臨床外科 43巻2号 (1988年2月)

特集 集中治療を要する術後合併症

急性心不全 渡辺 直 , 遠藤 真弘
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 術後に心不全症状の出現をみた場合,血圧,尿量チェック,胸部X線像に加え,Swan-Ganzカテーテルを挿入して血行動態のモニタリングを行う.左心不全の状態を把握するてだてとしてForrester分類は重宝である.心係数(CI)>2.2l/min・m2,肺動脈楔入圧(PCWP)>18mmHg(subset Ⅱ)ではうっ血を除去する治療(利尿剤,血管拡張剤)を主体として行う.Cl<2.2,PCWP>18(subset Ⅳ)はうっ血+低心拍出量の状態であり,利尿剤,血管拡張剤に加えカテコールアミンによる心収縮性増強治療を要する.無効例に対しては大動脈内バルーンパンピングを施行する.心不全に伴う不整脈の監視および治療,肺うっ血に伴う呼吸器症状に対する呼吸管理も重要である.

急性呼吸不全 原口 義座
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 急性呼吸不全は,術後に多くみられる合併症であり,その病態・治療上,問題点が残されている.急性呼吸不全の内でも重要性の高いARDSの発生機序について主に言及した.ARDSの発生機序は従来より各種の面から検討がなされているが,現在では好中球による肺毛細管内皮細胞の障害が中心をなすと考えられている.

 治療は,呼吸管理と全身管理にわけられる.前者は,人工呼吸とそれ以外の呼吸管理からなる.人工呼吸は,従来IPPB,PEEPが中心であったが,最近はCPAPや人工肺も注目されている.ARDSのなかでも敗血症肺では,極めて予後が不良であり,治療上,特に検討を要する.幾つかの新しい薬剤の使用も試みられているが,なお決定的なものはみられない.人工呼吸よりのweaningには,IMVを始めとして各種の方式が開発されている.全身管理としては,特に敗血症・DIC,他の臓器障害の治療や栄養管理が重要である.

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 術後重症な合併症の1つとして肝不全が挙げられる.われわれは最近10年間に消化器外科手術1,983例を施行し,うち38例(1.9%)に術後肝不全の合併症を経験したので,それらの原因,発生時期,治療法等を検討した.

 これらの肝不全症例中,術後早期の肝不全発生の約60%は術式の過大が原因であり,また4週以後の後期や中間期の肝不全発生例では術前から存在していた高度の肝障害が主な原因であった.術後肝不全合併症の予防は,術前のriskをできるだけ正確に把握し,適切な術式を選択することが最も大切で,次いで術後の集中的管理が必要である.今回は術後肝不全の原因,診断,治療法とその対策について述べた.

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 術後急性腎不全(ARF)の大多数は,腎以外にも不全臓器をもつ多臓器不全(MOF)であり,その治療には,集学的なアプローチが必要である.MOFとしてのARFの多くは重症感染症に続いて発症してくるが,臓器障害の原因としては,組織のhypoxiaとmediatorの関与が考えられる.治療的アプローチとしては,重症感染症に対する対策の他に,各種のartificial support,栄養管理等がある.MOFとしてのARFに対する血液浄化法としては,大腿静脈に留置したFDL catheterを用いた,veno-venous方式の持続的血液濾過(CHF)が第一選択であり,原因物質の除去や,excess waterとして体内に貯留しがちなIVHのcarrier waterの除去にも有効性を発揮する優れた方法である.

DIC 初瀬 一夫 , 望月 英隆 , 玉熊 正悦
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 消化器外科手術後のDICの発生頻度は21/2282(0.9%)で,その要因の大部分は重篤な術後感染症であり予後は不良であった.DICの2大症状は出血症状と臓器症状にわけられるが,この感染症を基礎疾患とするDICでは出血症状が軽く重要臓器症状が前面にでてくることを臨床的に述べ,その機序の一端はエンドトキシンの血中plasminogen activator活性抑制作用にあることを実験的に説明した.

 術後感染症に由来するDICの治療の原則は,基礎疾患としての感染巣の除去と薬物療法としての抗凝固療法が主体となる.いわゆるDIC診断基準をみたすような状態になる前に予防的に治療することが重要と思われ,参考までに薬物療法の開始時期の目安を述べ,最後に救命しえた術後DIC症例を呈示した.

