公衆衛生 77巻5号 (2013年5月)

特集 若者の精神保健①

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 青年期は身体的な健康問題を抱えることは少ない時期です.

 しかし,精神的にはさまざまな問題を抱える時期であり,また統合失調症に代表される精神疾患を発病しやすい時期でもあります.

若者の精神的退却現象 井上 洋一
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はじめに

 若者は既存の社会に対して反抗的であり,大人に向かって異議申し立てをする世代とみなされてきた.しかし近年,若者からの反抗や異議申し立ては影をひそめ,社会とぶつかることを避ける若者が増えてきている.

ひきこもりと不登校 斎藤 環
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はじめに

 「不登校」および「ひきこもり」は,いずれも診断名や臨床単位ではない.思春期・青年期における広義の不適応状態を意味する言葉である.「不登校」は,主として小・中学生に対して用いられるが,同様の状態は高校生,大学生,大学院生にも既に珍しいものではない.登校をめぐる,主に心理・社会的な葛藤から登校ができなくなるものであり,長期化するにつれて,後述するひきこもり状態,あるいは家庭内暴力,自殺企図といった問題行動に至る場合もある.

 また「ひきこもり」は,現在数十万~百万人という規模で存在し,依然として増加傾向が続いていると考えられる.既にわが国の社会問題の1つと認識されており,政策レベルでさまざまな対策が講じられてきたが,いまだ十分な支援がなされているとは言い難い.本稿では「不登校」と「ひきこもり」の関係性と,それぞれに対する基本的な考え方と対応方針について述べる.

若者の貧困問題 橘木 俊詔
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はじめに

 日本が格差社会,あるいは貧困社会に入ったという認識には,一部に非容認論が根強くあるが,ほぼ定着したと考えてよい.高所得者層と低所得者層間の所得格差が拡大しているというのが前者であり,貧困で苦しむ人の数が増加したというのが後者である.本稿では貧困問題に特化するとともに,その中でも若者の貧困の深刻さを議論する.

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はじめに

 本稿に与えられた課題は,若者の貧困問題について,就業状況に視点を置いてその現状を明らかにすることである.本人の就業状況がもたらす貧困という面と,生家の貧困が子どもの就業に及ぼす影響という2つの面が考えられるが,ここでは主に前者を取り上げる.

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はじめに

 本稿では,若者にみられやすい精神障害として発達障害と気分障害を取り上げ,最後に不登校について若干述べたい.なお精神障害の診断基準については米国精神神経学会のDSM-Ⅳ-TRに準拠する.

新型うつ病 野村 総一郎
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新型うつ病のイメージ

 「新型うつ病」と聞くと,「新型インフルエンザ」のように新たな病因に基づく新種の病気が出現したようなイメージを連想する.しかしこの用語は学問的に公認されたものではないし,学会などのシンポジウムで病態が論じられた形跡もない.これはもっぱら一般マスコミが番組キャンペーンや特集記事として「新型うつ病登場!」「これが新型うつ病だ!」のような形で用いる通俗的なコトバであろう.したがって,確固とした定義があるわけでもなく,その場その場で適当に使われているのが実情である.いや,「適当に」使われればまだしも,不適切な用い方も目立つ.このような誤解を招きやすい用語は,「学問的には用いるべきではない」と言うのが正論であり,筆者の立場でもある.

 しかし,医療現場や社会一般でも,この言い方がしっくりくると思われるような人が増えているという実態もある.だからこそ,広くマスコミで用いられ続け,本特集のようなアカデミズムの世界でも「新型うつ病について書いてほしい」という執筆依頼がくるわけである.これはやはり無視できない.ここはまず,この用語の意味するところをあらためて整理した上で,「現代社会のうつ病像の変化」,特に「青年期のうつ病論」という角度からで論じたい.なお,すでに述べたように筆者は「新型うつ病」という呼称を安易に用いることに反対する立場であるので,本稿でこの名前を用いるのは矛盾している.以下に「新型うつ病」と記した場合,全て「いわゆる新型うつ病」という意味合いであることをお断りしておく.

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はじめに

 近年,産業保健においてメンタルヘルスは極めて重要になってきている.内科医として嘱託産業医を行う筆者の場合でも,日常の産業医業務の約7割が面談や復職委員会などメンタルヘルス関連の対応に費やされており,約3割で衛生委員会,職場巡視,健診事後面談,ヘルスプロモーション活動などを行っている現状である.

