臨床泌尿器科 73巻1号 (2019年1月)

特集 男性の百寿社会のために テストステロンの徹底理解!

企画にあたって 辻村 晃
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 高齢社会を迎えた日本においては,中高年以降の男性に生じるさまざまな障害が重要視されるようになった.いわゆる更年期障害は女性特有の疾患であるかのように理解されてきたが,実際には同様の症状が男性にも存在する.すなわち,女性の更年期障害でよく認められる「なんとなく体がだるい」「落ち込みやすい」「集中力がなくなった」「いらいらする」「体温調節がうまくできない」など,自律神経失調症的な不定愁訴は実は男性にも起こりうるわけである.疾患概念の目新しさからマスメディアが取り上げることも多く,「男性更年期障害」という名称は比較的短期間のうちに一般社会に浸透した.現在では,加齢男性性腺機能低下症候群(LOH症候群)という医学名称で統一され,すでに診療の手引きも発刊されている.LOH症候群に対する治療は,一般にアンチエイジングにつながるものと理解されている.人は誰でも老いる.したがって,日常生活に影響しない程度の老化現象は,あえて問題にする必要はないかもしれない.問題は,健康寿命を脅かすLOH症候群に関連するさまざまな病態が,低テストステロン血症により引き起こされる可能性があることである.

 本特集では,LOH症候群に対する診療の現状を明確にするとともに,テストステロンにまつわる症状や疾患について,解説いただいた.今後の診療の参考になれば幸いである.

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▶ポイント

・健康寿命の延伸にはLOH症候群の理解と治療が不可欠である.

・LOH症候群の診断には血清遊離型テストステロン値を測定する.治療にはテストステロン補充療法が有効であるが,その効果は多岐にわたる.

・LOH症候群の臨床症状は精神・心理症状,身体症状,性機能関連症状に大別される.評価には各種質問票が有用である.主訴別に比較すると,特有の差が存在することが示唆された.

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▶ポイント

・血管内皮機能障害は動脈硬化発症の第一段階であり,心血管イベントを惹起する.

・LUTSでは血管内皮機能が障害されている.

・テストステロンはムスカリン受容体機能を改善し,内皮型NO合成酵素を活性化する.

・PDE5阻害薬はテストステロンの濃度を上昇させる.

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▶ポイント

・テストステロンは心血管システムに好影響を与える.

・心血管病患者においてテストステロン値は低下している.

・心血管病に対するテストステロン補充療法は確立されていないものの,治療選択肢となりうる.

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▶ポイント

・男性2型糖尿病患者においてテストステロンは非常に重要な役割を担う.

・テストステロン低下によりインスリン抵抗性が増強し,糖代謝異常や動脈硬化のリスク因子となる.

・テストステロン低値の患者にテストステロンを補充することにより直接作用として,また体組成の変化を介した間接作用としてインスリン抵抗性が改善する.

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▶ポイント

・低テストステロン状態は中性脂肪の上昇,LDLの上昇,HDLの低下と関連がある.

・テストステロンの補充は,中性脂肪の低下,LDLの低下,総コレステロールの低下といった効果もあるが,善玉であるHDLの低下も来す.

・テストステロン補充により脂質代謝を改善することで,低テストステロン状態の男性の心血管イベントのリスクを軽減する可能性がある.

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▶ポイント

・超高齢社会を迎えた本邦において,フレイル・サルコペニア患者数は増加している.

・血中テストステロン濃度と筋肉量・筋力・身体機能は正の関連がある.

・テストステロン補充療法はフレイル・サルコペニア治療に有用な可能性がある.特に運動は内因性にテストステロンを上昇させ,フレイル予防に有用である.

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▶ポイント

・慢性的な過剰な運動により低テストステロン症を生じ,性機能などの身体症状が出る.

・海外では,スポーツ医学分野で長距離ランナーの低テストステロン症対策が注目されて,食事療法などでの治療が試みられているが改善報告はなく,性的特徴が多い割に世界的に泌尿器科では扱われていない.わが国ではLOH症候群の患者が増えるなかで,運動を原因とする低テストステロン症の患者が泌尿器科を受診するようになった.

・LOH症候群と異なり運動を軽減すると回復しやすく,テストステロン補充をすると改善しにくい.重症にはスポーツ大会での心肺停止例がある.

・筆者は日本Men's Health医学会を通じて,この病態を「運動ストレス性低テストステロン症(ESLT)」と名づけ啓発活動を行っている.

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▶ポイント

・男性ホルモンは海馬でも合成され,受容体であるARは空間認知記憶を担う海馬のCA1領域のグルタミン酸神経に多く発現している.

