臨床泌尿器科 72巻13号 (2018年12月)

特集 あなたは考えていますか? 前立腺癌検診・生検・治療のQOLと費用対効果

企画にあたって 伊藤 一人
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 近年の前立腺癌の検診・診断・治療システムの進歩は目覚ましく,米国ではすでに,前立腺癌の年齢調整死亡率は1990年代前半から4半世紀の間に約50%も低下しました.本邦における前立腺癌死亡率は近年ようやく横ばい傾向になりましたが,米国のような大きな低下は認められていません.一方で,米国において前立腺癌死亡率の低下が得られる過程で,過剰診断・過剰治療・治療に伴う合併症によりQOLが低下し,不利益を被った検診受診者・前立腺癌患者が,ある一定の割合で存在します.

 前立腺癌検診・診断・治療までの前立腺癌診療システムを積極的に国家レベルで導入すれば,大きな前立腺癌死亡率低下効果が得られることが無作為化比較対照試験で証明されました.しかし,前立腺癌診療のすべての段階において,個々人の重視しているQOLや価値観に寄り添った診断・治療介入を医師が怠ると,QALY〔質調整生存年(健康な人と同等のQOLを維持しての生存年)〕は目減りしてしまいます.

〈前立腺癌検診 : QALY・費用対効果の視点からの有効性評価〉

QALYの見地からの妥当性 沖原 宏冶
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▶ポイント

・前立腺癌検診に伴う不利益の発生が重篤であれば,質調整生存年(QALY)は短縮する.このため質調整生存年のためには,検診実施による死亡率低下効果に加え,過剰診断,過剰治療に伴う合併症を最小限におさえる必要がある.

・近年のRCTのデータを用いた試算では,前立腺癌検診実施によるQALYは延長した.

・さらなるQALYの延長のためには,前立腺癌検診においてのオーダーメイド化の導入が必要である.

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▶ポイント

・前立腺癌の癌死亡1人を回避するための検診受診勧奨者数(NNI)は,既存の対策型検診(胃,大腸,肺,子宮頸部,乳房)と比較しても遜色ない効率性である.

・費用対効果の指標である増分費用対効果比(ICER)は60歳前後は許容されるが,65歳以上では悪化する.

・一方で,転移性前立腺癌の治療費高額化の社会情勢を考えると,検診での早期発見による費用対効果は今後いっそう改善される見込みである.

〈前立腺生検 : 癌診断・監視療法中の生検負担低減の実現可能性〉

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▶ポイント

・PSAの前駆体であるproPSAは,前立腺癌の診断だけでなく悪性度や腫瘍量を予測するマーカーであることが証明されている.

・監視療法での有用性も報告されており,PRIAS-JAPANでは現在前向きに検証中である.

・proPSAの普及により不必要な生検を回避し,さらには前立腺癌の過剰診断,過剰治療問題に歯止めをかけてくれることに期待したい.

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▶ポイント

・MRI-fusion生検は,mpMRI上で疑われた前立腺significant cancerを検出するのに適した検査方法である.

・本生検法の優先順位の決定には,mpMRI所見が有用であり,その評価にはProstate Imaging and Reporting and Data System(PI-RADS)が用いられることが多い.

・経会陰式および経直腸的生検アプローチを比較すると,経会陰式生検は合併症発現率(急性前立腺炎,直腸出血)が低く,anterior portionからの癌検出に優れる一方,経直腸的生検は外来で簡易に実施できることが利点として挙げられる.

〈PROに基づく各種限局性前立腺癌の治療戦略の評価〉

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▶ポイント

・ASは患者のQOLを損なわない有用な治療選択肢の1つと考えられる.

・担癌状態のまま無治療で過ごすことに不安感を感じ,ASから離脱する患者も一定数存在する.

・ほかの治療方法に比べ良好なQOLを示すと考えられるAS患者に対しても,常に精神面へ配慮し,不安の軽減に努める必要がある.

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▶ポイント

・QOL評価には健康関連QOL質問票,疾患特異的QOL質問票,下部尿路症状や性機能を評価する症状・QOL質問票を組み合わせて用いる.

・手術療法は監視療法や外照射と比較して排尿機能,性機能に関連するQOLが低い.

・ロボット支援前立腺全摘除術は開腹手術および腹腔鏡手術と比較して健康関連QOL,尿禁制,性機能の早期改善が期待できる.

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▶ポイント

・LDRは高リスク前立腺にもホルモン療法を併用することで適応が拡大している.

・LDRでは治療早期に膀胱刺激症状がみられるが半年程度で回復する.

・LDRは手術に比較して性機能に関するQOLの低下が少ない.

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▶ポイント

・三次元原体放射線治療に変わって強度変調放射線治療が主流となり,消化器系有害事象の低減化が実現された.

・中等度寡分割照射については,PSA非再発率について,通常分割照射との非劣性がほぼ証明された.

・超寡分割照射については,その有用性は大規模比較試験ではまだ証明されていない.

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▶ポイント

・前立腺癌の重粒子線治療は優れた物理学的,生物学的特性により,少ない有害事象で良好な治療成績が示されている.

