臨床泌尿器科 68巻12号 (2014年11月)

特集 泌尿器科医のためのクリニカル・パール(2)

腎移植のクリニカル・パール 佐藤 滋
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要旨 生体臓器ドナーの適応や予後に関し,世界的に注目されている。免疫抑制薬と免疫抑制法の発展・進歩により腎移植の適応は拡大しているが,生体臓器ドナーは擁護されなければならない。しかし,2013年に生体腎ドナーの術中死あるいは手術関連死の報告が続けて2件あった。さらに,術後長期経過観察が必要であるが,全国的なドナー術後登録制度は始まったばかりであり,長期予後調査はこれからである。そこで本稿のクリニカル・パールは,生体腎ドナーを中心に知っておかなければならないその適応基準や倫理指針などを中心に,献腎ドナーの適応についても記載する。

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要旨 最近の腎臓移植の成績向上の要因として,①免疫抑制剤の開発,および,②免疫検査の新たな進歩に分けることができる。その一方で,治療方針に関しては,今も昔も頭を悩ます場面が少なくない。移植前後にわたって共通していえることは患者をできるだけドライサイドに管理することである。溢水の状態はレシピエントの心臓に負担をかけ,心拍出量の低下,さらには,尿量の減少にもつながり悪循環に陥ることになる。こういう状況下における患者の全身評価は極めて困難である。あまり無理をせずに透析などでドライまで体重を下げ,さまざまな評価をし直すことをお薦めする。このほか,移植後の感染症など日常に遭遇する難しい疾患の対処法についてもお話をしたい。

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要旨 下部尿路機能障害(lower urinary tract dysfunction:LUTD)とは,下部尿路の機能障害の総称であり,蓄尿障害(storage dysfunction)と排尿障害(voiding dysfunction)の2つに分類される。これらの障害は神経系異常,解剖学異常(前立腺肥大症,膀胱脱など),下部尿路の炎症・腫瘍疾患(膀胱炎,尿道炎,前立腺炎,膀胱結石,膀胱がん,前立腺癌など)や加齢,飲水,排尿習慣,薬剤などさまざまな原因で生じてくる。

 診療においては,下部尿路症状(lower urinary tract symptoms:LUTS)の内容を十分把握し,背景疾患の診断を行い,それぞれの病態に対応した治療がなされなくてはならない。

 下部尿路機能障害はすべての年齢において生じるが,今回は高齢者の下部尿路障害におけるクリニカル・パールについて言及したい。

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要旨 下部尿路機能障害のクリニカル・パールとして,①頻尿には2つの相反する病態がある,②排尿記録は診療の基本,③夜間頻尿の原因は「多尿・夜間多尿」「膀胱容量低下」「睡眠障害」,④下部尿路機能障害の管理の基本は低圧膀胱の維持,⑤間欠的導尿管理中の尿路感染症は排尿管理の見直しのサイン,⑥尿路性器悪性腫瘍の発症には常に注意を払う,⑦時には「バランス膀胱」を考慮する,という7つを取り上げ概説する。

 下部尿路機能障害は慢性疾患であるため,薬物療法などを漫然と継続してしまう恐れがある。しかし,多くの疾患において症状は進行し変化していくため,常に病態の変化を意識して慎重に診療を進めていくことが肝要である。

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要旨 男性と女性で形態や機能の著しく異なっている部位として下部尿路や骨盤底がある。骨盤底の障害や老化によって起こる女性特有の疾患として,尿失禁や頻尿,骨盤臓器脱などが挙げられる。また女性は尿道が短いため,膀胱炎などの感染症も起こしやすい。このような排尿の異常により,生活の質(QOL)が低下する患者が増加している。勇気を出して病院を受診した患者の訴えをよく聞き,確実な診断を行ったうえでQOLの向上を目指した治療を行うのがわれわれの役目である。ここでは,女性泌尿器科疾患の診断・治療に役立つポイントを提示し,解説する。

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要旨 女性泌尿器科疾患は一部,婦人科疾患とオーバーラップする領域である。したがって通常の泌尿器科疾患とは異なる独特の診断を行わなければならないことがある。女性泌尿器科領域において主な疾患である骨盤臓器脱などは膀胱の下垂により蓄尿および排尿障害を伴うことが多いので,骨盤臓器脱患者は一般泌尿器科医に受診することも少なくない。一般泌尿器科医も女性泌尿器科診療の知識を増やし,適切な診断を行うことにより,女性泌尿器科疾患に悩む患者の生活の質の向上に努めることが重要である。

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要旨 男性不妊症に対する治療として,顕微鏡下精巣内精子採取術(microdissection testicular sperm extraction:MD-TESE)が登場しておよそ15年が経過してきている。また男性不妊症に対する精索静脈瘤根治術の有用性も実証されてきている。しかし泌尿器科の中でも“マイナー分野”であるため,受診しても治療が紹介されず,挙児を断念するカップルも少なくない。今回は,男性不妊に対して日常診察・治療となっている項目を取り上げ,少しでもこのマイナー領域の治療が泌尿器科医に認知され,治療を希望するカップルの手助けになることを期待したい。

