Brain and Nerve 脳と神経 47巻5号 (1995年5月)

特集 記憶障害:病変と特徴

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はじめに

 海馬領域に限局した病変を生じ記憶障害を呈した症例として筆者らは脳炎例,低酸素脳症例などを経験し,その記憶障害像について言及した15)。また最近,山鳥ら17)も"海馬と記憶障害"という題で,この問題を論じている。海馬領域の限局性病変による記憶障害像は表1のように要約される。このような特徴を有する健忘症状,すなわち純粋健忘の責任病巣について,近年,海馬体が重要なのか,あるいはその周囲の領域が重要なのかが検討されている。山鳥ら17)のヘルペス脳炎例での検討では,萎縮が海馬体に限局した症例では健忘症状は軽度で,かつその後健忘症状は回復したが,萎縮が海馬体と海馬傍回に及んだ症例では健忘症状は重度で,かつその後も健忘症状は回復しなかった。一方,サルに遅延非見本合わせ課題を用いたSquireとZola-Morganら12)の研究では,海馬体だけの損傷,および海馬体と扁桃体だけの損傷では軽い健忘症状が生じるのみであるが,これらの損傷に扁桃体周囲皮質,嗅内皮質,嗅周囲皮質というような周囲皮質の損傷が加わった場合に記憶障害が悪化した。さらに彼らは扁桃体および海馬体を温存し,嗅内皮質と嗅周囲皮質を破壊した場合でも重度の記憶障害が生じることを示した。これらの結果より,彼らは記憶障害には海馬体の障害よりも,その周囲皮質の障害の方が重要であると考えた。

視床病変 秋口 一郎
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I.はじめに

 視床病変による記憶障害については,脳梗塞,脳出血,外傷,Wernicke脳症,腫瘍,感染症,視床変性症などで報告があるが,実際には脳梗塞によるものが最も多い。筆者の経験も脳梗塞によるものがほとんどである。

 一般に,原因が脳梗塞であるか否かを問わず臨床医が記憶障害をみる場合,それはエピソードないし生活記憶の障害(健忘)で外来を訪れる患者を診ることが中心となる。視床はあらゆる感覚入力の統合・中継に関わるが,それのみでなく知覚・認知・注意,あるいは運動統合にも深く関与する。したがって,視床病変はエピソード記憶のみでなく,短期記憶,動作に関する記憶(手続記憶),プライミング(潜在記憶)などのその他の記憶システムの障害にも関与し得るが,本稿では健忘について述べることにする。

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I.はじめに

 近年,前交通動脈瘤破裂による健忘症候群と関連して,記憶障害における前頭葉損傷,特に前脳基底部損傷の関与が注目されている。前交通動脈瘤破裂による健忘症候群では,前向性健忘に加えて,問題解決障害やその他のいわゆる前頭葉症状(SquireとShimamura,1986),前向干渉からの解放の障害(Cermakら,1974;Squire,1982),時間的順序の記憶障害(Squire,1982;Meudellら,1985),メタ記憶障害(ShimamuraとSquire,1986)などのいくつかの障害が存在することが指摘されている。これらの障害の多くは,前頭葉損傷例で出現するとされている障害であり(Milner,1964;Milner,1971;Milnerら,1985a;Moscovitch,1982;Janowskyら,1989b),このことは,ある種の健忘症候群では,その記憶機能が前頭葉機能障害によって大きく影響される可能性があることを示唆している(Moscovitch,1982,Squire,1982;Shimamura,1989)。

 本稿では,前頭葉損傷,特に前脳基底部損傷と記憶障害との関連についてこれまでの報告を概観してみたい。

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はじめに

 古くからPapezの回路31)と記憶との関係が論じられてきた2)。Papezの回路を構成する海馬や視床前核病変例が呈する記憶障害については比較的早くから検討され,かなりの数の報告が蓄積されている。それに対して,やはりPapezの回路の一部である脳弓(For—nix)や帯状回の後端に存する脳梁膨大後域(Retrosp—lenial region5);辺縁葉後端部22))の病変例については報告症例が少なく,それらが呈した症候についての詳細な検討は稀少である。この理由は脳弓や脳梁膨大後域の限局性病変が生ずることが稀であることに加えて,この部の病巣診断が困難であったことにある。しかし,X線CT(computed tomography)に加えて磁気共鳴像(magnetic resonance imaging:MRI)による画像診断法の進歩により,これらの部位の限局病変例が報告されるようになり1,13,23,25,42),かかる症例における臨床症候の詳細な検討の提示に伴ってその病態が明らかになりつつある。

