BRAIN and NERVE-神経研究の進歩 70巻9号 (2018年9月)

特集 脳神経内科診療に役立つ精神科の知識

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特集の意図

抑うつ症状や不安症状,幻覚・妄想状態などの精神症状は精神疾患のみならず,脳神経内科医の日常診療でも頻繁に遭遇し,鑑別診断に苦慮することは稀ではない。また,近年疾患概念がほぼ確立したと思われる抗NMDA受容体脳炎は,器質的中枢神経疾患での精神症状に関する知識の重要性を脳神経内科医にあらためて提示したとも言えよう。精神症状の診かたについて,専門家の視点から,その捉え方や治療方法をわかりやすく解説する。

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認知症を含めた神経疾患において,アパシーと抑うつ状態はしばしばみられる病態である。両病態は表出される病像の類似や併発があることから,鑑別が困難な場合が少なくない。アパシーを表面的な意欲障害に注目するのではなく,より根本にある動機付け(motivation)の欠如に着目し,感情・情動や意欲・行動,興味・関心について観察することが臨床的鑑別のポイントとなるものと思われる。

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変換症は不随意運動など一見すると,神経疾患であるかのような症状を示すものの,器質的な異常は認められない精神障害である。診断には症状や所見が既知の神経疾患に適合しないことを示す必要がある。身体症状を示す疾患では,身体疾患を完全に除外することや心因性であることの実証が容易ではないことから,断定的に結論を下すことを急ぐべきではない。脳神経内科と精神科が連携し,多面的に治療を進めていくことが望ましい。

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統合失調症に特異的な症状には,自我意識の障害,妄想気分と妄想知覚,連合弛緩や滅裂思考がある。さまざまな自我意識の障害に関連する症状をsense of agencyの観点からみると,意思作用の自己への過大帰属と過小帰属とまとめることができる。妄想知覚の背景には,知覚対象のコンテクストが失われる知覚の統合障害や妄想気分が認められ,ばらばらに断片化された知覚を再組織化,あるいは変容した世界を解釈する際に妄想に至ると考えられる。知覚の統合障害は連合弛緩や滅裂思考と大きく関連する。

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2017年に出版された日本神経学会監修の『認知症疾患診療ガイドライン2017』を含めて多くの認知症の行動・心理症状(BPSD)についての文献も参照し,実臨床で認知症患者のこころの中の状況をバイオ・サイコ・ソーシャルの3つの次元でどう捉えて対応しているかに重きを置き,BPSDの診かたとその対策について,認知症疾患医療センターの4人の専門医が記述した。認知症の原因疾患の病的過程から直接現れる症状と,病的過程を背負った中で当事者が主観的にどのように感じながら,結果的にうまくできていなくても,周囲になんとか適応しようとしていると考えることの重要性について述べた。

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てんかんにおける精神医学的併存症状は,気分障害,不安障害,精神病様状態,発達障害など内容もさまざまで出現頻度も高い。また,一部の抗てんかん薬による精神症状の誘発や,外科治療後などの精神症状発現にも注意が必要である。さらに,心因性非てんかん性発作への対応も重要な課題である。併存症状への適切な対応を実践するために,てんかん治療開始の段階から精神医学的・心理学的視点を含む治療構造を構築することが望ましい。

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うつ病は抑うつ気分や意欲減退などさまざまな臨床症状により構成される疾患でありその病態解明は依然として困難である。近年,手綱核が腹側被蓋野,中脳縫線核などへ直接投射し脳内モノアミンの代謝を制御していることから,うつ病病態における役割が注目を集めている。ヒトの脳機能画像研究においても病態への関与が少しずつ明らかとなっている。本稿では主にうつ病への手綱核の役割に関するヒトの脳機能画像研究について紹介する。

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トリプトファン代謝系には3種類ある。セロトニン系は気分,不安,記憶,認知などに関与するが,うつ病では障害されている。キヌレニン系は免疫,炎症,筋運動,メンタルヘルスに関係している。単極性のうつ病患者の血漿中のセロトニンは非常に低いか検知不能であった。5-ヒドロキシインドール酢酸(5-HIAA)/トリプトファン比,キヌレニン/トリプトファン比は健常者とうつ病患者では差がなかった。つまり,うつ病患者ではセロトニンは急速に5-HIAAに代謝されるが,キヌレニン系には変化がなかった。単極性と双極性のうつ病では治療法,薬剤が異なるのでトリプトファン代謝を研究することは重要である。

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症例は69歳男性。突然の意識障害で発症した。Computed tomographyで脳底槽に広範なくも膜下出血(SAH)を認め,脳血管撮影では中大脳動脈水平部(M1)が閉塞しており,左前大脳動脈水平部(A1)から分枝後網状血管(twig-like networks)を介して左M2へ連続する側副血行路がみられ,側副血行路に径約6mmの囊状動脈瘤を認めたため,この瘤の破裂によるくも膜下出血と診断した。第3病日に開頭脳動脈瘤頸部クリッピング術を施行した。もやもや様血管網を伴ったM1の形成不全はtwig-like middle cerebral arteryとして過去に報告がある。脳血管撮影上の発見頻度は,0.11〜1.17%であり,40%に脳動脈瘤の合併が認められ,血行動態的負荷や構造的脆弱性の関与が推察されている。