 またメンタルヘルスのケース対応では「真面目で自責念慮が強い,休ませることが肝要で,薬物療法が著効し,励ましてはいけない」と言われたメランコリー親和型(いわゆる従来型)うつより,「職場不適応があり,プライベートでは元気,他責的で,薬物療法の効果が少ない」と言われるディスチミア親和型(いわゆる新型)うつを含む困難事例で苦労することが多く,多くの場合このような表現型をとるのは,20~30歳代の若年者や入社後のキャリアがそれほど長くない者に多い印象がある.本稿では,非精神科専門医である嘱託産業医の立場で,新入社員のメンタルヘルスの現状と社員教育を含む対策について考えてみたい.

痩せ願望と摂食障害 切池 信夫
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はじめに

 神経性食思不振症(anorexia nervosa, AN)や神経性過食症(bulimia nervosa, BN)などの摂食障害は,思春期や青年期の女性に好発するが,最近では前思春期の児童から働く女性,既婚の女性と年齢層に広がりをみせて増加している.また病像も典型的な臨床像を示す例に加えて,診断基準の一部を満たさない非定型な病像を示す患者も増えている.

 摂食障害の発症機序はいまだ解明されておらず,身体的,心理的,社会的要因が相互に複雑に関連しあって生じると考えられている.そして現代において摂食障害が増えている大きな要因として痩せ願望や肥満恐怖などの心理的要因が挙げられている.

 そこで本稿ではまず摂食障害が世界的に増えている現状について紹介し,次いでわが国の若い女性のスリム化現象と摂食障害,臨床症状と身体合併症,精神障害の併存症,治療,経過や予後について概説する.

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駐在保健婦の時代

 保健婦駐在制という制度が,かつて存在した.警察の駐在制にならって戦時の1942年に全国でとられた制度だった.戦後には唯一,高知県で実施され,地域保健法の完全実施の方針を受けて1997年に廃止されるまで,地域に密着した活動として評価されてきた.米国占領下の沖縄でも導入され,また青森県などでも保健婦派遣制としてかたちを変えて導入されたりもした.高知県という一地方の実践が,全国各地に影響を与えたユニークな事例である.

 私がこの制度について知ったのは,祖母が高知県の駐在保健婦経験者だったことによる.小学生の夏休み,祖母の働く保健婦駐在事務所に遊びに行った思い出がある.歴史学を学び始めた学生時代以来,保健婦駐在制をテーマに歴史研究に取り組んできた.

連載 中国高齢者の健康と福祉・2

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 中国における人口の高齢化は経済の発展や社会機能の成熟に伴って急速に進行している.2011年末に,全国における60歳以上の高齢者人口は1億8,500万人となり,総人口の13.7%を超えたと推計されている1).高齢者の人口が急速に増加することにより,要介護高齢者の急速な増加に対応する社会や政府の負担が増大することが見込まれ,新たな支援体制の構築が強く求められている.一方,新規産業の創出と社会経済の発展に未曾有のチャンスをもたらし,計り知れない広大な市場を切り開いてくれることも期待されている.

 今後の高齢者介護事業の整備については,高齢者向けサービス付きの居住環境や地域の介護サービス事業を早急に整備するだけでなく,介護が必要な虚弱高齢者や認知症の高齢者に,充実したケアを提供する介護施設の整備を飛躍的に推進する必要がある.

連載 この人に聞きたい!・2

緑内障,白内障 岩瀬 愛子
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はじめに

 緑内障は視野狭窄をきたす疾患であり進行すると失明にも至る不可逆的な疾患である.いかに早期発見し早期管理・治療するかが重要である.一方,白内障は水晶体が混濁することにより視力低下などの症状は出るが手術によって視機能の回復を図ることができる疾患であるので重要な点は早期発見や早期治療ではなく,いつ手術をするかという点にある.

 高齢者に多い代表的なこの二大眼科疾患の現状を述べる.

 厚生労働省の研究班の報告では,中途失明による視覚障害者手帳申請の原因疾患の首位は緑内障(図1)1)である.この統計は手帳を申請した方だけの統計であるが,日本緑内障学会多治見疫学調査(多治見スタディ)におけるLow Vision統計においても,手術可能な白内障を除けば,近視性黄斑部変性症と緑内障が上位疾患であった(図2)2)

 「多治見スタディ」は,母集団50,000人超からrandom samplingで選んだ対象者の3,870人のうち3,021人(78.1%)の調査参加者を得た緑内障有病率調査であったが,有病率の他にも種々のことがわかった.