 本稿ではまず脳弓病変による記憶障害の特徴について,次に脳梁膨大後域病変によるそれを述べる。

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 一側nucleus basalis magnocellularis(NBM)破壊ラットに塩酸ビフェメラン(BIF)15mg/kgの連日腹腔内投与または破壊1週後に自家頸部迷走神経節(X)の脳内移植を行った。以後4週間,経時的にcholine acetyltransferase(CAT)活性,acetylcholinesterase(AChE)活性,ムスカリン受容体3H-QNB結合能(mAChR),事象関連電位(P300)を連続測定し,治療効果を判定した。P300の潜時,振幅は未治療群で4週間正常化せず,BIF群で2週以後正常化した。X群では潜時が2週以後,振幅3週以後正常化した。患側皮質CAT,AChE活性は未治療群で4週間改善せず,CATはBIF群とX群で2週以後,AChEはBIF群で1週以後,X群で3週以後改善した。mAChRは全群患側皮質で正常または亢進し,BIF群で2,4週後,X群で1,2週後亢進した。以上,1)急激なCAT活性低下によるAChの減少に対し,未治療でもAChE活性の低下とmAChRの亢進という代償機構が働いた。2)BIF投与とX移植は早期よりCAT,AChE活性を正常化しmAChRを亢進させ,P300で示されるコリン作動性の神経情報伝達を正常化した。

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 グリオーマ患者の腫瘍局所と全身の免疫状態を検討するために腫瘍内浸潤リンパ球(TIL)と末梢血リンパ球(PBL)の亜型を分析した。[方法]8例の手術摘出組織のTILの亜型をLeu2a,3a+b,4+5b,7,12,M5の抗体を用いて免疫組織化学的に検索した。さらに蛍光標識抗体Leu3a+bとLeu8,Leu2aとLeu15の組み合わせで蛍光二重染色を行いその亜型をより詳細に検討した。PBLの亜型は蛍光標識抗体(Leu4とLeu12,Leu3aとLeu8,Leu2aとLeu15)を使用しFACSにてTwo-color analysisを行った。[結果]TILは,Leu3a+bcellとLeu2acellが同程度認められた。蛍光二重染色により,Leu3a+bcellの93%はLeu8のT helper cellであり,Leu2acellの88%はLeu15のT cytotoxic cellであることが判明した。しかしTILの数は腫瘍細胞と比較してあまりに少なく,腫瘍局所では何らかの免疫抑制が働いていることが推測された。

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 猫の一側下肢感覚運動野にカイニン酸(以下KAと略す)を20μg/μl注入すると,約30分後より注入対側のmyoclonusが誘発された。1〜2時間以後より部分発作がさらに発展すると全般化発作の重積状態となった。この発作は,約4時間持続するが,その後は下肢のepilepsia partialis continuaとなったが,約2日後までに発作は消失した。次にラットの上肢感覚運動野にKA2μg/μlを注入すると,猫と同様にmyo—clonusから全般化発作に発展する発作が繰り返し誘発された。このモデルを使い,14C−2deoxyglucoseによるオートラジオグラフィーを行い局所脳代謝の亢進部位を検討した。その結果,一側感覚運動野から初発する部分発作の伝播には,尾状核,淡蒼球,黒質,視床への進行性伝播,つまり皮質下伝播が深く関与し,さらにこの全般化には対側感覚運動野への皮質間伝播や注入側視床あるいは中脳網様体を介した伝播が重要と考えられた。

