理学療法と作業療法 15巻10号 (1981年10月)

特集 脳血管障害

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はじめに

 本誌の編集委員から「最近,PT,OTでリスク管理をあまり意識しない人が多いと聞いたので,広い視野から述べてほしい」という原稿依頼を受けた.これには筆者も思い当たるふしが再三あった.たとえば,過日のリハビリテーション・カンファレンスのとき,某学院のPT学生が筆者の考えと違うプログラムを立てているので質してみると,筆者の処方・禁忌事項を全く読んでいなかったのである.筆者はその非を厳しく咎めたが,当の学生にとって「処方をよく読むこと」と「正しい治療をすること」の関係など念頭になかったようで,別に悪意でやったことではなかった.PT指導者も学院教官も,処方をよく理解することを教えなかったようだが,こういうことが無意識でなされた点が深刻な問題であるように思う.

 医療上のリスクというものは,単に医学知識の不足だけから起こるのではない.リハビリテーション(以下リハビリ)はチームワークによってなされるが,チーム診療を正しく理解し,各チームメンバーが専門職員として任務を自覚し協力しなければ,チームとは名ばかりの無責任集団になるであろうし,またたとえリスク管理の知識を学んでも,実際の患者ケアに役立つ叡智になりえず,論語読みの論語知らずに終わるであろう.

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はじめに

 1817年,James Parkinsonは振戦・筋硬直・寡動・姿勢反射へ消失を認める症例を初めて記載し以後このような症例は,パーキンソン症候群(パーキンソニズム)と呼ばれている.その病理学的背景がかなり明らかにされた今日,上記諸症状が初老期前後に発現してきた場合,パーキンソン氏病もしくは振戦麻痺と診断することは比較的容易である.またそれらの症例では,L-dopa製剤が有効であり,かつ神経病理学的には黒質の変性が証明される.例外としては各種薬物中毒・一酸化炭素中毒・マンガン中毒の症例が寡動や筋硬直を主徴とすることがあり,脳外傷・脳腫瘍によるものや脳炎後パーキンソニズムも含めて,二次性パーキンソニズムとして一括されている.

 一方,老年期に発病したパーキンソニズムにおいては,脳動脈硬化の合併頻度が高くなり,振戦麻痺以外に動脈硬化性パーキンソニズムの存在が,Critchley(1929)以来指摘されてきた1,2).しかるに近年,振戦麻痺の主病変が黒質の変性を中心としたdopamine作動性神経系の異常であることが一般に認められるようになると,「動脈硬化症によるパーキンソニズムという疾患はない」とする者が多くなってきた3).しかしながら日常臨床においては老年者のパーキンソニズムのなかに脳血管障害もしくは脳動脈硬化と関連があると思われる例がしばしば経験されるため,我々は以前に老年者のパーキンソニズム患者34剖検例について検討を加えたことがある.その結果,黒質の変性が軽度であり,脳動脈硬化が強く,両側被殻を中心に梗塞性病変を有する症例が16例と約半数を占めていた4).本稿では,パーキンソニズムの一般的事項とともに脳血管障害によるパーキンソン症候群について述べる.

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 Ⅰ.はじめに

 パーキンソン症候群をもつ疾患を過去32名経験した.この中で脳血管障害患者は10名である.少ない経験であるが,これらの患者に対する理学療法を行った時常に感じたことは,理学療法の技術の限界と,その時獲得した能力をどのようにして患者の生活につなげていくか,その方法論がリハビリテーションとしての流れの中でまだはっきりしていない点であった.本稿では,パーキンソン症候群を中心として,いくつかの文献と筆者の経験から知り得た事を述べる.

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 Ⅰ.大脳半球機能の左右差

 左右対称のように見える大脳半球機能に,左右差があることをまず示唆したのは,失語という症状であった.左半球損傷に伴った失語の記載は,すでに古代ギリシャの医聖ヒポクラテスの医書にもみられるとのことであるが,言語機能が左半球に局在することを初めて明確にしたのはDax(1836年)であるとされている.やや遅れてBrocaは,今日Broca領域とよばれている左半球の脳領域が言葉を話す上で重要な役割りを果していることを明らかにし,“人は左半球で語る”という有名な言葉によって言語機能の左半球局在を世の中に広く紹介した.これらの報告以後,つまり19世紀後半より,言語機能における大脳半球機能の左右差が注目され活発に研究されるようになり,言語機能との関連において,大脳の半球優位性という概念が生まれ,優位半球(多くは左半球注))劣位半球(多くは右半球)という言葉も使われるようになった.20世紀に入ってからは,大脳半球優位性の問題は言語機能以外の高次神経機能の面にも拡大され,失行,失認あるいはGerstmann症候群などのいわゆる優位半球の症候群がいろいろと報告されるに至った.

