臨床雑誌内科 127巻1号 (2021年1月)

特集 COVID-19に正しく立ち向かうために

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 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行前は,冬から春のインフルエンザウイルス肺炎がウイルス肺炎の代表格であった.しかしながら2020年に入り,肺病変があった場合(発熱や咳嗽といった症状も該当するが),まずCOVID-19肺炎であるかどうかが鑑別の筆頭となり,日常診療の行動変容をもたらしたという点で社会や医療者に与えたインパクトは計りしれない(図1).

Overview

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Summary

▪COVID-19は短期間のうちに世界中に拡大した感染症で,飛沫を介して人と人との近距離での接触により感染が成立する.

▪本症は特異的な症状をもたないため,インフルエンザなどの他の気道感染症との見分けがつきにくい.

▪日本国内では最初の症例が報告されてから2020年9月16日までに累計で7万6,118人の検査陽性者が報告されており,人口の多い都市部を中心に感染が拡大していることがわかっている.

▪今後,インフルエンザの流行シーズンを迎えるにあたって症状がこれに類似するCOVID-19の流行状況も注視していくことが重要になるであろう.

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Summary

▪新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は遺伝学的に,2003年に出現したSARS-CoVに類似している.

▪SARS-CoV-2は,主要抗原のS蛋白がACE2受容体と結合することで感染が成立する.

▪今のところ,国内で固有に進化したウイルスが感染拡大に関与しているという明確なエビデンスはない.

▪今後,COVID-19の感染制御には,ワクチン開発ならびに抗ウイルス薬の臨床応用を進めることがきわめて重要である.

PCR検査を理解するために 守屋 章成
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Summary

▪PCR法に代表される核酸増幅検査法は,技術的には鋭敏な検査であるが,臨床的な気道検体では偽陰性が避けられない.

▪理論的には偽陽性はないとされるが,現実にはヒューマンエラーによる偽陽性が起こり得る.

▪COVID-19に対してPCR検査を行う際には,偽陰性・偽陽性があることを大前提として,検査前確率の見積もりと検査後確率の適切な評価が不可欠である.

▪検査結果だけに振り回されることなく,確率論的に検討する姿勢を大切にしたい.

COVID-19の疫学

COVID-19の基本知識 野田 晃成
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Summary

▪飛沫・接触感染対策に加え,エアロゾル感染も否定できないため空気感染にも注意する.

▪高齢や肥満,糖尿病などの危険因子を有する患者では,とくに重症化に注意する.重症化は発症から7~10日で起こることが多く,スムースに人工呼吸器管理や体外式膜型人工肺(ECMO)管理を行えるように準備を早めに行う.

▪予後は早期予後と後期予後に分けて考える.早期予後にはいくつかの指標があるが,後期予後についてはいまだ不明確である.

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Summary

▪感染の拡大を防ぐべく,日本政府は3月13日に全都道府県での緊急事態宣言を発令した.現在も3密の回避,フィジカル・ディスタンスの徹底などの対策をとっている.

▪エピカーブ・実効再生産指数・基本再生産数・集団免疫・濃厚接触の定義は,いずれも今後の流行予測や感染対策の決定に必須の概念である.

COVID-19の病態および症状

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Summary

▪感染者の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のウイルス量は発症時が最高で,その後は直線的に低下する.

▪RT-PCR法の陽性は感染リスクを有することを示さない.RT-PCR法の陽性率は発症3日後に最も高くなるが,数週間陽性が持続する.

▪発症出現から8日経過すると,感染リスクは低いことが明らかとなってきている.

▪検体採取部位は鼻咽頭ぬぐい液が基本とされるが,唾液も有用であるとの報告が増加している.

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Summary

▪COVID-19患者は,発熱や呼吸器症状以外に下痢や嘔吐などの消化器症状を呈する場合がある.

▪66.7%のCOVID-19患者の便検体中で新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)RNAが陽性であった.

▪糞便中のSARS-CoV-2 RNAの存在は,COVID-19の重症度と関連はしていなかった.

▪咽頭スワブ検体で陰性化後,患者の60%以上で糞便中のSARS-CoV-2 RNAが陽性のままであり,そのウイルス排出期間の中央値(IQR)は重症度に関係なく7(6~10)日であった.

▪COVID-19は糞口感染による感染様式の可能性もあり,手指衛生や嘔吐物・糞便の処理には注意を払わなければならない.