・加齢に伴うTの減少は海馬のCA1神経機能の低下を引き起こす原因になることが示唆される.

・Tが減少するLOH症候群の患者でも,海馬にTを補充することで,空間認知機能の改善が見込まれる.

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▶ポイント

・早朝勃起はテストステロンによる症状のバロメータである.

・テストステロンとEDとの関連に関しては一定の見解はない.

・テストステロン低下を伴ったED患者へのテストステロン補充療法は強く推奨する.

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▶ポイント

・精巣内テストステロン濃度は血清の100倍以上であり,dihydroxytestosteroneよりもテストステロンとして存在し,アンドロゲン受容体と結合する.

・精子形成においてテストステロンは減数分裂後のspermiogenesisおよびspermiationに特に重要である.

・男性不妊患者にテストステロン製剤の投与は禁忌であり,ゴナドトロピン療法やクロミッド療法が勧められる.

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▶ポイント

・テストステロン値と下部尿路症状の重症度には直接的な相関性は認めない.

・テストステロン補充治療は,下部尿路症状を合併したLOH症候群症例に対して,有意な下部尿路症状ならびに下部尿路機能の改善を認める.

・テストステロンの補充療法により,前立腺癌や前立腺肥大のリスクを上げる可能性は低いと考えられている.

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 51歳男性.発熱,尿量減少を主訴に前医を受診し,急性前立腺炎の診断で治療開始された.再診時に血圧低下あり当院紹介となった.急性前立腺炎による敗血症性ショック,DIC,多臓器不全の診断で当科緊急入院となり,治療経過中に特発性後腹膜血腫を併発し,緊急動脈塞栓術を施行した.

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 本書の書評を前田恵理子先生から依頼された際に,軽い気持ちでお受けしたのだが,初めて手にしたとき,その本の中身の濃さと重量感(408ページ!)がどっしりと伝わってきた.いつも多施設が集まる症例検討会では放射線科医としてキレッキレの読影をされる前田先生らが総力を挙げて翻訳された本である.本書は臨床での統合的アプローチ,胸部,腹部,骨盤部,背部,上肢と下肢,頭頸部の合計7つの章に分かれ,各章では解剖学,診察(身体所見),検査所見,画像所見,検査前確率を予測するスコアリング,特殊検査まで網羅しており他書に類をみない.各章では実際の症例が提示されどのように多角的に評価すべきかを,定義,疫学,原因,鑑別診断の基本事項に加え,症状,身体所見,検査所見まで含めて解説されている.

 例えば強直性脊椎炎の症例では,典型的な靱帯骨棘形成での特殊検査として変形Schober試験(p226)やHLA-B27の測定まで記載され,疾患を丸ごととらえようとする意気込みが感じられる本である.特筆すべきは,Clinical Pearlが随所にちりばめられており,その内容は患者のマネジメント,診断,検査結果の解釈にまで及ぶ.例えば,「大腸内視鏡検査は憩室炎の急性期には穿孔のリスクがあるため禁忌である.炎症性腸疾患や悪性腫瘍を除外するため,6週間が経過したあとに行うべきである」という短文で“ずばっと”迫ってくるものや,心囊液貯留患者の心タンポナーデ移行のリスク評価における奇脈の重要性,その所見の取り方の記載がある.一方,ユニークな切り口のパールも多々あり,例えば,消化管悪性腫瘍の身体診察において人名に由来する5つの医学的徴候が挙げられている(下記).

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目次

バックナンバーのご案内

次号予告

編集後記 大家 基嗣
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 本誌2018年4月号の編集後記ではカズオ・イシグロ氏の『遠い山なみの光』で表現されている戦中・戦後を生きた女性の遠い異国への憧れ,7月号では,矢部太郎氏の『大家さんと僕』で87歳の大家さんがマッカーサー元帥に憧れていたこと,10月号では,佐藤愛子センセイの友人の夢はクラーク・ゲーブルとの接吻であることを書きました(『九十歳.何がめでたい』).共通していることはみなぎるパワーと,それとは相容れない現実離れした遠い存在への憧れです.

 何不自由なく,むしろ理想的な生活を送っている女性から,「どうして?」と私が感じることがあります.女性は幸せの只中にいても,本当の私はココにいるべきではなく,「いつか王子様が迎えにくる」という妄想をもっている気がするのです.編集後記で取り上げた戦中・戦後を生きた3名の女性はこの感覚の表現形として,あのような発言をしている気がします.一般化すると,「私の居場所はココではない」という感覚です.

基本情報

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臨床泌尿器科
73巻1号 (2019年1月)
電子版ISSN:1882-1332 印刷版ISSN:0385-2393 医学書院

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