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 Ⅰ.在宅脳卒中患者の抱える問題

 在宅身障老人の問題は,「老齢」と「障害」という2つの側面からとらえられる.

 一般に,人と人との相互関係は,そこに所属している各個人の持つ役割を通じて作り上げられているが,老齢化は,職業生活からの引退や家庭内労働の縮小を契機に,それまでの人間関係(社会関係)に著しい変化をもたらす.この役割の縮小,喪失によって,周囲の人々は,老人の存在価値を低く見るようになると共に,老人自身も自己の存在価値を見い出せない(Self-identityの喪失)傾向を呼び起こしてゆく.したがって,老後の生活を意義あるものにするためには,新しい活動(役割)を見い出し,それを通じて,新たな人間関係を構築してゆく事が課題となるが,現実的には,すでに老齢であるという事実が,老人に新たな役割適応に対する意欲の喪失をもたらすと同時に,周囲の期待感も減少させている.

とびら

Negligenceとは 荻原 新八郎
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 その1:某病院理学療法科のセラピストは整形外科外来から回されてきた右膝関節退行性関節炎の患者を受け持つことになり,治療としてホットパックを使用した.その際セラピストは「熱すぎるようだったら知らせて下さい」と患者に頼み,そのまま患者を置き去りにした.翌日患者は「先生,右膝に大きな水ぶくれができたのですがホットパックがよく効いたのでしょうか」とセラピストに尋ねた.セラピストはすぐにこの事を上司に報告すると共に事故報告書にも記入した.

 その2:ある理学療法士養成校の某学生はある病院にて経験豊かな臨床実習指導者のもとで実習中であった.学生はまだ松葉杖諸動作については学校で学んでいなかったが,松葉杖で歩いている患者をこれまで幾人か見ていたし,また自分自身も二年前に膝を怪我した時に松葉杖を使ったことを覚えていた.ところでこの病院の理学療法科では最近新しい松葉杖を購入したばかりであった.事故のあったその日,学生は臨床実習指導者からある患者の松葉杖歩行を指導するよう頼まれた.実習指導者は学生が松葉杖諸動作をまだ履修していないことをすっかり忘れてしまっていたが,学生は日頃この指導者から大変目をかけられていたこともあって患者と指導者の面前で自分を見くびりたくなかったので同意した.そして必要な測定を行った後この太った患者を松葉杖で歩かせた.床は乾いていた.機能訓練室のほぼ半ばまで行った時,患者は突然ドシンと音をたてて倒れ右橈骨を折った.事故の後で綿密に調べてみたところ右松葉杖にひびが入っており,購入時にこれが発見されていなかったことが判明した.

講座

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 Ⅰ.運動のエネルギーと循環

 運動には,筋・神経系による調整的な働きのほかに,エネルギーの供給が必要である2)

 100m競走や25m競泳のように短時間に強い強度が要求される運動では,筋中に有限量貯えられているATP-CP系によって直接エネルギーが供給される.

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 Ⅰ.はじめに

 片麻痺患者のROM制限については,上肢のWer-nicke-Mannの肢位,股関節の外旋拘縮,内反尖足等が一般に知られているが,頸や体幹に対する報告は少ない.

 今回,我々は頸回旋ROMを測定し,健側方向と患側方向の差異を検討した.

 また,Brunnstrom stage,立ち直り反応,知的能力,失認についても評価し,頸回旋ROMの健側,患側方向での差異との関係にも検討を加えた.

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 Ⅰ.はじめに

 一般に頸髄損傷者が車椅子(以下W/Cと略す)駆動用に使用している手袋にはゴム付軍手・ドライバー用革手袋などがあるが,装着は困難な場合が多い.森永1)が着脱しやすいW/C用手袋を紹介しているが,当院OTでも,この問題に着目し独自のものを処方し,昭和48年9月から昭和56年3月までのべ51件にのぼる.

 今回,手袋装着の自立度,W/C駆動にどの程度役立っているのかなどを調査して若干の知見を得たので,手袋の紹介を兼ねて報告する.

