生体の科学 65巻6号 (2014年12月)

特集 エピジェネティクスの今

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 本号のテーマは2000年代の中ごろ幾つかの雑誌で特集記事が組まれた後はエピジェネティクス(この定義は—DNAの塩基配列の変化なしに染色体による変化で次世代に受け継がれる形質—)はあまり取り上げられてこなかった。

 ウォーレス,ダーウインの進化論,メンデル,モルガンの遺伝学,それらを分子レベルで結び付けたワトソン,クリックのセントラルドグマが提案されゲノム情報ですべての生命現象は説明がつくと思われた。1953年にワディントンによってエピジェネティクスという概念が提案された。この間ゲノム情報だけでは説明できない事実が幾つも出て,エピジェネティクスを導入して初めて解決できることが次々と見いだされてきた。

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 エピジェネティクスは半世紀以上の生物学の歴史によって形づくられた概念であり,その分子メカニズムの解明と疾患やリプログラミングとの関連が相まって,最近になって特に注目されている学問分野でもある。エピジェネティクスという言葉は受精卵から個体を作り上げる発生現象がエピジェネシス(後成)の過程であることを説明するために,Waddingtonによって1950年代に初めて用いられた1)。そこでは,一つの細胞(受精卵)から新たな細胞系譜が次々と分岐すること,しかもその分化は一方向性(分化状態から未分化状態へ戻ることはない)であることが強調されている(図1)。また,同じ遺伝子型であるにもかかわらず異なる分化を遂げた細胞が,細胞分裂を経て異なる表現型を示し続けることもエピジェネティクスである。現在では“DNA塩基配列の変化を伴わず継承される核の遺伝的形質(あるいは遺伝子発現変化)”という定義が広く浸透している。ここでは,これまでのエピジェネティクスの研究の歴史を振り返る。

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 ヒトのゲノムは約3億塩基対のDNAから構成されており,全長2mにも達する。この膨大なゲノムをわずか数μmの核に収納しているのがヒストンタンパク質である。DNAとヒストンから構成される構造はヌクレオソームと呼ばれ,4種類のヒストンサブユニット(H2A,H2B,H3,H4)から成るヘテロ八量体に,146塩基対のDNAが巻き付いた構造をしている(図1)。このヌクレオソームを最小単位として,更なる高次構造をとったものがクロマチンである。

 クロマチン構造はゲノム収納のためだけでなく,遺伝子発現制御に重要な役割を果たすことが近年わかってきた。このクロマチン構造を介した遺伝子発現の制御機構は“エピジェネティクス”と呼ばれ(エピは“上”“外”“追加”という意味の接頭語。ここでは遺伝学/遺伝子を取り巻くクロマチンによる制御機構と解釈される),遺伝子を“いつ”“どこで”“どの程度”発現させるかを規定している。

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 最近,ストレスや栄養状態などの環境因子の影響が世代を超えて遺伝し,多様な疾患発症頻度に影響する現象が注目され,そのメカニズムとしてエピジェネティック制御が関与することが議論されている。本稿では,この現象の研究の現状と今後の研究展開について紹介したい。

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 これまでエピジェネティクスは遺伝子発現調節の役割がよく知られてきた。実はエピジェネティクスにはもう一つの役割,“感染防御”がある。ヒトゲノムの大半は遺伝子の隙間の領域であり,そこは高度にDNAのメチル化修飾を受けている。古来,ヒトに感染したウイルスがゲノムに侵入し,さらに侵入した配列(レトロウイルス配列)はゲノムのあちこちにコピーされ,次第にこの配列が増え,繰り返し配列となった。感染を受けた宿主(ヒト)としては侵入したウイルス配列が重要な遺伝子に入り込むことを防ぐため, そのコピー機能(レトロトランスポジション)を抑制するため,DNAをメチル化させ不活化させた。その結果,ヒトゲノムの大半はメチル化された繰り返し配列で構成されるようになった1,2)

 一方,エピジェネティクス疾患研究は,ゲノムインプリンティングやX染色体不活化が関係する先天性疾患から始まり,最近は糖尿病や精神疾患などの生活習慣や環境に起因する後天性疾患に広がってきた。上記のとおり,エピジェネティクスは元々感染という環境ストレスへの応答メカニズムであったことから,栄養ストレスや精神ストレスで発症するこれらの疾患の研究に発展したことは自然な流れであったのかもしれない。

