や呼吸状態は環境要因に影響されることがある.心拍や呼吸の異常を認めた際は,まず室温・保育器の器内温度などの環境要因が適切であるかを確認する.

●頻脈や徐脈など心拍の異常を認める新生児では,皮膚色不良や毛細血管再充満時間遅延,末梢冷感など循環不全徴候がないか診察する.

●多呼吸を認める新生児では,呻吟・陥没呼吸など努力呼吸の有無を確認し,SpO2を測定する.

●どのバイタルサインも経時的に評価することが重要である.増悪する場合だけでなく,改善せず判断に迷う場合は小児科医にコンサルトする.

●特に安静時心拍70/分未満,180/分以上,呼吸数60回/分以上が持続する場合は,緊急を要することがあり,早急に小児科医へのコンサルトを検討する.

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●チアノーゼ性疾患は急変リスクが高く,速やかな対応が求められるため,判断に迷うときは躊躇なく何時でも各医療圏のNICU医師に相談すべきである.

●出生後に下肢のSpO2値で重症先天性心疾患をスクリーニングすることにより,重症先天性心疾患の死亡症例を減少させることが期待されている.

●分娩室での新生児蘇生では児の右手でSpO2値を測定するが,分娩室での蘇生処置終了以降はSpO2値を下肢で測定することが重症先天性心疾患スクリーニングに有用である.

新生児でよく見る症状とその対応

黄疸管理 日下 隆 , 中村 信嗣
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●早発黄疸をいかに早く発見し,小児科医にコンサルテーションするかが,「核黄疸発症予防」につながるだけでなく,「交換輸血などの侵襲的な治療を回避する」ために重要である.

●経皮ビリルビン値(TcB)は血清総ビリルビン値(TSB)と同じではない.特にTcB>15mg/dLのときはTSB値を反映しにくいため,採血による確認を行うべきである.

●母子手帳に添付されている便カラーカードは,胆道閉鎖症(閉塞性黄疸)のスクリーニングに非常に有用である.

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●新生児の嘔吐はほとんど生理的嘔吐だが,授乳開始前からの嘔吐,胆汁や血液を混じる嘔吐,腹部膨満を伴う嘔吐は要注意である.

●吐血や下血では,貧血の重症度を見極めることが重要であり,活気や皮膚色,末梢循環不全の有無などに留意する.

●ほとんどの新生児で生後24時間以内に初回の胎便排出を認め,腹部膨満を伴う便秘はコンサルトの対象である.

●新生児の下痢症は稀であるが,原因には重篤な疾患も多く,脱水や低血糖のリスクも高い.

血糖測定 河井 昌彦
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●低血糖のハイリスク児は,早産児・低出生体重児・SGA児・巨大児・糖尿病母体児・病的新生児などであり,低血糖に対する注意が欠かせない.

●胎児の肝グリコーゲン貯蔵量は在胎36週以降に急速に増加するため,late preterm児のグリコーゲン貯蔵量はきわめて限られており,低血糖のリスクがきわめて高い.

●低血糖のリスク因子を有しない児でも,full feedingに達するまで,あるいは生後72時間以内は低血糖を生じる危険が高いため,常に低血糖症状の有無に留意し,疑わしい所見があればただちに血糖を測定すべきである.

心雑音 与田 仁志 , 水書 教雄
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●心雑音の出現時期 : 新生児期には肺血管抵抗が急激に低下することで,欠損孔を通過する左右短絡血流に乱流が発生し,初めて心雑音として聴取される.そのため,心室中隔欠損でも出生当日や翌日には心雑音は聴取されにくく,数日〜1週間経過してから聴取されることを知っておく.

●心雑音以外の観察ポイント : チアノーゼや呼吸障害(多呼吸,陥没呼吸など),哺乳不良,肝腫大,末梢循環不全,脈触知不良などが観察すべき項目である.

●心雑音の聞こえない心疾患 : 心雑音では発見できない重篤な心疾患がある.心雑音以外の心徴候,すなわちチアノーゼ,呼吸異常,哺乳困難などで心疾患を疑うことは可能である.しかし,聴診上gallop(ギャロップ)音(異常なⅢ音,Ⅳ音)やⅡ音の亢進などの心音異常で判別できることがある.

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●生理的な体重減少を逸脱すると,低血糖,高ナトリウム血症などを合併する危険性がある.

●人工乳補足に関しては,母への適切な授乳の指導と精神的な支援とともに行うことを心がける.

●2週間健診,1か月健診時には,1日体重増加量と児の全身状態をよく観察し,体重増加不良だけでなく随伴する症状があれば小児科医にコンサルトする.

新生児けいれんの診かた 柴崎 淳
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●新生児けいれん(neonatal seizure)は,慢性のてんかん性の場合もあるが,多くは低酸素虚血,出血,低血糖,髄膜炎などによる脳の一時的な急性症状である場合が多い.

●新生児けいれんを疑ったら,まずは低血糖や髄膜炎など早急に治療開始すべき疾患をルールアウトする.

●新生児けいれんでは,けいれん以外の発作症状(無呼吸や心拍・血圧の変動)しかみられないことも多い.

●脳波検査なしに新生児けいれんと診断することは非常に難しい.

