公衆衛生 49巻12号 (1985年12月)

特集 集合住宅

集合住宅と公衆衛生 吉澤 晋
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■はじめに

 "住まい"というものが,我々の生活に深く係わり合い,健康,したがって公衆衛生に係わりがあるだろうということは誰にも容易に想像がつく.とくに"集合住宅"では,近隣の住戸が密接に関係せざるを得ないので,公衆衛生的問題がより強いだろうという事も予測することができよう.

 最近の住宅調査によると1),住宅総数3千200万戸のうち,共同住宅が全国値で26.8%と約4分の1を超え,京浜大都市圏では43.9%,京阪神大都市圏で36.8%を示し,長屋建を含むと,京浜,京阪神ともに50%前後の値を示している.

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■はじめに

 従来わが国の住居は平屋の一戸建てが主流であったが,戦後中高層の集合住宅が定着しだし,限られたスペースと予算で寝室・食堂・浴室・水洗便所など,生活に必要な一切の機能をコンパクトにまとめた中高層住宅,とくに2DK住宅が多数建築されてきた1).この中高層住宅は,安全性や緑地などの環境面では一般住宅の水準をぬく状態にあるが,大部分は都心からやや離れた近郊に存在すること,高層住宅のスペースが狭く,家族の構成が核家族であることなどの欠点をもっている.したがってこれから始まる高齢化社会への対策と同時に,母子保健の立場から,生殖年齢にある女性とその胎児・新生児に対する管理など,多数の問題を含んでいる.

 本稿では中高層集合住宅のもつ特性が,妊娠,分娩に及ぼす影響を母子保健の観点より検討してみる.

集合住宅と乳幼児の健康 高野 陽
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■はじめに

 小児にとって,「環境」は重大な意義を有していることは周知のとおりである.特に,小児が年少で,かつ発達状態が未熟なほど,その小児が受ける環境条件の影響はより強いものとして現れてくる,それは,健康障害に対する影響だけではなく,小児の最大の特性である,発育発達が正常であるためにも重要なことである.殊に,乳幼児においては,その生活のあらゆる場面が,乳幼児を養育している大人(単に親だけではない)に支配されているために,乳幼児の生活の「場」も大人の規制のもとにおかれていることになり,乳幼児自ら生活の場を支配することができない状態にある1).すなわち,大人の認識の程度によっては,乳幼児はとんでもない生活の「場」におかれてしまう危険性をもっていることになる.このことを我々は十分に認識しておかなければならない.換言すれば,乳幼児の環境は与えられたものであり,乳幼児に対してどのような環境を与えることができるかが重要な課題となり,小児保健分野の大きな任務ということになろう.

 さて,乳幼児にとって住居は,最も身近な生活の場であるが,その住居のもつ「器」としての条件に加えて,そこに住む「人」の条件について考慮して,健康との関連を検討しなければならない.乳幼児の場合,先にも述べた如く,生活が養育者に支配されているため,「人」がもちこむ養育条件によって発生する健康障害を無視できないためである.

集合住宅と主婦の精神保健 渡辺 圭子
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■はじめに

 わが国において,健康との関連から住居の問題が論じられたのはかなり古いことである.日本の建築衛生の歴史に詳しい関根孝によると,建築環境衛生の草創期は,1885(明治18)年から1925(大正14)年の40年間1)で,その先駆者は「近代衛生学の父」といわれるドイツのペッテンコーフェル(Pettenkofer, M.)の門に学んだ緒方正規,森林太郎(鴎外),小池正直らの衛生学者2)であり,特に森林太郎は造家衛生の学識において傑出し,多くの論文・論説を発表しているので,建築環境研究の先達である3)という.彼はまた,「建築衛生」の言葉を最初に用いた(明治26年)人であった.

 その後の建築衛生研究の流れは,戦中・戦後の混乱期に建築環境学者として建築環境,特に住居衛生の重要性を訴え続けた元国立公衆衛生院建築衛生学部長佐藤鑑の回想記4)などに詳しいが,第二次大戦後もかなりの時期までは,住環境問題の要点は不良住宅と住宅難による過密がひきおこす結核罹病率,消化器系伝染病死亡率,乳幼児死亡率などの住居衛生に関するものが主流であった.しかし,社会の安定と経済の発展とともに快適な生活が求められるようになり,環境調整技術の進歩と相まって,住環境研究の中心は,生理的に快適な居住条件の設定や評価法の開発におかれるようになった.

