看護教育 62巻7号 (2021年7月)

特集 看護技術の効果的な習得をめざして

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「看護師等養成所の運営に関する指導ガイドライン」が改正され、別表に示された「看護師に求められる実践能力と卒業時の到達目標」「看護師教育の技術項目と卒業時の到達度」の内容が一部変更されました。2022年度からのカリキュラムの編成にあたり、これらを達成するべく教育内容や指導方法をあらためて検討されている学校も多いと思います。また、昨年からの新型コロナウイルスの影響により、対面授業が制限されたことで、学生に何を伝えれば自学自習ができるかを考える機会が増え、同時に遠隔での指導の限界もみえてきたのではないでしょうか。

今回の特集では、コロナ禍においても学生が十分な看護実践能力を身につけられるよう、看護技術の教育・指導に取り組まれた実践例を取り上げるとともに、より多くの学生が卒業時の到達目標に達するための指導方法の研究・実践をご紹介します。

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はじめに

 2020年度は、社会活動全般に新型コロナウイルス感染症の影響を受け、看護基礎教育においても授業や臨地実習が大きく制限された年でした。厳重な感染対策をしながら、学生の学びを保障するために、各校でさまざまな取り組みが行われたと思います。本稿では、2020年度のコロナ禍における学内実習と学内演習を中心に、看護技術教育に関する共立高等看護学院の取り組みを紹介します。

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はじめに

 第5次改正保健師助産師看護師学校養成所指定規則が2022年度から適用となる。この改正の背景には、地域包括ケアシステム構築の推進に向けた適切な医療供給体制を整備するねらいがある。そして、看護職には、医療介護における情報通信技術の活用、多様な場における多職種との連携、対象の多様性・複雑性に対応する看護を創造する能力などが求められている1)

 一方、大学入学共通テストの導入の背景にも、グローバル化の進展や人工知能技術をはじめとする技術革新などに伴い、社会構造が急速に、かつ大きく変革している状況があり、予見の困難な時代のなかで新たな価値を創造していく力を育てることが必要とされる。その育成の柱として、「知識・技能」「思考力・判断力・表現力」「主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度」の3つが挙げられている2)。これらは看護教育においても同様に求められるものであり、看護を実践するうえで身につけていかなければならない能力である。

 山形大学医学部看護学科(以下、本学)では、上記した看護専門職としての実践能力を4年間を通じて段階的に身につける看護実践強化プログラムが組まれ、実践されている。本稿では、このプログラムおよび、その基盤となる基礎看護技術演習方法について紹介する。

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 近年、若年層における生活スタイルの変化は著しく、生活体験が不足している学生が多い。ふきんやぞうきんをしぼらずともウェットティッシュを使えばよいし、包丁が使えなくてもフードプロセッサーを使用すればみじん切りができるなど、ボタンひとつで完結する家事も増えている。そのためか、日常生活援助技術の演習ではシーツのしわを伸ばすのに指先だけでつまんで引っ張る、タオルをスポンジと同じようににぎってしぼる、60℃を超える温度で洗髪用の湯を用意するといった学生が散見され、生活体験の乏しい学生の演習ではどこから指導を始めるべきか頭をかかえてしまうこともある。このような状況において、看護師に求められる看護実践能力と卒業時の到達度に達するために、学内での講義と演習時間だけで看護技術を習得することは難しい。

 一方、日常生活援助技術を習得できていないことは、学生自身も強く認識している。日常生活援助技術は臨地実習時に実施することも多く、低学年時に習得しておくことが望ましい。ゆえに、そこできちんと習得できなかった学生にとっては、臨地実習において極度の緊張と不安をもつ要因ともなる。しかしながら、日常生活援助技術を習得するには教員による指導と、多くの練習時間を要するうえに、たくさんの技術項目について技術向上をめざすにはモチベーションも必要となるため、学生自身の力だけで解決することは難しいといえる。日常生活援助技術を習得できるよう、看護技術実践能力を向上させるための新たな教育方法が求められる。