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要旨 全カップルの6組に1組は不妊症であり,その半数に男性因子が存在することから潜在患者数は莫大である。妻側の因子も絡み一律に診療できず,RCTが施行しにくく非常にエビデンスが乏しい分野であるため,担当医の判断が患者の人生を大きく変えうる。

 精索静脈瘤や閉塞性無精子症に対する外科治療は従来,自然妊娠や人工授精を目指すために行われてきたが,体外および顕微授精などの補助生殖医療技術(assisted reproductive technology:ART)が行われるケースにおいてもその有用性が認められる。すなわち,ART時代においてこそ男性不妊診療の重要性がクローズアップされている。

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要旨 男性性機能障害の診療において,勃起障害については,PDE5阻害剤がゴールデンスタンダードとなっており,その診断治療は比較的,確立されてきた感がある。

 一方,射精障害は病態が複雑であり,患者の主訴も多種多様であるため,泌尿器科医にも対処が困難なケースが比較的多いと思われる。特に,早漏と腟内射精障害は行動療法と薬物療法を上手く組み合わせる必要がある。さらに射精困難による男性不妊症治療も並行して行っていくことが重要である。

 本稿では,射精障害について,一般的事項から,最近わが国で行われているいわゆるオフラベル治療も紹介する。

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要旨 性機能障害は勃起障害(ED),射精障害(EjD),陰茎の変形による性交障害などが挙げられる。一般には勃起障害のみが性機能障害と認識され,治療はPDE5阻害剤のみが処方され,効果がなければあきらめてしまうケースが多い。

 しかしながら,PDE5阻害剤が無効な症例であっても,患者背景や基礎疾患,治療方法の適切な選択などで性機能障害が治療可能になる症例も少なくない。

 本稿では性機能障害,特に勃起障害の患者背景,治療などについて詳細に言及する。

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要旨 梅毒やHIV感染症/AIDSは感染様式から性感染症に分類されているにもかかわらず,全身性慢性疾患であるため,泌尿器科医が外来で遭遇する機会は稀な疾患とされてきた。しかしながら,HIV感染症/AIDS患者の増加に牽引され,初発梅毒患者が2010年から毎年1.5倍増となっている。様変わりしていく性感染症患者に対する適切な対応が求められる今,本パールがお役に立てば幸いである。

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要旨 性感染症としての尿道炎の対応は,淋菌性と非淋菌性に分けて考える必要がある。淋菌性尿道炎では,淋菌の抗菌薬耐性化により培養後の薬剤感受性試験結果を確認する必要があり,治療法が限られているという認識が必要である。非淋菌性尿道炎では,治療不成功時の抗菌薬選択を知る必要がある。無症候性の頻度が高いクラミジア性尿道炎では,女性パートナーが性器クラミジア感染症と診断された場合の対応を知ってほしい。

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要旨 小児泌尿器を専門とする医師でなくとも,日常診療で遭遇することの多い小児疾患を取り上げ,診療に際し心に留めていること,経験の少ない先生に指導していることについて記載した。急性陰囊症は,原因疾患によっては治療のゴールデンタイムに配慮しなければならず,判断が遅れると機能が温存できないことがある。泌尿器科医を長く経験していると,精巣捻転で萎縮しまった精巣を外来で診察することは,一度や二度ではない。急性期にどのような検査を行い,なにを考え治療方針を決定しているか記載した。

 夜尿症や過活動膀胱の症状を訴える小児の排尿障害患者は少なくないが,尿路感染症で受診した患者の中にも,排便習慣に問題があることが多い。このような患者を診察する場合の注意点を記載した。

 包茎の治療は時代の変遷とともに若干の変化があり,本稿では最近留意している点を説明する。

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要旨 新生児期,乳児早期に尿路感染症を発症し,泌尿器科に紹介されて来院する患児は少なくはない。当然,尿路に先天性の異常がないか精査し管理することとなるが,このときの膀胱尿道造影や腎シンチの位置づけが近年はなかなか難しい。この時期最も合併頻度の高い膀胱尿管逆流についての知識を参考に判断することが多いが,最終的には患児の状況をみて経験的に決定している。本稿では膀胱尿管逆流の精査,治療を含め,近年の小児尿路感染症に対する考え方,ひいては環状切除術の有用性についても論じてみた。

知っていると役立つ泌尿器病理・32

症例:0歳・女児 湊 宏
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症例:0歳・女児

 出生時より左腹部膨隆を認め,画像上左腎に大きな腫瘍が認められた。腎芽腫の疑いにて左腎摘出が行われた。図1は左腎腫瘤の肉眼像(割面)で,図2〜4はその代表的な組織像である。

 1.肉眼像における鑑別診断を述べよ。

 2.病理診断は何か。

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症例は1歳7か月男児。無痛性左陰囊内腫瘤を主訴に当院に紹介された。左陰囊内に径1.5cm大の表面平滑,境界明瞭,弾性硬な腫瘤を触知し,精巣,精索とは明らかに離れ,可動性も良好であった。腫瘤は超音波検査で内部不均一,カラードプラ法で血流を認めず,MRI所見と併せ陰囊内血腫が疑われた。しかし,腫瘍性病変も否定できず,全身麻酔下に腫瘍核出術を施行し,病理学的診断は陰囊内血腫であった。

