臨床婦人科産科 73巻9号 (2019年9月)

今月の臨床 産科危機的出血のベストマネジメント―知っておくべき最新の対応策

出血への予防

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●分娩時に大量出血が予測される胎盤位置異常,前回帝王切開部位の胎盤付着,巨大子宮筋腫合併,多胎,稀血液型,不規則抗体陽性例などでは自己血貯血を考慮する.

●自己血貯血を予定するのであれば,妊娠28週ごろより鉄剤を内服させ,貯血可能なヘモグロビンレベル(10g/dL以上)にしておく.

●返血は通常の輸血と同じ基準で行い,妊婦では整形外科領域のように安易に返血はしない.

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●前置癒着胎盤の集学的マネジメントにおいて,予防的IVRの導入は大出血のリスク軽減に大きく寄与する.

●円滑な予防的IVRの導入には,放射線科医と産科医,麻酔科医をはじめ関連スタッフとの良好なコミュニケーション,手術室でのIVRに必要な物品や装置の整備が必要である.

●予防的IVRの手技に関して定まった見解はないが,手技により得られる利益とリスクのバランスを考慮して,病態に応じた適切な手技を選択する必要がある.

緊急対処法

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●フィブリノゲンは産科危機的出血,特に消費性凝固障害における母児双方の病態評価に有用なパラメータであると同時に,補充すべき最も重要な凝固因子である.

●産科危機的出血は凝固因子の枯渇が起こりやすい.他の凝固因子は血中濃度が20〜25%以下にならないと凝固障害を起こさないが,フィブリノゲンは40〜50%以下になると凝固障害を起こす.

●出血の原因疾患が消費性凝固障害の場合は,新鮮凍結血漿(FFP)のみで凝固因子を補充しようとすると,肺水腫などの合併症を起こしやすい.そのような場合は,フィブリノゲン製剤が有効である.

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●産科出血は出血が持続すれば容易にDICに陥るので,治療方針の迅速な決定が必要である.

●出血源が明らかであれば選択的に塞栓を行い,選択的に塞栓できない場合や出血源が明らかでなければ両側子宮動脈を塞栓するのが基本である.骨盤内血管には豊富な吻合が存在することを認識する.

●500μm以下の塞栓物質は子宮内膜壊死をきたすリスクがあるため使用しない.

●DICに陥っている場合には,液体塞栓物質(NBCA)での塞栓が必要になることがある.

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●バルーンタンポナーデは「母体安全への提言2013」のなかで,“産科危機的出血の対応プロトコール”として産後の過多出血(postpartum hemorrhage : PPH)の初期対応として推奨されており,産科医療従事者はその手技に熟知しておく必要がある.

●バクリバルーン挿入時の方法についてはさまざまな報告があり,より安全かつ簡便に入れられるよう,症例によって工夫をする必要がある.

●羊水塞栓のような消費性凝固障害とそれに引き続く大量出血による希釈性凝固障害が同時に生じた場合や,胎盤が遺残しているときはバルーン圧迫止血が困難であり,速やかな胎盤除去や,バルーン止血と同時に動脈塞栓術や,子宮摘出を要することがある.

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●産後出血ハイリスク症例に関しては,術前からの評価や準備が重要である.

●2モノディオックス®付き超鈍針を用いたvertical compression sutureは前置胎盤の術中出血の止血に有効である.

●6 clamps+modified Aldridge法が適応可能であれば,短時間かつ安全に産褥子宮全摘出術が行える.

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●大量出血が予想される前置癒着胎盤症例に対する帝王切開術において,当院では出血量低減のため予防的大動脈内バルーン閉塞(intra-aortic balloon occlusion : IABO)を施行している.

●当院におけるIABOについて,自験例も踏まえて紹介する.

羊水塞栓症の診断と治療 田村 直顕
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●羊水塞栓症の典型的な3徴は,急性の呼吸不全(低酸素症),心血管虚脱(低血圧/心停止),DICに伴う産科異常出血である.

●初発症状による臨床診断が主体となるため,可能な限り,鑑別および除外診断を行うとともに,血清補助診断も有用な手段と考える.

●分娩後発症は新鮮凍結血漿の投与を主とした抗DIC対策を,分娩前発症は死戦期帝王切開を想定した対応を行う.日頃の備えとしてシミュレーションが役立つ可能性がある.

●病態を考慮した治療法としてA-OK療法,lipid emulsion,C1インヒビター濃縮製剤などの報告があり,今後の発展と応用が期待される.

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●子宮仮性動脈瘤の頻度は稀であるが,特に機械的操作を伴う帝王切開分娩後に発生することが多く,二次性産後出血の原因の1つとして重要である.