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 肺塞栓症は静脈血栓を基盤として発症し,突然死をもたらしうる疾患で,外科手術後,ことに高齢者,静脈血栓の既往を有するもの,悪性腫瘍で広汎な腹部・骨盤手術,下肢の整形外科手術を受けたものでの発症頻度は高い.突然tachypneaを伴う呼吸困難で発症することが多い.いったん本症の疑いをもったら呼吸・循環管理をはかりつつ,肺吸入ならびに血流シンチ,肺動脈造影,下肢静脈造影まで機を逸せず行い,診断を得たら速やかに血栓溶解療法,抗凝固薬療法を開始する.効果が明らかでなければ開胸または経静脈血栓除去術を行う.本症発現リスクの高い例では術後早期より予防措置を始めるべきである.

カラーグラフ Practice of Endoscopy

胆道内視鏡シリーズ・5

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 一般にいう遺残胆管結石は総胆管結石として手術を行った症例に発見されるものである.遺残結石の有無の検討は,したがってT-tube造影により行われることが多いが,T-tube造影も本稿胆道内視鏡シリーズ・2(術中胆道鏡),表1に述べた胆道造影法の問題点に加えて,挿入されているT-tubeと結石との重畳あるいは空気泡が胆管内に入りやすいなどの問題があり,遺残結石を見逃す原因となる.また遺残結石の70%は総胆管に発見されるが,T-tubeを抜去すると,結石は肝内胆管に移動して必ずしもT-tube造影所見に一致しない部位に発見されることもあるので注意を要する.著者らは,そのためT-tubeを抜去する際には必ず胆道鏡を併用しているが,T-tube造影で結石なしと判定した症例に遺残結石を発見したこともしばしばである.

表紙の心

パリの旧医学部館 大村 敏郎
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 パリを中心とした臨床医学が華やかに展開されたのは18世紀の終りから19世紀の前半にかけてのことであった.その殿堂の一つが今月の表紙写真の旧医学部の建物である.

 前回ご紹介した「科学の前に姿を見せる自然」というBarrias作の像はこの建物の隣りのホールに立っている.

イラストレイテッドセミナー 一般外科手術手技のポイント

Lesson9 胆嚢摘出術 小越 章平
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 胆のう摘出術は,まさにビンからキリまで手術の難易度がある。もともと解剖学的variationの多いところであり,とくに血管や総胆管の損傷を起こしやすい。

 今回も必らず解剖学的知識をしっかり頭の中に入れて,手術にのぞまなければならない。

文献抄録

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 腹部動脈瘤や大動脈・腸骨動脈の閉塞性疾患に対する人工血管置換術は標準的な治療法として確立している.置換した人工血管の変性により,仮性動脈瘤や破裂を生ずることは稀で,そうした報告も少ない.著者らは,aortic graftに生じた遅発性の穿孔例を8例経験し,この症例報告と原因や治療方法について述べている.

 症例は全て男性であった.初回手術前の主訴は跛行または安静時痛で,1例は小さな大動脈瘤を伴っていた.7例はaortobifemoral graft,1例はaortobiiliacgraftを用いた.使用した人工血管はWeavenit 20×10mm 6例,DeBakey 16×8mm 1例,Teflon 1例であった.初回手術は1965年から73年の間に行った.

Caseに学ぶ 一般外科医のための血管外科応用手技・9

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はじめに

 膵癌に対する拡大手術の一環として門脈浸潤例に対する積極的切除が行われるようになった.en bloc切除の立場から浸潤の有無にかかわらず門脈を合併切除する考えもあるが,本稿では癌の局所遺残を防ぐという立場からの切除術式につき述べる.膵癌手術にかかわる門脈系分枝は互いに豊富な連絡網を持ち,中枢側での遮断であれば腸管のうっ血,機能障害をもたらすことは少ないが,癌浸潤によって変化した門脈血行動態を術前の血管造影によって十分把握の上,操作を進めるべきである.また門脈合併切除を行う場合,中尾らが開発した上腸間膜静脈一下大静脈バイパス法はその適応を拡げ,かつ安全にする上で大きな役割を果しているのでバイパスチューブを常備した方が良い.