病院めぐり

館林厚生病院泌尿器科 中村 敏之
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 館林市は鶴が舞う形に似ている群馬県の東南部に位置し,高さ634mの東京スカイツリーから63.4kmの距離にあり人口は7万8千人です。樹齢800年超のヤマツツジを有する「つつじが岡公園」や童話『分福茶釜』で有名な茂林寺や白鳥が越冬する池沼があり,南に利根川,北には渡良瀬川が流れ,四季折々の花が咲き豊かな自然を楽しむことができます。江戸時代は,後の5代将軍徳川綱吉が20年間館林城主を務めるなど,幕府にとって重要な拠点でもありました。また最近は,日本人初の女性宇宙飛行士向井千秋さんの出身地,あるいは「日本一暑い町」として有名になりました。

 当院は1938年開設の保障責任邑楽郡医療利用組合連合「邑楽相互病院」が前身で,その後,農協や国保連合会への設立者の変遷があり,1964年10月に館林市と近隣5町による邑楽館林医療事務組合「館林厚生病院」が発足しました。現在,21診療科,常勤医師数39名,病床数359床(急性期300床,回復期48床,感染症6床,ドック5床),職員数479名の公立病院です。県央からは遠いため医師数は減少気味ですが,地域医療支援病院,災害拠点病院,群馬県がん診療連携推進病院などの指定を受けています。1日平均外来患者数は423人,1日平均入院患者数は233人,平均入院日数11.6日であり,県境に近いことから近接の栃木・埼玉・茨城県の受診者も多く,地域の中核病院の役割を担っています。現在当院では耐震化と医療機能の充実を図るため建て替え工事を行っており,来年早々には病院名変更とともに新しい外来・病棟での診療を開始する予定です。

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 東松山市は埼玉県のほぼ中央にあり,県内の地域区分では西武地区(川越比企地域)の北端に位置し,都内の池袋から電車で約1時間程度の距離です。古くは鎌倉時代から松山城の城下町として栄え,その後は陣屋町として発展し,現在に至っております。人口は約9万人で,市内には史跡や寺社が点在しています。首都圏への通勤可能な距離に位置しているため新興住宅や流通系の企業などが立地していますが,郊外には田園が広がり,初夏の宵はホタルが彩ります。また,コアラをはじめ沢山の動物と触れ合える「県立こども動物自然公園」を有し,さらに国営武蔵丘陵森林公園に隣接しているため首都圏から多くの観光客やハイカーが訪れます。

 当院は,1966年に東松山市国民健康保険病院として現在地に開設,翌年,東松山市立市民病院と改称し,今に至っています。現在,診療科は内科(常勤3名),外科(常勤2名),小児科(常勤2名),脳外科(常勤2名),整形外科(常勤2名),眼科(常勤1名),麻酔下(常勤1名),耳鼻科(常勤1名),皮膚科(非常勤のみ),そして泌尿器科(常勤2名)があります。

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著作権譲渡同意書

編集後記 近藤 幸尋
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 泌尿器科領域においては腎癌の分子標的薬に次いで去勢抵抗性前立腺癌に対する新薬が相次いで発売されました。薬剤の価格は上昇の一途であり,経口剤にしても点滴の化学療法剤にしても1か月で40〜60万円も1剤だけでかかってしまい,医療費は年単位で考えると大変なものです。幸いにして日本においては高額の医療費には高額療養費の制度があります。高額療養費とは,同一月(1日から月末まで)にかかった医療費の自己負担額が高額になった場合,一定の金額(自己負担限度額)を超えた分が,あとで払い戻される制度です。これは患者さんには非常に優しい制度ですが,保険組合や税金により賄われることになります。

 しかしどうしてこんなに医薬品が高額なのでしょうか。これには日本の栄光の歴史が影響しているようです。わが国は1970年代の石油危機を乗り切り,経済大国となりました(1979年にはヴォーゲルの『ジャパン・アズ・ナンバーワン』が出版されています)。そして,1980年代前半の円安ドル高を背景に日本企業は国際競争力を強め,日本は継続的な米国債購入をして世界最大の債権国となりました。こうして1980年代前半に日本のひとり勝ちが明らかになると,米国は日本への輸出を拡大させるため円安の是正を要求し,1985年にプラザ合意が結ばれました。結果的に,円高が進み日本では円高不況となり,日銀が金融緩和を行った結果,投機先が不動産となりバブル景気となりました。日本企業は円高を背景に米国企業や不動産の買収を進め,米国内では「日本脅威論」が起こり,ジャパンバッシングが高まり,米国内では円安是正とともに日本市場の開放を要求する声が高まっていきました。

基本情報

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臨床泌尿器科
68巻12号 (2014年11月)
電子版ISSN:1882-1332 印刷版ISSN:0385-2393 医学書院

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