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 蛍光1分子イメージング技術は生体分子の機能解析や生体分子間の相互作用を解析するうえで非常に強力な研究手段の一つである。本稿では次世代DNAシークエンサーの基幹技術として開発されたナノ開口基板を用い,エピジェネティクス制御の一つであるDNAメチル化パターン維持に関与するタンパク質群に関するわれわれのこれまでの研究結果について述べる。

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 ヒストン脱アセチル化酵素(histone deacetylase;HDAC)は,タンパク質に存在するアセチルリジンの脱アセチル化を触媒する酵素であり,ヒストンに加え転写因子や代謝関連酵素,構造タンパク質など多岐にわたるタンパク質を標的とし,遺伝子発現をはじめとして代謝や細胞骨格形成などの多様な生命現象において,重要な役割を担っている1)。ヒトのHDACは18種類知られており,配列の相同性などにより四つのクラスに分類されており,その酵素活性は,亜鉛イオンを必要とするものと,NADを共基質とするものが知られている2)。また,HDAC活性の異常は,癌や生活習慣病などの疾患の原因となることから3,4),創薬標的として大きな注目を集めおり,その酵素活性を検出する技術の開発は生命科学だけではなく,医学・創薬の観点から,極めて重要である。

 これまでに,放射線同位体や抗体などを用いた古典的方法が用いられてきたが,これらの手法は制限区域の中での実験や多段階のプロセスを必要としており,簡便さや実用上の問題があった。近年ではペプチドプローブが市販されているが,この手法では検出にプロテアーゼが必要であることが問題であった5)。このため,単純に酵素と混ぜるだけの一段階の操作で簡便に検出できる蛍光プローブの開発が期待されていた。しかしながら,HDAC活性が1969年に発見されて以来,アセチルリジンの脱アセチル化という小さな化学変化を捉えてプローブの蛍光強度が変化するような検出原理は考案されていなかった。本研究ではリジンの酵素反応による化学的変化を精査し,新しい検出原理を考案することで,HDACプローブの開発を遂に達成した。本稿ではプローブ開発の設計戦略の詳細とその評価について記す。

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Ⅰ.エピジェネティクスとシークエンシング

 DNAのメチル化やヒストンの翻訳後修飾状態,あるいはヌクレオソームのDNA上への配置や染色体の核内配置など,いわゆるエピゲノム状態は細胞の種類によって,あるいはその細胞が置かれた環境や状態により異なっており,それぞれの細胞における遺伝子発現の制御を経て細胞の特性の違いを形作っていると考えられている。従来エピゲノム状態は個々の遺伝子座ごとに測定されてきたが,DNAマイクロアレイや次世代シークエンサーといった核酸測定技術が登場・普及したことにより,ゲノム規模で計測を行うことが可能になってきた。特に次世代シークエンサーの登場は定量性,精度,網羅性のすべてにおいてエピゲノム状態の計測に進化をもたらしている。本稿では次世代シークエンサーを用いるエピゲノム計測技術(エピゲノムシークエンス技術)を概説する。

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 哺乳類の発生にはエピジェネティックな遺伝子発現制御が必須であり,エピジェネティックな情報の消去と再構築による系統的な制御が,様々な発生時期や分化段階特異的に観察される。特に生殖細胞系列の発生分化過程や,受精後の初期胚発生過程では,ゲノム全体にわたりエピジェネティックな修飾の消去と再構築が観察される。ヒトでも,一部の先天奇形症候群や胎盤形成異常にエピゲノム異常が関連することが知られてはいるが,エピゲノム解析はゲノムインプリンティング異常症の確定診断や,インプリント遺伝子の一つであるp57KIP2の免疫染色が胞状奇胎(後述)の診断に実用化されている程度で,周産期疾患の系統的なエピゲノム解析が行われるには至っていない。また,エピジェネティックな修飾はジェネティックな情報とは異なり環境因子によって変化しうるため,DOHaD(Developmental Origin of Health and Disease)学説のような新たな概念も提唱され1),胎児期・新生児期・乳幼児期の栄養状態に影響を受けるエピゲノム変化や,その結果としての成人期の疾病発症のメカニズムへの関心が高まっている。加えて生活様式の変化に伴う出産年齢の高齢化も,卵子の老化をはじめとする出生前環境悪化の一因となっている。このような背景を踏まえ,本稿では周産期領域におけるエピゲノム異常について,最近の話題を概説する。