連載 講座/健康で持続的な働き甲斐のある労働へ―新しい仕組みをつくろう・14

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 ILO条約に代表される国際労働基準は,加盟国が批准し国内で適用していくという一般的義務を伴うものであるが,仕事における健康と安全についても多くの条約が古くから採択されていて,国はそれらを批准し,国内で適用していくという義務を負っている.1919年設立以来のILO原加盟国である日本としては,国際的義務の履行という意味において批准・適用していかなくてはならないと同時に,国内法の整備という観点からももっと多くの条約を取り込まなくてはいけない.ILO条約の批准があまり進んでいないことの理由の1つには,国際労働基準というものの持つ意味についての理解が十分でないことが挙げられる.国際的な義務であるということ,および国内法としても直接適用できるということが広く認識されるならば,さらに多くのILO条約が批准され,日本の労働条件は改善されることになろう.

連載 「笑門来健」笑う門には健康来る!~笑いを生かした健康づくり・14

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 笑いが健康に良いことは誰でも経験的にわかることですが,笑いをどうやったら増やせるかが問題となります.それでは笑いを増やす何か良い方法はあるのでしょうか?

 本連載において,落語や漫才などによる笑いによってストレスホルモンであるコルチゾールが減少し,ストレスが解消できる可能性を報告しました1).ところが,参加者の中には,「私は落語や漫才では笑えません.ましてや最近のテレビ番組では笑うことができません」と言われる方がいらっしゃいました.そこで筆者は,誰でも笑えて,笑いを増やす方法があるかどうかを探してみました.すると,なんとインドにその答えはあったのです.そうです! それが「笑いヨガ」だったのです.

連載 公衆衛生Up-To-Date・5

[国立がん研究センター発信:その1]

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はじめに

 がん医療における地域間格差,病院間格差が問題となる中で,「がん患者がその居住する地域にかかわらず等しくそのがんの状況に応じた適切ながん医療を受けることができるよう,専門的ながん医療の提供等をおこなう医療機関」として,がん診療連携拠点病院(以下,拠点病院)の整備が進められている.本稿では,その拠点病院制度のこれまでの経緯,現状の課題とともに,平成24(2012)年12月より開始された「がん診療提供体制のあり方に関する検討会」における,拠点病院に関する議論などを紹介する.

連載 リレー連載・列島ランナー・50

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はじめに

 今回,岡山市保健所保健課の松岡宏明さんからバトンを頂きました.私は現在,倉敷市保健所で公衆衛生業務に従事しています.倉敷市の保健行政としては,平成13(2001)年に保健所政令市となり保健所を開設し,平成14(2002)年には中核市へ移行し,現在に至っております.倉敷市保健所では感染症対策,食品衛生など健康危機管理にかかわる業務と対人保健サービスとを併せて実施しています.今回,倉敷市における精神保健福祉対策の中の1つである,住民の心の健康づくりを推進し,精神障がいに対する理解を深めることを目的とした「くらしき心ほっとサポーター(以下,サポーター)事業」についてご紹介いたします.

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はじめに

 東北大学大学院医学系研究科は,2011年3月11日の東日本大震災によって壊滅的被害のあった宮城県内の各地域の保健衛生システムの復興に向けた支援を主たる目的として,地域保健支援センターを創設した.同センターでは,9つのプロジェクト・チームが,様々な取り組みを宮城県内(仙台市若林区,石巻市牡鹿地区,雄勝地区,宮城郡七ヶ浜町)で行ってきた.例えば,被災者健康診査の受診者は,石巻市雄勝地区980人,牡鹿地区955人,網地島地区197人,仙台市若林区823人,宮城郡七ヶ浜町1,871人で,合計4,826人であった.本稿では地域保健支援センターの取り組みについて,昨年度の活動とそのまとめを振り返りながら,センターの概要を紹介したい.

ジュネーブからのメッセージ

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 公衆衛生に携わる方々は,広い公衆衛生の基盤の上に,感染症対策,あるいは,生活習慣病対策など,ご担当の『対策』をそれぞれなされていると思うが,その基盤というのは,万世普遍のものであろうか.

 筆者が受けた公衆衛生の授業で強調されたことは,疫学に基づく合理・科学的な対策の立案・実施・評価で,今もその価値は揺るぎないものがあると信ずる.しかし,その枠組みが必要かつ十分であるかどうかについては疑念が出てきている.例えば,治療医学と予防医学が統合したものが新しい公衆衛生であるとすれば(筆者はそう考えているが),疫学以外の基盤もまた必要であり,その獲得が,これからの公衆衛生専門家の基礎体力となるのではないかと考えるからである.その基盤とは何か,いくつかを順不同で述べよう.筆者個人の生涯自主学習の目標の披歴とお考えの上,ご批判を頂きたい.