集合住宅と衛生害虫 吉川 翠
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■はじめに

 コンクリート造りの高層集合住宅(以下集合住宅と称す)は保温性に富み,住みごこちが良く,外界の騒音があまり入らず,しかも鍵一つで外出できる便利さゆえに人々に好まれている.大都市周辺地域の目を見張るような地価高騰も,集合住宅数の増加を促している.しかし我々人間にとって快適なこの集合住宅は,ダニや昆虫類にとっても快適な環境である.

 ダニや昆虫類のうち,人間に害を与えるものを衛生害虫と称しているが,集合住宅で一番問題になる衛生害虫はダニである1〜2).集合住宅の持つ保温性と気密性やコンクリートの含水量等が,これらダニ・昆虫類に新築後,少なくとも数年間は好環境を提供するからだ.1戸建住宅でも集合住宅と同じ環境を備えていれば,生息するダニの種類や数は多くなる.

集合分譲住宅のトラブル 大原 章男
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■はじめに

 日本の1億3千万人は,約3,800万世帯に分かれている.したがって,住宅もその世帯数だけあり,大きいのや安アパートまで様々の住宅がある.その中でも,都市において増加し続けているのが「マンション」と呼ばれる分譲集合住宅である.このマンション,昭和30年初めごろから多くなり始め,昭和60年の今では全国で150万戸に達しているといわれている.

 マンションを買い,マンションに住む世帯は,世帯総数の4パーセントにすぎない.たったそれだけの比率にすぎないマンションについて,このところマスコミが取り上げ,建築家や建築学会が論文を発表し,法律が整備され,政府や建築業界がにわかに注目しだしている.それは,マンションにはマンション特有の問題点があることがわかって来て,それらの問題点を解決するのは容易ならざることに気づいたからである.

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■集合住宅における健康問題の背景

 集合住宅における居住者の健康については集合住宅が戦後,大量に建設され始めた当初から,様様な視点から調査され指摘されてきた.近年,健康問題が急速にクローズアップしてきた背景として次の諸点が挙げられる.

 (1)まず第1に集合住宅の建設,ストックとも量的に拡大し,むしろ大都市では多くの市民が集合住宅を選択せざるを得ない状況に至ったことである.市民の日常的課題として,大きな位置を占めると同時に,仮りの住まいから終の住まいとしての機能が求められるようになったことである.

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■はじめに

 住宅の絶対的な戸数不足は,昭和40年代に解決し,住宅需要は量から質への転換が計られなければならないとされてきた.

 総住宅数が総世帯数を上まわって10数年を経過しても,あいも変わらず「兎小屋」といわれ,特に大都市の居住世帯,借家居住世帯の居住水準は低く,日本の住宅は極小狭隘である.

先達を訪ねて

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 諸岡 吉岡先生は,衛生学・公衆衛生学会の名誉会員というより,東京女子医大の理事長・元学長としてのご活躍が目立ちますが,衛生学を専攻された動機からお聞きしたいのですが….

講座 臨床から公衆衛生へ—感染症シリーズ・12

腸炎ビブリオ 工藤 泰雄 , 太田 建爾
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■はじめに

 周知のように,腸炎ビブリオVibrio parahaemolyticusはわが国において,7〜9月の夏期に多発する急性腸炎の重要な原因菌である.近年では,日本だけでなく東南アジア,米国などの諸外国でも本腸炎の存在が認識され,また創傷感染,中耳炎,敗血症など腸管外の感染症の原因となることも知られるようになった1〜4)

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■はじめに

 現在,開発途上国が直面している問題は数多い.経済開発をめぐる諸問題非民主的で不安定な政治問題,失業,貧因,犯罪,麻薬,売春などの社会問題や教育問題,そして感染症の蔓延をはじめ多くの疾病と絶対的なマン・パワーや施設の不足といった保健医療問題など,いわゆる南北格差の拡大と言われるように,北の先進諸国ではほとんど解決された問題が,南の諸国には今日なお大きく残されており,一層深刻化している場合も少なくない.

 この政治,経済,社会の厳しい状況の中で,途上国の保健医療問題を克服するための戦略として上がってきたのがPrimary Health Care(以下,PHCと略す)の概念である.