肺炎の病態・症状 皿谷 健
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Summary

▪COVID-19肺炎は肺血栓塞栓症を合併しやすい.

▪Ⅱ型肺胞上皮細胞のACE2を介して,SARS-CoV-2は感染する.

▪肺内感染後に炎症性サイトカインが肺の微小血管の血栓傾向を生じる.

▪Dダイマー高値が予後不良因子となる.

肺外病変の病態・症状 田中 良明
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Summary

▪COVID-19ではさまざまな肺外症状を呈することが報告されている.

▪ウイルスが標的の細胞を直接傷害して生じる可能性が高いものから,宿主免疫の影響,さらには血管内皮細胞傷害の結果生じる臓器障害など複数の機序が想定されている.

▪肺外症状としては,COVID-19の症状で比較的特異度が高いとされている味覚・嗅覚障害,凍瘡様の皮疹や斑状丘疹に代表される皮膚症状,下痢などの消化器症状,一般的なウイルス感染でみられる頭痛・めまいから意識障害・脳卒中までみられる精神神経症状,心筋障害などの心血管障害,過剰な自然免疫の賦活化によるとされるmulti-system inflammatory syndrome in childrenなどがある.

COVID-19の画像診断

COVID-19肺炎の画像所見 杉浦 弘明
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Summary

▪COVID-19肺炎の画像所見は両肺末梢優位に分布するすりガラス影を呈し,時間経過とともに微細な網状影,コンソリデーションが混在して陰影が拡大する.

▪典型例では発症後10日程度でピークに達し,14日以降は回復に向かう.

▪両肺にすりガラス影を呈する鑑別疾患は多岐にわたり,画像のみでの鑑別は困難である.

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Summary

▪最近の研究では胸部CT検査が流行地域におけるCOVID-19肺炎の診断に有用であることが示唆されている.

▪一方で,CT検査はCOVID-19肺炎の診断においては感度が高いが,特異度の低さが問題となっている.COVID-19肺炎と同様あるいは類似の画像所見を示す疾患が存在し,また肺気腫,心不全,悪性腫瘍などの基礎疾患を有する患者では非定型所見や複雑な所見を有することがあるためである.

COVID-19の診断および治療

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Summary

▪COVID-19の病原体診断において,PCR法は主流の検査ではあるが,さまざまな課題があるため,抗体検査や抗原検査が果たす役割は大きい.

▪RT-PCR検査は感度・特異度ともに高いが,検査時間が長いこと,熟練した人材が必要なこと,コストが高いことなどの短所がある.

▪抗体検査はCOVID-19の診断を目的として単独で用いることは推奨されていないが,疫学的調査で活用されている.

▪抗原検査は確定診断として用いることができ,迅速性から有用であるが,抗原定性検査では無症状者や発症10日目以降の患者で偽陰性が問題となる.

favipiravir,remdesivir 笠原 敬
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Summary

▪favipiravirもremdesivirもヒトの細胞内で三リン酸化されて活性を発揮し,ウイルスのRNAポリメラーゼを阻害することにより抗ウイルス作用を示す.

▪favipiravirのほうが開発は早かったが,remdesivirのほうがCOVID-19に対する臨床的なエビデンスが豊富であり,本邦でも2020年5月7日に特例承認された.

▪favipiravirは胎児への催奇形性のリスクがあるために,妊婦には投与禁忌となっている.また,尿酸値の上昇や肝機能異常などが頻度の高い副作用として知られている.

▪favipiravirとremdesivirの投与開始の基準やタイミング,両薬剤の使い分けなどはまだ確立していない.remdesivirは酸素吸入を要する中等症以上の患者で症状改善までの期間を短縮させる.favipiravirは経口投与可能な軽症・中等症患者での臨床試験が行われている.

ECMO 長岡 鉄太郎 , 高木 陽
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Summary

▪COVID-19では,一部の症例で重症の急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を呈することが知られている.

▪人工呼吸器管理下でも必要な酸素化が得られない場合に,体外式膜型人工肺(ECMO)のサポートが必要となる.

▪重症ARDSに対するECMOの有用性については,過去のウイルス感染症の世界的流行期に多くの検証がなされてきた.

▪COVID-19に伴う重症ARDSに対しても,各国から多数の使用結果が報告されている.

▪本邦においても,これまでに累積で200例を超えるCOVID-19症例に対してECMOが使用されており,過去と比較して明らかな治療成績の向上が示唆されている.

