総合リハビリテーション 8巻11号 (1980年11月)

特集 悪性腫瘍とリハビリテーション

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はじめに

 “話すこと”は,自分の気持を相手に伝え“互に意思の疎通をはかる”ことで,人間として生きてゆくために最も大切なことである.それが何らかの原因でひとこともしゃべることのできなくなった人たちにとっては,その苦痛と絶望感はわれわれの想像以上に深刻なものと考えられる.

 喉頭の悪性腫瘍のために喉頭全摘出術をうけた者を喉頭摘出者(喉摘者または無喉頭者)という.彼らは術後より全く無声となってしまう.その数は現在わが国で約1万5千人,フランスで3万5千人,アメリカでは6~7万人,全世界ではおよそ40~50万人と推定される.

 “生けるしかばね”となった無喉頭者の中には,生き甲斐を失い孤独の淋しさに堪えかねて,自殺を試みた人すらあった.

 無喉頭者の人たちに再びしゃべる方法を教えて社会復帰させること,つまり第2の音声獲得のリハビリテーションが社会福祉の問題として重要な所以である.

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はじめに

 女性にとって乳癌は注意すべき悪性腫瘍のひとつであり,術後に上肢の浮腫,肩関節の拘縮,日常生活の障害や美容上の問題など,リハビリテーション上も重要な疾患である.今回,慶応義塾大学リハビリテーション・センターで施行している乳房切断者のリハビリ・プログラムを紹介し,最近の100症例の検討および若干の考察を試みる.

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 はじめに

 四肢切断術を余儀なくされる主要な原疾患は,外傷,動脈閉塞性疾患および悪性腫瘍であるが片側骨盤切断術hemipelvectomyは専ら悪性腫瘍が対象となる点が特徴的といえる.

 ところでこの手術については以下の三つの重要な問題点がある.

 1)この手術は下肢のより遠位レベルの切断と比べ著しく侵襲が大きく,他方悪性腫瘍の転移様式を考えると手術適応が問題となる.

 2)腫瘍の拡がり―特に大腿部に限局しているか,骨盤部が原発か骨盤部に浸潤しているか―により手技上の差違を生ずる,当然手術の難易度も著しく変る.

 3)術後患者を家庭及び社会生活に復帰させるため義足を含むリハビリテーション法が下肢のより遠位レベル切断例より遙かにむずかしい.

 著者らは昭和45年7月以降昭和53年4月までの約8年間に,7例に本手術を施行しその後義足作製,それによる歩行訓練,その他のリハビリテーション訓練を行って来たのでその経験にもとづき以上の三つの問題点について,腫瘍の局在の差による手技上の問題,術後リハビリテーションの問題,最後に以上の二つの問題の結論に,さらに7症例中4例は既に術後5年以上経過しているので,生命の予後を併せ考たえ本手術の適応の考察の順序で述べてみたい(表1).

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はじめに

 大腸癌は,わが国において増加しつつある癌の一つである.最近,肛門括約筋温存手術が積極的に採用されるようになり,直腸癌に対し,無選択的に人工肛門造設を伴ういわゆるMile's手術を適応する傾向は減少してきた.しかし,下部直腸癌の多くは,今日もMile's手術の適応であることに変わりはなく,これらの患者は,終生人工肛門保有者となる.一方,大腸癌のほかにも,一時的あるいは永久的な人工肛門造設術が必要となる疾患は少なくない.特に最近は,潰瘍性大腸炎のごとき,下部消化管を系統的に侵し,全大腸の切除が必要となるような特異疾患が増加してきている.このような状況の中で,外科医は,所期の治療目的を十二分に達成することを前提とした肛門機能温存術式の開発や,正しい適応の決定に引き続き努力せねばならないが,反面,治療目的によるとはいえ,人工肛門による排便を余儀なくさせられる状態に患者を置いた当事者としてその社会復帰に援助を惜しむことは許されないであろう.このような点から,人工肛門造設の手技上の問題点,術前術後管理,排便処理法を中心として,日常私共が行っている実際を述べ,反省と展望にもふれたいと思う.