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 低体温の外傷脳に及ぼす影響を検討する目的で,細胞障害の指標とされる72—kDa heat shock pro—tein(HSP72)に注目し,実験的頭部外傷後のHSP72の出現を低体温群と常温群で比較した。

 Fluid percussionによる頭部外傷後,ラットを37.0-37.5℃に維持した常温群と,外傷後15分より冷却を開始し,外傷後150分まで直腸温,側頭筋温を30.0-31.5℃に維持した低体温群の2群に分けた。両群のラットを外傷24,48,72時間後,7日後に灌流固定しHSP72の免疫組織学的染色,およびhematoxyline-eosin染色を行った。結果1)低体温群でHSP72を産出したラットの数は常温群に比して有意に少なかった。2)HSP72陽性の神経細胞およびグリア細胞は外傷脳の様々な領域(衝撃部皮質,皮質深部,傍矢状部皮質,海馬,尾状核—被核,中脳)に認められたが,低体温群のラットでは各領域のHSP72陽性細胞の数は常温群に比して有意に少なかった。3)両群ともに外傷後24時間でHSP72陽性細胞は最も多く認められ,以後時間の経過とともに減少した。

 頭部外傷後のHSP72の出現は外傷後の低体温により著明に抑制され,軽度低体温の外傷脳に対する保護効果が示唆された。

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 経頭蓋磁気刺激による運動誘発電位(MEP)を重症頭部外傷患者の予後判定に応用した。Glasgow coma scale(GCS)9以下の43例に,重傷72時間以内の誘発筋電図の誘発率と潜時を測定,脳損傷種類(限局性・びまん性),BAEP,受傷1・6・12カ月後のGlasgow outcome scale(GOS)による転帰との関連を評価した。MEPと転帰との関連にて1・6・12カ月ともにgood recoveryとそれ以外の転帰間に有意差を認めた。MEP潜時とBAEP潜時との正の相関は転帰不良例でより高かった。MEP誘発率・潜時は限局性病変で転帰と関連したが,びまん性病変では転帰に関わりなく誘発不能例や潜時延長例が多かった。MEPはBAEPより1カ月のみならず12カ月後の転帰との正の相関も高かった。MEPは頭部外傷とくに限局性病変の重症度の評価と予後判定に有用で.感覚性誘発電位との併用でより信頼性が高まる。

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 HTLV-Iとの関連が考えられた緩徐進行性のニューロパチーで,錐体路徴候を欠いた70歳男性例を報告した。神経生検で軸索変性と脱髄を示していた。筋生検では神経原性変化にヘルパーT細胞主体の細胞浸潤を認めた。血清と髄液でのATL様細胞の存在と末梢血のリンパ球のポリクローナルなHTLV-Iプロウイルスの組み込みなどからHTLV-Iの感染状態はHAMで認められるものであったが,臨床的にはHAMとは診断できなかった。

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 髄膜腫はくも膜細胞に由来し,その多くは硬膜または脈絡叢に付着して存在する。しかしそのいずれにも関係のない髄膜腫としてdeep sylvian meningiomaが知られている。本疾患は文献上11例の報告があるがMRI所見について記載されたものは見当たらない。我々は側頭葉てんかんで発症した本疾患の1例を経験し,MRI所見につき興味ある知見を得たので報告する。症例は62歳の女性で約1年前から意識消失発作が出現した。CTとMRIで左側頭葉内側部に拇指頭大の石灰化腫瘤を認めた。さらに造影MRIで腫瘤に接する中大脳動脈が帯状に増強され,髄膜腫に比較的特徴的とされるdural tail signに類似した所見が得られた。左前頭側頭開頭にて腫瘍を全摘出した。腫瘍はシルビウス裂内で側頭葉内側面に埋没する形で存在し,中大脳動脈と強く癒着していた。硬膜や脳室とは関係がなかった。病理検査にてpsammomatous meningiomaと診断された。

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症例呈示

 症例 T.T.21歳,男性。

 主訴 両下肢の筋力低下。

基本情報

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Brain and Nerve 脳と神経
47巻5号 (1995年5月)
電子版ISSN:2185-405X 印刷版ISSN:0006-8969 医学書院

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