臨床泌尿器科 72巻12号 (2018年11月)

特集 何が変わったのか? 性感染症の動向

企画にあたって 髙橋 聡
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 泌尿器科医は,性感染症を診察しなくてはなりません.なぜなら,たとえ感染症内科が感染症全般を診療する時代がくるとしても,外陰部に病変が生じた患者さんは,泌尿器科や産婦人科を受診します.また,感染症内科の主たる診療対象は,重症感染症,敗血症,輸入感染症,昆虫(動物)媒介感染症など多岐に渡るからです.

 従来の性感染症といえば,クラミジア・トラコマティスと淋菌,性器ヘルペスと尖圭コンジローマ,それにマイコプラズマ・ジェニタリウムを知っていたら十分だったかもしれないのですが,近年の梅毒報告数の急増により,私たちは,さらに梅毒をも念頭に置いた診療をしなくてはならなくなりました.梅毒は典型的な外陰部の症状のみであれば容易に診断できるのですが,リンパ節腫脹など「もしかして悪性腫瘍…」と考えがちな思考の向きを,少し修正する必要に迫られています.

〈性感染症の背景と予防教育を知る〉

性感染症の発生動向 荒川 創一
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▶ポイント

・日本での性感染症の発生動向として,淋菌感染症,クラミジア感染症,性器ヘルペス,尖圭コンジローマの4疾患については,ここ数年ほぼ横ばいである.

・梅毒が2012〜2017年の5年間で5倍以上に急激に増加している.

・梅毒の診断は必ずしも容易ではない.最新の「梅毒診療ガイド」(http://jssti.umin.jp/pdf/syphilis-medical_guide.pdf)を参照されたい.

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▶ポイント

・STI罹患者が最初に泌尿器科を受診する可能性は高い(特に男性).

・STIは何度でもかかる,いくつでもまとめてかかる,予防しなければ誰でもかかる可能性があるため,最初に接した診療科が感染予防を教育することが重要である.

・患者を治療するだけではなく,生徒・学生・社会人に向けた感染予防教育も重要である.

〈性感染症を診療する〉

淋菌感染症(淋菌性尿道炎) 安田 満
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▶ポイント

・鏡検法が最も迅速な検出法である.クラミジア検出のため核酸増幅法検査も実施する.耐性菌検出のためにも培養法も積極的に併施すべきである.

・多くの抗菌薬に対し耐性を獲得している.CTRXとSPCMにはほぼ感受性である.ただしCTRXに対し感受性が低下した株が散見される.

・淋菌性尿道炎の治療は咽頭感染も考慮しCTRXを第一選択とする.

梅毒 桧山 佳樹 , 髙橋 聡 , 舛森 直哉
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▶ポイント

・梅毒罹患者数は年々増加傾向にある.

・問診,身体所見とT. pallidumを抗原とした抗体検査およびカルジオリピンを抗原とした抗体検査を総合的に判断して梅毒と診断する.

・本邦の梅毒治療薬の第一選択はアモキシシリンである.

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▶ポイント

・クラミジア性尿道炎は男性最多の性感染症で,近年も増加傾向と推定される.

・クラミジア性非淋菌性尿道炎と非クラミジア性非淋菌性尿道炎の鑑別はクラミジアの検出以外には困難で,現在主流の核酸増幅検査では結果判明まで数日を要する.

・クラミジアの薬剤耐性は問題になっていないが,同じ非淋菌性尿道炎の原因菌であるMycoplasma genitaliumの薬剤耐性が深刻な問題となっており,治療開始時のクラミジア診断が望まれる.

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▶ポイント

・MG性尿道炎に対しては,AZMの単回投与が第一選択,STFX 200mg/日・7日間投与が第二選択としてガイドラインで推奨されている.

・NCNGUの原因として頻度の高いMGの薬剤感受性が急速に低下しており,AZMの治療失敗例に関する報告が増えつつある.

・NCNGUの治療は薬剤感受性だけでなく,疾患の特性や患者のアドヒアランスを加味した総合的なアプローチが必要である.

