Brain and Nerve 脳と神経 53巻11号 (2001年11月)

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はじめに—老年期痴呆性疾患の分類と非アルツハイマー型変性痴呆—

 老年期の痴呆性疾患には表1に示すように様々なものがある。

 表1の中で,現在,最も頻度の高いものは1の「変性型痴呆」の中の1)アルツハイマー型痴呆(DAT)(広義のアルツハイマー病)であり,ついで2の「血管性痴呆」と考えられている。3の「その他の原因疾患」による痴呆は,頻度としては低いが,代謝内分泌疾患や脳外科的疾患などで治療可能な痴呆(treatable de-menita)が多く含まれており,診断上重要である。

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 パーキンソン病では,運動障害にくわえて,排尿障害がおよそ60〜70%の患者にみられる。排尿障害の内訳は,排尿困難,尿閉などの排出障害よりも,頻尿・尿失禁などの蓄尿障害が多い。排尿障害はHoehnとYahrの重症度(運動障害の程度)と相関があり,振戦よりも筋強剛・寡動と相関する。SPECTでは線条体のdopamineニューロンの減少と相関する。尿流動態検査では,蓄尿障害の原因として骨盤神経の核上性障害を示唆する排尿筋過反射が高頻度にみられる。実験的に,dopamine D 2受容体は排尿反射を促進し,D1受容体は排尿反射を抑制することが知られていることから,パーキンソン病の排尿障害にはdopamine D1受容体機能低下が関係している可能性がある。排尿障害は初期には抗パーキンソン病薬で改善する場合がある。長期経過例には末梢性抗コリン薬(propiverineなど)を使用すると頻尿・尿失禁が軽快することが多いので,積極的な治療が望まれる。

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 DyckらによるRochester糖尿病性ニューロパチー研究では,2神経以上の異常値(1%水準)を神経伝導検査上のニューロパチー基準としている。改定多発神経障害指数(PNI-R)は,正中・尺骨・脛骨・腓骨神経の運動神経伝導速度(MCV)および身長補正したF波潜時の計8項目の対健常者値を平均して得た指標である。まず62名の健常者で各指標の正常限界値(99%水準),次に78名の糖尿病患者で異常神経数とPNI-Rを求めた。異常値はMCVとF波潜時項目に多くみられた。Dyckの基準とPNI-R値(正常下限;90%)の両者とも正常が14名,異常が59名で,不一致は5名のみであった。異常神経数とPNI-Rとは相関が高く(r=−0.85),振動覚閾値およびアキレス腱反射との相関はPNI-Rが優つた。PNI-Rは,糖尿病性ニューロパチー評価に適した定量的指標と位置づけられる。一方,Dyckらの基準による異常神経数も,診断用のみならず,簡便なニューロパチーの準定量的指標として用いられよう。

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 拡散強調MRI(DWI)はきわめて鋭敏に脳虚血病変を描出し脳梗塞患者の急性期診断に欠かせない検査となりつつあるが,小梗塞などでは時に急性期所見が不明瞭な場合もある。今回,脳幹梗塞を対象とし急性期DWIの感度を検討した。〔対象と方法〕対象は発症から24時間以内にDWIを施行した28脳幹梗塞症例である。DWIは1.5テスラ装置にてecho planar imagingを使用し,同時にT2強調MRI,fiuid attenuated inver-sion recovery(FLAIR)を撮像した。最終梗塞巣は平均127時間後の上記MRI所見と症状から判定した。明瞭な高信号域のみを病変と判定した。〔結果〕最終梗塞巣は中脳2,橋9,延髄17例であった。初回DWIで病変が検出されたのは16例(感度57.1%),病変が明らかでなかったのは12例であった。この12例中11例はその後のMRIで延髄病変が,1例は橋病変が確認された。発症からDWI施行までの時間が短いほど病変が検出されにくい傾向があった。〔結論〕急性期DWIで病変が明らかでなくても,脳幹とくに延髄梗塞を否定できないことに注意が必要である。

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 脳死に陥った2症例に,MRI拡散強調画像(diffusion-weighted imaging:以下DWI)を施行した。