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 高血圧は全世界で10億人,わが国の4,000万人が罹患する疾患であり,脳心血管障害発症の重要な危険因子である。様々な基礎・臨床研究の成果に基づき,減塩などの生活指導やRAAS阻害薬などの薬物療法が高血圧治療において効果を上げているものの,そのような治療に抵抗性の高血圧や心血管合併症の発症が逆に増加していることから新たな高血圧治療も開発が注目されている。

 高血圧は一部の人種や家系に集積した発症がみられることから,古くから遺伝的素因の関与が推測されてきた。そして昨今の分子生物学的な解析技術の発展や疾患動物モデルの解析を通じた基礎研究によって,高血圧発症に寄与すると考えられる関連遺伝子もしくは遺伝子変異が数多く同定されてきたが,残念ながら近年行われたヒトの大規模ゲノム解析研究の結果とは必ずしも一致しなかった。つまり単一よりは複数の遺伝子素因,もしくは遺伝子そのものとは異なる未知の因子が高血圧の発症機序として必要であることが推測された。

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 エピジェネティック修飾は細胞の分化に際してダイナミックに変化し,その後は安定に維持されることで細胞の性質を保っている。しかし,この安定なエピジェネティック修飾は,ウイルス感染および感染などによる慢性炎症などの刺激に曝露することで異常に変化してしまうことがある。誘発されたエピジェネティック異常は,様々な遺伝子の発現異常や染色体不安定性を引き起こすことで,がんをはじめする様々な疾患に関与していると考えられている。がんでは,既にエピジェネティック異常を利用した新規がん診断法やがん治療法が開発されており,実際に治療薬として使われているものもある。

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Ⅰ.神経変性疾患とは

 神経変性疾患とは病理学的に炎症でも血管障害でもない一群の中枢神経疾患を指す。名称が提唱された時代にはその原因が全く不明であったため,“degeneration;変性”と命名されたことが歴史的経緯だが,現在に至っても確立された治療法が存在しない数多くの難病性疾患が含まれる。この中でもアルツハイマー病(Alzheimer's disease;AD),パーキンソン病(Parkinson's disease;PD)といった疾患は患者数が多く社会的には重要度が高い。AD,PDはまれな場合を除き通常は50歳以上,多くは65歳以上の高齢で発症することが多く,加齢が危険因子の一つとなる。大半は孤発例だが,ごくまれに家族性に発症する場合があり,原因遺伝子が同定されている(表1)。家族例は発症年齢が孤発性よりも若いことを除けば臨床,病理ともに孤発性と区別のつかない症例が多く,共通の分子メカニズムに基づく発症が想定されている。具体的には,家族性ADで発見されたPSEN1PSEN2APPの遺伝子異常はすべてAPPを切断して産生されるAβ42という易凝集性ペプチドの産生を増加させ,家族性パーキンソン病で発見されたSNCA遺伝子の変異はその遺伝子産物であるα-シヌクレインの凝集性を増強させる。一方で,Aβ42もα-シヌクレインもこれらの遺伝子異常を有さない孤発例でも中核となる病理所見として凝集し,脳内に蓄積するため,これらの遺伝子産物は孤発例と家族例を結び付ける重要な因子であると考えられている。このため,孤発例でも家族性遺伝子の関与が何らかの形で想定はされるが,孤発例では変異が見いだされることはほとんどない。ではどのような関与が考えられるのだろうか。遺伝子の配列には異常がなくてもその制御機構,すなわちエピゲノムに異常がある可能性はないのだろうか。

 近年,ごく少数の症例ではあるが,若年(20歳代から40歳代)発症のAD1)や,PD2,3)で遺伝子の重複保持例が発見された(表2)。これらでは,APP(amyloid precursor protein)もしくはα-シヌクレインの発現量が遺伝子量の増加に伴って1.5-2倍と増加している。また,ダウン症候群で重複する21番染色体上にはAPP遺伝子があるため,APPの発現量が増加し,ダウン症候群の成人患者では高率にADと同様の病理所見がみられる。つまり,1.5倍程度の遺伝子発現量の増加が“早期発症”のAD,PDの原因となることが想定される。孤発例では高齢で発症するという点を考慮すればAPPやα-シヌクレインの発現量が1.5倍未満でも十分発症の原因となる可能性があることになる。しかし,死後脳を使用したメッセンジャーRNA解析では発現増加とする報告,発現低下とする報告があり,一定した結論は得られていない4-6)。これは死後のメッセンジャーRNAが不安定であることや死戦期の影響が排除できないこと,また,症例ごとに発現の増加が発症とかかわる場合とかかわらない場合がある,など様々な原因があるのだろう。