末期癌患者へのアプローチ 柏木 哲夫
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はじめに

 リハビリテーションを辞典(医学英和辞典,南山堂)で引くと,更生,復業,社会復帰,と訳されている.すなわちリハビリテーションという言葉の中には,健康な状態ではなくなり,機能が低下した状態を,全くもとの健康な状態にまでもどすことはできないまでも,もどすように努力するという意味が含まれている.悪性腫瘍とリハビリテーションの問題を考える時に,リハビリテーションの対象にならない悪性腫瘍のことを考慮に入れる必要がある.すなわち,現代医学の粋を集めてもその生命を救うことができない癌患者に対するアプローチを忘れてはならない.リハビリテーションはcure(治療,治癒)という概念につながる.しかし末期癌の患者はcure(治癒)からは見放なされた存在である.しかしわれわれは末期癌の患者をcureできなくても,care(配慮,援助)はできる.医学におけるcureとcareの問題,末期癌患者の必要,末期癌患者へのチームアプローチ,家族へのアプローチ,患者の希望などについて述べ,最後に最近日本においても関心が高まっているホスピスの働きについてもふれてみたい.

巻頭言

脳性麻痺雑感 中島 雅之輔
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 脳性麻痺(以下CPとする)ならびにその周辺疾患の診療に忙殺されている臨床医が,日頃感じている点を2~3述べてみる.

 近年,非常に喜ばしいことであるが,CPの早期発見が地についてきている.われわれの施設を訪れる患者の初診時月齢の変遷が,それをよく反映している.昭和50年より54年までの全新患中,0歳児の占める割合を順に記すと,31%,36%,50%,52%,53%である.ちなみに,全新患の件数は400~600件である.ここでは,細かい数字をあげることはできないが,0歳児でも年を追って,満3~5ヵ月児が増加してきている.これは,都内の保健所や大病院からの紹介が主であり,早期療育の有効性が多くの医師や保健婦に理解されてきたためと考えられる.

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はじめに

 脳性マヒ乳幼児の療育の場では,早期発見・治療とならんで,高次神経系の障害に関する基礎的研究の必要性が提唱されている.しかし,わが国での心理学からの脳性マヒ研究は,運動障害のタイプ・程度・年齢・精神発達その他の神経学的所見を総合的に把握したものではなく,脳性マヒ全般を概括するに止まり,むしろ心理主義的な傾向のつよいのが現状である.これは,対象児が若年であるため,障害像が発達とともに変化すること,また障害が運動や言語機能にもおよぶため,従来の心理学的手法が適用しにくいなど,方法上の困難さにも起因すると思われる.

 一方,成人の脳血管障害と比較すると,その高次神経系の障害については,本研究でとりあげた痙直性片マヒ(Spastic Hemiplegia)児の場合,基礎的なレベルから研究がたちおくれているといえる.

 われわれは,発達心理学の立場から,脳性マヒ固有の障害について,運動障害のタイプ別にその発達特徴を明らかにする試みをしている.つまり,障害部位や発生機序の達いが,心理的諸側面の発達にいかなる影響を与え,障害像を形成するかという問題意識をもっている.すでに,痙直性両マヒ児の発達特徴については,特有の傾向およびとりわけ顕著にみられた知覚―運動障害について報告した1)

 本研究では,胎生期および周産期に原因をもつ先天性片マヒ児の発達特徴について,左―右マヒ群間の差異,成人片マヒ患者との比較などを中心に明らかにすることを目的とした.

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はじめに

 脳卒中は出血性疾患と虚血性疾患に分けられる.出血性疾患には脳出血とくも膜下出血があり,虚血性疾患としては一過性脳虚血や脳梗塞があげられる.CTスキャンによって,これらの疾患の診断は容易となったが原因となった血管病変や随伴する血管病変の検索には血管撮影が必要である.本稿では脳卒中をきたす各種疾患のうち,日常よく遭遇する疾患の脳血管撮影所見について述べる.

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はじめに

 すでに講座(1)において運動発達の基礎理論を概観して考察した.講座(2)においては粗大運動発達を中心に,筆者らの資料を基にしながら日本の乳幼児の粗大運動発達の標準と地域的特徴,および,それらに関与すると推定される気候因子・都会性因子について述べた.

 今回は微細運動に焦点をあて,粗大運動発達の場合と同じような視点から述べることにする.すなわち,人間の微細運動発達を個体全体の発達から切り離してとらえるのではなく,出生直後から環境との相互作用を続けながら質的に変化していく人間の行動の一側面としてとらえていくこととする.

