公衆衛生 49巻11号 (1985年11月)

特集 学校保健—心の健康づくりを中心に

児童・生徒の心身発達 市橋 保雄
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■はじめに

 人間の受胎からの成長発育は,一定点までは上向性であり,生理的に停止・退行ということはなく,その過程は,発育途上で未だ未完成な小児期といって差し支えない.

 ヒトにおいては他の動物とくらべて,小児期はずいぶん長い期間である.一人前になるにはかなり長い時間を必要とするのである.そしてその成長は単に上向性で直線的に成長するというのではなく,外観的にも肥大・拡大など種々な変貌をくり返すのみならず,細胞の分化,増殖,各種機能の発達など個々あるいは相互に進展し,呼吸,消化,循環系等は終生その機能は続く.精神神経系の成長発達は最も遅れ,また内分泌系でも性に関する発現は遅れ,かつ早く老化するというように,機能上の最盛期や持続時間などの点でも発達の程度に差があるのである.

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■はじめに—変貌する子どもの生活

 明治以来の近代化,都市化などといわれる社会の変化が,今では,子どもの遊びや食・住生活のいわゆる西欧化をもたらし,これが彼らの生活時間構成,運動量,摂取栄養量などをも変えてしまった.この生活の質的変化が,身長の最大発育年齢や初潮年齢にみられる発育促進現象として端的に現れてきている1).しかも,こうした生活のいわゆる都市化は,高度情報化社会の進展に伴って,全国どこででもみられる変化になっている.こうして,現代っ子たちは,寝つきが悪く,翌朝になっても十分に目覚めないままに学校に登校し,午前中は肩こりや疲労を強く訴える2)

 かつてのように日暮れまで近所の友だちと遊びほうけて,くたくたに疲れて帰ってきていた子どもたちにとっては,病気でもない限り寝つきが悪いなどということは考えられず,常にさわやかな朝の目覚めがあり,肩こりなどは経験したこともなかった.そして,崖にのぼり,丸木橋を渡り,ときには杉の木から落ちるような毎日の遊びのなかで,的確な判断力や敏捷性・柔軟性・平衡感覚などの身のこなし方の基礎を自然に体得してきた.また,空地があって,そこに集まる年齢の異なる子どもたちの石蹴りや陣取りなどの遊びをとおして,子どもたちは運動能力だけでなく,仲間同士のつきあい方を学んだ.そこでは,年下の子をいじめもしたが,いたわり,かばうルールも,先輩から順送りに教えられてきていたのである.

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■はじめに

 戦後の少年非行の推移は,昭和26年をピークとする第一波,39年をピークとする第二波,52年以降に増加しつつある第三波に分けられる.特に53年以降の増加は顕著で,58年の少年刑法犯検挙人員は,31万7,404人(交通業務過失を除くと26万1,634人)となり,少年人口1,000人に対する比率が17.1と高率であり,全刑法犯に占める少年の割合は約31%に及んでいる.このように多くの非行少年のうち,58年には約2.2%に当たる5,722人が家庭裁判所の審判決定によって,法務省所管の少年院に入院している.これらの非行少年の中には有病少年もおり,その治療を行いながら矯正教育を行う医療少年院がある.

 以下,最近の医療少年院の実情とそれを通してみた非行少年の生活について述べてみたい.

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■喫煙,飲酒問題と遅れている学校保健・教育

 児童,生徒の喫煙,飲酒等の行動の実態についてはこれまで多く報告されているので,ここで改めて述べることはしない.ここで「遅れている」といったが,問題になるのはその内実である.

 「何が」「どのように」遅れているか,ということであり,「何から」「どのように」ずれているかということである.

情報化社会と性教育 松本 清一
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■はじめに

 情報伝達メディアの発達は伝達をスピード化し,広域化した.今日ではあらゆる情報が瞬時に全国に伝えられる.殊にテレビ普及の影響は著しく,日常生活上に多大の利便を与える一方で,社会に種々の弊害をも生み出している.