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 2018年4月4〜8日にフィレンツェで開催された第6回Schizophrenia International Research Society Conference(SIRS)(国際統合失調症学会)に参加しました。われわれは治療抵抗性統合失調症の脳内グルタミン酸濃度と脳構造についてポスター発表を行いました。前者では,クロザピン抵抗性統合失調症,クロザピン反応性統合失調症,非クロザピン抗精神病薬反応性統合失調症,健常対照において,プロトン核磁気共鳴スペクトロスコピー(proton magnetic resonance spectroscopy:1H-MRS)を用いて測定した尾状核や前帯状回,背外側前頭前野のグルタミン酸濃度の比較を報告しました1)。また,後者では,同じ4群において,MAGeT(multiple automatically generated templates brain segmentation algorithm)2)やCIVET3)といった解析パイプラインを用いて解析した皮質下構造の容積,皮質厚,そして,形状や表面積の比較を報告しました4)。本学会における議論を参考にして今後の研究の遂行や論文化を進めていく予定です。

 私が拝聴したシンポジウムを中心に報告いたします。Lawrence Kegeles先生が主催したシンポジウム「Excitation-Inhibition Imbalances in Schizophrenia: Mechanisms and Interventions」では,統合失調症の興奮抑制インバランス仮説について,さまざまなモダリティを用いた基礎研究からトランスレーショナルリサーチまで幅広く検討されました。統合失調症における酸化ストレス,還元調整異常,神経炎症,グルタミン酸神経系異常などの知見が報告され,興奮抑制インバランスの存在が示唆されるものの明確にこの仮説を支持するエビデンスがないことが報告されました。グルタミン酸神経生理機能,GABA神経生理機能を脳から直接的に測定することができる経頭蓋磁気刺激法−脳波(transcranial magnetic stimulation-electroencephalogram:TMS-EEG)同時計測法と脳内のグルタミン酸やGABAの濃度を測定できる1H-MRSの同時使用が期待されます。Michael Owen先生が主催したシンポジウム「Does Biology Read the DSM? Transdiagnostic Findings in Psychosis and Implications for Treatment」では,DSMで診断された統合失調症と他の精神疾患の間で,臨床症状,遺伝子,神経画像などにオーバーラップが大きいことが報告され,癌や感染症のような他の疾患と同様,生物学的所見に基づく精神疾患診断の構築が必要であることが提唱されました。John Kane先生,Oliver Howes先生,Christoph Correll先生が主催した「Treatment-Resistant Schizophrenia: Treatment Response and Resistance in Psychosis(TRRIP)Working Group」の会議では,治療抵抗性統合失調症に対するクロザピン治療のガイドラインを策定すること,治療抵抗性統合失調症の臨床データと神経画像データを国境を越えてデータベース化することが話し合われました。2017年にTRRIP(Treatment Response and Resistance in Psychosis)Working Groupでは治療抵抗性統合失調症の国際統一定義を報告しており,その次の段階を目指すということになります5)。Celso Arango先生により,大規模な臨床試験OPTiMiSE(optimization of treatment and management of schizophrenia in Europe)試験の結果も報告されました6)。この試験では,初発統合失調症患者をアミスルプリドで治療し,治療反応を認めない場合,アミスルプリドを継続するか,他の薬剤に変更します。さらに,これらの治療でも反応しない場合,クロザピンによる治療を始めます。アミスルプリドによる治療において治療反応を認めない場合,アミスルプリドを継続した群も他の薬剤に変更した群も有効性に有意な差を認めませんでした。その後,クロザピンに変更した場合,一定の反応を認めたことが報告されました。前帯状回のグルタミン酸濃度では治療反応の予測をすることができないことも報告されました。今後は臨床データ,生物学的データを用いて,統合失調症の薬物治療の予測が可能か検証が行われることになっています。

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目次

欧文目次

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 読んで多くの項目に一々そうだそうだと頷くことが多く,一気に最後まで読み進むことができた。大人の発達障害は今や精神科の臨床の中で常に意識をせざるをえない事項であり,どうやってこの概念なしに我々が二十世紀には臨床をやっていたのかが分からないほど今や我々の臨床に溶け込んでいる。先日の日本精神神経学会でも本書は売上一位を連日続けていた。いくつか激しく点頭したい項目を抜き書きしてみた。

