- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
はじめに
コロナ禍により、看護教育の現場でも対面授業が制限され、特に看護技術演習の時間数も限られる状況が生じている。確かにオンライン授業のメリットもあるが、やはり手を使い、五感を使って実践する技術演習は、対面でしか得られない学習効果があるとあらためて感じている。「見て」「触れて」「聴いて」五感を使って、感じることの原点を大切にした技術演習をより効果的なものにしたいと、試行錯誤しながら授業構成を考えている。
採血は、この「見る」「触れる」ことがその成功の可否に大きくかかわってくる看護技術である。新人看護師であった頃の私は、採血がとても苦手であった。そのため、先輩看護師が行う採血を見る機会をつくり、なにかうまくなるヒントがないか必死に観察していた。採血がうまくなるコツについて先輩看護師に質問すると、「見える血管に頼らずに、指先で太さや走行をみるのよ」と教えてくれた。確かに、その看護師は採血時に指先で触診を行っており、目視できなくても「この血管」と決めたのちには、みごとに穿刺を成功させていた。まるで、指の先に目がついているか、センサーがあるかのように見え、「自分もうまくなりたい」と強く感じた。このときから、看護技術は経験を積まなければ身につかないという側面はあるが、身につくまでのプロセスをもっと効果的に、効率的にできないのだろうか、と考えるようになった。
技術のコツを可視化し、その効果を検証することは、看護師の専門性を裏づけることにもつながる。医師は、熟練した手術などのスキルを互いに共有し、向上させる仕組みや風土ができている。しかし、看護師は各自のスキルとして個人内で完結していることが多いように感じている。熟練した技を教育に取り入れることができれば、看護学生の看護技術への興味・関心、モチベーションが上がるだけではなく、技術習得を高め、臨床の看護の質向上に貢献できるのではないだろうか。
このような自分の体験から生まれた考えが背景となって、基礎看護技術では、「熟練看護師の技を可視化し、取り入れる」「経験則のなかから看護の効果があると考えられてきたケアの効果を実証し、学生に伝える」ことを授業の大切な要素としてきた。しかし、看護師の熟練した技は、経験によって習得してきた優れたものでありながらも、可視化・共有されていない暗黙知である。そのため、まずは熟練看護師の技・コツを動作分析およびインタビューにより可視化し、コツを取り入れた教材を作成し、授業を展開することをめざした(図1)。
本稿では、採血もしくは点滴静脈内注射において重要な穿刺部位選定の手技に焦点をあて、熟練看護師のコツの可視化と、コツを導入した教材作成を含む採血技術教育を取り上げ、その効果と課題を検討していきたい。
Copyright © 2021, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.