Japanese
English
特集 記憶障害:病変と特徴
海馬と記憶障害—一過性全健忘症例での検討
Hippocampus and Memory Disturbance: Study on Cases of Transient Global Amnesia with Dysfunction in the Medial Temporal Lobe
数井 裕光
1
,
田辺 敬貴
1
Hiroaki Kazui
1
,
Hirotaka Tanabe
1
1大阪大学健康体育部健康医学第三部門
1Faculty of Health and Sport Sciences, Osaka University
キーワード:
transient global amnesia
,
hippocampal region
,
anterograde amnesia
,
retrograde amnesia
,
single photon emission computed tomography
Keyword:
transient global amnesia
,
hippocampal region
,
anterograde amnesia
,
retrograde amnesia
,
single photon emission computed tomography
pp.421-428
発行日 1995年5月1日
Published Date 1995/5/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1406900782
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はじめに
海馬領域に限局した病変を生じ記憶障害を呈した症例として筆者らは脳炎例,低酸素脳症例などを経験し,その記憶障害像について言及した15)。また最近,山鳥ら17)も"海馬と記憶障害"という題で,この問題を論じている。海馬領域の限局性病変による記憶障害像は表1のように要約される。このような特徴を有する健忘症状,すなわち純粋健忘の責任病巣について,近年,海馬体が重要なのか,あるいはその周囲の領域が重要なのかが検討されている。山鳥ら17)のヘルペス脳炎例での検討では,萎縮が海馬体に限局した症例では健忘症状は軽度で,かつその後健忘症状は回復したが,萎縮が海馬体と海馬傍回に及んだ症例では健忘症状は重度で,かつその後も健忘症状は回復しなかった。一方,サルに遅延非見本合わせ課題を用いたSquireとZola-Morganら12)の研究では,海馬体だけの損傷,および海馬体と扁桃体だけの損傷では軽い健忘症状が生じるのみであるが,これらの損傷に扁桃体周囲皮質,嗅内皮質,嗅周囲皮質というような周囲皮質の損傷が加わった場合に記憶障害が悪化した。さらに彼らは扁桃体および海馬体を温存し,嗅内皮質と嗅周囲皮質を破壊した場合でも重度の記憶障害が生じることを示した。これらの結果より,彼らは記憶障害には海馬体の障害よりも,その周囲皮質の障害の方が重要であると考えた。
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