 このような中で,今日,性に関する話題がタブーではなくなったので,それは新聞紙上でも,週刊誌や雑誌でも自由に扱われ,あるいはテレビのような媒体を通じて,家庭の茶の間にまで入り込んでくるようになった.したがって子どもたちは,字が読めるようになれば,あるいは言葉が理解できるようになれば,性に関するあらゆる情報を得ることができるし,性やその魅力をうたった小説やまんがを読むことができる.思春期になって身体的に自分の性に目ざめるようになった少年少女たちは,正常な性行動だけでなく,あらゆる異常な性行動についても情報が与えられ,性感をよび起こすような刺激に絶えずさらされていると言うことができる.

保健室の役割と対応 江口 篤寿
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■はじめに

 はっきりした理由や訴えがないのに,保健室を頻繁に訪れる児童生徒は,どこの学校でも稀ではなかった.しかし,近年,このような児童生徒が多くなったようで,その対応をめぐって,保健室の存在が学校関係者の間で話題になってきたのは,割合に最近のことのようである.また,校内暴力が大きな問題になり,暴力をふるう生徒のたまり場が保健室ということで,保健室を閉鎖した学校があったことも,保健室の役割を考えなおす機会となったようである.

 このような次第で,単に学校保健関係者だけでなく,広く教育関係者の間でも,保健室のあり方について関心がもたれるようになったことは,学校保健に深く関与している者として,非常に喜ばしいことと思われる.しかし,保健室について論じるにあたって,一つには学校内にある物理的空間としての保健室について論じる場合と,保健室の主人のような存在である養護教諭のあり方について考える場合とがある.そこで,本論ではこの両方にわたって私見を述べる.

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■はじめに

 学校給食を廃止してはどうか,あるいは再検討すべき状況ではないか,という意見が徐々に高まっている.その代表的なものが第二次臨時行政調査会内での論議であるが,そのほかに地方自治体でも,地方財政の逼迫が動機となって,その存廃や内容変更が検討されているので,学校給食は今,曲り角に立っているといえよう.

 しかし,検討の動機が行政・財政の面から来ているので,どちらかというと財政や人件費の絡みで論じられることが多く,学校給食の学校保健上の意義は無視されているおそれがあるのは困ったことである.そこで,本論文では「学校保健—心の健康づくりを中心に—」の一つとして,学校給食の意義とあるべき姿を整理する.

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■はじめに

 近年,子供の「心の健康」におけるさまざまな問題が社会的に注目を浴びている.毎日のようにマスコミに登場するいじめ,登校拒否,校内暴力,非行など子供の問題と,その背景にある家庭,学校,社会の諸問題は,我々学校保健に携わる者にとって切実な問題である.次の世代を背負って立つ子供たちに,より健康であってほしいと考え,またそのために実践するのが我々の義務であろう.筆者は学校医の立場から子供の「心の健康」について考え,「心の健康づくり」に何をなすべきかを自問する意味でもこの稿をお引き受けした.

 学校医の役割とは,学校における健康の保持増進である.健康の定義については,WHOの定義が有名であるが,この定義も時代と共に変わって,WHO自体がその不備を認め,新しく検討を始めているという.学校保健の保健教育の中で,健康の概念を習得させる事の意味は非常に大きい.即ち,「自分の健康は自分で守る」だけでなく,これは先祖からの伝受であり,子孫への伝達であるという縦の把握と,横の把握として,家庭,地域社会,国家,そして世界につながるという健康の縦横のつながりを,教育の中で理解させる事が要求されるわけである.学校医もこの要求に基づく保健活動が求められているわけであるが,現実的には学校医の職務として学校保健法施行規則第23条で,下記の事項が挙げられている.

講座 臨床から公衆衛生へ—感染症シリーズ・12

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■はじめに

 1960年代に入って始まったエルトール型コレラ菌(Vibrio cholerae,0-1,biovar eltor)による第7次のコレラパンデミーは,今日に至るまでの20年余の間に,日本にもいろいろの影響を及ぼした.しかし,この間にコレラの病理や疫学に関する理解も深まって,対策にも転換が求められようとしている.

