特集 集合住宅
集合住宅と主婦の精神保健
渡辺 圭子
1
Keiko WATANABE
1
1建設省建築研究所
pp.805-813
発行日 1985年12月15日
Published Date 1985/12/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401207158
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■はじめに
わが国において,健康との関連から住居の問題が論じられたのはかなり古いことである.日本の建築衛生の歴史に詳しい関根孝によると,建築環境衛生の草創期は,1885(明治18)年から1925(大正14)年の40年間1)で,その先駆者は「近代衛生学の父」といわれるドイツのペッテンコーフェル(Pettenkofer, M.)の門に学んだ緒方正規,森林太郎(鴎外),小池正直らの衛生学者2)であり,特に森林太郎は造家衛生の学識において傑出し,多くの論文・論説を発表しているので,建築環境研究の先達である3)という.彼はまた,「建築衛生」の言葉を最初に用いた(明治26年)人であった.
その後の建築衛生研究の流れは,戦中・戦後の混乱期に建築環境学者として建築環境,特に住居衛生の重要性を訴え続けた元国立公衆衛生院建築衛生学部長佐藤鑑の回想記4)などに詳しいが,第二次大戦後もかなりの時期までは,住環境問題の要点は不良住宅と住宅難による過密がひきおこす結核罹病率,消化器系伝染病死亡率,乳幼児死亡率などの住居衛生に関するものが主流であった.しかし,社会の安定と経済の発展とともに快適な生活が求められるようになり,環境調整技術の進歩と相まって,住環境研究の中心は,生理的に快適な居住条件の設定や評価法の開発におかれるようになった.
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