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看護技術の教え方への問い

 筆者は、2020年度まで看護師養成所(3年課程)で「基礎看護学」を担当し、1・2年次を対象に看護技術の方法論の授業科目を指導していた。そこで、ベッドメイキング、無菌操作、バイタルサイン測定、口腔・鼻腔からの一時的吸引、点滴静脈内注射など、日常生活援助技術および診療の補助技術について、さまざまな看護技術を教える機会を得た。

 もともと、看護技術の授業の流れは、看護技術の方法とその根拠となる知識を講義し、その後、実技について、デモンストレーションを行い、一斉に練習するという授業形式をとっていた。よりわかりやすくする工夫として、講義では、看護技術の根拠や実施の際の留意点などを、視聴覚教材を用いて詳しく解説するようにしていた。実技部分では、練習のポイントを明確に指示し、他の教員にも授業に入ってもらい、それぞれ何人かの学生を担当し、練習時の助言や、やってみせるといった方法をとった。筆者自身が受けてきた授業も、これまで見てきた授業もだいたい似たような進め方で、その他の授業方法は思い当たらなかった。

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はじめに

 コロナ禍により、看護教育の現場でも対面授業が制限され、特に看護技術演習の時間数も限られる状況が生じている。確かにオンライン授業のメリットもあるが、やはり手を使い、五感を使って実践する技術演習は、対面でしか得られない学習効果があるとあらためて感じている。「見て」「触れて」「聴いて」五感を使って、感じることの原点を大切にした技術演習をより効果的なものにしたいと、試行錯誤しながら授業構成を考えている。

 採血は、この「見る」「触れる」ことがその成功の可否に大きくかかわってくる看護技術である。新人看護師であった頃の私は、採血がとても苦手であった。そのため、先輩看護師が行う採血を見る機会をつくり、なにかうまくなるヒントがないか必死に観察していた。採血がうまくなるコツについて先輩看護師に質問すると、「見える血管に頼らずに、指先で太さや走行をみるのよ」と教えてくれた。確かに、その看護師は採血時に指先で触診を行っており、目視できなくても「この血管」と決めたのちには、みごとに穿刺を成功させていた。まるで、指の先に目がついているか、センサーがあるかのように見え、「自分もうまくなりたい」と強く感じた。このときから、看護技術は経験を積まなければ身につかないという側面はあるが、身につくまでのプロセスをもっと効果的に、効率的にできないのだろうか、と考えるようになった。

 技術のコツを可視化し、その効果を検証することは、看護師の専門性を裏づけることにもつながる。医師は、熟練した手術などのスキルを互いに共有し、向上させる仕組みや風土ができている。しかし、看護師は各自のスキルとして個人内で完結していることが多いように感じている。熟練した技を教育に取り入れることができれば、看護学生の看護技術への興味・関心、モチベーションが上がるだけではなく、技術習得を高め、臨床の看護の質向上に貢献できるのではないだろうか。

 このような自分の体験から生まれた考えが背景となって、基礎看護技術では、「熟練看護師の技を可視化し、取り入れる」「経験則のなかから看護の効果があると考えられてきたケアの効果を実証し、学生に伝える」ことを授業の大切な要素としてきた。しかし、看護師の熟練した技は、経験によって習得してきた優れたものでありながらも、可視化・共有されていない暗黙知である。そのため、まずは熟練看護師の技・コツを動作分析およびインタビューにより可視化し、コツを取り入れた教材を作成し、授業を展開することをめざした(図1)。

 本稿では、採血もしくは点滴静脈内注射において重要な穿刺部位選定の手技に焦点をあて、熟練看護師のコツの可視化と、コツを導入した教材作成を含む採血技術教育を取り上げ、その効果と課題を検討していきたい。