発言あり

国際青年年
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人類の未来に希望を託し

 1985(昭和60)年は国際青年年(IYY)である.テーマは「参加,開発,平和」であり,IYYのスローガンは「始めよう今,見つめよう未来」である.1975年の国際婦人年(IWY)のテーマは「平等,開発,平和」であった.世界人類が今,将来に向けて希求しているものが何か,このIYY,IWYのテーマよりその一端をうかがうことができる.いずれも深く根ざした含蓄のあるテーマである.公衆衛生に一番関係深い「開発」に焦点を当ててみよう.

 地球上にはいろいろな国があり,なかにはおよそ平和とはほど遠い生活を営むことを強いられている国民もある.また環境問題にしても,開発国は経済開発に伴い大気汚染,水質汚濁,などの環境問題を経験し,開発と環境質との選択を迫られ,また経済発展の過程で途上国の自然環境に大きな影響を与えた.一方途上国では,低開発なるがゆえの環境問題がある.

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■はじめに

 老人保健法の成立によって,日本では胃がんと子宮がんの検診が健康診査項目として取り上げられ,40歳以上の国民は胃がん検診を,また,30歳以上の女子は子宮がん健診を受けるよう定められた.これらの集団検診は,胃がんまたは子宮がんの早期発見を促し,早期治療によって致命率の低下と生存率の増大をもたらし,ひいては晩期がん罹患率の低下と死亡率の低下を目指して行われる.当初は,どちらかというと,これらの諸率で示されるような集団検診の効果が主として問題にされる傾向にあったが,最近はそれらの検診活動に伴う種々の費用と共に,検診活動が生み出す種々の便益を考察しつつ検診活動の促進や改善に寄与しようとする費用便益分析cost benefit analysis(CBA)と,同じ目的で実施する異なる検診方法の効果を比べて健診方法の選択に寄与する費用効果分析cost effectiveness analysis(CEA)とがしばしば実施されるようになった.ここでは,これらのうち胃がんと子宮がんを扱った最近のものを集め,それらの現状と問題点を概観した.

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●はじめに

 成人病は生物学的には加齢現象の結果であるが,それが発症する過程においては,長期にわたる各人の生活習慣(環境要因)が大きく影響する疾患でもある.成人期の主な循環器疾患である脳血管疾患や虚血性心疾患についても,このことは例外でない.例えば,Forsdahl1)は青年期の生活状況がその後の成人期の虚血性心疾患の発症に強く関連することから,危険因子については過去にさかのぼって論ずる必要のあることを強調している.わが国においても肥満や食塩の過剰摂取の規制を小児期や青年期から行うことにより,成人期の循環器疾患を予防しようという気運が最近高まってきている.

 英国では,すでに1974年に虚血性心疾患の予防を目的に,小児から成人に至る健常者を対象とした栄養に関する指針が発行され,すでに10年を経過している.この度,その後の循環器疾患と栄養に関する研究の成果をふまえた指針が新たに発行された.英国の成人期の主要な循環器疾患死亡は虚血性心疾患であり,一方わが国のそれは脳血管疾患であるため,英国の栄養指針をそのままわが国に当てはめることはできないが,この編者らは脳血管疾患や末梢血管障害も念頭においてそれを作成したといっているので,その内容は今後のわが国の循環器疾患予防の活動にとっても有益なものと考えられる.また10年の間隔をおいて発行された栄養指針の内容を比較検討することは,今後のわが国の栄養指導を展望するに際しても資するところが少なくないものと思われる.

日本列島

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長野

 人生80歳時代を目前にして,長野県では「長い人生を常に健康である」ことを願い,県民食生活指針を作成し,60年4月8日公表した.健康になろうと努力し,生きがいを求めて充実した生活を心がける人は誰でも健康であり,健康そうにみえても,健康づくりに怠慢な人は不健康な生き方である,との健康観に基づくこの指針は,(1)心とからだに良好で,生きがいを高めることができる,(2)身近で楽しく実行できて長続きできる,(3)年齢や地域性への対応は,それぞれの場でできる,の3点を基本に考えられた.

 具体的な指針として,次の5項目が取り上げられている.

