看護学雑誌 72巻8号 (2008年8月)

特集 いい運動,悪い運動

「疾患と運動」にまつわる不安に答えます

石黒 友康
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「治療中は絶対安静」という言葉が古めかしく聞こえるくらい,現在では多くの疾患治療において運動療法の重要性が強調されています.糖尿病などの慢性疾患はもちろん,脳卒中,心疾患の術後早期からのリハビリテーション,あるいは高齢者の転倒予防,認知症予防など,治療の一環として運動を位置づける領域は大きく広がっています.

一方で,疾患の重症度や運動の種類・程度によっては害をもたらすリスクもあり,患者・看護師が「この運動はいいのか,悪いのか?」という不安を抱くケースも増えています.本特集では,疾患と運動にまつわる患者・看護師の不安に答える知識をまとめました.「いい運動,悪い運動」を見極める知識を養ってください.

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はじめに

 運動は古くから治療として取り入れられてきましたが,近年では心疾患や脳卒中などの治療において急性期から積極的に運動療法が行なわれるようになりました.また,糖尿病や慢性呼吸器疾患,腎疾患などの慢性疾患の治療においても運動療法が推奨されています.今年度から導入された特定保健指導制度では,メタボリックシンドロームや糖尿病などの生活習慣病予防として積極的に運動指導が行なわれる予定です.このように,各疾患の予防,治療,リハビリテーションの分野で運動療法が行なわれています.

 しかし,患者が1人で実施する場面では「どの時期(病期)にどの程度(種類・強度・時間・頻度)の運動が適しているのか」が曖昧であったり,「運動することで逆に体調を悪化させてしまうのではないか」という不安があるかと思います.そこで,今回は身体に対する運動の影響を考え,内科的疾患と運動についての知識や誤解について整理し,「いい運動・悪い運動」を判断する手がかりとしていきたいと思います.

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 糖尿病治療の一手段として運動療法が有用であることはいうまでもありません.しかしながら実際の指導場面において,患者さんの年齢や,性格,生活環境の違いから一般的な運動指導では対応しきれないことを目の当たりにすることがあります.そこで今回は糖尿病に対する運動処方の原則を踏まえ,実際の指導場面で患者さんやコメディカルスタッフの方からよく聞かれる運動療法に対する疑問点をわかりやすく解説したいと思います.

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 近年,心疾患の運動療法が薬物療法など他の治療方法と同様,あるいはそれ以上 に有効であるとして,心疾患のリハビリテーション(以下,心臓リハビリテーション)において重要な位置を占めています.循環器専門治療を行なう施設以外では,急性期から回復期,維持期において心臓リハビリテーションの実施が困難であるため,運動療法の必要性を病棟の看護師,患者自身に認識していただく機会が少ないのも事実です.

 しかし,そういった施設においても,心疾患を抱えた患者,とくに高齢者の入院が多くなり,入院中および退院後の運動や日常性活動作(Activity of Daily Living:ADL)に関する指導の需要が高まってきています.今回は,心疾患を有する患者の入院中(急性期)および退院後(回復期から維持期)の運動についての概要とリスク管理,運動指導について解説します.

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はじめに

 肺疾患は,呼吸器の障害によって安静あるいは労作時の呼吸困難感,低酸素血症を主症状として,患者のADL,QOLを障害する疾患です.慢性肺疾患では,“GOLD(The Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease)”と呼ばれる国際的ガイドラインにより,重症度分類やそれに伴う推奨されるべき治療が提示されています(図1)1).そのなかでリハビリテーションは,中等度(StageⅡ)から最重度(StageⅣ)の症例において推奨されるべき治療として位置づけられています.すなわち,我々,医療スタッフが携わる病院や在宅で何らかの呼吸器症状を呈する患者の多くは,リハビリテーション対象患者であり,運動が重要な治療となるのです.

 しかしながら,重要な治療である運動も間違った方法や誤った知識をもとに実践すると,効果が見られなかったり,患者に不利益を及ぼすことにもなりかねません.そこで本稿では,肺疾患患者に対する運動療法の基本と,実際の治療場面で生じやすい問題について解説します.

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 平成16年国民生活基礎調査によると,脳血管疾患は要介護原因の25.7%と第1位を占めています.また,同年発行された『脳卒中治療ガイドライン2004』1)では,脳卒中急性期からの積極的なリハビリテーションが推奨され,以後,急速にその態勢が整備されつつあります.

 脳血管疾患のリハビリテーションというと,片麻痺・高次脳機能障害・失語症・嚥下機能低下などの障害に対する治療が思い浮かびますが,再発予防の観点や転倒・骨折など二次的合併症予防の観点から,フィットネスも重要な要素となります2)

 ここでは,急性期,回復期,維持期の各期における「脳血管疾患におけるいい運動,悪い運動」について解説したいと思います.

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 2002年に米国腎臓財団のKidney Disease Outcome Quality Initiative Guidelinesによって,慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)という疾患概念が提唱されました1).CKDは,尿蛋白などの腎障害や糸球体濾過量の低下が3か月以上続いた状態を表し,「慢性に経過する腎疾患」の総称ととらえられています.そして,CKDは生活習慣病など将来腎障害を発症する可能性の高い状態から透析療法や腎移植などすでに末期腎不全になった状態までを含んでいます.これは現在,日常診療においてもっとも頻繁に遭遇する疾患の1つといえます.

 CKDに対しては適切な食事療法や運動療法を実施していくことが重要と考えられていますが,食事療法に関しては具体的な指針が示されている2)一方で,運動療法に関しては具体的な指導指針が確立されておらず,「激しい運動は避けてください」といったようなあいまいな指示がなされる程度というのが現状です.