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はじめに

 高齢化率の急増と生産年齢人口の減少は、医療提供体制に大きな変化をもたらし、看護職の需給にも影響があると思われる。日本看護学校協議会(以下、本会)の会員の多くは看護師等養成所である。18歳人口の減少に伴い、受験生確保に苦戦する養成所も増えてきた。このたびの保健師助産師看護師学校養成所指定規則(以下、指定規則)の第5次改正に伴うカリキュラム編成にどう取り組み、その結果、地域に必要とされる卒業生を輩出することができるかは、看護師等養成所にとって重要な課題になると考えている。

 看護師等養成所が強化しなくてはならないのは技術教育であろう。学校教育法などをひもといても、養成所教育に期待されるのは「実践的な職業教育、専門的な技術教育」である。長年にわたり看護師等養成所が得意としてきた分野ともいえる。看護実践を可能にするのが「技術」であり、養成所の教育は今、技術教育に立ち返るべきと考える。

 新人看護師の実践能力の低下が指摘され、2008(平成20)年に指定規則の第4次改正があった。そのときに最初の「看護師教育の技術項目と卒業時の到達度」が示され、13の技術項目と142の技術の種類が明確になった。その後、各養成所では技術項目と卒業時の到達度を意識して教育内容に組み入れる努力はしてきたと思う。しかし、示された到達レベルには「知識としてわかる」というものも含まれていたこと、加えて、演習と実習の区別がなかったことで、すべての技術項目・種類について演習で取り組まなければいけないものとはとらえていなかったと推察する。また、確実にできるとは限らないが、臨地実習での経験に期待を寄せて、結局、経験できずに卒業することもあったと思う。したがって、最初に提示された「看護師教育の技術項目と卒業時の到達度」は技術教育を意識することにはつながったものの、確実な技術習得にどれだけ貢献できたかは明確ではないと考える。

 そこで、本会は新たに示された「看護師教育の技術項目と卒業時の到達度」の13項目71種類について、演習でどの程度実施できているか、その「実施率」を調べた。結果、技術習得の前に、実施すら十分できていない技術の種類があることがわかった。なぜ実施できていないのか、実施しているところはどのように工夫しているか、についてさらに調査し、全員が演習で実施できるようにいくつかの提案をしたいと取り組みを行った。本稿では、その経過と今後の課題について報告する。

 本会の取り組みが技術教育に悩む学校・養成所の参考になれば、と願うものである。

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本記事について

 2020年度は、新型コロナウイルス感染症に振り回された1年であった。今年度に入ってもその影響は小さくなく、beforeコロナとは同じように教育を進めることができていない。いつ私たちは以前のような生活に戻れるのか。「きっと遠くない日にその日はやってくるのだ」とつい希望的観測をしてしまう。

 現在はまだwithコロナの状況であり、この記事を執筆している現在(2021年5月)において新型コロナウイルス感染症をコントロールできているafterコロナの段階になったとは言えない状況にある。私の正直な思いは「できることなら1日でも早くbeforeコロナの世界に戻って、看護教育を進めていきたい」である。

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はじめに―看護学科の取り組みとその評価

 2020(令和2)年が明けるとともにCOVID-19の感染が問題となり始め、2月になると世界的なパンデミック現象の兆しが見られた。そうした状況を受け、日本全国の看護教育機関では、2019年度末の卒業式や2020年度初めの入学式などの学事への対応、そして、2020年度の授業(講義・実習)への対応に追われることになったと思われる。

 豊橋創造大学(以下、本学)の看護学科でもこの状況は同様であり、本学全体の取り組みを基盤として、COVID-19対応に組織的に取り組み、2020年度の中間および総括的な評価を行った。この具体的な内容と評価は報告として保存する必要があると考えている。同様な事象が生じるとは限らないが、災害にも匹敵するこの状況への対応を明確にしておくことは、今後、災害など急激な環境の変化が生じた際、各教育機関における対処に向けての判断材料になると思われるからである。なお、ここでの評価は、現時点のものも必要であり、時間を経てから行う必要があるものもあると思われる。