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 精神疾患は脳の機能障害によって幻覚や抑うつなどの様々な精神症状を呈する身体疾患である。しかし,他の身体疾患と最も大きく異なる点は,いまだ病因が明らかとなっておらず,責任病変である脳の機能障害を捉える生物学的指標が存在しないことである。精神疾患の病態解明のためこれまでに多くの研究が行われ,精神疾患は遺伝要因と環境要因が複雑に関与することで発症すると考えられている。この遺伝環境相互作用におけるメカニズムとして,エピジェネティクスの関与が注目されており,精神疾患を対象としたエピジェネティクス研究が盛んに行われつつある。ここではエピジェネティクスの分子基盤の中でもDNAメチル化に焦点を当て,精神疾患におけるエピジェネティクス研究について最近の知見をまとめた。

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 エピジェネティクスとは,遺伝子配列の変化を伴わずに遺伝子の転写を制御する機構を意味する。主なエピジェネティクス制御機構として,① DNAメチル化,② マイクロRNA(micro RNA;miRNA)をはじめとする非コードRNA(non-coding RNA;ncRNA),③ ヒストン修飾が現在知られている。関節リウマチ(rheumatoid arthritis;RA)などの自己免疫性疾患において,エピジェネティクス制御の異常の報告が集積されつつある。

 これらの異常を明らかにすることの意義について考えてみると,エピジェネティクス制御には可塑性(plasticity)があるため,エピジェネティクスの異常が是正されれば,遺伝子発現の異常も正常化しうる。このことから,エピジェネティクスの状態の操作による遺伝子発現の制御が疾患の治療に応用できるという可能性がある。エピジェネティクス制御には細胞記憶(伝達性:heritability)という性質もあり,エピジェネティクスの情報は親細胞から娘細胞に細胞分裂の際に受け継がれる。このため,自己免疫疾患などの慢性炎症の場において,細胞の活性化状態の継続にエピジェネティクス機構の関与が推測される。RA滑膜線維芽細胞(synovial fibroblast;SF)では,増殖が亢進し,アポトーシス抵抗性であり,炎症性サイトカイン・ケモカインや基質分解酵素の産生がみられる。RASF活性化の原因としてエピジェネティクス異常があるのではないかと考えられ,これを明らかにすることはRAの病態の解明につながる(図1)。本稿では,RAの病態におけるエピジェネティクス異常について,これまでの知見を自験例も含めて概説する。

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 細胞内でのシグナル伝達事象は,どの細胞での今日では非常に詳細に調べられていて,研究者の関心も極めて高い。一方で,細胞は単独で存在しているわけではなく,固形臓器には多数の細胞が配置され,その間には細胞外基質(extracellular matrix;ECM)という構造が存在している。ECMは極めて広大なスペースと大量の物質を有しているが,古典的には細胞同士を乖離しないように接着している構造,という非常に静的な概念で理解されてきた。ECMに存在する物質群は,そもそも細胞外に放出されているため,代謝のターンオーバー速度も非常に細胞内の物質群に比較して緩徐であるため,そのイメージが定着することとなった。この“inert”なイメージは,結合組織的な臓器ではもちろんその点が強いであろうが,細胞間のコミュニケーションの物質群(液性因子=成長因子,サイトカイン,ケモカインなど)が非常に重要視される今日の医学・生物学的研究において,後述するようにECMを無視するとストーリーが語れなくなってきている。