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はじめに

 1964年O'BrienおよびStartが,malignant fibrousxanthoma(MFX)という概念のもとに発表以来,悪性線維性組織球症malignant fibrous histiocytoma(MFH)は,軟部組織に発生する最も頻度の高い腫瘍とされているが,治療法について,なお確立したものがなく,その治療の選択に困惑を覚えることがある.今回われわれは,切断術を拒否する高齢女性の左大腿部に発生したMFHに対して大腿動脈にカニュレーションを行い,adriamycin(ADR),vincristine(VCR),actinomycin(Act-D),cyclophsphamide(CPA)等を動注して腫瘍を縮小させた後摘出術を施行,さらに残存腫瘍に対して動注を継続しCT像上,腫瘍の縮小をみた症例を経験したので,若干の考察を加えて報告する.

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はじめに

 深大腿動脈形成術(または大腿深動脈形成術,profundaplasty以下P.P.)は,鼠径部以下の下肢血行再建術を考える時の基本術式となりつつある.とくに,浅大腿動脈から膝窩動脈末梢にかけての広範な閉寒性病変を有する症例では,この術式が唯一のlimb sal-vage手段となる.そこで,自験例を中心に術式およびその予後について検討を加えたので報告する.

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はじめに

 イレウスは,極めて日常的な疾患ではあるものの,診断治療上の問題点は少なくない.絞扼性イレウスは,絶対的な緊急手術適応であることに異論はないものの,その診断は容易でないことも多く,また,単純性イレウスは,極力保存的に対処するのが常識的になりつつあるとはいうものの,初診時単純性イレウスと診断した症例の中にも緩徐に進行する絞扼性イレウス症例も潜在しており,これを確実に否定し,確固たる治療方針をたてることは必ずしも容易なことではない.さらに,単純性イレウス症例の中には,腸管減圧を中心とした保存的治療によって腹部所見は劇的に好転しても通過障害は改善せず,最終的には開腹を要した場合,結果的に早期手術が得策であったと反省せざるを得ないことも経験され,一律に保存的治療に執着するのも賢明とはいいがたい.

 われわれは,最近2年間にイレウス症例84例を経験したが,絞拒性イレウス以外は極力保存的に対処することを基本方針として治療を進めてみた.本稿では,特に初療として経鼻管による腸管減圧療法が行われた68例をretrospectiveに検討し,イレウスの診断治療上の問題点を指摘するとともに,腸管減圧の手段として内視鏡的に確実かつ比較的容易に幽門を越えて挿入留置できるようになったlong intestinal decompres-sion tubeのイレウス治療における意義について考察した結果,若干の知見を得たので報告する.

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はじめに

 悪性腫瘍の虫垂転移は非常に少ない.最近われわれは乳癌根治術後10年を経て,転移性穿孔性虫垂炎を来たして虫垂切除術を施行した後,悪液質にて死亡した症例に剖検を行い,若干の知見を得たので文献的考察を加え報告する.

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はじめに

 閉鎖孔ヘルニアは高齢でやせた多産の女性に好発する稀な疾患であり,一般的には術前診断が得られることは少ない.しかし,典型的な臨床像とイレウス管によるX線像は特徴的である.われわれはイレウス管により術前診断を得て待機手術を行い治癒せしめた1例を経験したので報告する.

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はじめに

 Fournier壊疽は,陰嚢周囲に急性に発症する壊疽性疾患であるが,最近われわれは陰嚢から側腹壁にかけて広範なガス壊疽を呈した重症例を経験した.また本症例は膿汁より嫌気性菌と好気性菌が確認され,Stone1)らのいうsynergistic necrotizing cellulitisであった.本症例に若干の考察を加え報告する.

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はじめに

 腸管嚢腫様気腫(pneumatosis cystoides intes-tinalis,以下PCI)は,比較的稀な疾患であるが,われわれは,上行結腸に認められたPCIに対して高圧酸素療法を施行し,著明な改善をみた1例を経験したので報告する.

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はじめに

 大網原発平滑筋肉腫は極めて稀なものとされている.一般に特異的症状がなく,巨大腫瘤を形成して初めて発見されることが多い.

 最近われわれは,比較的小さな腫瘤として発見された大網平滑筋肉腫の1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

基本情報

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臨床外科
43巻2号 (1988年2月)
電子版ISSN:1882-1278 印刷版ISSN:0386-9857 医学書院

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