 2020年度の具体的な取り組み内容と中間における評価については、2021年の本学紀要1)に記した。総括的な評価に関しては現在(2021年4月)、順次進めているところである。本稿では、本学の取り組みとその評価について、各担当の教員の視点も交えつつ紹介する。

連載 ナーシング・リープ 看護教育を一歩前進・7

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この連載では、私がこれまで出会った「教育に関するキーワード」を1つ選び、理論家や文献から得た知識をご紹介しながら、等身大の目線で看護教育への応用を考えていきます。小さな一歩でも、日々積み重ねていけば大きなリープ(跳躍)になるという希望を込めて。

連載 はじめての医療経済学・4

診療報酬のしくみ 康永 秀生
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 今回は、国民医療費の基盤となる「診療報酬のしくみ」について解説し、さらに「医療機関の収支」について述べます。医療経済学と医療経営学は異なる学問体系であり、この連載では医療経営にはあまり深く立ち入りませんが、診療報酬のしくみは医療機関の収支という医療経営の話と深くかかわるため、少しだけ言及します。

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連載のねらい

IoT(Internet of Things)やAIなどのデジタル技術によりさまざまな知識や情報が共有され、新たな価値が創造される社会となりました。医療においても、病院、診断・治療、健康・生活システムにICTが導入される時代へと進んでいきます。看護学生が看護実践能力とともに情報活用能力を身につけることができるように、まずは私たち教員がICT活用を進めていきませんか? 全12回の連載により看護基礎教育での「ICTを活用した授業設計」の習得をめざします。

*本連載の動画や資料を視聴するためにはQRコードを読み取る必要があります。QRコード読み取りの詳細は第1回をご確認ください。

**QRコードを読み取り後、URLを転送すれば、PCなどの媒体でも閲覧可能です。

連載 発達障害など、対応が難しいと感じる学習者への教育・支援・7

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本連載では、教育者が対応に難しさを感じる学習者に対しての、教育・支援のあり方のヒントをお伝えします。ところで、看護の教育や支援のゴールはどこでしょうか。国家試験の合格でしょうか、就職できることでしょうか。筆者は、「学習者支援のゴールは、多様性のある学習者が生きがいをもって社会で役割を果たせることへの支援」と考えます。理想論ではありますが、対処ではなく、そうした支援をめざし、Q&Aの形式にてできるだけのアイディアをご紹介します。

連載 教育哲学を使って考えてみよう・7

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私たちがいつの間にか当たり前だと思い込んでしまっている事象を、立ち止まって考えてみる。教育哲学を実践する連載です。答えではなく、新たな問いへ。あなたをいざないます。

連載 看護教育×法律相談 知っておきたいトラブル対応のポイント・19

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事例

 学生から、実習先の病院で、受け持ち患者から迷惑行為を受けているという相談がありました。頻繁に呼び止められて、個人的なことを聞かれたり、不愉快な冗談を言われたりしているそうです。そして先日、検温時に身体に触れてこようとしたので、はっきり拒絶したところ、暴言を吐かれたとのことでした。学生を守るために、学校が対応すべき点と注意すべき点を教えてください。

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目次

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よりよい教育活動と自己肯定感の向上をもたらす

 本書は、教育学を専門とし教員のポートフォリオ開発ならびに普及に尽力してこられた栗田佳代子氏と、教育工学が専門でオンラインのアクティブラーニングシステムの開発に取り組んでこられた吉田塁氏が、ティーチング・ポートフォリオ・チャートの作成方法について、研修さながらに順を追ってていねいに解説した書である。

 ティーチング・ポートフォリオ(TP)とは、「自身の教育活動全体のリフレクションとその成果物としての教育活動の可視化のために作成される文書」であり、その普及を促す目的で栗田氏が開発したシートがTPチャートである。教育改善ツールとしての長所が認識され、TPチャートを作成し自身の教育のリフレクションを行う研修会が広く開催されている。

新刊紹介

INFORMATION

基本情報

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看護教育
62巻7号 (2021年7月)
電子版ISSN:1882-1391 印刷版ISSN:0047-1895 医学書院

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