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2018年4月4〜8日にフィレンツェで開催された第6回Schizophrenia International Research Society Conference(SIRS)(国際統合失調症学会)に参加しました。われわれは治療抵抗性統合失調症の脳内グルタミン酸濃度と脳構造についてポスター発表を行いました。前者では,クロザピン抵抗性統合失調症,クロザピン反応性統合失調症,非クロザピン抗精神病薬反応性統合失調症,健常対照において,プロトン核磁気共鳴スペクトロスコピー(proton magnetic resonance spectroscopy:1H-MRS)を用いて測定した尾状核や前帯状回,背外側前頭前野のグルタミン酸濃度の比較を報告しました1)。また,後者では,同じ4群において,MAGeT(multiple automatically generated templates brain segmentation algorithm)2)やCIVET3)といった解析パイプラインを用いて解析した皮質下構造の容積,皮質厚,そして,形状や表面積の比較を報告しました4)。本学会における議論を参考にして今後の研究の遂行や論文化を進めていく予定です。
私が拝聴したシンポジウムを中心に報告いたします。Lawrence Kegeles先生が主催したシンポジウム「Excitation-Inhibition Imbalances in Schizophrenia: Mechanisms and Interventions」では,統合失調症の興奮抑制インバランス仮説について,さまざまなモダリティを用いた基礎研究からトランスレーショナルリサーチまで幅広く検討されました。統合失調症における酸化ストレス,還元調整異常,神経炎症,グルタミン酸神経系異常などの知見が報告され,興奮抑制インバランスの存在が示唆されるものの明確にこの仮説を支持するエビデンスがないことが報告されました。グルタミン酸神経生理機能,GABA神経生理機能を脳から直接的に測定することができる経頭蓋磁気刺激法−脳波(transcranial magnetic stimulation-electroencephalogram:TMS-EEG)同時計測法と脳内のグルタミン酸やGABAの濃度を測定できる1H-MRSの同時使用が期待されます。Michael Owen先生が主催したシンポジウム「Does Biology Read the DSM? Transdiagnostic Findings in Psychosis and Implications for Treatment」では,DSMで診断された統合失調症と他の精神疾患の間で,臨床症状,遺伝子,神経画像などにオーバーラップが大きいことが報告され,癌や感染症のような他の疾患と同様,生物学的所見に基づく精神疾患診断の構築が必要であることが提唱されました。John Kane先生,Oliver Howes先生,Christoph Correll先生が主催した「Treatment-Resistant Schizophrenia: Treatment Response and Resistance in Psychosis(TRRIP)Working Group」の会議では,治療抵抗性統合失調症に対するクロザピン治療のガイドラインを策定すること,治療抵抗性統合失調症の臨床データと神経画像データを国境を越えてデータベース化することが話し合われました。2017年にTRRIP(Treatment Response and Resistance in Psychosis)Working Groupでは治療抵抗性統合失調症の国際統一定義を報告しており,その次の段階を目指すということになります5)。Celso Arango先生により,大規模な臨床試験OPTiMiSE(optimization of treatment and management of schizophrenia in Europe)試験の結果も報告されました6)。この試験では,初発統合失調症患者をアミスルプリドで治療し,治療反応を認めない場合,アミスルプリドを継続するか,他の薬剤に変更します。さらに,これらの治療でも反応しない場合,クロザピンによる治療を始めます。アミスルプリドによる治療において治療反応を認めない場合,アミスルプリドを継続した群も他の薬剤に変更した群も有効性に有意な差を認めませんでした。その後,クロザピンに変更した場合,一定の反応を認めたことが報告されました。前帯状回のグルタミン酸濃度では治療反応の予測をすることができないことも報告されました。今後は臨床データ,生物学的データを用いて,統合失調症の薬物治療の予測が可能か検証が行われることになっています。
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