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はじめに
寒冷療法(cryotherapy)とは,治療の目的で寒冷を局所的にあるいは全身的に応用するものである1).疼痛に対して寒冷が用いられたのは有史以前(BC 300年~400年)のことで,ヒポクラテスが急性外傷の腫脹や疼痛を軽減するのに寒冷を用いることを勧めていた2~4).17世紀の頃,傷の切除のために,まず寒冷刺激による知覚脱失を図り,治療する方法が行われていた.Maccleodら(1920)は局所寒冷の動物実験を行っていた4).1930年,寒冷による血管拡張の現象について,初めての報告がある5).疼痛の軽減に長い間温熱療法が大いに価値あるものとされ,寒冷療法は容易に受け入れられず遠ざけられていた感があった.大阪府下41病院に寒冷療法の実施状況調査でも11病院(22%)しか行っていなかった(1977)6).慢性関節リウマチに行っていた温熱療法を疼痛の軽減と関節拘縮に対し寒冷療法に切り換え有効であった,とのPeggらの報告がある7).
理学療法の目的は障害者の機能動作の改善,回復である.それには,筋の生理的機能である収縮と弛緩を維持し,関節を動かし,靱帯,関節包を支持させることが重要である.疾病はこれら組織の基本的生理を疼痛によって阻害されることが多い.疼痛を惹き起こす状態がたび重なると,関節の可動性は著しく制限され,重度では拘縮を起こす.関節運動を許容するには,まず疼痛を軽減することが大事である8).そこで物理療法の手段の中から寒冷療法が選択される.一般に寒冷は関節や筋骨格系疾患の痛みを増強させる因子であるが,また一方で治療に用いて効果を発揮する9).スポーツ外傷での打撲や捻挫に対し,鎮痛や消炎,腫脹の抑制の目的で寒冷を施すことは古典的に行われていた.さらに運動療法を加えることによって早期の回復,実戦復帰までのトレーニングの時間的損失を少なく済ますことができることが分ってきた8).この治療法がいわゆる寒冷運動療法(Cryokinetics)である.寒冷運動療法とは,寒冷と運動(cold,motion)の二つの要素から構成されている10).Brook総合病院(テキサス,米)では2年半の間に7,000人以上の外来患者に寒冷運動療法を組み入れ,80%以上に満足すべき結果を得たと報告8).アイスと一連の機能改善訓練を行う.寒冷運動療法を選んだ理由として,1)治療法が効果的10),2)特殊な器具を必要とせず,必要な材料(氷)が容易に手に入る10),3)治療費が安価である10),4)治療が患者自身でもできる10),5)明確な禁忌症は見当らなかった8),6)関節疾患の患者にこの治療法を受け入れている8).ラップ族(北極圏内)やエスキモー族の人達に関節リウマチの発症がかなり少ない(Hobrook,1960)7).寒冷に曝らされていることに関連しているのであろうか.従来の氷を使っていた冷却方法とうって変ったエアー式の寒冷療法が開発された.液化酸素と液化窒素を用いた-180℃の低温ガス発生装置によって局所に適用する温度が低い程関節リウマチの治療効果が大いにあげられた,と数多くの報告がある11~20).この極低温空気と運動機能訓練を組合せた治療法を極低温運動療法(ultracold-exercise therapy)と呼んでいる18).
寒冷は疼痛の閾値を高めるばかりでなく,積極的な関節可動域訓練に導く手段として,近年関心が高まっている.
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