 症例1:34歳女性。原因不明であるが心肺停止となり,約120分後に自己心拍が再開した。脳死診断後にDWIを施行したところ,大脳皮質,被殻,視床,脳幹,小脳ともに高信号域を示していた。各部位の見かけ上の拡散係数(apparent diffusion coefficient:以下ADC)は健常成人より低下していた。

 症例2:45歳女性。橋出血により心肺停止となり,約20分後に自己心拍が再開した。脳死診断前のDWIは大脳皮質,被殻,視床,脳幹,小脳ともに高信号域を呈しており,各部位のADC値は健常成人と同様であった。脳死診断後のDWIは,脳死診断前と比べより信号輝度は上昇しており,各部位のADCは前回のそれと比べ低下していた。

 脳死診断後のDWIは脳全域の高信号という特徴的な所見を呈し,ADC値を測定することで,より客観的な評価が可能であった。

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 症例は16歳の男性。約3年前から左側の前腕および手指の筋力低下,筋萎縮が進行した。神経学的には左上肢の遠位側に強い筋萎縮を認め,MRIを中心とした画像所見では頸椎に高度の後彎がみられ,頸髄は萎縮扁平化していた。以下の所見から,若年性一側上肢筋萎縮症(平山病)と診断し頸椎の後轡を解消することを目的として頸椎前方固定術を施行した。術後症状の改善を認め,6カ月を経た現在も固定状態は良好であり,頸椎カラーを必要としない自由な生活を送っている。

 平山病に対する治療は,症状の進行が数年で停止することが多いため,頸椎カラーによる外固定を数年行う保存的治療が一般的である。しかし,5年以上立の経過で症状が進行した例が報告されていること,また長期間に及ぶ外固定の苦痛を解消できることから,積極的な外科的治療も検討すべきであることを強調した。

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 症例は70歳女性,ゲルストマン症候群と右上下肢筋力低下にて発症した.頭部打撲の既往はなかった。MRIにて左円蓋部のくも膜嚢胞が確認された。治療は,局所麻酔下に内視鏡を併用し,定値的な嚢胞開放術を行った。内視鏡にて嚢胞と側脳室の十分な開窓が得られたことを確認した。術後1週間のCTでは,著明な嚢胞縮小が認められ,それに伴い症状も全快した。老年期発症のくも膜嚢胞は稀であり,その発症機序と治療法について考察した。また,本症に対する低侵襲な内視鏡療法は有効であると認識できた。

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 脳室内出血後に水頭症を起こした双胎間輸血症候群(twin-twin transfusion syndrome:TTTS)の2例を報告した。症例1は在胎28週2日,体重865gで出生し,出生当日に右視床・尾状核移行部のsubependy-mal germinal matrix layerから出血,その後水頭症が出現した。症例2は在胎31週4日,体重1,204gで出生し,第9生日に左側脳室三角部の脈絡叢からの脳室内出血を起こし,その後左側脳室の下角・三角部・後角から体部の後半部が拡大した閉鎖腔となった。TTTSによる胎盤循環の不均衡に関連した頭蓋内出血は受血児に多いが,ここで報告した2症例はともに供血児であった。TTTSに伴う中枢神経系傷害の病態は症例により異なり,複雑である。

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 脳血管撮影にても動脈瘤を認めない中脳周囲が中心となるくも膜下出血は,perimesencephalicnonaneurysmal subarachnoid hemorrhage(PNSH)と呼ばれる。早期再出血や症候性脳血管攣縮を合併することは稀で,予後良好であるといわれている。血管撮影上の脳血管攣縮の頻度も低く,脳血管攣縮を生じた場合でも軽度で局所的である。今回われわれは,中脳周囲非動脈瘤性くも膜下出血にびまん性脳血管攣綿を生じた1例を経験したので,文献的考察を加え報告する。症例は52歳女性で,突然の頭痛を主訴に救急受診した。CTおよび脳血管撮影にてPNSHと診断し,保存的治療を行った。14日目の脳血管撮影にてびまん性脳血管攣縮を認めたが,症候性とはならず,normovolemiaとして良好な転帰であった。PNSHの経過で,びまん性脳血管攣縮が出現することは稀だが,経過観察には注意を要すると考えられる。