お知らせ

第32回 健康学習研修会
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日 時:平成25年7月4日(木)9:15~7月5日(金)17:15

開催場所:自治医科大学地域医療情報研修センター(自治医科大学構内施設)

 〠329-0498 栃木県下野市薬師寺3311-160(申込住所と同じ)

第13回 健康企画・評価研修会
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日 時:平成25年8月1日(木)9:15~8月2日(金)17:30

開催場所:自治医科大学地域医療情報研修センター(自治医科大学構内施設)

 〠329-0498 栃木県下野市薬師寺3311-160(申込住所と同じ)

第34回 保健活動研修会
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日 時:平成25年8月23日(金)13:45~8月25日(日)15:15

開催場所:自治医科大学地域医療情報研修センター(自治医科大学構内施設)

 〠329-0498 栃木県下野市薬師寺3311-160(申込住所と同じ)

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 「天使の分け前」とは,ウイスキー党の方ならよくご存知のはずです.蒸留したウイスキーの原酒(モルト)は樽に詰められて長い年月寝かされることによって熟成しますが,熟成期間中にも少しずつ樽を通してウイスキーは蒸発していきます.つまりだんだんと樽の中のウイスキーの量が減少していきます.その量はおおよそ年に1~2%と言われますが,この減少分はウイスキーの味わいを高めるための「天使の分け前」と呼ばれます.

 舞台はウイスキーの本場,スコットランド.万引きや喧嘩騒ぎで捕まった犯罪者たちの裁判が行われている法廷から映画が始まります.比較的軽微な事件なのでしょう,被告人の多くは刑務所へ行くのではなく,社会奉仕活動を命じられます.わが国では制度化されていませんが,イギリスなどいくつかの国では,刑事罰に代わる手段として社会奉仕義務を課するのが制度化されています.

予防と臨床のはざまで

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 3月15日(金)にパナソニックヘルスケア株式会社の主催で,第19回特定保健指導セミナー「特定保健指導第2期に向けた運用・保健指導対策」が行われました(http://panasonic.biz/healthcare/medicom/event/130315.html).このセミナーは,健保組合や企業,保健指導のアウトソーシング先などで実際に特定保健指導にあたっているスタッフや管理職向けのもので,今まで東京・名古屋・大阪などで開催されてきました.筆者自身は,まだ主催がサンヨー電機だった第10回からお手伝いをしています.これまでは私を含め,講師がその時々の特定健診・保健指導の動向や問題点について解説したり,先進健保から良好実践を発表してもらい共有する,という形をとっていました.しかし今回初めて「座談会形式」で,実際に特定保健指導に関わっているスタッフの方が,その課題や展望について自由に語り合い,情報共有や解決策を議論するという形で行われました.当日は会場の日本教育会館に50名強の方にお集まりいただきました.

 まず,司会のパナソニックヘルスケアの大平氏より制度改正の動向と概略について解説があり,続いて良好実践例として東京法規出版での取り組み,SNS(保健指導向上委員会,http://www.hokensidou.net)の紹介がありました.その後,午後3時から「皆さんとこれからの特定保健指導を考える」ということで,村田陽子氏(ビーイングサポート・マナ代表取締役)と私がアドバイザーとなり,座談会はスタートしました.

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投稿規定

次号予告・あとがき 西田 茂樹
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 今回は,青年期に起こることが多いさまざまな精神的な健康問題に焦点を当てた特集です.当初は,パラサイトシングル,ひきこもりなどの若者に起こっているとされる精神的退却現象について特集する予定でしたが,編集会議で議論している内に,もっと幅広い内容にしてはどうかということになり,摂食障害や家庭内暴力,薬物依存なども取り上げ,若者の多彩な精神的健康問題の特集としました.なお,テーマが全部で16本あがったため,本号と次号の2回に分けて掲載することになりました.

 いつの時代の若者もいろいろと大変な問題を抱えていると思いますが,現代の若者は以前と比べても精神的により大変な問題を抱えているのではないかと思います.わが国では,現在,長引く不況,経済格差の拡大,就職難,非正規雇用の増加といった社会経済的問題が起こっています.また,以前と比べて,やり直しがきかない社会になってきていると思われます.このような社会で生きている現代の若者は,精神的に追い詰められ,焦燥感を抱き,また大きな不安に包まれているのではないかと思われます.さらに,以上のようなわが国の社会経済状況は,不安や焦燥感だけではなく,若者の深刻な精神的健康問題の潜在的な原因となっているような気がしています.

基本情報

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公衆衛生
77巻5号 (2013年5月)
電子版ISSN:1882-1170 印刷版ISSN:0368-5187 医学書院

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