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仙台市

 老人保健法の一般健康診査の実施に当たって,仙台市でも初年度は,ブローカ法桂氏変法を用いて肥満度の計算を行っていた.しかしこの方法では,身長の低い者を肥満と誤る傾向が大きいと言われている.またこの変法で算出すると,肥満度頻度が意外に多かったことから,当市に設置されている「仙台市一般健康診査総合判定基準検討委員会」では,良い計算法を探していた.たまたま某委員が紹介したのが,加藤式測定法(算出法)であった.早速当市で検診委託をしている検診団体で,各算出法を比較してもらった結果,この方法が適切と認められ,以後,当市の肥満度算出はすべてこの方法に従うことになったのである.

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富山

 富山県では,身体障害児・者福祉の増進のために,49年から富山市郊外16万m2の地に「富山県総合リハビリテーションセンター」の建設を計画的に進めてきた.センターは,次の二つのゾーンに分けられている.(1)身体障害児・者のリハビリテーションゾーンとして①児施設群:肢体不自由児施設(高志学園),養護学校(高志養護学校),心身障害児総合通園センター(高志通園センター),②者施設群:重度身障者授産施設(高志授産ホーム).同更生援護施設(高志更生ホーム),療護施設(高志療護ホーム).(2)身体障害者自立援助ゾーンとしては身体障害者職業センターが設置され,今後雇用施設,福祉センター等が建設される予定である.このセンターの中核的施設として,高志リハビリテーション病院が59年10月1日にオープンした.

看護婦の充足 井口 恒男
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岐阜

 看護婦の需給状況をみると,全国的には需要がほぼ満たされたとみられており,看護婦確保のための修学資金についても厚生省では貸与者を減らし,総額の減額への方向にあるようである.しかし,看護婦の需給状況を都道府県別にみると大きな差違がみられ,この差は医師数の差をはるかに凌駕している.人口10万対医師数においても,県間の差は最小の埼玉81.4(昭和57年末,以下も同年)から,最多の徳島200.1と相当の開きがみられるが,10万対看護婦においては最小の埼玉262.5から最多の高知757.2(いずれも准看護婦を含む)とさらに大きな開きがみられる.岐阜県においても,医師数は113.6の最小から5位,看護婦数339.2の最小から6位と,両者とも全国レベルを大きく下回っている.看護婦の場合は,東海地方の最大の需要県である愛知県が385.0と全国最小から10位,静岡県が同じく7位など,看護婦不足は東海地方における慢性的な現象となっている.

 岐阜県には県立病院が3病院あり,昭和60年4月看護婦定数844名に対し47名の欠員がみられ,その対策に苦慮している.この欠員の原因として,①他府県に比べ低位の病床不足(昭和56年末人口10万対924.1)であり,この数年患者増に対応して県立病院の他,県内主要病院が増築増床をしていること,②名古屋を中心とした愛知県において看護婦需要が高い状況を持続していること,③従って容易に職場を変えることができ,同一病院での定着性が低いこと,などである.

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 曾田長宗先生の名前は社会医学の先達として戦後の激動の時代の貴重な道標であった.戦前・戦中,既に台北帝大医学部教授,総督府警務局衛生課長などを歴任されていたが,戦後引き揚げ後は厚生省統計調査部長・医務局長,公衆衛生院院長などの特に重要な要職を占められ,この間及びその後も政府代表としての各国への出張や,公衆衛生学会長を初め,WHOの総会議長をつとめられるなど,研究者・学者・行政官・実践者としての活躍がめだった.

 本書は「医療の社会化」「医の倫理と医療制度」「社会医学と疫学」「公衆衛生」「余滴」「思い出の記」の六つの柱がたてられて編集されている.本書の編集世話人は相磯富士雄・芦沢正見・上田フサ・塩見正・西三郎・橋本正己・福島一郎・前田信雄の諸氏である.遺稿を中心に,夫人以下の「思い出の記」をもって構成されている.広い活躍の場を持たれた曾田先生の活動の全容を一書にまとめることの困難は,並たいていのことではなかったと思う.編集の方針としては,前田信雄氏(国立公衆衛生院衛生行政学部)の「編集後記」に記されているように「なるべく一般的な論稿」「広い分野をカバーする」「入手し難いものを優先」などの観点から取捨選択したとされている.

基本情報

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公衆衛生
49巻11号 (1985年11月)
電子版ISSN:1882-1170 印刷版ISSN:0368-5187 医学書院

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