 このため,たとえば運動により腎機能がさらに悪化することを心配するあまり,必要以上に身体活動を制限してしまい,結果として身体機能全体の低下を引き起こすといったことがあります.本項では,はじめに腎疾患に対する運動処方の原則を説明したうえで,日常診療の中で医療従事者が疑問に思うことや患者に質問されることが多い項目について具体的に解説します.

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長野駅から車で40分ほど走った山間急傾斜地帯にある信州新町.高齢者人口比率が40%を超える高齢化地域だ.その町で20数年,縦横無尽に働き,いろいろな資格を取ったり,雑誌連載までやっている,とても個性的な保健師がいる.彼女は,「ナイチンゲールのしたたかさと政治力がすばらしい」と話す.どんなしたたかさがすばらしく,なぜ,そう思うのか.どうやって,保健師が個性的,精力的に活動を続けているのかを聞いた.

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各種専門書や闘病記など,患者・家族が参照できる情報はたくさんある.しかし,あまりにも情報があふれているために,本当に必要な情報にアクセスすることが難しくなったともいえるだろう.図書館司書の石井保志氏は,氾濫する情報を集約・加工して“役立つ情報提供”をしたいと考え,多職種からなる「健康情報棚プロジェクト」を発足させた.「闘病記文庫」や「ライフマップ」など,患者への情報支援を目的とした多角的な取り組みを紹介する.

連載 こんな方法もあるかもしれない―介護発,武術経由の身体論・8

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 前回は病院施設勤務の皆さんにはあまり馴染みのない,床上での上体起こしをご紹介しました.在宅でも洋室が多い昨今では,読者の皆さんが行なう上体起こしはベッド上でのものが大半でしょう.しかし,床上での技術とベッド上での技術は,形は違っても動きの質やそのコツはまったく同じと言っても過言ではありません.今回は一見異なる動きのなかに共通する原理を見つけ出し,それをいかに応用していくかということを考えてみましょう.

連載 医療機器とともに学ぶ―カラダのしくみ・5

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 今回はベッドサイドでよく使われるモニターであるパルスオキシメータを取り上げます(写真).パルスオキシメータは指先に装着するだけで測定が始まり,数値で酸素飽和度(SpO2)が表示されることから理解しやすいモニターです.一方で,「パルスオキシメータを使ううえでの注意」や「パルスオキシメータの示す数字にはこんな意味がある」といった内容については,きちんと理解されていないこともあります.今回はパルスオキシメータの測定原理から,臨床の観察で要注意となりうる状況まで含めて理解していきましょう.

 なお,パルスオキシメーターやパルスオシキメトリーなど,カタカナ表記法はいくつかありますが,本稿では日本麻酔科学会編の『麻酔科学用語集』1)に準じて,「パルスオキシメータ」「パルスオキシメトリ」と表記します(コラム1).

連載 かかわるチカラ―糖尿病療養指導の現場学・5

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事例 強い否定的言動をとる伊藤さん

「でも,この生活を今は変えられない」

 伊藤さんは30代ビジネスマン.会社の健診で糖尿病を指摘され,再検をしたところ2型糖尿病と診断された.HbA1C 11%.随時血糖値200~300mg/dL台であった.糖尿病教室を終えて生活相談にやってきた伊藤さんは,いかにも「忙しい」と言わんばかりに,時計を見ながら相談室に入ってきた.

連載 医療の零度―次世代医療への省察・5

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 今回は,「エビデンス」をめぐる「考え方」の矛盾対立を具体的に検討したうえで,そもそも実証主義によってエビデンスの科学性を担保できるのかどうかを考えていく.

エビデンスにおける「考え方」の矛盾対立

 前回1),科学的方法の中心にランダム化比較試験(RCT)とそのシステマティック・レビュー(SR)を位置づける構図のもとでは,多様なエビデンスの使用に対して実質的な制限がかけられると述べた.したがって,この構図を克服していく必要があるのだが,実のところこの問題はなかなかの難問である.

連載 世界の感受の只中で・16

病い・2 天田 城介
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 「死の哲学から病いの哲学へと折り返すこと,本書が求めてきたのはそのことであった.ところが,ひとたび死期を告げられてしまうや,末期の生は,死のまなざしに曝されてしまう.そこで,死に淫する哲学は,手練手管を駆使して,死ぬことに意味を与えて,死へ向かう生に救いをもたらそうとする.死に淫する哲学は,死によって生を照らし出すことで,死へと向かう生そのもの,生と死の間の生そのもの,要するに,病人の生を取り逃し続ける.だから,死に淫する哲学と違う道を行くには,病人の生をそれとして肯定して擁護することが求められる」(小泉 2006a:208)

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編集後記 鳥居 , 吉田
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●“レコーディングダイエット”の火付け役となった岡田斗司夫著『いつまでもデブと思うなよ』(新潮新書)を読み,実践をはじめて3か月.結果は……なんと「-10kg」.ふつうなら狂喜乱舞しそうな数字なのにそれほど浮かれていないのはレコーディングダイエットならではかもしれません.というのも,記録が正確ならば,食べたものと体重の増減の因果関係は常に明白で,不思議なことは何もないから.感情的にならず,とにかく冷静に現実に向き合い,無理をせず,我慢をせず,やれることをやれば,自然にやせるんです……などと自慢げに書いている私は,言うまでもなくダイエットの成果に浮かれて冷静じゃなくなっております.【鳥居】

基本情報

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看護学雑誌
72巻8号 (2008年8月)
電子版ISSN:1345-2746 印刷版ISSN:0386-9830 医学書院

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