発言あり

自由課題
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飲料水基準について

 わが国には日本薬学会・衛生試験法(1980)のなかに「飲料水の衛生化学的標準」として飲料水の水質標準が示されている.しかしながら保健所など公衆衛生の現場では,一般飲料水についても水道法による水質基準を適用するよう行政指導されている.このような観点からみるとわが国に公的な意味での飲料水基準(Drinking Water Standard)はない.米国ではNational Interium Primary Drinking Standards, Proposed Secondary Drinking Water Regulationで規制されており,WHOではInternational Standard for Drinking WaterとEuropean Standards for Drinking Waterがある.

 先月ASEANの若い政府役人に「飲料水基準」の話をした際に,「日本では水道法四条に水質基準の取り決めがあり,これに基づいて省令で水質基準が決められており,飲料水基準もこれに準じている」と説明しつつも,何か物たらなかったことを思い出す.

衛生公衆衛生学史こぼれ話

17.別天師の生いたち 北 博正
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 伝記なら最初に登場すべき"生いたち"が,こんなところで出て来るのは少々おかしいが,順不同のこぼれ話なので,お許し願いたい.

 彼は1818年12月3日,バイエルン選帝侯国(Kurfürstentum)とファルツーノイブルグ公爵領(Herzogtum Phalz-Neuvurg)の国境にあった税関庁舎に,ヨーゼフ(Joseph)ペッテンコーフェルの8児中の3男として生まれた.この税関には18世紀以来彼の家の者が税関吏として勤務していたが,彼の父の代にバイエルンとファルツーノイブルグの両国は合併し,この税関の建物は不要となってヨーゼフはこれをゆずりうけ,周囲のドナフ河沿岸の湿地帯を開墾することになった.一家は子沢山で,建物は狭く,寝室も不足し,別天師は階段の上がり口の狭いところにベッドを置き寝起きしていた.

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●はじめに

 予防接種実施前の麻しんの発生は,1〜3歳児を中心に都市では隔年に流行し,4歳までに60%,9歳までにほとんどの者が罹患していた1)

 また麻しんは肺炎,脳炎などの重い合併症を起こす小児の重要な疾患として予防ワクチンの開発に期待が寄せられていた.また1歳前後までの罹患者に亜急性硬化性全脳炎の発症率が高いことなどから,特にこの年齢層の罹患予防がひき続き課題となっている2)

日本列島

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岐阜

 岐阜県郡上保健所管内および関保健所管内(いずれも星融所長兼務)では数年前から,地域の養護教諭と保健婦との連絡会議を定期的に開催しており,さらに郡上保健所,関保健所および可茂保健所の3保健所管内の,中濃地域合同連絡会議も催されている.

 この連絡会議の発端は,関保健所管内の一高校の生徒の健康問題について,同校養護教諭と保健所職員との話し合いに始まったようであり,これを契機として学校保健と地域保健の連携の必要性が注目されることとなり,連絡会議として5年目を迎えている.合同会議は毎年1〜2回実施されており,講演会やパネルディスカッション,活動報告や情報交換などが行われている.

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大阪

 大阪府では,昭和53年に保健所勤務を希望する医師の初期研修制度を整備した.これは臨床研修,公衆衛生研修をそれぞれ2年,あわせて4年間の研修を行う内容である.また,担当参事として,阪大公衆衛生学教室で助教授をされていた張先生をお迎えした.それ以降,徐々に保健所に勤務する若い医師が増えてきている.現在,卒後20年以内の医師は所長,支所長,保健予防課長として勤務している42名のうち22名を占めている.全国の保健所医師1,031名のうち39歳以下の医師は約2割であるから,全国的にみて大阪府の保健所では若い医師が多いといえる.

 大阪府保健所若手医師の会は,昨年12月の準備会をへて,昭和60年1月からほぼ毎週集まりをもち,府保健所の将来像について議論をするようになった.昭和30年代から保健所のあり方が議論され,今までに多くの提言がなされてきたにも関わらず,日常業務のみにおわれて,社会の変化に対応できなかった保健所の古い体質に危機感をもったというところが,若い医師の議論が始まった本音の理由である.最初は日々の忙しい業務の中であまり交流のなかった若い医師が,お互いに知りあおうということが主な目的であった.しかし3月から様相が変わった.というのは,2月末に開かれた知事と保健所長との懇談会で,保健所の若い医師が集まって保健所問題について議論をしていることが知られるようになり,急に若手医師の会としての府保健所の将来像をまとめて,知事に提出するということになった.

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基本情報

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公衆衛生
49巻12号 (1985年12月)
電子版ISSN:1882-1170 印刷版ISSN:0368-5187 医学書院

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