携帯用女性用ミニ集尿器 飯村 ふみ子
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 著者は過去数回にわたって多数の女性障害者との海外旅行の機会にめぐまれた.その際,女性障害者にとって排尿処理の問題がいかに大変なものであるか痛切に感じた.とりわけ,女性障害表にとってこの排泄動作未自立の問題は,家庭生活や学校生活・職業生活を営む上で大きな障壁となることが多い.男性障害者が,尿器・テトラ牛乳パック・ビニール袋・ピン・装着用集尿器で自立するのに対して,女性の場合は,現状では,市販の集尿器は一長一短があり,日常的に実用化されていない(表1参照).そこで,市販の女性用ミニ集尿器を実際にモニター30名に試しながら,検討改良の結果,実用化する可能性を見出せたので紹介する.

FORUM フォーラム ふぉーらむ

医療訴訟と保険金 鈴木 明子
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 足の裏がアメリカの地に着いている時には,アメリカの情報が素直に心に伝わってくる.今日はアメリカOT協会から会員への手紙が来たので,また卒後研究の案内(スコールのごときに届く)かなと思うと違っていた.内容は「こちらの未熟な治療技術を患者に訴えられた場合の保険金」についてであった.「100万ドルの所を注意して読んで下さい.インフレはこの訴訟にまで達していますから」ということも書いてあった.

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 本書は以前東大出版会から刊行された「目でみるリハビリテーション医学」の姉妹篇である.前著はリハビリテーション医学そのものの理解を促す意図で所かれたものである.本書では前著におけるリハビリテーション医学の基本的な考え方をベースに,今日リハビリテーションの対象として最もニーズの高い脳卒中に焦点をしぼり,多彩なカラーによるイラスト,図解,写真と明晰な解説により,総合的視点に立って述べてある.

 本書の内容は濃厚であるが,本書のはじあに著者自身によるオリエンテーションが加えてあるため理解しやすい.セクションは7つに分けてあり,1.脳卒中リハビリテーションの考え方,2.脳卒中片麻痺のみかた,3.片麻痺の診断と評価,4.急性期リハビリテーション,5.基本的リハビリテーション,6.より進んだリハビリテーション,7.社会復帰となっている.

プログレス

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 抗てんかん剤血中濃度測定法や優れた新薬の開発によって,てんかん発作のコントロールが進歩するに従い,てんかん患者の社会適応とリハビリテーションがますます重視されるようになってきた.

 てんかん患者の社会適応をさまたげているのはどのような要因かについて多くの発表がみられる.

リハビリテーション・インフォメーション

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 PT,OTの県内就業状況

 愛知県は,人口約600万余面積5,109km2で有る.市町村は,名古屋市を含む30の市の他47の町および11ヵ村である.病院,施設等でのPT,OTの就業分布状況は表1のごとくで,約85%が名古屋市および隣接の市と町に集中している.しかし,このような地域にてもPT,OTの必要数にはとうてい及ばない.また,周辺地域では,一層その数は少なくなり,特にOTは0%である.

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 国際障害者年の催しが2月にKualalumpurでひらかれ,州の催しが3月に,この町(Kuching Sarawak)でありました.展示会はバザーも兼ね,地方文化の特色が現われた飾り付けでもありました.この準備の頃から,宗教に根ざした慈善活動と,私が教育で得て,職業意識として持ち続けている意識との相違を思い知らされるようになりました.ジョン・レノンのように「慈善という奴は,いつも搾取だからさ」と言い切れるほどの自信は無いですが,慈善意識が障害者の自己主張や自立意識を閉じ込めてしまうようだったら危険です.私に宗教活動が無いように,彼らに私が受け取ってきたような教育が無いというのが決定的な相違であると思えたし,慈善による施設は収容施設の構想から抜け切れないでいる.

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文献抄録

編集後記 福屋 靖子
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 さわやかなみのりの秋を迎え,今夏の猛暑も今では夢のようです.

 今月号では,偶然リスク管理に関する提言が三つ重なりました.“とびら”の荻原氏はセラピストの不注意や怠慢について,三好氏はチームワークで留意すべきリスクについて,鈴木氏は“フォーラム”で,職業人の怠慢や失敗を許さぬ米国の受療者について紹介されており,それぞれ身近かな問題として考えさせられました.三好氏の“処方について”は,本誌ではまだ真正面からとり組んだことがなかったように思われますが,その必要に迫られている大きなテーマかと思います.

基本情報

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理学療法と作業療法
15巻10号 (1981年10月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0386-9849 医学書院

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