▪多彩な要因によって生じるARDS全般に対するECMOの有用性はいまだ定まっていないが,COVID-19関連ARDSに対しては有効な治療戦略となることが期待される.

その他の治療 石黒 卓
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Summary

▪COVID-19は適切な支持療法を行ったうえで,さらなる治療の追加が必要かを検討する.

▪ウイルスに対する宿主の過剰な免疫反応が重症化に関与しており,一部の症例ではステロイドや生物学的製剤が有効である.

▪COVID-19では経過中に混合感染や二次感染を伴うことがあり,慎重な経過観察とともに有効な予防策を講じることも重要である.

COVID-19の予防

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Summary

▪新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染経路は,主に飛沫感染であるが,接触感染も起こる.

▪換気がわるい場所では,発生したエアロゾルによる空気感染の経路をとり得る.

▪SARS-CoV-2の感染経路を理解し,マスクや手指衛生などの感染予防策を行うことが重要である.

ワクチン開発の現状と課題 佐田 充
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Summary

▪COVID-19の制御には検査・治療薬の開発とともにワクチン開発が重要であり,各国でワクチン開発が進められている.

▪有効性が確立したワクチンは存在しないが,英国,米国,中国,ロシア,ドイツなどで第3相試験が始まっている.

▪DNAワクチン,RNAワクチン,ベクターワクチンなどの不活化ワクチンを中心に開発が進んでいる.

▪BCGワクチンに関しても有効性を期待する報告がなされているが,効果については確立していない.

▪迅速なワクチン開発が求められるとともに,有害事象や効果持続期間などの課題にも注意を払う必要がある.

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Summary

▪われわれにとって身近なウイルス感染症の大流行は,2009年のパンデミックインフルエンザA(H1N1)であり,本邦では1年間で約2,000万人が感染した.

▪2009年のパンデミックインフルエンザA(H1N1)において,米国では個人的感染防護対策のほかに,ソーシャルルディスタンスの確保を目的としたコミュニティ対策が実施された.

▪約100年前のスペイン風邪のインフルエンザパンデミックにおいて,米国ではソーシャルディスタンスの確保のため,大規模な集会の中止や混雑緩和ルールが実施され,これらの施策が死亡率の低下に関与したことが報告されている.

クルーズ船でのDMAT活動経験 倉石 博
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Summary

▪クルーズ船におけるCOVID-19集団感染事例に対して,DMAT隊員として活動した.

▪船内では有症状者のトリアージ,客室訪問診察,救急車への誘導などを行った.

▪船内の感染拡大防止のためには乗員乗客に対する感染防護指導が重要である.

▪今後,クルーズ船などでのCOVID-19集団発生の際には,DMATと感染症専門医による密な連携が必要である.

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Summary

▪物資の不足,想定していない物品の緊急利用・再利用についてマニュアルやガイダンスに書き加えていくことが大切である.

▪対策の見直しは「疲れ」や「飽き」がきた頃に,省略や中断はせずに,次に備えて仕上げることが重要である.

▪日常での予防は,これまでにやってきたインフルエンザやノロウイルス対策の応用であり,特別な手法やアイテムが必要ということではないので取り組みやすいが,飽きられて継続してもらえないのが課題である.緊張は続かないので,過剰対応を整理し,無理せずに継続できる行動の提案が必要である.

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Summary

▪中等症以上のCOVID-19では酸素療法が必要であるが,酸素療法で使用する医療機器には感染リスクがあることが明らかになった.

▪酸素療法実施時はエアロゾルが発生しやすい状況であるため,医療従事者はN95マスクを含む個人防護具(PPE)の装着が必要である.

▪経鼻カニューレ・ネーザルハイフロー(NHF)使用の際には,患者にサージカルマスクを装着させることなどを実施する.

▪感染リスクはどの医療機器にも存在するため,各局面に応じた感染防止策が求められる.

感染対策の数理モデル 中澤 港
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Summary

▪適切な数理モデルを使えば病原体が感染環のなかを移行する過程や介入効果を近似することができる.

▪これまでマラリア,天然痘,インフルエンザなどへの対策のため,数理モデル研究の成果が実用されてきた.

▪COVID-19対策でもIFRの値や発症前から感染があること,行動変容の効果などが予測され,その一部は政策実装された.