●子宮仮性動脈瘤は,絨毛組織遺残などとの鑑別を要し,不用意に子宮内容除去術を行うと動脈瘤の破綻に伴い大量出血を生じるリスクが高いため,的確かつ迅速に診断をすることが重要である.

●子宮仮性動脈瘤の診断には,まずカラードプラを用いた超音波断層法が簡便で有用だが,造影CT・MRI検査を組み合わせることで,より診断精度は向上する.

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●妊娠中のGAS-TSSによる母体死亡を減少させるには,以下が重要となる.

①GAS感染の可能性を早期に認識する.疑わしい場合はGASを念頭に置いた抗菌薬投与をただちに開始する.

②高次医療機関への速やかな搬送.CHDFやPCPSの施行が可能な施設を選択する.

③集学的治療.CHDFやPCPSの早期導入を積極的に検討する.

母体救命のためのガイドラインと研修システム

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●産科危機的出血は直接的産科的死亡の最大の要因であり,その原因としては子宮型羊水塞栓症が最も多く,次いで胎盤早期剝離が多い.

●フィブリノゲン補充では,新鮮凍結血漿に加え,必要に応じてクリオプレシピテートや濃縮フィブリノゲン製剤の投与を考慮する.

●麻酔科医,産科医だけでなく,放射線部,輸血部などとの良好なコミュニケーションを日頃から築いておくことが重要である.

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●医療従事者向けのアメリカ心臓協会の救急心血管治療(AHA ECC)プログラムには,BLS,ACLS,ACLS-EP,PALS,PEARSなどがある.

●2015年版ガイドラインに基づいたAHA ECCプログラムは,質の高い心肺蘇生法とチーム力学の強化を柱とした構成となっている.

●各コースは,DVDを積極的に用いた均一で過不足のない指導と,実践的なシミュレーション,客観的評価を組み合わせ,実際の緊急事態に自信をもって対応できることを目標に構成されている.

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●産婦人科単独で,今後一層の妊産婦死亡者数の低減を目指すには限界がある.

●救急医療で培われてきた他科専門医との協働,多職種によるチーム医療,病院前救急搬送システム,メディカルコントロール体制などを取り入れて,新たな母体救命システムを構築する必要がある.

●その目的達成のために,日本母体救命システム普及協議会が設立され,関連科共通のプロトコール策定および,現場で実践するための研修コースの開催が始まっている.

連載 Obstetric News

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 緊急避妊目的で使用されるノルレボ®錠の後発品が発売され,予定外の妊娠を防ぐうえでの選択肢に大きな変化が起きると思われる.

 避妊ステロイドの性交後使用に関する研究は1960年代に始まり,最初の経口療法は配合型エストロゲン―プロゲスチン避妊錠で1974年に発表された(Yuzpe AA, et al : J Reprod Med 13 : 53, 1974).

連載 Estrogen Series・184

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 血中ビタミンD濃度は骨密度の低下につながり,のちに転倒や骨折の原因となりうる.

 AsprayらはビタミンDの服用量に応じて骨密度に変化が生じるかを検討するため,低,中,高用量のビタミンを使用してその効果を比較検討した.

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▶要約

 Functional Assessment of Cancer Therapy(FACT)-Cervical cancer scaleの日本語版を用いて,子宮頸癌手術治療後の方を対象にQOLの評価を行った.2010年1月〜2012年12月の期間に当院婦人科にて治療された方のうち,「浸潤子宮頸癌」の診断で根治手術を受け,かつ術後無再発で5年以上経過している方121名に対して質問票を郵送し,50名(単純子宮全摘11名,準広汎子宮全摘7名,広汎子宮全摘32名)より返答があった(回収率 : 39%).「FACT-Cx質問票」によるQOL測定結果は全般的には良好な点数であったが,性生活の満足度に関する質問については,半数以上が答えにくいとしており,また,回答者の半数以上が最も低い点数を選んでいた.性生活については,外来通院中などにも相談しにくい内容と考えられ,医療者側からの支援や情報提供がQOLの向上に寄与する可能性があると思われた.

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▶要約

 子宮腺肉腫は良性腺上皮と肉腫成分から構成される混合腫瘍で,非常に稀な疾患である.低悪性度腫瘍で他の肉腫と比較して予後良好といわれており,5年生存率はstageⅠA期で約80%との報告がある.しかし再発率は25〜40%と比較的高く,骨盤内だけでなく遠隔転移も認められる.術後療法や再発例に対する治療法については十分なエビデンスはなく,標準治療として確立されたものはない.術後5年以上経過した後に再発することも多く,長期間の全身検索を含めた経過観察を要する.今回われわれは9年2か月後に肺転移をきたした子宮腺肉腫の症例を経験したので文献的考察を加えて報告する.

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基本情報

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臨床婦人科産科
73巻9号 (2019年9月)
電子版ISSN:1882-1294 印刷版ISSN:0386-9865 医学書院

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