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 症例は29歳男性。感冒症状の3日後,意識障害と全身性けいれん重積状態(GSE)を呈して発症。抗けいれん剤の効果がなく,全身麻酔薬midazolamとpropofolのほか,vecuronium bromideを大量持続静注したにもかかわらずGSEは抑制不可能であり,脳浮腫が進行して第10病日に脳死状態に陥った。その直後からGSEは完全に消失し,第16病日に死亡した。髄液検査で細胞増多や蛋白上昇を認め,臨床的にはウイルス性脳炎と診断した。しかし,剖検では脳炎所見はなく,脳ヘルニアを伴う高度の脳浮腫と無酸素性脳症,島回に限局した軽度のグリオーシスを認めたのみであった。本例の急性浮腫性脳症は,一種のacute toxic encephalo-pathyと考えられる。本例では,全身静脈麻酔でも抑制不能な極めて難治性のGSEが脳死に至るまで持続し,浮腫性脳症の治療を考えるうえで臨床的に貴重な症例と思われる。

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 患者は10歳男児。7歳時より難治性複雑部分発作が出現した。頭部CT,MRIで,左側頭葉内側に造影効果を受けない腫瘍性病変を認めた。発作間欠時IMP-SPECTで,左側頭葉の広範な血流低下を認めた。覚醒時脳波は,両側前頭部に,左側でやや高振幅の徐波を認めるのみであったが,長時間脳波モニタリングでは睡眠時に左中側頭部のみに頻発するspikeを認めた。本例では発作時記録はできなかったが,上記所見より左側頭葉内側腫瘍に伴うてんかん発作と診断し,皮質脳波記録下に摘出術を施行した。病理診断はastrocytomagrade IIであった。SMARTで55Gyの放射線療法を追加した。術後複雑部分発作は消失した。内側側頭葉腫瘍患者で,発作時症状およびSPECT,PETが示すてんかん原性焦点に関する情報が矛盾した所見を呈さない場合には,患側側頭葉のみに限局して頻発する発作間欠時てんかん性放電は,てんかん原性焦点の決定に有用な所見となり得ると考えられた。

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 症例 65歳,男性

 主訴 手掌・足底のしびれ感

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 はじめに 蝶形骨洞を中心とする副鼻腔炎による動眼神経麻痺は知られているが,斜台部に発症した膿瘍で動眼神経麻痺を生じた報告はない。今回,斜台部に発生した膿瘍で動眼神経麻痺を呈した症例を経験したので報告する。

 症例 75歳,男性

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症例呈示

 症例 64歳,男性(1935年12月1日生)

 現病歴 1985年(49歳時),両膝がガクガクし,電車から降車するとき脚が前に出ないことを自覚。歩行自体には異常はなし。数カ月後右手の震えが出現,やがて左手にも認められるようになる。順天堂大学医院脳神経内科を受診,抗パーキンソン病薬の投薬にて症状はほぼ消失した。1993年頃よりon-off現象が目立ち始め,自転車で移動中offとなり転倒して救急車で病院に運ばれたこともあった。薬剤増量にて対処していたが幻覚,夜間せん妄が始まる。1994年夏に買い物に寄った店の中で,売り物のスイカをその場で食べてしまったことがあった。また近所の畑から栗や柿を盗んでは食べてしまい,持ち主から注意されることもしばしばあった。一人で買い物はできたが,毎日アイスを買っては食べ残しを冷凍庫に入れ,いっぱいにしてしまう,またご飯も茶碗によそらずジャーから直接食べる,自転車は危険なので家人が施錠すると駅から別の自転車を盗んで持ってきてしまう,某院に入院すると他人のお金を盗んだり食べ物を勝手に食べてしまう,自分の病室がわからなくなり他患のベッドで寝てしまうことなどが続いた。1995年1月26日に初石病院に紹介入院した。

基本情報

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Brain and Nerve 脳と神経
53巻11号 (2001年11月)
電子版ISSN:2185-405X 印刷版ISSN:0006-8969 医学書院

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