・前立腺癌の重粒子線治療は2018年4月より保険適用となり,患者の費用負担は他の治療と同等となった.

・今後,さらなる患者報告アウトカムの蓄積,費用対効果の解析や,個別のニーズに応じた治療選択の検討が必要である.

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▶ポイント

・高リスクHSPCのリスク因子であるグリソンスコア,骨転移数,内臓転移の有無を確認する.

・ステロイド投与によるリスク,肝機能障害のリスクのある患者の選別をする.

・グリソンスコア8以上,EOD2以上,内臓転移ありのうち2因子に加え,PS,症状の有無,PSA値も考慮し,投与患者を選別する.

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▶ポイント

・エンザルタミドやアパルタミドなどによる非転移性CRPCに対する治療が開発され,QOLはプラセボと比べて有意差なく維持される.

・転移性CRPCに対して,アビラテロンやエンザルタミド,Ra223などはQOLを悪化させる骨関連事象発症までの期間を延長する.

・カバジタキセル治療は,骨髄抑制をコントロールできれば,ドセタキセル治療の長期間投与よりQOLの維持が優っている.

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 53歳男性.臍からの便汁排出を認め,精査にてS状結腸と尿膜管腫瘤との交通が疑われた.尿膜管癌を否定できないため,尿膜管全摘除術・膀胱部分切除術・S状結腸合併切除術を施行した.病理結果よりS状結腸憩室炎の尿膜管穿破の診断となった.尿膜管結腸瘻に関して若干の文献的考察を加えて報告する.

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 医師の日常は,臨床カンファレンスから学会発表,研究成果発表会など,プレゼンの機会に事欠きません.若手の医師にとっては,初の全国学会での口演発表,中堅医師では,シンポジウムの発表,共催セミナーでの口演が当たると,大変うれしいものです.また公的研究費の獲得や公的なポストへの昇進など,プロフェッショナルとしてのキャリアをアップするうえでも,プレゼンの重要性に異を唱える人はいないと思います.しかし,いかに仕事の内容が素晴らしくても,聴衆に効果的に伝える努力を私たちは十分しているでしょうか? 今から思いますと,私も若いころ,かなり独り善がりなプレゼンをしていたように思います.

 このたび医学書院から,医療者向けに『脱・しくじりプレゼン』が刊行されました.編著者は,名著『パーフェクトプレゼンテーション』(生産性出版,1995)で有名な八幡紕芦史氏です.私自身,プレゼンの基本を八幡氏から学んだ一人です.本書は,多忙な臨床医や研究者向けに,プレゼンの極意を,マンガと丁寧なレクチャーでビジュアルに解説しています.効果的なプレゼンには,事前の情報収集と分析がまず必要なこと,聞き手に当事者意識をもたせることを示して,さまざまな場面での失敗の要因を分析しています.デリバリーとは,まさに伝えるテクニックです.内容を聴衆に理解してもらい,さらに信頼してもらえるかは,このデリバリーの技術にかかっています.また,研究費の獲得や公的なポストへの昇進でのプレゼンでは,プレゼン後の質疑応答が,より大切になってきます.この質疑応答の成否は,深い意味では,プレゼンした内容が,いかにあなたの実体験に基づいているかにかかっています.本当に身についた知識や内容であれば,聴衆は本当に理解して,共感してくれると思いますが,プレゼンの目的や聴衆はさまざまだと思います.本書は,さまざまな局面で,「しくじらない」ためのノウハウを満載しています.Practice makes perfect!皆さん,本書をひもときながら,ぜひ多くのプレゼンをしてください.その後,本書を読み返すと,さらに大きな発見があると思います.

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目次

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次号予告

編集後記 小島 祥敬
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 10月18日に発表された2018年度医師臨床研修マッチングの最終結果によると,定員充足率100%だったのは11大学で,そのほとんどは都会の大学です(ちなみに本学は,充足率80大学中75位の41.86%,マッチ数18人でした).充足率が30%未満の大学およびマッチ数が10人未満の大学は4大学あり,そのうち3大学が東北地区の大学で,依然として地域格差が著しいのが現状です.10月22日から,専門医プログラムの募集が開始されましたが,同様に都会に集まる状況が変わる気配はありません.シーリングという制度がありますが,若者にとっては,“泌尿器科ありき”ではなく,“都会に住むことありき”でしょうから,どこまで効力を発揮するかどうかは疑問です.これは,専門医機構が制御できる問題でもないような気がします.

 さて先日の土曜日に,地元の高校1年生を対象に模擬講義を行いました.90分講義を2コマ,ロボット手術の話をしました.そして講義の後半に,震災以降の福島の医療の現状を訴えて,「これからの福島の医療は支えるのは君たちだ」と熱く語りました.1週間後に高校生の感想が送られてきましたが,講義を通して,ロボット手術ではなく,たったこの1フレーズが高校生の胸に最も響いたようです.震災からもうすぐ8年,福島の明るい未来を予感しました.

基本情報

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臨床泌尿器科
72巻13号 (2018年12月)
電子版ISSN:1882-1332 印刷版ISSN:0385-2393 医学書院

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