 まずは,診断だけを告知して送りつけてくるのはやめて欲しいという件だろうか。そもそも発達障害というのは,統合失調法やうつ病,いわんやてんかんなどとは診断の意味が異なっていて,同じ診断という名前を冠にしていてもその実態は大きく違う。たとえば我々誰もが自閉症スペクトラムの傾向性はあって,違うのはそれが1なのか5なのか9なのかという程度の問題であり,その傾向性を念頭において診療をすると,中には随分治療的介入のフォーカスを絞ることができる人がいる。したがって,自閉症スペクトラムという特性を念頭において,それをいかに臨床の中に組み入れて行くのか,あるいはいかないのかは,来院してこられる家族・本人とのやり取りの中で個別に,オーダーメイドで一人ひとり考えなければならず,そこには診断をどのように告知し,どのように治療に組み込むか,あるいは事例化して医療が引き受けるかどうかまでの幅広い選択肢がある。あらかじめ,本当かどうかも分からない自閉症スペクトラムの診断をつけられての来院ということになると,こうした枠組み作りの大きな妨げになるのは間違いない。大人の発達障害のための専門施設を対外的に喧伝し膨大な公的予算を消費しているような場合は別であるが,診断をした医師が治療も行う,治療を行わないなら診断はしないというのは,確かに意識化しておいてよい重要な指摘だと大いに得心するところがあった。

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 パーソナリティ障害診断のゴールデンスタンダードの日本語版が上梓された。前身である『SCID-II(DSM-IV II軸人格障害のための構造化面接)』と同じ訳者の手による。本書にはDSM-5に準拠した「ユーザーズガイド」「評価者質問票(SCID-5-PD)」「患者自己記入シート(SCID-5-SPQ)」が収載され,大変実用的で活用しやすい構成となっている。

 パーソナリティ障害の臨床的インパクトは大きい。これを適切に把握することの重要性は,臨床家であれば誰もが実感する。しかし評価,診断は必ずしも容易ではない。さらに根本的な課題としてパーソナリティ障害の概念化をめぐる歴史的な議論の存在は周知のとおりである。DSM-5では,DSM-IV-TRのパーソナリティ障害の診断基準がそのまま踏襲されると同時に,「パーソナリティ障害の代替DSM-5モデル」が特例的に付記され,さらなる研究が求められている。これまでのカテゴリカルモデルからディメンショナルモデルへの,産みの苦しみがそこにある。両者のハイブリッドといわれる代替モデルは,特定のパーソナリティ障害の診断名に,パーソナリティの機能や特性に関する情報を特定用語を用いて併記することによって,パーソナリティの病理の系統的評価を可能にすることを試みている。米国立精神衛生研究所(NIMH)のResearch Domain Criteria(RDoC)とも連動しながら,この新モデルはさらに洗練されていく方向にあるだろう。

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 今回取り上げた写真は,「多発神経炎と脊髄灰白質炎」と題された講義録1)からのものです。サルペトリエール病院の講義録と言えば,シャルコー(Jean Martin Charcot;1825-1893)によるいわゆる「金曜講義」と「火曜講義」が有名ですが,シャルコー亡き後,次代の教授レイモン(Fulgence Raymond;1844-1910)がそれらの講義を引き継いでいたことはあまり知られていないかもしれません。ライブ感に溢れる臨床講義はシャルコーの才能だけに許されたものだったのか,「火曜講義」はシャルコーの死後6カ月ほどしか続かなかったようですが2),神経疾患についてのスタンダードな講義である「金曜講義」は1903年までに6巻の講義録が発行されています3)

 レイモンの教授就任後,『Nouvelle Iconographie de la Salpêtrière』にも「金曜講義」の講義録が頻繁に掲載されるようになります。「多発神経炎と脊髄灰白質炎」もその中の1つです。

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次号予告

あとがき 桑原 聡
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 本誌69巻9号(2017年9月)のあとがきで臨床神経学6大誌である『Lancet Neurology』『Annals of Neurology』『Brain』『Neurology』『JAMA Neurology』『Journal of Neurology, Neurosurgery, and Psychiatry(JNNP)』のインパクトファクター(impact factor:IF)について,この10年間における変遷を紹介したが,本年6月に最新のIFが公表された。表に示すように『Lancet Neurology』の突出は変わらないものの,『JAMA Neurology』(旧『Archives of neurology』)がさらに躍進してIF=11.5となり,微増の『Annals of Neurology』『Brain』とほぼ横並びとなっている。

 もともと臨床神経学誌は2006年の序列で一般に評価されてきた。筆者が2010年から副編集長をしている『JNNP』はずっと最下位だが,それでも現在の投稿論文の採択率は10%である。上位誌の採択率はおそらく一桁と思われ,なかなか厳しい時代となっている。『Lancet Neurology』は本体の『Lancet』と同様に採用する原著の半数は第Ⅲ相臨床試験(治験)論文であるために引用が多い。治験は新規治療の登場を意味するとともに,エビデンスとして採用され当局当然頻回に引用される。『JAMA Neurology』は『Lancet』的な戦略をとらず,従来型の原著を採用しているにもかかわらず,IFが徐々に上昇している理由は『JAMA』のブランド力と考えざるを得ない。2006年の感覚からは同系米国誌の『Neurology』の低迷が目立つ。ただし全体として臨床誌のIF上昇傾向は続いており,神経学で4誌が10点を越えた点はneurologistにはうれしいことではある。

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基本情報

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BRAIN and NERVE-神経研究の進歩
70巻9号 (2018年9月)
電子版ISSN:1344-8129 印刷版ISSN:1881-6096 医学書院

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