特集 医療制度とその盲点(Ⅰ)
家族制度と医療
丸岡 秀子
1
1東京都社会教育
pp.26-27
発行日 1955年1月15日
Published Date 1955/1/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401201513
- 有料閲覧
- 文献概要
うす暗い寝間にゴホンゴホン,咳込みながら年寄が寝ている。中風である。そのむこうには青白い娘が結核で寝ている。紡績帰りにちがいない。そうでなければ頭痛もちで年中寝たり起きたりの母親。このような暗い家の中の姿は,どこの農村にもみられるが,家族の病気のしわは,みんな嫁や息子たち,丈夫でいるものの上に寄せられている。しかし,過重な負担は,起きて働いているものの健康をいつまでも保証しているわけにはいかない。代るがわる病気になる。病気になつたからといつて放り出すわけにはいかない。嫁は実家に帰されても,引きとつた実家ではまた病人がひとりふえるだけである。
失業対策の貧しさは,農村の家族主義の上にしわよせされるとよくいわれる。家族主義は,この場合政治の貧しさに対して,好都合な場所を提供しているわけである。同時に,政策から見離された失業者や病人は家族主義以外にすがるところはない。家中がともどもに,生活を縮めあつて,居場所をつくつてやるのである。
Copyright © 1955, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.