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 皿谷 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行により,病床数や医師の数についてクローズアップされ,「PCR検査」「クラスター」「潜伏期」などの用語が広く知られて一般の人たちの間でも飛び交うようになりました.また,COVID-19関連の論文がリアルタイムに急増して,世界中で情報共有されていることを感じました.このように大きな影響を及ぼしているCOVID-19について,異なるご施設でCOVID-19診療に対応されている先生方にお集まりいただき,お話を聞かせていただきたいと思います.

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 山本博徳教授はヒアルロン酸ナトリウムの粘膜下層注入による粘膜下層剝離術の開発で学位論文を取得したのであるが,さらに小腸ダブルバルーン内視鏡の開発という世界的な業績をあげ,彼が切り開いていく臨床の新たな展開を目の当たりにできたことは,私にとっても貴重な体験であった.しかし,送られてきた本書は山本教授ではなく,ポケット法治療を現在最前線で実施している林芳和講師,三浦義正講師が執筆者であった.彼らは私の現役時代に義務年限を終え消化器内科に入局した自治医科大学卒業生で,その成長に感慨を覚えさせられた.

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 本書を手にとったとき,薄さと軽さに少し驚き,精読後,内容の充実ぶりに感銘を受けた.これほどの情報やメッセージを手軽に学ぶことができるメリットは,パーキンソン病(PD)に関わる「みんな」にとってきわめて大きい.小職にも学ぶ点が多く,まずは,著者らに敬意を表したい.

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 口腔カンジダ症は小児や高齢者,免疫不全患者などに発症する口腔内常在微生物による内因感染症および日和見感染症である.口腔カンジダ症は症状に乏しい場合も多く,放置すると食道カンジダ症などの重症化を引き起こす場合もあるので,早期発見・治療が必要である.免疫不全や代謝系疾患,悪性腫瘍,呼吸器感染症などの疾患や,ステロイドや免疫抑制薬,がん化学療法薬など,さまざまな全身疾患および薬剤による影響を受けることから,急性期病院の入院患者から自宅や施設にて長期療養中の慢性期・維持期の患者にいたるまで,数多く遭遇する疾患である.一方で,口腔清掃状態不良や口腔乾燥,義歯装着者など,口腔内の保清に起因する場合も多く,とくに高齢者では,日常の口腔ケアと口腔内の定期的な観察が必要である.

連載 こんなとき,漢方薬が味方になります! ~漢方医が伝授する実践的な処方のノウハウ~

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泌尿器科からのコンサルト(X年1月受診)

 X−3年より15分ごとの尿意,尿意切迫時の疼痛,残尿感を自覚され,X-1年12月に当科を受診されました.細菌性膀胱炎の罹患はなく,他にはっきりとした誘因は認めませんでした.蓄尿量は100mLであり,膀胱鏡検査を施行したところ膀胱粘膜に点状出血を認め,間質性膀胱炎と診断いたしました.mirabegronを処方しましたが効果が認められません.血算,生化学,甲状腺機能は基準値内で他の特記すべき所見もありません.東洋医学的に何か選択肢はありますでしょうか.

連載 悩むケースに立ち向かう! 臨床推論のススメ方 ~全国GIMカンファレンスより~

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連載のねらい

 GIMカンファレンスは,臨床推論の技術を向上させることを目的とした内科全般の症例を扱う検討会であり,全国各地で組織され開催されています.本連載では,全国のGIMカンファレンスにおいて検討された症例をご紹介いただき,診断過程を時系列に沿って解説いただきます.

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 は じ め に 抗菌薬投与による腸内細菌叢の乱れは,抗菌薬関連下痢症を誘発する.原因菌として最も重要なのが,Clostridioides difficileである.この菌は最近までClostridium difficileとよばれていたが,2016年に分類の見直しが行われ,新しい属としてクロストリディオイデス属が創設され名称が変更になった.Clostridioides difficileは偏性嫌気性菌であり,1935年の発見当初は分離が難しかったことからラテン語の「困難」を語源として命名された.外毒素であるトキシンA(エンテロトキシン)やトキシンB(サイトトキシン)を産生する株により腸の粘膜細胞が破壊され,本来の粘液層とは異なる偽膜が形成され偽膜性腸炎を発症する1)

基本情報

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臨床雑誌内科
127巻1号 (2021年1月)
電子版ISSN:2432-9452 印刷版ISSN:0022-1961 南江堂

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