性器ヘルペス 渡辺 大輔
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▶ポイント

・性器ヘルペスは単純ヘルペスウイルスが原因で起こる疾患であり病型は初感染初発型,非初感染初発(誘発)型,再発型に分類される.

・数日間の前駆症状の後に亀頭,冠状溝や陰茎体部に複数の小水疱が出現し,破れて融合し浅い潰瘍となる.

・治療は抗ヘルペスウイルスの内服が主体で,頻回に再発を繰り返す例では再発抑制療法を行う.

尖圭コンジローマ 市原 浩司
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▶ポイント

・尖圭コンジローマはヒトパピローマウイルスによる感染症である.

・ファーストライン治療はイミキモド5%クリームの外用,液体窒素による凍結療法,外科的切除,もしくはこれらの併用を疣贅の大きさや個数により選択する.

・初期治療後も再発率は高く,パートナーがいる場合は同時治療が必要で,ほかの性感染症合併にも注意が必要である.

HIV感染症 田沼 順子
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▶ポイント

・HIV感染者への早期診断・早期治療はHIV流行を終わらせる世界戦略の一部である.

・疑い例も含めてあらゆる性感染症合併時にHIV検査が勧められる.男性間性交者は特にリスクが高く,積極的な施策が必要である.

・HIVを検査する際は本人の同意を得る必要がある.スクリーニング検査は一定の割合で偽陽性となるため,必ず確認検査を経て診断される.

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▶ポイント

・糖尿病とカンジダによる亀頭包皮炎の関連を念頭に置く.

・治療は抗真菌薬の局所塗布薬による.

・性感染症であるが,糖尿病・免疫低下状態では,性感染症としてではなく発症する場合もある.

性器外性感染症 濵砂 良一
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▶ポイント

・多くの性感染症の原因となる微生物は性器外でも伝搬,感染する.また,性器外の感染部位は感染源にもなる.

・淋菌またはクラミジア性尿道炎患者の咽頭から,同じ原因菌が高頻度に検出されるため,咽頭感染を意識した尿道炎治療が重要である.

・梅毒はTreponema pallidumの全身感染症であり,性器,肛門,直腸,口腔内などで感染し,初期硬結,硬性下疳を形成する.また,Ⅱ期梅毒以降は全身臓器に感染して,多彩な症状を呈する.

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ポイント

・悪性疾患を対象に膀胱部分切除/憩室切除を行う場合,腫瘍細胞播種のリスク回避に最大限配慮して適応・術前治療・手術手順を検討する.

・根治性を担保するため,腫瘍の部位に応じて合併切除すべき構造物や処理すべき血管を術前に想定しておく.

・尿管膀胱新吻合では尿管血流の保持と張力のかからない吻合を心がける.

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ポイント

・憩室口が尿管口に近接して開口している場合,三角部あるいは膀胱頸部近傍に開口している場合は,膀胱外アプローチを主体とする腹腔鏡下手術の適応は慎重に判断する.

・尿管口が憩室壁に開口している場合は,腹腔鏡下での新吻合術が必要となることに留意する.

・憩室壁が薄かったり,周囲組織との癒着が強く境界がわかりにくい場合は,経尿道的に挿入した軟性膀胱鏡で内側から光を照射すると,憩室壁辺縁の視認が容易となる.

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 当院の男性更年期外来を受診しテストステロン補充療法を行った全201症例中,治療開始時に精神疾患のため薬物療法を行っていた70例を検討した.背景にある精神疾患に関して6割弱は抑うつ状態,3割は全般性不安障害,1割は統合失調症であった.治療前の患者背景は精神疾患の有無で比較した場合,遊離テストステロン値に差を認めず,精神疾患を有する群は年齢が低く男性更年期症状を評価するAMSスコアが高く症状が強い傾向であった.治療効果に関しては,抗うつ薬や抗不安薬を投与されている症例でも約4割に自覚症状の改善が認められ,治療経過も相違なかった.したがって,前述のような症例でも低テストステロンを認めた場合,積極的な治療介入が選択肢となりうると思われた.