 なお以下,本稿をより深く理解していただくために,ECM糖鎖のベーシックをⅠおよびⅡに記載したが,糖鎖に詳しい方はスキップして,Ⅲから読んでいただきたい。

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 日本は高齢化社会を迎えており,医療費が社会問題となっている。日本人の死因は,悪性新生物(がん),心疾患,肺炎,脳血管疾患,老衰の順である(厚生労働省,平成24年人口動態統計,第6表)。この人口動態統計において感染症や生活習慣病という項目はないが,感染症が悪性新生物や肺炎を引き起こし,糖尿病や高血圧などの生活習慣病が心疾患や脳血管疾患の原因となることは,一般的によく知られている。よって,感染症や生活習慣病に対する治療薬の開発が望まれている。それにより医療費負担の軽減が果たされると期待されている。わが国の国民医療費の増加には,薬価(薬一単位の値段)が高いことが一因となっている。薬価の算定において,類似薬が存在する場合は,市場での公正な競争の確保のために既存類似薬の一日薬価に合わせることになっているが,類似薬のない新薬では,研究費などの費用に合わせて薬価が算定されるので,薬価が高い薬が上市されるケースがある。少ない研究費で新薬を開発することは,企業の利益のみならず,国民の経済的な負担の軽減の観点からも重要である。そのためには,創薬が困難である理由について考えて,問題点を抽出し,対応策を提案する必要がある。本稿では,まず創薬における課題とその問題点の克服のための昆虫の利用について概説する。更にこれまでに筆者らが行った,カイコを用いた創薬のための基盤研究である疾患モデルの確立とその利用法について解説する。

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 近年のゲノム編集の目覚ましい進歩は,遺伝子改変技術に大きな変革をもたらしつつある。ゲノム編集とは人工ヌクレアーゼなどを用いたDNAの二重鎖切断と,それに伴う修復メカニズムに基づいて,ゲノムの標的部位に変異を導入する画期的な技術である。現在,代表的なシステムとして,ZFN(zinc finger nuclease),TALEN(transcription activator-like effector nuclease),CRISPR/Cas(clustered regularly interspaced short palindromic repeat/CRISPR-associated)が広く利用されている。ZFNおよびTALENは,DNA結合モチーフと制限酵素Fok IのDNA切断ドメインを融合した人工ヌクレアーゼであり,これらはCRISPR/Casに先駆けて開発された。これらのシステムはマウスのみならず,既にラット,ゼブラフィッシュ,線虫,植物においてゲノム改変の成功例が報告されている。ZFNおよびTALENシステムの原理や方法の詳細については,既に本誌に掲載した総説を参考にされたい1)。一方,CRISPR/Casシステムは標的配列の認識にタンパク質のDNA結合ドメインではなく,短いRNA断片を用いる。ZFNおよびTALENと同様に変異導入効率が高いうえに実験デザインが極めて容易であることから,急速に世界中に広まりES細胞を用いたジーンターゲティングに取って代わろうとしている。本稿ではCRISPR/Casシステム用いた遺伝子改変動物の作製方法および,発展的・応用的な利用方法について概説する。

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次号予告/財団だより

あとがき 野々村 禎昭
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 本号の特集「エピジェネティクスの今」の筆者の方々は現在第一線でご活躍の方々ばかりのお蔭で,最新の情報で取り組むことができました。エピジェネティクスというと獲得形質の遺伝という言葉が思い起こされます。これは文字どおりの意味でラマルクの用不用説とは無関係なのですが,どうもエピジェネティクスの関係者はこの言葉がお好きでないようですが,正に獲得形質の遺伝ではないでしょうか。もう一つルイセンコ説も思い出されます。春播き小麦を低温にさらすことによって冬播き小麦に変えられるという単純な農法に始まった事実が当時のスターリンの権威と結び付き,メンデルモルガン遺伝派を弾圧するという政治問題化して悲惨な結果に終わりましたが,これも単なる獲得形質の遺伝の問題だったのではないでしょうか。エピジェネティクスは,大勢はメンデルモルガン遺伝が続いていく中で,ほんの一部を異なったシステムが生命には存在している,と言ったら間違いなのでしょうか。本号には「仮説と戦略」に五十嵐氏が細胞外マトリックスの危機管理機構についての興味あふれるものを執筆していただきました。「仮説と戦略」という欄は果たして継続できるのかと疑っていたのですが,続いています。松本氏他のカイコの「解説」はこの教室の昆虫を扱う伝統が生かされています。葛西氏他の「実験講座」は全く新しいゲノム編集技術のジーンターゲットへの取り組みです。

基本情報

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生体の科学
65巻6号 (2014年12月)
電子版ISSN:1883-5503 印刷版ISSN:0370-9531 金原一郎記念医学医療振興財団

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