何となく具合が悪い新生児 新藤 潤
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●「何となく具合が悪い」(not doing well)新生児は手術率・死亡率ともに高いため,重症疾患の初発症状と認識して,ただちに原因検索・治療を進める必要がある.

●原因は多岐にわたるため検索は小児科に任せる.搬送を躊躇しない.

●可能であれば搬送前にSpO2および心電図モニターを装着し,血糖,血液ガスの評価を行う.

●搬送前に治療を開始する際は検体〔血清または血漿,濾紙血(タンデムマススクリーニング用紙),尿,血液培養〕を保存する.

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●早期母子接触や母子同室は,愛着形成や母乳育児の確立に有用である.しかし,出生直後は全身状態が不安定な時期であるため,適切な管理下に行われる必要がある.

●早期母子接触や母子同室を実施する施設では,各施設の実情に応じた「適応基準」「中止基準」「実施方法」を作成する必要がある.

●早期母子接触や母子同室の有益性や効果だけでなく,有害事象についての十分な情報提供を妊婦や夫や家族に行い,同意を得たうえで行う.

連載 FOCUS

〔シリーズ〕産婦人科と先端テクノロジー

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背景・目的

 われわれは受精卵(胚)の培養環境を最適化することを目的として,低酸素環境を維持し培養ディッシュを空気中へさらすことのない連続培養系を確立することを目的に,Time Lapse機器を導入してきた.Time Lapse機器を利用するメリットは,胚を培養しながら連続撮影し,胚の発育をインキュベーター外に出さずに経時的に観察できることである.これにより,これまで定時の顕微鏡観察では確認できなかった胚の動態を見逃すことなく記録することができ,より詳細な形態評価が可能となった.Time Lapse機器によって得られた胚の情報は膨大であり,胚の形態評価の精度向上に有効である反面,画像データ量も膨大になり,その処理が新たな課題となっている.

 受精現象を判定するには前核の有無と数で判断することができる.前核数を正しく判定することは,生殖医療における移植胚を選択し培養するうえで重要な工程である.われわれはTime Lapse機器による胚観察により,定時観察では不受精と評価されていた胚のうち,1割程度に前核早期消失胚が存在することを明らかにした.つまり,顕微鏡による定時観察では受精現象を見逃していることになる.そこでTime Lapse機器を導入した2012年以降から現在に至るまで胚の前核数確認には,全症例でTime Lapse機器を使用してきた.

連載 教訓的症例から学ぶ産婦人科診療のピットフォール

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はじめに

 リンパ球性下垂体炎はリンパ球の浸潤を主体とする自己免疫性の慢性炎症性疾患である.特にリンパ球性下垂体前葉炎は女性に発症することが多く,妊娠後期や産後に発症しやすいといわれる.初発症状として下垂体腫大による頭痛や視力・視野障害が多い.しかし,そのほかにも全身倦怠感や胃腸症状などさまざまな症状が起こりうるため,診断が難しい場合がある.

 確定診断には下垂体生検が必要となるが侵襲を伴うため,臨床症状,MRI,下垂体ホルモン値の低下により診断される例が多い.

 今回,頭痛・発熱・嘔吐を認め救急搬送となり,下垂体炎が疑われた妊娠32週,妊娠30週の2症例を経験した.最初の症例では,治療抵抗性の強い頭痛・発熱がみられ,診断に苦慮したが,尿崩症が契機となり診断に至った.約1年後に経験した2症例目では,1症例目に比べ症状が少し軽く,初めは診断できなかったが,1症例目を経験していたことで診断に至った.

 妊婦の下垂体炎は稀であるが,認識することで不要な検査や投薬を行わずに済むため,知っておくべき疾患と考えられた.

連載 Obstetric News

妊娠中のビタミンD欠乏症 武久 徹
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 ビタミンD欠乏症は妊娠中によくみられ,ハイリスク集団においてはより多い可能性がある.ビタミンD欠乏症のハイリスク集団には,菜食主義者,肥満女性,肥満外科手術患者,日当たりの悪い寒い地域の居住者などが含まれる.

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▶要約

 卵管癌は稀な疾患で,早期発見は困難なことが多い.子宮頸部・内膜細胞診で腺癌細胞を認める以外に卵管癌を疑う所見はなく,手術にて卵管癌の診断に至った症例を経験したので報告する.症例は60歳2妊2産,症状や内診では異常を認めず,経腟超音波検査では両側付属器腫大や腹水貯留はなかった.MRI,FDG PET/CTでも有意所見はなかった.内膜細胞診で清明な背景に腺癌細胞を認めたため,卵管癌および腹膜癌を疑い,腹式単純子宮全摘出術および両側付属器摘出術,大網切除術を施行した.腹腔内および摘出標本に肉眼的病巣は認めなかったが,腹水細胞診は陽性であった.病理組織診で左卵管采より高異型度漿液性癌を認めたため,最終診断は卵管癌ⅠC3期であった.術後TC療法を6コース施行し,現在術後18か月で再発はない.本症例のように,子宮内膜細胞診で正常な内膜細胞や,清明な背景に明らかな腺癌細胞を認める場合,卵管癌を念頭に置いた対応が必要である.

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基本情報

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臨床婦人科産科
74巻8号 (2020年8月)
電子版ISSN:1882-1294 印刷版ISSN:0386-9865 医学書院

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