 改めて述べるまでもなく,比較行動学の立場からみると人間は二足歩行をとり,手が移動運動から解放されて他の動物とは比較にならないほど上肢,手は種々の機能をはたすようになっている.自分自身あるいは他者・対象物を探索し,精神活動を刺激し,それを支えるのに大きな役割をはたしていることもみのがせない.しかし,ここでは精神活動との直接的関係について論じることは省略し,微細運動の発達と推移,年齢基準と個人差,地域差について述べることにする.

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 第14回リハビリテーション・インターナショナル世界会議(World Congress of Rehabilitation International)は,1980年6月22~27日,カナダのウイニペグで開催された.リハビリテーション・インターナショナルとは前の障害者リハビリテーション国際協会であって,この会議は原則として4年に1回開かれ主催は国際協会で,会議の準備や運営等に関する事務は地元の各国加盟団体が行っている.今回はカナダが担当した.

 このリハビリテーション・インターナショナルは,障害者のリハビリテーションを命題とした国際団体であるが,そこに含まれるものは医療,教育,社会,職業などすべての分野にわたっており,その意味で特色ある世界で唯一の団体である.

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 〔特別講演〕

 1.ヨーロッパ諸国におけるリハビリテーション医学教育の現状

 東京大学リハ部 上田 敏

 ヨーロッパ8ヵ国(イギリス,西ドイツ,フランス,イタリア,スイス,オランダ,デンマーク,スウェーデン)の代表的人物(国によっては複数)宛にアンケートを送った.現在までに3ヵ国(イギリス,西ドイツ,スウェーデン)から返送されてきている.以下その3ヵ国について紹介する.

一頁講座 リハビリテーションと法律・11

障害認定 橋倉 一裕
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はじめに

 身体障害を認定するということは非常にむつかしい.何の目的のために身体障害を認定するのか,それは障害者の障害による保障(Security)のためなのか,障害に対する債務の責任者が損傷を金銭をもって補填する意味をもつものか.これらの目的によって法を適用する意義が異なってくる.また評価の仕方も違う.

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 リハビリテーション医学の教科書として有名なHirschberg博士の“Rehabilitation: A Manual for the Care of the Disabled and Elderly”が,三好正堂博士により翻訳された.

 本書は,もともと,医学生・リハビリテーション医学を専攻していない医師・看護婦・セラピストなどのために書かれたものである.それにもかかわらず,本書は私のようなリハビリテーション医学を専攻する医師にとっても,日常の医療活動を遂行するうえで大きな確信と希望を与えてくれる.それは,障害者から学ぶという謙虚な姿勢と,リハビリテーション全般に関する幅広い知識が本書の基調であり,博士自らが試行し効果的で実際的であると確認できた技術・方法・治療に限定して述べられているためであろう.

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 リハビリテーションには,常にリスクが伴う.もしリスクが伴わないならば,リハには医学としての側面が不必要であるし,理学療法士のような医系専門職員も必要としない.またリハは,回復困難な障害を相手にするものであって「麻痺をなおす」というような夢物語とは違うのである.ところが最近,訓練で麻痺をなおすのがリハであるとか,しろうとでもリハはできるというリスク無視論など,リハ医学の科学性を疑わせるような議論を耳にする.このあたりで,本当のリハとは何であるかを明記した著書の刊行が待望される.

 福井圀彦博士の「老人のリハビリテーション」は,5年前に初版されたものであるが,今回大きく改訂された第2版が刊行されたので一読してみると,上記の期待に見事に応えた名著であるとの感を深くする.

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文献抄録

編集後記 千野 直一
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 本号は“特集”として「悪性腫瘍とリハビリテーション」をとりあげた.最近はリハビリテーション医療の領域もひろがり,「癌のリハビリ」ということばもしばしばきかれるようになっている.今回は,日常のリハビリテーション診療で当面する悪性疾患について症例を多く手がけておられる先生方に御執筆いただいた.

 高藤氏は喉頭摘出後の食道発声訓練の現状をのべておられるが,他のリハビリ訓練とちがって患者団体が主体となって発声練習している場合が多く,病院内での訓練が少ない感じがする.これは日本での言語療法士の不足を反映しているといえよう.蜂須賀らは乳癌術後のリハビリプログラムでは,外科との密接な提携と合併症の予防が最も大切であるとしている.田島氏他の論文から骨腫瘍による切断者の最近の動向と治療の変遷がうかがえる.

基本情報

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総合リハビリテーション
8巻11号 (1980年11月)
電子版ISSN:1882-1340 印刷版ISSN:0386-9822 医学書院

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