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 80歳男性.腎癌肺転移に対し,インタフェロンα製剤による免疫療法中に脳梗塞を発症し,全身検索中のCTにて膀胱腫瘍が判明した.膀胱鏡では右尿管口背側の後壁に孤立性非乳頭状腫瘍を認めた.経尿道的膀胱腫瘍を施行し,病理組織検査では腎細胞癌膀胱転移と診断された.本症例では尿流性に膀胱粘膜に播種したものと考えた.

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 手術にかかわる外科系若手医師にとっての最大の関心事は,毎日訪れる手術を安全に乗り越え,執刀件数を増やすことではないかと思います.私自身ももちろん同様の思いで20年近く手術技量を磨くべく邁進してきたつもりです.ところが最近になって「自分の行っている手術が本当に患者さんの恩恵につながっているのだろうか?」とふと考えることがあります.このような“壁”にぶつかる外科医は少なくなく,その場合,カルテ記載を調べ自分の行ってきた手術成績を検討する,いわゆる“後ろ向き研究”を行い,満足(安堵)しているのではないでしょうか.私を含め手術技量の向上に注力し,臨床研究について系統的に学ぶ機会がなかった外科系医師にとっては,それしか方法がないといっても過言ではないと思います.

 本書『外科系医師のための手術に役立つ臨床研究』は,臨床研究とは何か,Research Question(RQ)の整理の仕方,研究デザインの構築などといった臨床研究の基本的な考え方から,バイアス,交絡因子のコントロールの方法,またわれわれが絶対的な指標と信じているp値,多変量解析に潜むわななどについて非常にわかりやすく,系統的に解説されています.特に本書第4章に記載されている論文作成の方法は秀逸で,初めて原著論文を書く若手医師のみならず,いままで何本も論文作成を行ってきた医師にとっても目からうろこの内容であり,臨床研究に興味がない方にとっても必見の価値があると確信します.また最後には昨今話題になることが多い研究不正についても言及されており,著者である本多通孝先生の臨床試験に対する熱い思いを感じられる内容です.

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目次

バックナンバーのご案内

次号予告

編集後記 近藤 幸尋
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 今年も10月31日の渋谷界隈は大変なことになるかと思われます.若者が渋谷のスクランブル交差点を中心にコスプレで練り歩いて,「ハッピーハロウィン」と連呼するのが毎年おなじみとなっています.もともとハロウィンはアングロ・サクソン系民族の祭日で,10月31日はキリスト教においてすべての聖人を崇敬する祝日である万聖節の前日にあたります.古くはケルト人の祝日で,ケルト暦の大みそかにあたり,この日の夜に悪霊や魔術師たちが戸外を駆けめぐって次の年の予報を声高に叫び歩いたようです.現在でもこれらの習慣が残っていて,仮面をかぶって広場で踊り,子どもたちがかぼちゃをくり抜いたランプを捧げて行列をなすようです.小職が米国に滞在していた1992〜1995年も,大きなオレンジ色のカボチャを農場に買いに行き,それをナイフでくり抜いてランプをつくりました.子どもたちは,魔女などの仮面や衣装で近隣を練り歩き,“Trick or Treat”と挨拶しながらカゴにお菓子を入れてもらいました.近隣の人たちはそれに備えてスーパーなどで大きな袋入りのお菓子を準備して待機しており,ある種の近隣のお付き合いといったイベントでした.

 ところが日本では,渋谷に代表されるようにコスプレ行列およびコスプレパーティーに変化しています.インターネットでも「ハロウィン」で検索すると,まずはハロウィンコスプレがダーと出てきます.日本人のお祭り好きの感覚からなのでしょうか,クリスマスにしてもバレンタインにしても米国にいたときの感覚と大いに異なっています.日本に本来お祭りがないかというと,春夏秋とその地方地方で多くのお祭りがあります.それぞれのお祭りは,農作物の収穫祭や海の安全を祈るものなど多数あります.法被や股引を身につけて神輿を担いで神社仏閣のお祭りに出た若者が,ハロウィンで悪魔のコスプレを行っているのが現実のようです.

基本情報

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臨床泌尿器科
72巻12号 (2018年11月)
電子版ISSN:1882-1332 印刷版ISSN:0385-2393 医学書院

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